ナザリックの喫茶店   作:アテュ

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ご無沙汰しております

今回は紅茶と少しだけ違う話になります。

そういった物もあるのかと少しでもきっかけになったら嬉しく思います


ミスリル級冒険者チームの1日

私はミスリル級冒険チーム、虹のモックナック。

 

 エ・ランテルを拠点に活動している、そうあのエ・ランテルだ。今ではアンデットが蔓延る都市となってしまったが見た目と裏腹に驚くほど安全な地になった。かの魔道王陛下がエ・ランテルを支配されるようになり最初は恐怖しかなかったが今では不安は全く無い。

 

 魔道王陛下の行われる事には驚くばかりだ。魔道国が出来てからモンスターの脅威は激減し、冒険者の主要な仕事であるモンスター退治がほぼなくなってしまったが現在では新たな仕事が出来つつある。そのひとつが未知への探求、情報だ。治安は魔道王陛下の作られたアンデットが守れるがアンデットはコミュニケーションは不慣れで向いていない。しかしながら冒険者、それもある程度位を持つものならば安心して任せられるだろう。

 

 最近では未知への探求に携わった仕事が多い。未知といってもいつもエ・ランテルから離れ探索などばかりをするわけではない。私が最近積極的に引き受けている仕事は美味、珍味な食材だ。トブの大森林も昔は奥深くまで探索するのは非常に困難だった、それこそミスリル級ですら生きて帰れない例すらあった。しかし今ではかの冒険者モモン殿が森の賢王を従え大森林の調査が進んだ。

 

 

 依頼途中に考える事ではないなと気をとりなおし森を進む。そうまさに今歩いているこの地がトプの大森林にあたる。モンスターもいるにはいるがそう難度も高くなく、イレギュラーは発生しにくい状況だろう。

 今回の依頼内容は自生しているハーブの採集だ。様々な種類のハーブを一定数確保になる。とはいえ採集だけならばわざわざミスリル級が動く必要は無い、銀級でも十分に事足りるだろう。採集は途中過程にすぎない問題はその先の食用に向いたかの調査、できるならば冒険者にも向いた方法でだ。

 

 依頼内容を思い返しながら獣道を進む。

 

「まったく……モンスターの心配は無くてもここまで大森林の奥地に入った事はねぇから落ち着かねぇな」

 

レンジャーがそうごちる。気持ちはよくわかる強大なモンスターがいるという理由で奥深くへ立ち入れなかった森だ。

 

「確かにな、怪しい気配はねぇが、俺らでも察知できねぇ化け物が出たらと思うとぞっとする」

 

盗賊も肩を竦めながら震えるような仕草をしておどける。

 

 

 

 冒険者チーム「虹」の面々は無事採集を完了し、川のほとりまで戻り今日の野営を準備しながらハーブについて意見を出し合っていた。

 

「さてどうしたものか。ハーブそのものを食べるのはあまり向いていないとのことですが……」

 

女マジックキャスターがそう注釈しながら集めたハーブ類をじっと見る。このチームでは彼女が料理を担当する事が多い、

 

「まずは依頼内容のおさらいから始めよう、今回の依頼は大きく分けると2つある。ハーブの採集、そしてその有効利用。特に森、ダンジョン、遺跡といった限られたものしか手に入らない場所で栄養補給は非常に重要だ。今回は栄養面、体調を整える効果が高いと言われているハーブを効率よくより簡便な方法で摂取する方法が無いかという事の調査になる」

 

リーダーである私、モックナックが依頼内容を確認しながらパーティメンバーに話していく。

 

「とはいってもよお……ハーブって普通は料理とかの調味料として使うもんなんだろ?肉とか魚とかに焼いた状態でよ。それじゃダメなのか?」

 

あんたね……と女マジックキャスターが盗賊にあきれた声を出す。

 

