親殺し
どのような立場でも、事情があろうとも理解される事は難しい。それは命の価値が低いこの世界でも同様。
NPCにとっては親よりもある意味重い存在だ。存在意義はどのような過程があれ
その前提は覆されない。しかし……主のために主を殺す、深刻な矛盾と言わざるをえない。
自身でさえ彼らの子に等しいNPCを殺さざるをえないとならば葛藤する。シャルティアの時はシステムがまだ使えるだろうと予測もあり――到底許せないが――割り切って行った。人間ではない、NPCだという考えはもはや希薄。この世界に来てから時間が経ち彼らと過ごした。ギルドメンバーに勝るとも劣らない日々と今なら自信をもって言える。
根底には彼らとの記憶がある事は否定しない。しかし彼らと会えたから会えたのだ。
時折そういう風に振舞うよう求められたNPC達を見ると懐かしく、寂しく、少しだけ悲しくなる。
「……言葉が出ないな、この世界に来てからNPC達と時を過ごした。彼らが創造主に対しどういった思いを持っているか痛いほど分かる」
「彼らは懸命に創造主の命に従い、同格たる私へ健気すぎるほど献身的に仕えてくれる」
「だからこそ、言おう。お前の行った事は……正しい」
ガンとテーブルが蹴飛ばされドライアドがこちらの手首を掴む。
「正しいはずだよ!間違いない!でも、じゃあなんでこんなにアタシがアタシじゃなくなるんだ!」
「あのままじゃこの街ごと、主の残滓が消えそうだったんだ……!」
「お前が行った行為は決して間違っていない!。……
ドライアドが骨の手を掴んだまま睨みつける。
アインズは内心で息をつく。そもそもこういう事態があると守護者らは相対することに猛反対だった。だが事情が事情であり階層守護者のいずれも傍に控えさせるのは劇薬になりかねない。この事実は出来れば自分ひとりだけ、もしくは1人の
ヤツが出てくるのは最終手段のみだ、この程度ならば出しゃばるなと言い含んでいる。
「何度でも言ってやるさ、お前の行為は主人を守ろうとした結果だ……だがただの足踏みだ」
「……現状維持でしかないんだ。残された者は残された物を必死に守る。だけどな……少しづつ擦り切れていくんだ」
アインズは知っている。輝かしい日々、あの思い出があったからこそ
もしかしたらみんなが戻ってくるんじゃないかと淡い期待を持ち、ギルドを維持していた。
もちろんユグドラシルをプレイしていた時は楽しい。……だが作業じみてきてもいた。
どれだけ好きなゲームでも作業のようになってしまう事がある、それも目標があれば苦にならない。仲間達とのレイドバトルに備える。他ギルドへのカチコミ、貴重な装備の入手。
……使う予定の無い装備の作成。維持をするためだけの資金集め。やる気のないイベントへ参加。
「ドライアド、
「はっ!あんたには……あんたには仲間と同じような存在がいっぱいいるじゃないか!!!」
「同じではない!」
あぁ沈静化が煩わしい。堪え切れない程激昂してしまう。
「同じではない、確かに彼らは創造主の面影を強く残している。……しかし別人だ。故に俺は、彼らをかつての仲間として見てはいけないんだ。そうであっては彼らはそうあれと振舞う」
……無意識的な部分もある、セバスはたっちさんの正義を受け継ぎ、デミウルゴスはウルベルトさんの悪を模範としてる。それはあくまで考え方、生き方の違い。
「……ドライアド、お前のおかげで俺は決意出来た。
かつての仲間達を追って行動ばかりしていた。それは……後ろ向きだ。俺が今見るべきものはかつての仲間達ではない、その仲間達が残してくれたNPC達とどう生きるかだ。
「ふざけるな!ふざけるなふざけるな!!!あぁそうさ、あんたとアタシは似ている!!!それは間違いない、だからこそあんたになら殺されたっていいって思ってた!!でも、でも……何であんたはそんな事考えられるんだ!!」
「……」
ドライアドの手が震える。握られた手に力こそ入っているが…迷いがある。
「うちのメイドの中に、フィースというものがいてな」
「突然何を……」
「私はその日の衣装を彼らメイドによく任せている。この前フィースに選んでもらったんだが赤い煌びやかなローブだった、あれは驚いたな」
「誰かと謁見するわけでもないぞ?ただ市政を見て回ろうと思っただけだ」
「宝石も色々ついててなぁ。くくっ、フィースお前の趣味はこういう系なのかとな」
昔だったらまずヘロヘロさんの影響かと考えただろう。
「……」
「
「っ!」
