プロローグというのは前座だ
「おーい兄弟ファースト、IS適正検査って今日じゃなかったとでっか?」
「この私に家から出ろというのか兄弟セカンド…!」
「いやまぁ仕方ないでしょ。あとから政府の方々からごちゃ混ぜ言われたかないし」
「それを言うならごちゃごちゃだぜ兄弟サード」
同じ顔で、同じ背丈で、同じ動きでミカンの皮を剥く三人組の男が会話をする。彼らは三つ子であるものの、あまりにもそっくりで少し不気味であった。
「何やらディスられたような感じがしたな」
「むむ?兄弟ファーストもか。兄弟セカンドは?」
「左右に同じ」
「誰だ?我ら武田三兄弟をディスりやがったのは」
今更ながら、この三兄弟の名前を紹介しよう。
長男の武田
「ん?今勝手に自己紹介されたような気がしたな」
次男の武田
「ぬ?誰だ?」
三男の武田
「…?ほんとさっきから誰?」
この三兄弟…いや、武田一家はある意味異常であった。
***
「IS適正検査、ねぇ」
私、武田正樹は溜め息を吐いた。何故中学を卒業してグータラライフを送っていた私が家から出にゃならんのですか。グァッディィンム…!そもそも何故ISなど動かしよった織斑一夏ァァァ!貴様だ!貴様のせいで私は出歩かなきゃならん!万が一貴様に会ったらフルボッコにしたらぁ…!
そう心に決め、私は検査会場に入って行った。おーおー、IS学園に行きたくって気合い充分だなぁ男子供。私ゃ御免こうむる。
そして私を見て何て顔してやがる男子供。腐肉カラスが獣狩りの散弾銃食らったような顔しやがって。又はチョコボがアルテマ食らったような顔。あとは射命丸文、もしくはミスティア・ローレライがファイナルスパーク食らったような顔は。
さぁて、何て言ってんだこいつらは。
『で、でけぇ!』
『身長幾つあるんだ!?』
『同級生?同級生なんだよな?』
『あいつの母ちゃん八尺様だろ』
『じゃあ父ちゃんスレンダーマンで』
おい最後の二組、表へ出ろ。私が地獄巡りの旅へと案内してやる。まぁ仕方ないといえば仕方ないんだろう。何せ私の身長は250センチもあるのだから。
我ら武田家には、ある種の微妙な呪いがかけられている。それは身長が異様に伸び、常に眠そうな顔なのだ。そして一家全員同じ顔なのである。中性的な顔なため、ちょっとメイクすればもろ女の子顔になれてしまう。
さて、列は最後尾か。これは時間がかかりそうだな。全くめんどーくちゃい。早く終わらぬかねぇ?私は家でゴロゴロしていたいのだから。
ぼけっとしていると、私の横を男子が通りすぎる。すんごい表情で泣いてらっしゃる。動かせなかったんだね。
はぁ、早く家に帰ってドSなフロム・ソフトウェア最新作と戦うんだ。さっさと血の遺志を回収したいんだよ。DLCを二週目で始めちまったから、今後悔してるとこなんだから。だが漁村の井戸の中の魚巨人…テメェはダメだ。絶対に許さねぇ。二週目から始めたから知らんが、何だあの体力と攻撃力は。聖職者の獣とかガスコイン神父とかが霞んで見えちまったじゃねぇか。つか、二週目から強すぎるわ。ダークソウルももう少し優しかったぞ。私が今に帰ったら覚悟しとけよ魚巨人め。モツ抜きしまくってやる。
「次ー」
「うぇーい」
おや?案外早く出番が来たな。さてさて、それじゃISとご対面といこうじゃないか。
部屋に入れば、日本の作った量産機の打鉄が鎮座していた。
「さっさと触ってよね。全く、何で私がこんな事しなくちゃなんないのよ」
こちらを見向きせず、ケータイとにらめっこしているオネーサン。実際私もオネーサンと同じ心境だ。何で触るためだけにこんな所に来なきゃならんのだ。オネーサンのストレスの負担を増やさせないため、私はさっさとISに触れて終わらせた。
終わらせたかった。
次の瞬間、色々な情報が脳内を大爆走し、私にISが装着されていた。あ、ちょっとIS小さい。
「…………」
オネーサンこっち見てビックリしてるよ。多分二つの意味で。
「…ふむ」
頭の中で解除と命じれば、ISは私を解放してくれた。
「…ふむ」
私はISを見る。そして
「ぶるぁぁああああああああ!!!」
思いっきり蹴り飛ばした。
「えええええええええええええ!!!?」
蹴り飛ばされたISは火花とスパークを放ち、煙を上げている。全くもう。
「壊れてますよこれ」
「いや今蹴り飛ばしたわよね!?」
「いえ、叫んで足を上げただけです。既にISは壊れとりましたとです。じゃ」
そう言って私は全力で逃げた。後ろから「待ちなさい」と言われたが、待てと言われて待つバカはいない。それよりもだ。兄弟に助けを求めなければ。
私はケータイを取り出し、兄弟の電話番号をスタイリッシュに入力して掛けた。
『prガチャッ どうした兄弟ファースト』
「早いな兄弟セカンド。それよりも緊急事態だ」
『どーした』
「何故かISが起動してしまった。今逃走中。ヘルプ」
『よし分かった。直ぐ行く』
電話が切れ、数秒経ったら我が兄弟が駆け付けてくれた。流石兄弟、早いな。
「兄弟ファースト、捕まったら腹の内を全て晒け出すことになるぞ。物理的に」
「下手したら頭もだな。物理的に」
「物理的か。研究者が大好きなヤツだな」
「おう。ところで同じ格好に着替えたが、このあとどうする?」
「そうだな、しばらくこのまま並んで走ろう。で、見付かったら散開して追手を撒けばいい」
「「合点承知ノ助」」
という訳でしばらく走ることにする。
『待ちなさーい!って、何か増えてる!?』
「いや、しばらく走る必要なさそうだ。それじゃあ各自散開」
「おうよ。ゴキブリ並みの逃走技術を見せてやる」
「アサシンクリードの真似が役立つ時がきたな」
さぁ、鬼ごっこの始まりだ。