「来る前にも話したでしょ……いい?もちろんそれはそれでOKだけど料理の時限定にしかならないでしょ。ここで大事なのは料理の時以外でも手軽に摂取できる方法が無いかってことよ。焼いた肉がなきゃ使えないなら塩でいいし代用品なんてそれこそ余るほどあるわよ」

 

「あぁ、すまんすまんそうだった」

 

おどけながら盗賊が女マジックキャスターへ詫びる。

 

「ん~見たところそのまま食っても問題無さそうだけど……ウオェ!」

 

 

『きたねぇ(ない)!』

 

止める間もなくハーブを齧ったレンジャーがすぐにぺっと吐き出し、他のメンバーも一歩後ずさる。

 

「まったく……まぁ、こいつが実演してくれたように単体で生で食うのはあまり向いていない。肉みたいなものだな、肉であるならば焼くか燻製、干し肉にするといったように加工せにゃならん。同様にこのハーブも加工して手軽に食べられるようにする必要がある」

 

「……ハーブにはマジックキャスター、クレリックなどには特に有用な精神を落ち着ける効果。精神力の回復を助ける効果がある、ここでうまく利用する方法を見つけておけば今後の冒険が非常に楽になることは間違いない」

 

そう言ったのは普段は寡黙なクレリックの女だった。珍しいな話すのも。

 

「お前がそういうなら本当なんだろうなぁ、こういうもんに特にこだわってるお前だし」

 

盗賊がうなずきながら納得する。

 

「まぁとはいえ試してみないと進まないわね、まずは基本の料理で試してみながら加工の方法を探ってみましょ」

 

女マジックキャスターが気を取りなおした様子で晩飯の準備を進めながらハーブの使い方に考えている様子だった。

 

 

 

 

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「さて、とりあえず試してみた結果だが……」

 

「じゃあ私からね、料理……調味料として使ってみた感想だと香りが良くなるのはもちろん保存にも向いた状態になった。干し肉とか燻製に併せて使うのもいいわね、時間がたった干し肉とかだとどうしても味が悪いし誤魔化すのには効果的だと思う」

 

「確かに、じゃあ新鮮なものより美味いかと言われると困るがこれはこれで一つの味わいになっているな」

 

そういって手元のハーブを加えた燻製肉を齧る。少し作ってから時間が経っているため味わいが呆けていたが、ハーブの香りが加わりまた違った味わいで楽しめている。

 

「今のところ一番の有効活用がその既存のものに加えて使うってのがちょっと気になるけどね」

 

「いいじゃねぇか、少ない労力でうめぇもんが食えるなら俺らも万々歳だ」「まったくだ」

 

盗賊とレンジャーが笑いながら葡萄酒を飲む。

 

「……ただ、食事の時だけ。というのがやはり気になる。私のようなクレリックやマジックキャスターはそう量を食べれないのも事実。合間合間で肉を齧るってのはちょっとつらい」

 

そう言ってスープを飲みながら意見を出すクレリック。確かにそうだ。戦士やレンジャーのようによく動く職業ならばこまめに食事をとることが効果的だが、最も大事なのは効果が高いと言われる精神力を使う職業……ウィザード、クレリック、ドルイド、吟遊詩人(バード)と例を上げれば切りがない。

 

そう言いながら各々が悩んでいると女マジックキャスターが何かをそっと飲み始めた。

 

「ん?お前が酒を飲むなんて珍しいな」

 

「酒じゃないわよ、紅茶よ紅茶」

 

そう口を尖らせながら女マジックキャスターが反論してくる。なるほど紅茶か、そういえばここ最近紅茶がエ・ランテルで流行っている気がする。かの英雄モモン様も嗜まれているようだ、英雄が飲んでいるともなれば興味が出る。

 

「紅茶かぁ……どうやって飲むんだ?紅茶って」

 

「あんたね……まぁあんたが酒以外の飲み方を知るはずがないでしょうけど」

 