「この世界に来て僅かな私でも出来たんだ。ドライアド、お前は街人達を主人と代替として見てやれないか?」
シャルティアが洗脳された頃はまだかつての仲間を追っていた。
コキュートスがリザードマンへの進行に失敗した後は成長を感じた。
王都襲撃の時はセバスの独断専行に驚いた。
ドワーフの国ではアウラとシャルティアがよく協力してくれた。
この世界に転移して色々あった。しかし自分だけでやった事等ほとんどない、彼らの助けあってこそだ。
いつからか彼らと一緒に何かをするという事が楽しみになり、次はどうしようと考えるようになった。
……彼らの忠誠に困る時もある。だが少しずつコミニュケーションを取る事で彼らの事を知れた。
「茶は1人で飲むのも美味い。だが私は誰かと飲んでこそだと思う」
「あたしが……あたしが覚えていなけりゃ主人の事を誰が覚えてるというんだ!」
「残せ」
「主の生きた証を残せ。……私を含め永遠に滅しないものなど存在しない。お前の偉大な主人は何を残した?向き合うんだ」
「……茶の」
「茶の楽しみを教えて、くれた。一緒に飲んで楽しい……と」
「お前の知識は素晴らしい、それは主人から教えてもらったものだろう?それをこの街人だけじゃない、国に、世界に広めてやれ。そうして広まった先で皆がこう考えるだろう――いったい誰がこんな素晴らしい茶を?――とな」
「……かつての仲間達がいなくなった事は悲しいさ、そんな俺を支えようとしてくれるNPC達がいる。彼らのためにも進みたくなったんだ」
かつての仲間との日々は確かに素晴らしい。だがこの世界に来てからの日々も決して見劣りしていない。
「茶の知識はまだまだだが……俺でもわかる事がある。誰かと飲む茶は美味い、だ」
「お前と飲む茶は嫌いではない、気兼ねなく楽しめるしな。……茶には器が必要。主からもらった茶を大事にしたいというのなら……
全て口にした後言っちまったよと後悔する。
最初はもっと落ち着いて説得するつもりだったが沈静化が起きるほど熱くなってしまった。
だがドライアドが握った手に力は込められていない。……逆上して襲ってこないと信じておこう。
「……無礼を働いた。魔導王陛下」
「今更そのような口ぶりやめてくれ。距離を感じてしまうな」
おどけて肩をすくめる仕草をするとドライアドがもう一度詫びを入れ席に着く。そういやさっきテーブル蹴っ飛ばしてたなこいつ。
「……ぐちゃぐちゃだ。主人への思いと、自分がした事、やらなければいけない事」
「焦ることは無い、時間はある。……ここだけの話だが帝国が我が属国になる事となった。ここに来ることも気軽に出来よう」
ワーカーを装って来ることは難しくないがいくつもの役割を持つことはリスキーだ。モモンで言ってワーカーでは言ってないなどごちゃごちゃしてしまう、自分は俳優ではないのだ。
「は?そ、それは急な動き……いや、ですね」
「普段の言葉遣いで構わんと言いたいがシモベと軋轢も発生しよう、そのうちお前と守護者らを引き合わせることもある。その後少しづつ距離感を掴んでいくと良い。……苦労すると思うが」
「わか……、いえ分かりました」
恐らく老婆の時に使っていた口調が普段のものなのだろう、というかここ数十年はほとんどあの姿だったろうし癖は抜けきれないのか。……こういったところもNPCでは無いような迂闊さはある。
ドライアドに言うつもりは無いが、NPCでないということはブレも出やすいと思う。存在意義がはっきりしている分、それに準じた動きというのはある程度イメージがつく。半神半人である今は迷い、論理的ではない行動も増えているのだろう。
(……むぅ、悩むことがまた増えた気がするがまぁどうにかなるだろう)
あまりくよくよしてもしょうがない、今は名実ともに茶飲み友達が1人増えた事を喜ぶべきだ。
「では、私は一度戻るとしよう。また使いを送る」
「わか…りました」
何だかナーベラルの最初の頃を思い出す。いや今も癖があるが。
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ダージリンの街を出て少し歩いたところで護衛として潜んでいたパンドラズアクターが姿を見せる。
「お疲れ様で御座いました。……アインズ様、よろしかったのでしょうか?」
「それはどの意味でだ?」
「どれもと言えますが、やはり1番は殺さず配下にお加えになる事は少々リスクが高いかと」
「もっともな意見だ。だが奴が直接こちらに反抗的な態度を出したのは1度くらいだ。奴の戦闘力そのものもそこまで高いものではないしな」
