「さぁついにやって参りました、セシリア・オルコット対織斑一夏!オルコット選手はイギリスの代表候補生ですが、織斑選手はペーパー操縦者です!果たして、織斑選手はどのようにして勝利を勝ち取るのか!?それとも、オルコット選手が実力の差を見せつけ、織斑選手を完封するのか!注目の一戦です!」
『『『『『ワアアアアアアアア!』』』』』
歓声が巻き起こる。うーん、いいねぇ。こういう司会って一回やってみたかったのよ。
「あ、放送室使ってしまって申し訳ないです」
「いや、別にいいわよ。また今度お願いしようかしら」
「本当ですか!うしっ!」
ガッツポーズを取り、大満足な私は意気揚々と本来の持ち場に戻った。するとそこには腹を押さえて呻くイッチーの姿が。
「……何事でっか織斑先生」
「お前の司会でプレッシャーがかかり、胃が痛いそうだ」
「何て脆い胃袋じゃ……」
私なんざ何の問題もねぇぞ。それにしても……。
「イッチーと私の専用機、おっせぇですな」
「ああ。一体何をしているのか……」
二人して溜め息を吐く。イッチーだけでなく、どうやら私にも専用機をくれるそうなのだ。それは別に構わないのだが、いくらなんでも遅すぎやしねぇか?
「大丈夫か一夏?」
「だ、大丈夫じゃない」
大和撫子は優しいねぇ。前はイッチーを木刀でギタバコにしていたというのに。それにしても、このままではオルコットお嬢様とお客様が退屈で仕方ないだろう。しからば!
「ちょいと放送室に行って場を盛り上げてきます」
「やめて!?」
「ふははははは!お主の胃に立派な穴空けてやるぜぇぇぇ!」
再び放送室へ向かった私。しかし、何でか放送室に到着した途端、イッチーが出撃しやがった。チッ、入れ違いで来やがったか。ならば仕方ない。私が司会で場を盛り上げてやろうじゃないか。
「さぁ!ついに織斑選手が入場しました!壮大なブーイングでお迎え下さい!ファッキュー!」
『『『『『ファッキュー!!!』』』』』
『たっきーお前何やらせてんだよ!?というか、ノらないで観客の皆様!』
「さぁ!観客のヴォォルテェェェイジはンムァァァァァァァックス!!!ペーペーのぺらっぺらな織斑選手が勝つのか!それとも!イギリス代表候補生が織斑選手をフルボッコだドン!にしてしまうのか!いざ、ゴングです!」
カーン!
『……色々と言いたかったのですが、仕方ありません。わたくしの掌で躍りなさい、織斑さん!』
『え?ちょまっ、うおおお!?』
「おぉーっと!オルコット選手の先制攻撃を無様であるが回避!織斑選手、反射神経はそこそこあるようです!ですが無様なものは無様!では皆様ご一緒に!」
『『『『『m9(^д^)』』』』』
『チクショー!たっきー覚えてろよー!あとノリ良すぎだろ観客!』
愉悦。このまま司会を続けようと思ったが、織斑先生に呼び出しを食らったために不可能となった。まぁ仕方ないね。
***
「織斑先生、しつっけぇですがもう一度だけ聞きます。これ本当にISですか?」
「…ISには見えないが、ISらしい」
「…………」
今私はISをまとっている。まとっているのだが、色々とおかしい。いやまぁ個人的にすっげぇ嬉しいけれど、ISとしてはおかしいのだ。
「これ、ブラッドボーンの狩人の装束なんすけど」
パッケージのアレである。右手にはノコギリ鉈。左手には獣狩りの散弾銃である。獣狩りではなくIS狩りをしろということか?
