ナザリックの喫茶店   作:アテュ

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ご無沙汰しています。

ざっくりとしたここまでの流れ
ダージリンの街で素晴らしい紅茶を見つけたアインズ、今日もまた紅茶を楽しもうとしているが……

……ほんとこのアインズ様紅茶しか飲んでないなぁ


Goldenring

「ふぅむ……今日はどうしたものか、ヌワラエリヤ?ディンヴラにしようか。いやいやせっかく朝の一杯なのだからベッドティーというのも悪くない。コクの強いルフナにするのも一興……」

 

※ヌワラエリヤ スリランカのかなり高い標高エリアで取れる繊細ですっきりとしたストレート向きの紅茶

 

 ディンヴラ スリランカ高めの標高エリア 日本人好みとよく言われる紅茶

 ルフナ   スリランカの低い標高エリア コクが強くミルクを入れても負けない味わい

 

 

「アインズ様、お湯の準備は整っております。いかがいたしましょうか」

 

今朝交代したばかりの一般メイド、フォスが普段と変わらぬ背筋を伸ばした非常に綺麗な姿勢でこちらに朝の紅茶を確認してくる。

 

「……悩ましいな、では今朝はフォス、お前に任せるとしよう」

 

「はっ!畏まりました。全力でアインズ様がお気に召す紅茶を選びたいと思います!」

 

(モチベーション高いなぁ……)

 

以前アインズが乗り気ということもあって紅茶がにわかにブームになっている……のだが最近では朝交代したらまず紅茶を淹れる事がお決まりの流れになっている。

 

いや全く悪いことでも無いしありがたいがこうも決まりのようになってしまうと落ち着かない事は贅沢な悩みなんだろうか。

 

「お待たせ致しましたアインズ様。私はアインズ様にはやはり眩いばかりの金がお似合いかと思いましたのでゴールデンリングと名高いウバに致しました、よろしいでしょうか!」

 

「……お前に一任しよう。自由に淹れてくれ」

 

「はい!少々お待ちくださいませ」

 

根が小市民なアインズはとても言い出せないがこれはこれでまぁいいかとポジティブに考えられる事は我ながら美点の一つかもしれないなとぼんやり考える。

 

一般メイドの中でも比較的フォスは落ち着いたイメージがあったがやはりこういった「自由に任せる」といった時には非常に熱心だ。むしろ普段のギャップもあり他のメイドより一層生き生きしているように見えた。

 

「お待たせいたしましたアインズ様、本日のアーリーモーニングティー。ウバでございます」

 

※アーリーモーニングティ 朝一番にベッドサイドで飲む紅茶。朝一番に飲む紅茶くらいに思っていただければOK。ミルクティがよくおすすめされる、アールグレイを1杯目ストレート、2杯目ミルクがなかなか色々楽しめて良いと思ってます。

 

「ありがとう、フォス。せっかくだお前も一杯付き合ってくれ」

 

「もったいないお言葉です!ありがとうございます!」

 

アインズにはよくわからないがこの朝一番の紅茶の人気な理由が一緒に紅茶を飲む事が多いかららしい。昼時などでも飲むときはあるがその時はほかの守護者と一緒だったりとすることが多い、案外一般メイドと一緒にいることはあってもこういった何かを共に楽しむという事は稀だ。そういうこともあってかに人気の時間のようだ、……分からん。

 

「ほぅ、ウバは久々だがフォスの好みかな?」

 

「はい……あのメンソール感がたまりません、唇に触れた時から喉を通り抜けるまで。あの独特な風味はウバだからこそ楽しめます」

 

「確かに、私もあの風味には驚いた。紅茶という枠組みの中で爽快感を経験するのは非常に『レア』な体験だった」

 

「……!ありがとうございます……!アインズ様にもお気に召して頂いて光栄です!」

 

至高の存在に自分の好み、趣味を肯定されこの上無い幸福を感じる。アインズがレアな装備、材料、食材、体験を好んで集めている事はナザリック内であれば誰しもが知っている。自分がホストを務める茶会でそこまで満足頂けるというのであればそれはシモベとしてまさに感無量だろう。

 

「ははは、気が早いぞ?とはいえお前たちが出してくれる紅茶はおもしろいチョイスが多い。私を気遣ってくれていることがわかるよ」

 

「もったいないお言葉です!」

 

フォスが思わず感動にハンカチを濡らす。――え?早くない?――……シモベが感極まって涙を流す事には慣れ始めてしまっているアインズも大概だった。

 

「ま、まぁこれ位にしておこう。まだ茶会は始まったばかりだ」

 

「!失礼いたしました……、どうぞウバになります」

 

差し出されたカップを骨の手で持ち上げながらじっくりと見る。

 

「あぁ……良い香りだ、ウバの風味はモンスーンと呼ばれる季節風の影響らしいな?香りからでもこの紅茶の独自性、貴重なことが伺えるな」

 