なんだとおーと酔った風で叫ぶ盗賊、すまんがそれには俺も同意だ。

 

 

「待てよ?紅茶……紅茶か」

 

「……どうしたの?」

 

クレリックがおっとりした顔でこちらを伺う。

 

「いや、なあ 紅茶って茶葉を湯で入れて抽出するとかだったよな?」

 

「え?ええ、そうよ。抽出時間は4~5分かな」

 

4~5分か……一度試してみてもよいかもしれないな。

 

いつの間にか神妙そうな顔で考えている私にパーティメンバーがじっと見てきていた。

 

「なあ、思い付きなんだが……茶葉の代わりにハーブを入れてみるのはどうだ?」

 

『え?』

 

驚いた顔でこちらを見るが女マジックキャスターと寡黙なクレリックは少し考えた後になるほどと頷く。盗賊とレンジャーは魚もハーブ加えるとうめぇなぁ!と魚を齧っている。お前ら話聞け。

 

「紅茶を見て思いついたんだが……飲む形ならば手軽に摂取もできて量の調整も容易だ」

 

「なるほど、飲み物なら革袋に入れて……生活魔法を使えばある程度保存もきくし。うん向いているかもしれない」

 

「……あと問題は味……」

 

マジックキャスターとクレリックの反応も良いがそう問題は味なのだ。こればっかりは試してみないと分からない。湯を沸かす準備をして試してみるとしよう。盗賊とレンジャーは勢いでまたハーブを齧り転げまわっていただからきたねぇよ!

 

 

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さて、準備ができて早速紅茶の茶葉の代わりにハーブを入れてみた。香りは……うん、なかなか良い。ハーブの特徴の一つである香りを十分に活かせているように思う。

 

「なかなかいいわね、ペパーミント、ローズヒップ、カモミールで試してみたけどどれもハーブの特徴が強く出てる」

 

「……ペパーミントは鼻をぬけるような爽快感、ローズヒップは薔薇らしい華やかな香り、カモミールは甘味を感じるような優しい香り」

 

女性陣からはなかなか好評のようだ、というかクレリックのやつがこんな饒舌になるのも珍しいな……。

 

さて、俺が持っているのはペパーミントだ。味わいがどうかも試してみるとしよう。

 

 

そっと液体を口に含む、最初に感じたのは口の中からいっぱいに広がる冷たさにも似た刺激的な清涼感だ。喉を通った後でも爽快な味わいが口に残る。酒を飲んだ後や朝の気付けの一杯にいいかもしれない。

 

 

「すごいな、ここまで特徴的な味わいになるとは……そっちはどうだ?」

 

「ローズヒップは酸味が強いから女性向けかもね。ただ酸っぱいというよりも果実的な酸味に近いかな。口に嫌な酸っぱさは残らないわ」

 

「……カモミールは香りの通り優しい味わいだった、りんごのようなイメージ。これならいくらでも飲める」

 

ハーブごとに特徴が出てきているのも面白いところだ。そういえば紅茶も茶葉によっていろいろな味わいがあると聞く、せっかくだから今度飲んでみるか。

 

と、そこで肝心なところを確認し忘れていたことに気づく。

 

「そうだ、魔力回復の効果はどうだ?さっきみたいに料理して食べたくらいの効果はあるか?」

 

 

「……いや、それ以上かもしれない。食事前にちょっと魔力が減っていたけどいつのまにか回復してる」

 

「昼にみんなの支援と回復で今日はもう魔法使えないかなと思ったけど……だいぶ楽になってる」

 

 

「何、本当か?いつもなら明日になるまでは万全の状態にならない事が多かったような印象があるが……驚きだな。先ほど別に料理で摂取したとはいえ」

 

「ちょっと待って、もしかしたら……」

 

そう言いながら女マジックキャスターが残っていた燻製肉とハーブを抽出した飲み物を比べる。

 

