イッチーが他の皆に連れて行かれ、アリーナには私一人だけとなる。さぁて、私もそろそろ帰りましょうかなー。
「武田正樹」
まかの第二回戦。しかもラウラ少佐だ。黒いISに乗ったラウラ少佐は、私にただ一言こう言った。
「私と戦え」
…え?マジで?
「ラウラ少佐自ら訓練してくださるとは…感謝の極み。少し、準備をさせてはくれませんか?」
「…いいだろう。準備ができ次第、直ぐにアリーナに来い」
***
「お待たせしました」
先程とは全く違う格好の武田正樹が出てきた。広い唾の帽子にボロボロのコート。左手には手甲がついており、その右足にはベルトが巻かれている。
右手に持つのは…何かの背骨のような、まるで鈍器のような……鉈、だろうか?そんな物を持っている。左手には大きな銃口を持った散弾銃が握られていた。
「…………」
先程とは雰囲気が全く違う。普段の態度と比べると、まるで別人だ。なるほど、これが奴の本気ということか。
「先手は譲ってやる。来い」
私がそう言うと、武田正樹はぐっ、と身を屈めた。武田正樹のISは異例中の異例。頑丈な装束としか言いようのないもので、飛行能力など一切持たない。シールドエネルギーも無に等しく、もはやただの衣装でしかない。しかし、それをカバーできるのが奴なのだ。油断はしない。
ビシッ!
「!?」
武田正樹が地を蹴った瞬間凄まじい力に耐えられなかったのか、地面にヒビが入る。まるで…いや、正に
私は突っ込んで来た武田正樹の攻撃を上空へと回避し、ワイヤーブレードで無防備な背を攻撃する。だが…
ドガンッ!
いつの間にか散弾銃を後ろに向けており、武田正樹は散弾銃でワイヤーブレードを迎撃した。やはり、そう簡単にはやらせてくれないか。
一旦離れた私は、大口径レールカノンを武田正樹に撃った。当然の如く避けられるが、それは百も承知。
武田正樹が回避したその先に停止結界を発生させ、奴の動きを止める。
「……?」
動けなくなった奴に、私は間髪入れずにもう一発撃とうとした。が、
「きゃはっ☆」
「…は?」
突然、奴がウィンクした。しかも高い声で『きゃはっ☆』などと言い。停止結界にはかなりの集中力が必用となる。その集中力を四散させるには、今の行動で充分だった。
停止結界が解除され、自由の身となった武田正樹は再び私に突貫した。迎撃しようとワイヤーブレードで攻撃するが、散弾銃と鉈で的確に弾いてきて奴は止まらない。
「…ん?」
明らかに射程外から鉈を私に向けて振り下ろそうとしている。まさか投げるつもりか?
そう思った私だったが、その考えは外れた。
刃が分かれ、まるで鞭のようになった鉈。勢い良く振り下ろされたそれは、私を地へと叩き付けた。
「がッ…ぎ…!?」
軽い脳震盪を起こし、一瞬意識が飛ぶ。シールドエネルギーがごっそりと持っていかれ、レーゲンの装甲の受けた場所がひしゃげている。
「ぐっ…!」
二撃目の振り下ろしを、私はブースターをふかして横へと無理矢理回避する。自身の身体で地面を削りつつも、そのまま上空へと逃げ伸びた私は呼吸を整える。頭痛も酷く、ガンガンと殴られているような痛みだ。
「はっ…はっ…!」
「…………」
分かれた刃を引き寄せ、それを肩に担ぐ。ゆっくりとこちらを見据えるその目は、正に狩人。
「…貴様にとって、私はまさに兎ということか…!」
認める。こいつは強い。それも私よりも。癪ではあるが、これは覆しようのない事実なのだろう。だが…!
「まだ負けたと決まった訳ではない!」
武田正樹が再びこちらへと肉薄しようとした、その時だった。
『そこの生徒二人、何やってるの!』
アリーナの放送で、教師が私達に向けてそう言った。
「…今回はこれまでみたいですなラウラ少佐」
先程までの雰囲気は何処に行ったのか、あのおちゃらけた武田正樹へと戻った。
「また今度、お願いします」
「……ああ」
ピットに戻る武田正樹。私はその背を見ている。そして、分かったこともある。奴は本気など出していなかった。本気ならば私など直ぐに倒せたのだから。悔しいが、今の私では手加減している奴でさえ倒せん。
「…ふっ、思いの外、期待できそうじゃないか。このIS学園とやらは」
ここのラウラはちょっと大人なラウラです