「はい、まさに今回はクオリティシーズンのウバをご用意させていただきました。ぜひ一口目はストレートでお楽しみください」

 

そっと口にカップを運び舌で紅茶を転がす。何度飲んでも驚かされるのは心地よさすら感じるこの刺激的な風味だ。普通紅茶といえばゆったりとするような、落ち着く味わいともいうべきものがある。だがウバは鼻を通り抜けるように――鼻がなくてもだ――芳醇な香りが抜ける。

 

「うむ……初めて飲んだ時は実に驚いたものだ。このような紅茶もあるのかと」

 

「アインズ様でも初めてだったのですか……」

 

「それほどの感動であったということだ、まさに紅茶とは色々な顔を見せてくれる」

 

――以前にも説明したかもしれないが、ウバは世界三大紅茶の一つでもある(ダージリン、ウバ、キームン)。どれも高い評価と風味を持った紅茶で、特に個性が強い紅茶だと筆者は感じている。(キームンはそこまで経験が少なくて未知な部分があるが)少なくともダージリン、ウバは季節によるクオリティの差。他の紅茶に比べてその地域の独自性ある味わいについては間違いない。

 

ただ、個性が強いためあまり紅茶を飲まない方が飲むとイメージしているものと差異を感じてしまうことも多い。もしこの中で悩む方がいればダージリンが最も繊細な風味で飲みやすいのでおすすめです――前話だとクセがあるとは言いましたけどそれ以上にクセがある紅茶に比べればだいぶ飲みやすいという。ラプサンスーチョンとかね……

 

あっという間に減ったカップを一度置き一息つく。ウバの風味は何といってもメンソール感……要はすごいすっきりと通り抜けていく風味の紅茶だ。起き抜け―寝てはないが―には悪くない紅茶かもしれない、その清涼感は目をしゃっきりと覚ませてくれるだろう。

 

「アインズ様、よろしければ次はミルクティでいかがでしょうか?」

 

「ふむ、そうしようか」

 

フォスが次の紅茶とミルクを用意する、ミルクは普通の牛乳ではなく低温殺菌されたものが使用されているらしい。最近まで知らなかったが牛乳には高温殺菌と低温殺菌されたものがあるそうだ、もちろんこの世界ではそんな上等な品はないが。

 

ナザリック内に限るが使用されているその種類は使い分けされているらしい。高温殺菌はさっぱりしているが、低温殺菌はより風味がよく紅茶との調和が良い……らしい。現実世界でもいまいち聞いたことがなかったが聞けば多少コストが高く何より使用期限が短いそうだが紅茶に向いているのであればぜひ使いたい。

 

「そういえばフォスは普段誰かと食事や茶を飲む機会はあるのか?」

 

「はい、先日は同じ一般メイドのフィースとも当番の打ち合わせの際に一緒にお茶を!」

 

(…まぁ仕事がちょっと混ざっているが楽しんでいるようなら何よりだ)

 

「他にもプレアデスの方々を食堂で見かけます。お優しいアインズ様に頂いた水出しのアイスティーは特に人気のようです」

 

「あぁ、あれかあれは私もなかなか気に入っている。こうじっくりとしたティータイムも悪くないが気軽に飲める紅茶もいいと思ってな」

 

「まさに、下々の者にもこれほどのお慈悲を頂けるなんてなんてなんとお優しいのでしょうか」

 

「忠義厚い臣下に応えるのは王として当然、あの程度ささやかなものだ……では頂こう」

 

赤く金色のように輝いていた水色は柔らかなクリーム色に変わっている。しかしウバだからこその名残はしっかりと残り、ルフナのミルクティの時に比べると色合いが明るい。清涼感ある風味が見た目にも窺える。

口に含むとその印象は間違っていなかった今までアインズがイメージしていたのはコク深い濃厚な風味のミルクティ、もしくは柔らかく全てを包み込むような味わいを持ったミルクティだ。前者はルフナ、後者は極上のアッサム……の記憶だ。

 

ウバのミルクティはその印象とは全くの別物。他のミルクティが優しさや甘みを強調する事に対し後味が非常に軽い、このシャープな味わいはウバでなければ出せない味わいだ。

 

「……素晴らしい、このようなミルクティがあるとは。真逆に感じた組み合わせがこれほどマッチするとは驚きだ――あぁこれが後味のメンソールか成程面白い」

 

「一口で感じ取って頂けるとは……さすがアインズ様」

 

「よせ、私にとってはこの紅茶を選んだお前のセンスこそが特出していると感じる……うむ、この紅茶はメニューに入れておいてくれ」

 

「!身に余る栄誉です。ありがとうございます!!!!」

 

そうアインズが伝えたことでフォスが今まで以上に緊張する。しかしその表情には自分の仕事を成し遂げた満足感が透けて見える。

 

