のび太をGGOにぶち込んでみた(作者の活動報告見てね★) 作:暇なのだー!!
一見、普通の美青年にも見える彼に対して。
本来、朝田詩乃がこのVRゲーム、《ガンゲイル・オンライン》通称GGOと呼ばれ、硝煙の臭さが印象的である女性には似合わないモノに来た理由。それは、とある昔の一つの事件によってできた、自らのトラウマからの解放、克服であった。
彼女が目指したのは、機械のように冷酷で、氷でできた冷たい戦士。一切の躊躇も無く、一切の情けもかけない無機質な瞳を持った機械。それ故の強さを私は取りたかった。
しかし、私はどうしても根本的部分でその戦士にはなれなかった。その原因は現実世界の私─朝田詩乃の心。この世界GGO内部で冷酷な戦士になれたのに、それでもまだ現実世界の私はトラウマを抱えていた。
それでも、勝利の果てにきっと理想が待ち受けているのなら、それまでは我慢をしよう。そう、願っていた。
しかし、今日、私は…
──
事の発端は私がとある一人の男に声をかけられ、あのゲームを勝手にやり始めた所から。経験者である、と言った彼でも直ぐに泣きを見るだろう。…そう、思っていたのに…
──何なのだ、アレは
先程、私に声を掛けた男は、難無くとガンマンの右手から射出される、弾丸の予測線を10mを過ぎても避け続けていた。ギャラリーは男の体捌きに圧倒され、熱を増す。
しかし、私が驚愕したのは男の体さばきでは無かった。もっと内部の、起源的な、根本的な部分。─彼は『無』、であったのだ。見事な体捌きで見る者の目を奪う神秘性、その自分の力を見せ付けようとしている様は一切無い。優越感も、プライドも、全てが『無』。最初から感情など無い、まるで、
男の眼は予測線を捉えてはいたが、ココにあらず。見えているのに、見えていない。いや、何も映しはしない漆黒の瞳。その瞳の漆黒は暗く、黒く、深く。私では理解出来ない極地に居ると理解するのに、数分かかった。
ふと、私は直感的に感じていた、自分はあの男が自分で思っていた理想であり、夢であり──何よりも、現実であっのだ、と。
勝利の果ての果てにおける到達地点。男は既に到達していた。しかし、それに喜びも無く、悲しみも無く、虚しさも無く。ただ一つ、『無』、だった。
「…っ!!」
知らずと、走り去っていた。怖い、怖い、怖い。それだけが原動力となり、足は回り続ける。どこまで来たのだろうか、気が付けば中央区画まで来ていた。
走り続けていた足の速度を落とす。急な速度変化による様々な情景変化は過ぎ去っていた。熱を持っていた思考回路も安定してくる。しかし、尚も頭で繰り広げられるは自問自答。
私は、アレを目指すのか?─あぁ、必ず目指さなくてはならない。理想だから。
何故アレを目指す?─強さの証明。故のトラウマからの解放、克服。
どうすればアレになれる?─勝利。敵を討ち果たし、乗り越え、殲滅した果てに見えてくる。
──結果を見て、恐怖の念を抱いたのは?
自答が止まる。尚も湯水の如く溢れ出してくる自問はとどまりを知らず、頭を埋め尽くしていった。
認めたくなかったのだ。
(倒さなきゃ)
自然と、自らの出来損ないを認めたくない私は、遥か高みへと到達しているあの男を、討ち果たしたい衝動に駆られる。そうでなければ今までやって来た事が、タダの蟻の行進のように微々たるモノでしかなくなる。
ざくざく、と確かに一歩ずつ仮想世界の地面を踏む感覚が伝わる。自らの足はGGO最強を決めるための大会、《バレット・オブ・バレッツ》へ参加するための受付、総督府へと向かっていた。
私は確信している、あの男が必ずこの大会に参加し、決勝まで残り我々人間に壁として立ちはだかる、と。必ず、討ち果たす。討ち果たして私は自らの行動が、微々たるものでは無かったと、信じるのだ。
「絶対に…」
口から出た言葉は、夕焼け色に染まったノスタルジーな空へと消える。
何処か懐かしさを感じさせる風景には似合わない、私の声音。そこには、決意が込められていた。
「──
そう、心に刻みつけた彼女。しかし、彼女は見てはいなかった。─男がガンマンの目の前まで到達した時に見せた、童のような屈託の無い笑顔を。
場所は戻り、《SBCグロッケン》。そこでは再び驚愕の出来事が起きていた。
おおおっ!と盛り上がるギャラリー。ギャラリーが見つめる目線の先には一人の少女─にも見える少年。男としては髪が長く、黒色に染まっていて、華奢な体付きは一目見れば、美少女と錯覚するほどの美貌を持ち合わせていた。
何故彼が皆の注目の的になっているかというと、その人間離れした美貌もそうだったが、ここの街で噂になっているぼったくりギャンブルゲームに身を投じていたからである。先程まで一人の男がやっていたのだが、惜しくもガンマンの一歩手前でゲームオーバー。しかし、いい見物になった、と満足しているギャラリーの目の前に現れたのが、彼だった。
彼はその顔や体付きからは、想像の出来ない程の身体能力を持っていた。時には跳ね、時には体を滑らせ、時には上半身の移動だけで弾丸を交わしていく様は、まるでダンスを踊っている美少年のようだった。
彼がガンマンの反則、六本同時レーザーさえもジャンプをして避けると、ガンマンに触った。すると、瞬時に鳴り響くファンファーレとCongratulation!の文字。それはゲームクリアを意味していた。
先程の男のプレイを見ていたギャラリーは、その熱が未だに発散されていなかったのか、彼の偉業を見て叫びあげる。わあああ!と止まない賞賛の声と拍手。
その中を歩きながら手を振って感謝の字を浮かべる彼は、とある男の前へと向かった。紛れもなく、先程までこのゲームに身を投じていた男であった。
男の目前まで足を進めた彼は、一つの提案を彼に持ち出す。
「一緒にこのお金使いませんか?」
え?と困惑の色の声を上げる男。彼は理由を述べるべく、口を開く。
「先程の貴方のプレイで俺も突き動かされましたし…最後のレーザー何て貴方のを見ていなかったら分かりませんでしたよ」
あはは、と笑う彼。その笑顔に嘘は含まれていなかった。男は悩む素振りを見せると、本当に申し訳なさそうに彼に言う。
「…ごめんなさい、本当ならここで断るのが常識なんだけど…僕、実はお金の面で困ってて…その言葉に甘えさせてもらってもいいかな?」
「もちろん」
「ありがとう」
次は男が少年に賛辞を述べた。その言葉は真っ直ぐで、邪心など全くない感謝の言葉であった。
「あっ、名前を聞いても良いですか?」
少年に投げ掛けられた問いに、一瞬男はハッ、と不意を付かれた顔をする。しかし、その表情も一瞬で元の笑顔に作り替えられると、男はこう言った。
「ノビ。ノビって呼んでくれて良いよ。敬語もしなくていい」
「…あぁ、わかったノビ。俺はキリト、同じくそのままで呼んでくれ」
ガッチリと固い握手を交わす二人。
──かくして、化け物と化け物は邂逅した。
なんだ、やっぱりホモじゃないか(歓喜)。
だけどやっぱり他のこ子とイチャイチャしてると、あの人が飛んでくるので程々に。