適当に魔法科学校で主人公の達也君と遊んだりしたい(願望)   作:倒錯した愛

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第2話

卿side

 

 

『これより国立魔法大学付属第一高校入学式を始めます』

 

「ようやく始まるね、深雪さんの答辞が楽しみでしょうがないよ」

 

「当たり障りのないものだと思うぞ?」

 

「達也君の側にいられなくてストレスの溜まってる深雪さんが、普通で何の変哲もない平凡な答辞をすると思う?」

 

「………否定しきれないな」

 

達也君と話しているとすぐに深雪さんの答辞の時間になった。

 

『新入生答辞、新入生代表、司波深雪』

 

舞台袖から出てきた深雪さん、ステージ中央のマイクの前に立つと深呼吸し、一礼した。

 

パチパチと拍手が鳴る、私と達也君も同じように拍手をする、拍手が止んで数秒たってから深雪さんは口を開いた。

 

『この晴れの日に歓迎のお言葉を感謝いたします、私は新入生を代表し第一高校の一員として誇りを持ち、皆等しく平等に勉学に励み、魔法以外でも共に学び、この学び舎で成長することを誓います』

 

「………大胆だねぇ達也君」

 

「深雪のやつ……」

 

頭を抱えるポーズをとる達也君、望んでいた妹の晴れ舞台、だが発言は望まないものだった、そんな感じだね。

 

あとそのポーズ早めに辞めてね、達也君を見てる女子が二科生だけでざっと20人はいるから、絶対半分はフラグ立ってるから。

 

早くしないと見惚れてる女子が氷像を越してダイヤモンドダストになっちゃうから、東京で北海道の自然現象観測されちゃうから止めて。

 

あっ、深雪さんこっち見て………あかん、目が真っ黒や、逃げなきゃ(脅迫観念)。

 

あー!やめて!深雪さんやめて!死線送るの私じゃないよ!隣!隣のスケコマシだから!私何も悪くないから!

 

「言い訳考えとかないと………」

 

「何のだ?」

 

「達也君が女の子侍らせてる件について」

 

「そんなんじゃないだろ………」

 

「達也君………深雪さんを侮ったらいけない、死ぬよ?」

 

「それは困るな」

 

一切困ったふうには見えないのがちょっとイラつく、感情表現に乏しいのは知ってるけどさ、丸投げはないんじゃない?少しは罪の十字架を背負ってよ。

 

「私は深雪さんに殺されるのも悪くないけど、達也君に会えなくなるのはごめんだから、まあなにか適当に言い訳を考えとくよ」

 

「助かる、俺のこととなると深雪は視野が狭くなるからな」

 

「あとでお願いひとついい?」

 

「俺のできる範囲ならな」

 

「よし、じゃあこの私が達也君の弁護を担当してあげようじゃないか」

 

気取った言い方をすると横で見ていた柴田さんがクスリと笑った、さっきの怯えたような表情はなんだったんだろうか?私のことが整理的に無理ってわけでもなさそうだし、ますますわからなくなった。

 

入学式も終わって解散となり、ステージ脇の扉から深雪さんが出てくると、あっという間に生徒に囲まれてしまった。

 

「あちゃー、あれじゃあ動けないよ」

 

「卿、すまないが深雪を迎えに行ってくれないか?」

 

「ん?達也君のほうがいいんじゃない?」

 

「深雪の周りを見てみろ、全員一科生だ、俺が行ったって突っ返されるだけだ」

 

「そっか、じゃあ迎えに行ってくるよ、IDカード登録したら合流ね」

 

「あぁ、道に迷うなよ」

 

「深雪さんがいれば迷うことはないから」

 

達也君の「心配だ……」という発言は聞かなかったことにして、深雪さんのいる集団に突っ込んだ。

 

かき分けて進むと深雪さんが見えた。

 

「深雪さーん!」

 

「あ、卿さん」

 

微妙にわかる程度の苦笑いで困ったように応対していた深雪さん、声をかけるとこっちを向いてくれた。

 

「迎えにきm………っとぉ!!??」

 

「卿さん!」

 