「……拡張領域の機能しかないISだ。正直、こんなもので行かせたくなどないのだが、お前の頑丈さなら多分大丈夫だろう。織斑の試合が終わり次第出ろ」
「了解」
……ISって銃パリィ取れんのかな?いや、魚村の魚巨人でも銃パリィ取れたんだ。間違いなく取れるはずだ。
「…………」
いや、でも内蔵攻撃ってできんのかな?万が一できたら間違いなく相手は死ぬぞ?うーむ、仕方ない。パリィ取ったら武田家流極悪CQCをブチ込むとしよう。大丈夫、私は女でも股蹴り上げる訓練してるから。
それにしても、イッチーしぶてぇな。
「…あ、イッチーが凡ミスかまして死んだ」
やっぱりイッチーは所詮イッチーということか。無様だな。ぷげらw
…………。
「そんじゃま、狩人のロールプレイでもしますか」
***
先程の戦いで、男性というのはわたくしが思っているようなものではないと知り、後日、一夏さんに謝罪をしなければと思いました。しかし、謝罪の前に彼を……武田さんを倒さなくてはなりません。武田さんにも謝罪をと思いましたが、正直なところ振り回されてばっかりだったので、逆に謝罪してもらいたいと思ってしまいます。
今度は初めから本気で行きますわ。織斑先生の技を受けても奇妙な悲鳴を上げるだけでピンピンしているのですから、頑丈さは侮れません。しかも身体能力も異常の一言につきますわ。
「レフィィィィィヤァァァァァァァァァァァァ!!!」
何とも言えない奇声を上げながら、武田さんがピットから飛び出してきました。…あれはISですの?露出しているのが目元くらいしかない、衣装にしか見えないのですが……。
武田さんはクルクルと回転しながら地面に着地しますと、何やら腰を痛めそうな決めポーズをとりました。何故でしょう?『ドドドドド』という文字が見えますわ……。
「待たしたかね?」
彼がコートを翻すと、回りの煙が晴れました。その右手に持っている武器を見て、わたくしは寒気を覚えました。一言で言い表すのならば、歪なノコギリ。乱雑に包帯が巻かれた、半月を描くようなノコギリでした。木を削るのではなく、肉を削り取るために作られた凶器。
「っ……何ですの、それは」
「ノコギリ鉈。当たると死ぬ程痛いぞ」
武田さんはそう言って、わたくしを見据えました。その目を見て、ぞくりと背筋に冷たいものが這い上がるような感覚を覚えました。アレは本当に武田さんですの…?
試合開始の合図が鳴り響く。武田さんが一歩一歩こちらに歩み寄ってくる。
「ッ…!」
それが堪らなく怖くて、わたくしは引き金を引きました。しかし、武田さんは僅かに身を屈めてレーザーを回避し、こちらに目を……獣のような目を向ける。
「ぃ…!」
ブルー・ティアーズで攻撃を仕掛けても当たらない。別に武田さんは回避行動など取っていない。まるでレーザーが武田さんを避けているかのようで……。
その時、武田さんがぐっと身を屈めて地を蹴りました。そして、一瞬にして目の前にいて、あのノコギリを振り上げていました。
「い、インターセプター!」
何とか防ごうとインターセプターを呼び出しました。振り下ろす前だったので、これで多少は防ぜる。そう思っていました。武田さんが左手に持った銃をこちらに向けるまでは。
ドガンッ!
「えっ…?」
ガクッ、と力が抜ける。何がどうなったか理解できないわたくしに、武田さんは…
「武田家流極悪CQC……」
ノコギリを腰に下げ、身体を捻って右手を上げる。
「『幻視突き』」
わたくしの腹部を、右手で貫きました。
「…え?」
武田さんはそのままわたくしに体当たりし、わたくしを突き飛ばしました。地面に落下したわたくしが見たものは、腹部を大きく抉られ、血だらけのわたくしと…わたくしの返り血を浴びて真っ赤に染まり、その右手にわたくしの内蔵を持つ武田さんでした。
「な…ッ、ハッ…ガッ…!?」
あまりの激痛に身体が痙攣する。どくどくと血が流れ続け、段々と意識が薄れていく。
…わたくし…死ぬんですの?
なんで…どうして…?
死にたくないという意思とは裏腹に、わたくしの意識は闇に飲まれていきました。
武田家流極悪CQC『幻視突き』
殺気で相手に幻覚を見せる地獄突き。ブラッドボーンをやっていて思い付いた、たっきーオリジナルCQCである。
セシリアは幻覚を見せられていたのであって、別に死んではいません。ただ臨死体験をしただけです。