これは実際に相対して少しわかった。恐らくドライアドは信仰系魔法詠唱者、タイプで言えばマーレに近い。格下相手ならば殲滅が容易で、なおかつあの様子ならば生産系のクラスも習得しているだろう。
逆に言えば何かに特化した火力を持っていない可能性が高い。不意打ちであれば多少はダメージを与えられるだろうが、同格以上では時間稼ぎがいいとこだろう。
「しかし、アインズ様に危害を加える事が出来るという事は見過ごせないかと」
「確かにそうだ、だが
ドライアドがワールドアイテム、
だからその可能性を排除しなければ今回の訪問は成立しえなかった。
「だからこそアウラに山河社稷図を使わせ確認を行った。奴は気づいた様子も無かった……のかもしくは気にも留めなかったのか」
「今回のケースは非常に複雑だ。だがあらゆる存在が私に平伏す、そういった前提で邪魔だから殺すというというのは少々矛盾している」
「……恩讐のようなものがあるとは言わないがな。いやこれは失言だ、忘れてくれ」
「はっ、アインズ様がお決めになられたことならば我らは従いましょう!」
「では私は戻るが……」
「私はアウラ殿に問題が無かった事をお伝えし転移で一緒に戻らせて頂きますっ!」
「お、おう。よ、よろしく頼む」
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パンドラズアクターside
「パンドラズアクター、どうだった?」
「はいアウラ殿、彼女……ドライアドはこちら側に加わる事に!」
「ふぅん……。まぁアインズ様に逆らうのなら殺すだけだしね」
「でありましょう!至高の御方であるアインズ様を阻むのであれば!」
「パンドラズアクターから見てどうだったの?そのドライアドは」
そうですねと前置きし少し考える。
主人はドライアドの情報を限定している、
親殺しという不名誉な行いは到底自分も受け入れがたいが他のシモベ達には少々刺激が強すぎる。少なくとも今その情報が広がれば排除の声が無視できなくなる。
「戦闘力という点はあまりたいしたことはありません。ワールドアイテムも所持しては無さそうです、ですが過去ワールドアイテムの影響を受けたようでその点は注意が必要ですな」
「そうなの?」
「ええ、我等に思いもつかないような行動を行うかもしれません。デミウルゴス殿やアルベド殿にも一度ご相談したほうがよろしいでしょうな……ですが」
殺した方がいいんじゃないかなーという顔を見せているアウラが首をかしげる。
「ドライアドを簡単に殺さないと明言されておりました。彼女しか持っていない技術、知識があるのやもしれません。我々も対話が必要でしょう」
「ん、んー……ならまぁしょうがないか。お茶、詳しいんだっけ?」
「ええ、私も部分部分ですが聞いておりました。一部はアストリア殿よりも詳しい可能性がありますな」
「へぇ、じゃあここに来るときがあったら飲ましてもらおうかな」
「実によろしいかと!アインズ様も同じものを飲んだとなればお話ししたい事があるかもしれません」
「……いいね!パンドラズアクター。とっても良いよそれ!」
アインズ様は今回少し変わられたように思う……が、より我等を見て下さるというのならばそれに勝る喜びはない。
今まで以上に我々もアインズ様の御心に沿うようにしなければ……我等も主を支える器足りえるように。
オーバーロード最新刊、食堂のところにてコーヒーに対する描写が書かれていました。
何種類もコーヒー豆のデータがあったとかグレードがあるとかもうこりゃたまりませんなぁと読みながら思ってました。味もベリーみたいなとかいいところつくわぁと。良い酸味のコーヒーは果実を思わせるような味わいがあって凄い美味い。
好みがあるんですが僕は酸味よりのコーヒーが好きなんで大抵初めてのコーヒー屋だとそれ系を飲んでみたりしますね。以前勤めてた時にも思ったんですが苦味よりのコーヒーって違いを出すのが凄い難しい。
ですが、酸味よりっていうのはアメリカンみたいなあっさりとしたものだったりそれこそ果実を思わせるような風味のものもあったりとなかなか楽しめます。
最近飲んで美味しかったのはニカラグアです。中米の豆は結構好きですね。
コーヒーの話もたまには書きたくなるのでまた書こうかな。次はドライアド加入後のナザリック内の話です。これは下書きがそれなりにしてあるのでそう遠くないうちに出せると思います(願望