俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが 作:杉山杉崎杉田
ここから先はほとんど記憶は曖昧だが、俺は天国のような体験をしたのは確かだ。後から金を取られるのかと心配になったほど。
*
病院。プレイヤー名「カンザキ」の身体の前には、ちょうど患者服を取り替えようとしていた看護婦が立っていた。さっそく、上半身の患者服に手をかけようとした時だ。
「⁉︎」
つうっ……と、カンザキの鼻から血液が流れた。
「なんっ……⁉︎」
なんで⁉︎と、口走りそうになったが、その前に医者を呼ぶことにした。自分が今そんな反応した所で、意味がない。すぐに医者を呼んだ。
*
「どうしたの?入らないの?」
アスナが半裸になった状態で俺に聞いてきた。
「い、いやいや、や、やっぱり一緒に入るのはマズイんじゃないんですかね……」
「女同士で何言ってるのよ。いいから早く脱ぎなさいよ」
女同士じゃないんだなこれが。こんな事ならネカマなんてしないで「私、例外でほんとは男なの、てへっ☆」って言った方がマシだったような……いやいやいや、そんなことをすれば周りのプレイヤーに問い詰められるのは必須だったろうが。よってこの状況は決して俺が望んだ物ではなくだな。
いや待て、落ち着け俺。そうなれば俺は状況という言葉を盾にして出会って間もない女の全裸を舐めまわそうとしてるクソ野郎だ。それでいいのか俺。
いや、俺も男だ。男子高校生だ。性欲だって性欲だって性欲だってある。無理もないだろ。いや、でも、しかし、
「早くしなさいよ」
「あ、ああ。ごめんなさ……」
アスナさんは意外にも、風呂前でも身体にタオルを巻かない派だった。
*
病室。
「つまり、患者服に着替えさせようとしたら急に鼻血が出たと?」
「そ、そうなんです先生」
看護婦である安岐は医者にそう力説した。
「……とにかく、検査の必要があるが……ナーヴギアは外せない。出来てこの場による簡易的な検査になってしまう……」
チラッと医者がカンザキの身体を見た時だ。ブシューッと噴水のごとく、鼻血が噴射された。
「」
「」
「け、血液を!血液を大至急頼む!輸血する!」
「は、はい!」
*
な、なんだ……?貧血でも起きてるのか?若干ふらふらしながら俺は浴室に突入。中はそこまで広くない。家の浴室程度だ。
目の前では、先に入浴していたアスナが栗色の長髪を揺らし、背中をチラつかせながら、ご丁寧にも石鹸を泡立て、染み込ませたタオルで自分の体をゴシゴシと拭いていた。その度に磨かれた肌がキラキラと光沢を放っているように見えた。
「あ、やっと来た。何やってたのよ」
「………ちょっと手こずって」
「それよりほら、洗いっこしましょう」
…………なんっ、だと……⁉︎
*
病室、カンザキの鼻は止血されていて、なんとか輸血の準備は整っていた。
「ふぅ……これで何とか……」
医者が言いかけた時だ。カンザキの鼻から真っ赤な鮮血が噴射され、止血が強制解除された。
「」
「」
唖然とするしかなかった。
*
アスナの身体を洗うのを済ませて俺は湯船に浸かろうとした。だが、その俺の肩をアスナが掴んだ。
「まだカンザキのを洗ってないわよ?」
「……や、あたしはいいです」
「何言ってんの。いいからこっち来なさい」
言われて俺は鏡の前に立たされた。そしてそこには、
俺の中の完璧理想型美少女、俺がいた。
直後、俺の意識は途絶えた。
*
「先生!噴血が止まりませんこのままでは、出血多量で死んでしまいます!」
「クソ……!一体……彼の中で一体何が起こっているんだ!」
そう医者が言った時だ。まるでスイッチが切れたように鼻血が止まった。
「……? 止まったぞ。輸血をしよう」
*
あれから、何時間経ったのだろうか。気が付けば、俺はキリトのベッドの上で倒れていた。
「うっ……!ここは……?」
「起きたか」
目の前にはキリトがいて、アスナの姿はなかった。どうやら、先に帰ったようだ。
「何があったんだよ。いきなり倒れたって聞いたぞ」
「……な、なんでもないですよ。あはは……」
そうか。気絶したのか。完璧美少女である俺の裸を見て。………情けねぇ。俺はおもわず自分の膝を叩いた。
「ど、どうした?なんか、あったのか?」
キリトに心配そうに言われて、「な、なんでもないです」と小声で言った。
「それで、どうする?今キツイなら説明は今度にするが……」
「や、大丈夫です……。このまま、お願いします」
「? お、おう……」
精神を鍛えなくては……自分の全裸を見ても、せめて気絶しないほど強く。