なるべく次は間を開けないようにします
今回がアインズが用意した紅茶は正直なところ特別なものではない。
リアルでは有名な紅茶
ただそのネームバリューのみが先行してしまいその紅茶をどう使うかという点については研鑽されているとは言い難い。
単体としての完成度に目が眩み、使い方についての研究が足りていない。最高のものは掛け合わせてはならないとはエゴだ。
「ドライアド、釈迦に説法という事は承知しているがもう一度聞かせてくれ。ダージリンの魅力とはなんだ?」
「くどいね。何度でもいうよその特徴ある香りだよ。ダージリンたらしめさせているその香りさ」
「ではその香りが無いものはダージリンではないと?」
「少なくとも極上のダージリンとは思わないね。
嗜好品とはまったく便利な言葉だ。味わいは人それぞれという非常に曖昧な表現で納得させてくれる。
だがそれはある意味思考停止していると言わざるをえない。市場価値とは正直なもので明確な上下関係を叩きこんでくれる。
早い話、売れないのだ。特徴が無いものとは。
ダージリンで言うならば自然とダージリンらしい紅茶以外は全て淘汰される。
以前から感じていた違和感とはその事だろう。特定の使用法以外はタブーともされるような風習、昔の日本であったような農民の子は農民。武士の子は武士ともいえるような閉鎖的で時代錯誤ともいえる考え……でもない。
リアルでも生まれや育ちに影響される事が多く時にはそれを僻みもした。だがユグドラシルに出会ってから少しずつ考え方は前向きになっていた気がする。やはりそう変えてくれたのは友人だろう。たとえ過去のという言葉がついてもだ。
さて先ほどドライアドが言ったように『好きなものを好きに飲めばいい』その通りだ。全くもって正論だ。
だがそんな顔でいわれても納得できるだろうか。
「待たせたな、では楽しんでくれ」
そう言って差し出した紅茶は淹れたてでよい香りが漂っている。
紅茶はコーヒーに比べ淹れたては非常に熱い事が多い。
だが慣れてくるとだんだんと冷めてくる間に変わる香りもまた楽しみだ。
「……?ふん……」
早速気づいたか?いやまだ確信していない。アッサムの香ばしい薫りが覆い隠してくれている。
「最近は変わり種を楽しみたい時がある」
「変わり種?紅茶らしくない紅茶とか?」
「例えば変わったフレーバーの紅茶だな。最近だと杏の香りの紅茶はなかなかよいものだった」
不機嫌そうにも見える様子だが、興味はあるのだろう。
「杏の香りは確かにいーね。優しい香りだし」
「うむ、ストレートでも美味かったが濃いめの仕上がりにミルクを加えた優しい味わいは杏仁豆腐を思わすものだ」
「おもしろいアイディアじゃん。……そういう紅茶ってあんたのところだと誰が考えてんの?」
「メイドの一人が詳しい。正統派なものからアイディア溢れるものまで色々と楽しませてくれる」
一般メイドのアストリアを筆頭に詳しいものはそれなりにいる。
シャルティアはペロロンチーノさんが設定上に組み込んでいたし、アウラもシャルティアと話をしているせいかそれなりに詳しい。プレアデスや一般メイドはいわずもがな。デミウルゴスやアルベドなど智者として作られた存在はこういった娯楽や嗜好については少し疎いようにも感じる。
……デミウルゴスはたまにバーで飲む事もあるそうだから酒のほうが詳しそうだ。最近だと紅茶を飲む機会が自分だけでなくシモベ達にも増えている。もちろん強要はしていないが、まぁこれを機に娯楽に目を向けてくれるのならば福利厚生の改善に一役買ってくれるかもしれない。
「ダージリンの街の者たちはやはり紅茶に詳しいだろうが、他の紅茶についてもよく知っているのか?」
「ん-、あたし以外だとあんまりかなぁ。まずあんまり入ってこないし」
わざわざ紅茶の産地にサンプルか何か以外で入荷させるというのはそう多くはないだろう。だが少々閉鎖的ともいえる。自分はリアルでの経験、情報から紅茶というものの全体像がおぼろげながら想像が出来る。
だがこの世界ではごくごく狭い範囲で何事も完結してしまっていることが多い。
軍事等であれば敏感に察知しようとする事があるかもしれない。……が王国ですら
愚かと言わざるをえない……が、少々同情する。第6位階が最高とも言われている世界で超位魔法等想像出来るはずがない。文字通り力の桁が違う。
