俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが 作:杉山杉崎杉田
「で、説明ってどこでやるの?」
アスナがキリトに不機嫌そうに尋ねた。前から思ってたけど、なんてアスナってキリトと若干仲悪そうなんだろうか……。やめてよ、これ俺が仲裁入らないと気まずいパターンじゃん。
「あ、ああ。俺はどこでもいいけど。その辺の酒場とかにするか?」
「嫌。誰かに見られたくない」
だからなんで嫌悪感丸出しなんだよアスナ。俺と二人の時はむしろすごく優しい歳上の女の子じゃねぇか。……あ、そっか、僕今女の子だからか。
「ま、まぁまぁ。ならどっかのNPCハウスでいいんじゃないですか?」
俺が二人に提案すると、キリトは首を横に振った。
「いや、それは誰かが入ってくる可能性もある。誰かの宿屋の個室なら鍵かかるけど……、それもナシだよな」
「当たり前だわ」
アスナがサラッと一蹴する。
「だいたい、この世界の個室なんて、部屋とも呼べないようなのばかりじゃない。六畳とない一間にベッドとテーブルがあるだけなんて、それで一晩五十コルも取るなんて。食事とかはどうでもいいけど、睡眠だけは本物なんだから、もう少しいい部屋で寝たいわ」
「え、そ、そう?」
キリトは首を傾げた。俺もだ。が、すぐに合点が行った。こいつ、【INN】の所しか見てないんだ。俺はたまたまクエストやったついでにいい部屋を見つけられたし、キリトも今の様子だとそこそこいい部屋を見つけられたのだろう。
ちなみに俺の部屋は街の隅のNPCの雑貨屋の二階。何かオプション付きということはないが、広くてベッドがフカフカなのであーる。
「ああ……なるほど。あんた、【INN】の看板が出てる店しかチェックしてないのか」
「だって……INNって宿屋って意味でしょう」
「この世界の低層フロアじゃ、最安値でとりあえず寝泊まりできる店って意味なんだよ。コル払って借りられる部屋は、宿屋以外にも結構あるんだ」
「な……それを早く言いなさいよ……」
がーんっとショックを受けるアスナ。すると、キリトがニヤリと笑って見せた。うわあ、嫌な顔。自慢が始まるぞこれ。
「俺がこの町で借りてるのは、農家の二階で一晩80コルだけど、二部屋あってミルク飲み放題のおまけつき、ベッドもデカイし眺めもいいし、そのうえ風呂までついて……」
そこまで言いかけた時だ。アスナが物凄い速さでキリトの襟を掴んだ。犯罪防止コード発動寸前の勢いだ。そして、低い声で迫力たっぷりに言った。
「……………なんですって?」
*
そんなわけで、キリトホーム。キリトの部屋でアスナはお風呂を借りることにした。ついでにいろいろとキリト先生のパーフェクトネトゲ教室も。ついでなの逆じゃね?
「……ま、まぁ、どうぞ」
「……ありがと」
「おっじゃまっしまーす!」
俺は元気よく部屋の中に入った。中は大体俺の部屋と同じくらいだが、窓から見える景色が良かった。これでミルク飲み放題に風呂付き……キリト殺す。
「な、何これ、広っ………こ、これで私の部屋とたった30コル差⁉︎や、安すぎるでしょ……!」
後から来たアスナが驚愕の声を上げた。
「こういう部屋を速攻見つけるのが、けっこう重要なシステム外スキルってわけさ」
胸を張って言うキリト。アスナは一度部屋の中を見回し、ため息をついた。
「ま、まぁまぁアスナさん。こんな部屋があるのはごく稀ですって。そんなに気を落とさないで……ほ、ほらあそこにお風呂ありますよ」
「……わかってるわよ」
俺が言うと、アスナはすごすごと【bathroom】の方へ向かった。が、すぐにこっちを見た。
「あ、そうだカンザキ。一緒に入らない?」
なん……だと?