何かにつまづいて転びかけたところを深雪さんがとっさに支えてくれなければ危なかった。

 

まるで胸に飛び込んだようになってしまったけど、故意じゃないからいいよね。

 

「すみません、助けてくれてありがとう」

 

「いえ、無事で何よりです」

 

深雪さんの手を引いて集団からさっと抜け出して講堂から出る。

 

「それじゃあ、IDカード発行してさっさと達也君のとこ行こうか、あでも深雪さんってもうIDカード持ってるんだっけ?」

 

「はい、すでに登録は済ませてあります」

 

「うーん………」

 

深雪さんを1人にしてIDカードを登録しに行けば絶対囲まれるだろうし、うーん………あっ、あの女子は確か七草真由美、生徒会長だったっけ。

 

そうだ、生徒会長の側に深雪さんを置いておけば誰も近寄ろうとはしないはず。

 

「深雪さん、私はIDカードを貰ったら達也君を連れてくるから、それまで生徒会長さんと一緒に居てくれない?」

 

「わかりました、それでは、お兄様のことを頼みました」

 

一礼した深雪さんは生徒会長とモブっぽい男子に近づいていった。

 

それを確認すると私も一番人の少ない列に並んで本人確認をしてカードを受け取る、さて、問題は達也君なんだけど………いた。

 

「達也くーん!」

 

「卿か、そんなに走ると危ないぞ」

 

「そんな事より、向こうで深雪さんが待ってるから、早く行って抱きしめてあげなさい」ビシッ

 

「人目につくところで抱きしめられるわけないだろう………」

 

ため息をひとつ漏らした達也君は、深雪さんのいる方向へと歩き始めた、その後ろから女子が続いている。

 

私は達也君の隣に立って歩く、なにやら視線が集まるが、おそらく達也君のイケメンフェイスを見ているのだろう、ふぅ、やれやれ、リア充爆発しろ。

 

「お兄様!!」パァッ

 

『花が咲いたような』っていう文をたまーに本で見るけど、いまいち理解できなかったんだけど、今の深雪さんの笑顔のことを言うんだろうね、いつもの慎ましく柔らかい笑みが水仙とかユリの花なら、今この瞬間の笑顔は………ヒマワリ、かな。

 

嫉妬と怒りの渦巻く笑みは薔薇だよ、それも触れたら即死の毒が棘に塗りこまれているタイプの、そうなったらもう大変、専用の鋏(達也君)に棘を切ってもらわないといけないんだ。

 

ついでに失敗すると高確率で達也君か嫉妬の対象が氷像になる、ひどい時はダイヤモンドダスト。

 

「悪い、遅れた………待ったか?」

 

「いいえ、全然です(お兄様を想えば、待ち時間すら幸福です……)」

 

深雪さん若干トリップしてる気がするんだけど、大丈夫、だよね?

 

「また会いましたね、司波達也君」

 

「……どうも…………」

 

ん?達也君の表情引き締まったね、ちょっとやめて達也君、合流早々深雪さんのコメカミピクピクしてるんだけど、勘違いされてるからね、生徒会長に気があるみたいに勘違いされてるよ深雪さんに。

 

「それから、初めまして、姫城卿君、私は生徒会長を務めております、七草真由美です、よろしくお願いしますね」

 

「初めまして生徒会長、姫城卿です、よろしくお願いします」

 

いきなり私!?

 

「ところで、姫城君は中庭で本を読んでいたようですが」

 

「えぇはい、中学生の時に買った本で、私のお気に入りなんです」

 

「そうなの?どういう内容なのか教えてくれませんか?」

 

あっ、この生徒会長、本読むの好きなんだな………。

 

「良いですよ………と言っても、良くある童話をモチーフにした本なので、あまり面白くないかも知れませんよ」

 

「いいんです、聞かせてください」

 

「わかりました………この本の物語は、とある一国の姫が魔物に攫われるところから始まるんです、とある一国の王様は姫を取り戻そうと何万という兵士を送り出しますが、誰1人たどり着くことができず、ついには姫の肉体を器とし、魔族の王………魔王が復活してしまうんです」

 

「それで?それからどうなるの?」

 

