山田先生による代表候補生蹂躙劇のあとは、特に問題もなく授業が進んで終わった。そして昼。そう、昼である。なのにイッチーに屋上に呼び出された。
な、何だ?この私にナニを求めるというのだ?昼はラウラ少佐とお昼を食べようと思ったのに。
そんでまぁ屋上来ましたよ。そしたらさ。そしたらさぁ……。
「こりは一体どういうことですかねぇい」
肌が真っ青になって倒れているイッチー。おろおろしているセッシー。必死にイッチーを呼び掛ける大和撫子と凰さん。救急車を呼んでいるデュノアくん。
「誰か説明を求む。何があった」
「そ、それがですわね、一夏さんがわたくしの作ったサンドイッチを食べたら、このようなことに…!」
「サンドイッチ?」
イッチーの表情を見る。目は白目。苦悶の表情。口から流れる血。間違っても美味すぎて死んだってことではないだろうな。
「凰さん、イッチーから反応は?」
「ないわよ!ど、どうすればいいの!?」
「息は?」
「してない!ねえ!起きてよ一夏ぁ!」
ついには泣き出した凰さん。うーむ仕方ない。こうなりゃ最終手段だ。
「大和撫子、凰さん。人工呼吸だ」
「「へっ?」」
いきなり言われて思考が止まる二人。そして私の言葉を理解した時、二人は顔を真っ赤にした。
「な、なななななな、何言ってんのよ!?」
「人工呼吸」
「繰り返さなくていい!」
「ふむ、大和撫子は?」
「で、できる訳ないだろう!?」
じゃあイッチーは御臨終だな。しかし、セッシーのサンドイッチはそんなに酷いのか?
バスケットからサンドイッチを一つ取り出す。見た目は普通。色は…少々鮮やかだろうか?ふむ……。
「セッシー、味見はしたか?」
「い、いえ…していませんが……」
「そうか……。ぬん!」
「むぐっ!?」
味見しろやバカたれ。これはお仕置きです。バタバタと暴れるセッシーも次第に動きが弱くなり、ピクピクと痙攣するだけになった。
「セッシーが死んだ!」
「「「この人でなし!」」」
多分、今のはネタではなく素なんだろうな。
「大丈夫だぁ、この武田正樹に不可能はあるけどある程度のことは可能にする男だからな」
「ダメじゃないのよ!」
「まぁ見てろって。ふなぁ!」
ドスッ!
「「「女の子の背中を容赦なく蹴ったぁぁぁ!?」」」
「ここ何処ですの!?」
「「「生き返ったぁぁぁぁ!?」」」
「どよ?」
これぞ、武田家流人命救助CQCである。
「ついでにイッチーにもやってやるか。ぶるぁぁああああ!!!」
ドゴキャッ!
「がぶぉはぁ!?」
「「「一夏ぁぁぁぁぁ!?」」」
「いつもより強めにやりました」
イッチーだし。
***
私はラウラ・ボーデヴィッヒ。シュバルツェア・ハーゼに所属している。今私はある一人の男について調べていた。
武田正樹。身長は250センチと、あり得ないような大きさを持つ。そして、常に相手を自分のペースに引き込む。更にはイギリスの代表候補生を、手による刺突の一撃で降参させている。戦闘能力の高さは認めざるをえない。
そこで私は、武田正樹の戦闘能力がどれ程凄まじいのか確認するため、奴との模擬戦を設けることにした。幸いにもアリーナは開いており、誰も使っていなかった。ここでなら、暴れても問題はない。
私は武田正樹にアリーナに来るよう伝えようと探していたら、奴は丁度アリーナにいた。そこでは織斑一夏を一方的にいたぶっている。何やら三角刑の金色の被り物に、動き辛そうな白い格好をしていた。
左手に持っているのは、長い銃身を持っているくせに散弾という、装飾だらけの金色の銃。そして右手に持っているのは大きな車輪だ。もう一度言う。車輪だ。
『はぁーっはははははぁ!!!どぉぉぉしたイッチー!貴様からトレーニングに誘っておいて、何ともまぁ間抜けな様よなぁ!』
『だったら加減してくれよ!その車輪に潰されるとミンチの気持ちになるんだから!』
『そうかそうか。ならばこれだ』
銃を折り畳んで背負うと、武田正樹はその車輪を両手で持った。そして、車輪が開いた。赤いオーラのようなものをまとい、それを回転させる。
『ぎゃあああああああ!!!』
逃げる間もなく、織斑一夏は車輪の下敷きとなった。ふん、あんな大振りで隙だらけな攻撃をまともに受けるとは……。やはり織斑一夏は教官の弟などと認められんな。
「……さて、見せてもらうぞ武田正樹」
織斑一夏はまた今度だ。