上位の位階魔法になるとダメージだけでなく特殊効果が付随することが多い。相手も単なる属性ダメージは対策してくる、であればデバフを使い搦め手を狙う方が有効だろう。
話が少しそれたが戦略的にも重要な軍事ですらその認識なのだ。娯楽など国を超えて入ってくる事すら少ないだろう。
「……む?そういえば他種族国家では違いはあるのか?」
少し曖昧な質問になってしまったがどうだろうなとは思う。まさかドラゴンがお茶を飲む事も無いだろう……。
「お茶とか酒とかそういった嗜好品はそんなに変わらんよ?」
マジかよドラゴンがティータイムするのか……。
ま、まぁ擬人化するような魔法等もあるかもしれない。種族特性のような魔法ならば自分が知らない可能性も十分にありうる。
そろそろ話の方向を修正していかねばならない。全くもって
「ふむ、なるほどな。嗜好品らしく好みはそれぞれというが香りなどはまぁ種族間で様々な特徴があろう」
「だねぇ」
「だがなドライアドよ、私は非常に気になっている疑問がある」
「
シンと静まり返る。無音なだけではない、ドライアドから無意識であり意識的でもある殺意……が部屋に蔓延する。
さぁ、ここからだ。
「……ダージリンは素晴らしい紅茶と言っただろう?であれば単体で飲むのが一番の楽しみ方だ」
「全くだ。だがな、この街に着いてからの違和感――ブレンドについての試行錯誤が意図的に避けられている――がある」
無粋な話だがなとアインズは前置きする。
「ブレンドの大きな目的は2つ、味の調整と味の平均化だ」
2つの鉱石を取り出し机に並べる。どちらも低位の鉱石だが最低純度と中位に近い純度のものだ。
「この最低純度の鉱石では通常の使用方法では目的を果たせない。では使えるような配合にすればいい」
データクリスタルであれば考えは分かりやすい。例えば切れ味鋭い剣を作りたいとしよう。
上位の鉱石ならば様々な恩恵を持つことも多いが、低位では切れ味が多少よいがすぐに刃こぼれするねばりの無い剣にしかならない。
であれば、その鉱石から切れ味のデータのみを抽出し他の鉱石と掛け合わせれば良いとこどりの剣が出来上がる――理屈上では。
「リアルでは合金、鋼等が近かったかな?この世界では魔法技術が発達しているせいでそういった分野はまだ弱いようだが」
鉱石の加工技術は人間の生存圏では非常に貧弱だ。これもある意味ルーン技術と同様の運命を辿りかねない。
魔化のようにルーン技術が時代にそぐわない場合もありうる。
だからと言って研究開発を止めるのは早計。投資に短期的なリターンを求める方が間違いだ。
「茶も同様、混ぜ物をされる事は昔から非常に多い」
今でこそ茶のブレンドとは別の産地を混ぜる事が普通だが、昔――今もあるかもしれないが――茶がまだ貴重な時代、別のそれらしい葉を混ぜ紅茶として売り出す事も珍しくなかったという。
味が整っていない位はまだまし、酷いものではそのおかしな味わいを高級品と言い張り売ることもあった。
「内容のブレンドを偽る程度はよくあったそうだ。有害な薬品まで使うのはやりすぎとしか思えんが」
似たような話は現代社会でも噂にことかかない。
「しかし私はそういった不要なブレンドがあったからこそ今の正しいブレンドが行われていると確信している。その愚かな行為が無ければ今の研鑽は無かっただろう」
「茶園から取れる全ての紅茶が特級というはずもない、であれば有効利用を必ず考える。ブレンドのベースやあまりよろしくないが他のブレンドの嵩増しのようにな」
「……もう分かって言ってるんだろう?」
ドライアドはこちらを見ていない。だがその呟きは驚くほど部屋に響く。
だが空気は先ほどまでの冷たさとから呪詛のようなねばつきに変わっている。
「ドライアド、お前はぷれいやーではない。だがNPCでもない」
「世界級アイテム、
今回使用しているものはそれぞれの茶葉を買って自分でブレンドしています。
ブレンドというと難しく感じますが、販売しているものではできないやり方をすると案外うまくいく事もあります。
ざっくり言うと使う直前にちょっと加えるです
・ミルクティー向けの強い味わいの紅茶にアプリコット(杏)の紅茶をを少し足す
・ストレート向きの紅茶にカシスの茶葉を少し足す とかです
特にフレーバーの紅茶は香りが強いものも多く飲み切れないという場合もあります。なのでアイスティーにちょっと加えて使ったりしたりと少し融通をきかせるとおいしいうちに消費が出来ます。