 

唐突だが今まで飲んだ飲み物を覚えているだろうか。もちろん智謀の王たる私は覚えていて当然――なはずがないだろう、だれが智謀の王だ本当に勘弁して……。そんな凡人な自分だとどうしても記憶力には自信が無い、今は気軽に紅茶を楽しんでいるがどうしてもパッと思いつかない銘柄も出てくる。それも恰好がつかないのでたまに見るくらいならメニュー表もいいいだろうとなったのだが……。

 

ここでひと悶着あった、ナザリック9階層で喫茶店を担当しているアストリアにメニュー表を作らせたがまず種類が膨大すぎた。銘柄どころか茶園ごとに分けられておりダージリンだけでも100以上の茶園、4つ以上の季節が……となったところでアインズはギブアップしたメニューの意味がねぇと。

 

ではアインズに選んでもらえないかという提案があり、アインズが気に入ったものがメニューに載ることになった。最初は気後れしたが今となってはちょっとした楽しみでもある、何よりシモベ達のやる気が違うのが紅茶がナザリックが広まった一因なのは間違いない。もちろん新しいものだけではない、既存の紅茶の別の飲み方というものでも全然アリだ。

 

「少しずつメニューも充実してきた、お前たちのおかげで楽しいティータイムを過ごさせてくれている。……ふむ?」

 

「いかかがいたしましたか?何かご無礼が」

 

フォスが感激に打ち震えているところで一気に緊張した様子へと変わる。

 

「いやたいした事ではない、ふと先日の報告を思い出しただけだ。」

 

そう言いながら先日アルベドから渡された報告書を眺める。

 

最近だと紅茶に携わる情報もシモベらは積極的に情報共有してくれる、堅苦しいところもあるが様々な情報が入ってくるのは素直にありがたいと感じる。

 

取り出した報告書名は――ダージリンの街における紅茶の起源――。

 

ダージリンの街で美味い紅茶に出会えた事は大変すばらしいことだ。

だがしかし、少しばかり妙な話でもある。この世界では紅茶は嗜好品としてある程度の地位は持っているがアインズの元居た世界に比べても認知度が低いと言わざるを得ない。

もちろんしがない地方の特産物と言われればそれでおしまいだがどうにもアインズには違和感を感じていた。

 

そう、プレイヤーの気配だ。口だけの賢者のように低レベルで転移してきたプレイヤーもいるかもしれない、そういった存在が何かしらの情報を残している可能性がある。

 

現状ではプレイヤーが残した情報だと何かしらフィルターがかかってしまっている。六大神、八欲王、十三英雄……いずれも有名な話だがそのプレイヤーから直に残された情報というのはあまりにも少ない、特に六大神はスレイン法国による都合のいい伝聞が溢れているだろう。

 

しがないいちプレイヤーの情報だとしても情報をどうとらえ考えたかは非常に興味深い。手順が逆だったからこそすんなり見つかったが正攻法では大きな手間があったとアルベドが反省していた、たまたまに過ぎないことであれほど驚き感激していては少々――いやものすごく恥ずかしい――。

 

とはいえ気になる情報であることは間違いない。

……ここは自分が動くべきだろう、隠密などは得意だがやはりまだまだ対人間への情報収集は弱いと言わざるを得ない。そのうち折を見てセバスとソリュシャンあたりにでも買い付けにいかせるのは良い手かもしれないが……。

 

「フォス、茶会の後で少し出かける」

 

「はっ、供回りはいかがいたしましょうか」

 

「守護者で手が空いているものはいるか?」

 

「ただ今ですと……どの方もナザリックを離れているようです。ただセバス様でしたら9階層にて待機されております」

 

ふむ、セバスか。そういえば執事を伴ってどこかに出るという事もあまりなかった。先ほどの思いつきもあるしちょうどいいかもしれない。

 

「よしではセバスに1時間後私の部屋へ来るよう伝えておいてくれ。――茶葉の買い付けに付き合えとな」

 

 

 

アインズが今まで飲んだ紅茶一覧

 

ストレート向け

ダージリン

ヌワラエリヤ、ディンヴラ

 

ミルクティ向け

ルフナ、サバラガムワ

ブレックファスト(ブレンド名)

 

どっちもイケる

ウバ、キャンディ、

 

そのうちメニュー表を作りたいですね




何日かに1回グーグルで 紅茶 でニュースを検索しているんですが
場面場面に合わせた紅茶飲料 ってのがよく売れているそうです

有名なのが無糖の紅茶でおにぎりとかですね
辛いカレーとかに冷たいミルクティーは個人的に結構ありです。辛いの苦手なので……

あとは柑橘系が結構人気なようですね、レモンとかオレンジティー。オレンジティは僕も結構好きなんでそのうち作中にも出したいですね。

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