「復活した魔王は、自らの魂を封印したとある一国の王様の先祖への恨みを、とある一国に矛先を向けました、とある一国に何十万という魔物を送り込み、残る兵力を投入し防衛に徹したとある一国でしたが、ついに強固な守りが崩され、とある一国は滅んでしまうのでした」

 

「え?おしまいなの?魔王は?姫様はどうなったの?」

 

いつの間にか口調崩れてないこの人、いや別にいいけど………にしてもワクワクしてる顔だなあ、気持ちはわかる。

 

ただ顔が近いのは勘弁。

 

「まさか………今話したのはほんの序盤も良いところ、プロローグ、序章の部分です、本当の始まり………第一章はここからです」

 

「長編なのね!それで?それで?どうなっちゃうの?」

 

「知りたいですか?」

 

「ええ、興味が湧いたわ、聞かせてちょうだい」

 

「残念ですが、体験版はここまでとなります」

 

「えー………」ぷくーっ

 

あらかわいい。

 

「知りたいのでしたら………自分で読んでみるのが良いでしょう」

 

「この本は……」

 

制服から本を取り出して生徒会長に手渡す、生徒会長は思ったより厚みがあり重たい本だったことに驚きつつも受け取った。

 

パラパラとめくりながらまた驚いている。

 

「すごいでしょう?この本、挿絵は無いし字は細かいうえ子供には難しい言葉が多い、子供向けの童話とはとても考えられませんよね?実はこれ、大人向けの童話本なんです」

 

「大人向けの童話本?最近はそういうのもあるの?」

 

「あったのはだいぶ昔で結局流行らなかったみたいですね、この本の挿絵が無く難しい言葉が多いのはわざとそうして作っているからなんです、読みながら風景を想像し、キャラクターの視点になって物語を読み進めていくと、面白いですよ」

 

「そうなの………そんなのがあったなんて………端末では検索対象外の本もあるものなのね」

 

「まず一回普通に読んでみる、読み終わったら今度は攫われたお姫様の気持ちになって読んでみる、読み終わったら次は魔王の気持ちになって読んでみる………そういう風に登場するキャラクターの気持ちになって読むと何百倍も面白いんですよ」

 

「そうなの………あ、この本、本当に借りても良いの?」

 

「えぇ、むしろオススメしたいくらいですから」

 

「ありがとう姫城君、さっそく帰ったら読んでみるわね」

 

とびっきりの笑顔+上機嫌でそういう生徒会長、本当に読書が好きなんだな………というか、後ろに突っ立ってるモブ上級生の視線がキモい。

 

ふと達也君の方を見ると…………深雪さんと柴田さんと千葉さんが自己紹介をしているところだった、意外と大丈夫だったんだ、まあ被害が倍に越したこと無いよね。

 

しばらくして達也君が。

 

「深雪、生徒会の人たちとの話はもう良いのか?まだならどこかで適当に時間を潰しているが………」

 

「その心配は要りませんよ」

 

達也君の言葉に返したのは深雪さんじゃなく、本を胸元で抱いた生徒会長だった。

 

「今日は挨拶だけで十分ですし、他に用事があるのならそちらを優先してもらって構いませんから」

 

後ろからモブ上がなにか反論しているけど………とりあえず生徒会長、あなた本読みたいだけでしょう?

 

やがて考えがまとまったのか、生徒会長はこっちの方に向き直った。

 

「それでは深雪さん、また後日改めて、司波君も今度ゆっくり話しましょう、姫城君も、また本のお話を聞かせてください」

 

「はい、会長、また後日」

 

「はぁ………」

 

「それくらいの話なら、いくらでも」

 

礼儀正しくお辞儀する深雪さん、困ったように返事をする達也君、内心読書好きの人がいてちょっと嬉しい私の順で言う。

 

振り向いて去っていく生徒会長、モブ上のうざってぇ視線に唾吐きつけたい気持ちをこらえてじっと我慢する、見えなくなったところでため息をはき。

 

「はぁーー………何あのきもっちわるいモブ男子上級生、私と達也君のこと睨んでたし、深雪さんのことも下心全開で舐め回すように見てたしさあ…………ねえ千葉さん、どう思う?」