「……やっぱりハーブを抽出した飲み物のほうが効果が高い……何でだろう。あ、もしかして……」

 

「おいおい、一人で納得せずに分かったなら教えてくれよ~」

 

酔っぱらったレンジャーが女マジックキャスターに声をかける。あ、いいのがみぞおちに入った合掌。

 

 

「……ん、んっ。この抽出された液体だけど……スープみたいなもんね、焼いたりしたら一部成分が壊れるようだけどお湯で抽出したら成分が壊れにくくより効率的に摂取ができるようね」

 

 

「……決まりだな、実験結果としては紅茶のように湯に入れて飲む方法を一番推しておこう。もちろん干し肉や燻製肉に使うことも加えておくが」

 

 

「そうね、何といっても飲み物なら手軽に飲めるし私たちのようなマジックキャスターでもそれなりの量が飲める」

 

「……カモミールなら苦手という人も少ない、休憩がてらに飲むものとしても良い」

 

寡黙なクレリックがカモミールをえらく推すな……まぁ確かに癖はなさそうだったが。とりあえずこれで依頼は問題無く達成できそうだ。後は今回のものを女マジックキャスターに羊皮紙に書いて提出してもらえば問題無く依頼達成となるだろう。モンスター退治とは違った達成感がある依頼だ。モンスター退治もあれはあれで達成感があったが、こういった仕事も悪くない。また受けてみようかなという気にもなった。

 

「そういえば……」

 

「どうした?」

 

女マジックキャスターが疑問を持ったように声をかけてくる。

 

「このハーブで作った飲み物、なんて名前にするの?発見者はモックナックなんだし仮の名前決めるのくらいいいんじゃない?」

 

「……ふむ、まあ確かに名前が無いといつまでもハーブの飲み物では格好がつかんしな」

 

少し考えていると先ほど上がった紅茶が思い浮かび自然と名称が決まる。

 

 

 

「そうだな、ハーブティ。ハーブティでどうだ?」

 

 

 

 

 

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エ・ランテル ミスリル級冒険者チーム 「虹」

トブの大森林にて採取された魔力回復、自然治癒力が高いハーブを発見。(主にカモミール、ローズヒップ、ペパーミント)

 

同時に効果的な摂取方法、紅茶のように抽出した飲み方を見つける。

 

ハーブを抽出した飲み物を「ハーブティ」と命名。

 

独特なハーブの香りを活かした飲み物として女性に人気が高く流行する。

 

魔法回復力が高い効能を効率的に活かされ冒険者、特にマジックキャスターやクレリックの需要が高まった。

 

この一件でミスリル級冒険者チーム 「虹」はハーブティの第一人者として魔導国内で広く知られる事となった。

 

 




閲覧ありがとうございました

 今回取り上げたハーブティ カモミール、ローズヒップ、ペパーミントは実際に最近飲んで美味かったなぁと思う飲み物です。ちなみにハーブティとありますがお茶ではありません。紅茶は1回は飲まれたことがあると思います、ただハーブティって案外無い人もあるんじゃないでしょうか。僕も正直あんまり好んではいませんでした。

 ただ4月ごろに花粉症がひどく苦労していて……とあるニュースサイトで花粉症にペパーミントが効く!とありホントかよと思いながら飲んでいたんですが驚いた事に効いたんですよね。もちろんそれで花粉症が治るというものでもありません、どういった所に効いたかというと呼吸がえらい楽になりました鼻の呼吸がとてもしやすくなりました。薬をあんまり飲みたがらないタチでもあるんでとても重宝しましたね。

 ハーブティ飲んだことないけどきっかけがなぁ……という方もせっかくなので試してみたらいかがでしょうという話でした。作中でも進めていましたがカモミールが一番癖がなく飲みやすい印象です、少し癖がありますが好きな人はとことん好きになるペパーミントもぜひ試してみてください。

また美味いと思った紅茶などを軸に紹介していきます

ありがとうございました

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