 

「えー私?……んーぶっちゃけあの人には近寄りたく無いなー」

 

「だよねー、というか、あんなキモいのが生徒会役員とか………マジナイワー」

 

ひとしきり千葉さんと感覚を共有したのち、達也君の方に振り返る。

 

「それでさ達也君、どうする?帰る?」

 

「俺は帰ろうと思う、深雪も帰るよな?」

 

「はい、お兄様と一緒に帰りたいと思います」

 

2人の以心伝心っぷりに周りがちょっと引いてるよ……。

 

「あ、それじゃあ一緒にケーキでも食べに行かない?この近くに美味しいケーキを出すお店があるんだ」

 

「ケーキですか〜」

 

「いいですね、お兄様はいかがなさいますか?」

 

「別に構わない、卿はどうだ?」

 

「うん、ついて行かせてもらうよ」

 

「じゃ決定!」

 

ということで千葉さんの提案でケーキを食べることになった、ケーキ………やっぱモンブランかチーズケーキだよねえ、それに王道のショートケーキもいいよね。

 

「高校周辺のお店事情には詳しいんだな」

 

「当然!これから3年間通う場所だもの!」

 

なにやら達也君が千葉さんの返答を聞いてため息をついていた。

 

「それじゃあ、妹共々、これからよろしく」

 

「は、はい、こちらこそよろしくお願いします!」

 

向こうは向こうでなにやら盛り上がっている様子、うんうん、仲が良くて大変よろしい!

 

千葉さんを先頭にケーキの美味しいお店に入り、各々好きなものを注文して食べ始めた、今はもうみんな食べ終わってコーヒーや紅茶を飲んでいる。

 

達也君はおもむろに端末を出すとベンチで読んでいた本の続きを読み始めた、私も読もうと思ったが、今は生徒会長に貸しているため諦めてコーヒーをすすって時間を潰す。

 

…………………にっが。

 

そんなこんなで暇を潰していると解散することになった、沖縄の時と同じように達也君が伝票を掴んで会計を済ませて帰ってきた、さすが達也君、行動が早いね。

 

達也君の行動の早さは深雪さんの心情の変化には無効なのが残念だよ。

 

「悪いね達也君、奢ってもらっちゃって」

 

「これくらいどうってことない」

 

「さすが達也君だね、私もそういう台詞言ってみたいよ……」

 

「そういえば、姫城さんのお家ってどういうところなんですか?」

 

「私?うーん、父は普通の会社員、母は専業主婦、兄姉弟妹はいない、まあ一般家庭だね………だから基本的にお小遣い制で金欠なんだよね」

 

「隠れてバイトとかしないの?」

 

「考えたけど、学校にバレて親に心配かけるのはちょっとね」

 

「姫城さんは家族想いなんですね」

 

「しかもこいつ、中学の成績は常に1位だったしな」

 

「達也君それどこで知ったの?」

 

そんなこと誰にも言ってないのに………。

 

「優等生じゃない、私には1位なんて無理無理」

 

「とは言うけどさ、魔法の勉強は全然だったよ、正直言って達也君が教えてくれなかったら落ちてただろうしね」

 

「あーわかる、私も40点取れたかどうか」

 

「私もペーパーテストのほうは正直………」

 

やっぱりみんな苦手なんだねー、達也君が異常なんだよやっぱり。

 

「ペーパーテスト1位をとった達也君がいてくれて良かったと思うよ」

 

「うっそ!達也君テストで1位とったの!?」

 

「たまたまだ」

 

「すごいです司波君!」

 

お店から出て帰路を歩きつつ達也君ワッショイする、ある意味ノルマみたいなもの、実際この中で最強だし、というか学校で一番強いし、いっそ日本最強じゃねってくらいチート強い。

 

私じゃぶっちゃけ勝てない、相性が悪すぎる、無理不可能意味不明って感じで負けるから。

 

私だけ遠いところなので途中で達也君たちとわかれて帰った。

 

明日が楽しみでなかなか寝つけなかった。

 


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