俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが   作:杉山杉崎杉田

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7話 ありえない

 

「で、説明ってどこでやるの?」

 

アスナがキリトに不機嫌そうに尋ねた。前から思ってたけど、なんてアスナってキリトと若干仲悪そうなんだろうか……。やめてよ、これ俺が仲裁入らないと気まずいパターンじゃん。

 

「あ、ああ。俺はどこでもいいけど。その辺の酒場とかにするか?」

 

「嫌。誰かに見られたくない」

 

だからなんで嫌悪感丸出しなんだよアスナ。俺と二人の時はむしろすごく優しい歳上の女の子じゃねぇか。……あ、そっか、僕今女の子だからか。

 

「ま、まぁまぁ。ならどっかのNPCハウスでいいんじゃないですか?」

 

俺が二人に提案すると、キリトは首を横に振った。

 

「いや、それは誰かが入ってくる可能性もある。誰かの宿屋の個室なら鍵かかるけど……、それもナシだよな」

 

「当たり前だわ」

 

アスナがサラッと一蹴する。

 

「だいたい、この世界の個室なんて、部屋とも呼べないようなのばかりじゃない。六畳とない一間にベッドとテーブルがあるだけなんて、それで一晩五十コルも取るなんて。食事とかはどうでもいいけど、睡眠だけは本物なんだから、もう少しいい部屋で寝たいわ」

 

「え、そ、そう?」

 

キリトは首を傾げた。俺もだ。が、すぐに合点が行った。こいつ、【INN】の所しか見てないんだ。俺はたまたまクエストやったついでにいい部屋を見つけられたし、キリトも今の様子だとそこそこいい部屋を見つけられたのだろう。

ちなみに俺の部屋は街の隅のNPCの雑貨屋の二階。何かオプション付きということはないが、広くてベッドがフカフカなのであーる。

 

「ああ……なるほど。あんた、【INN】の看板が出てる店しかチェックしてないのか」

 

「だって……INNって宿屋って意味でしょう」

 

「この世界の低層フロアじゃ、最安値でとりあえず寝泊まりできる店って意味なんだよ。コル払って借りられる部屋は、宿屋以外にも結構あるんだ」

 

「な……それを早く言いなさいよ……」

 

がーんっとショックを受けるアスナ。すると、キリトがニヤリと笑って見せた。うわあ、嫌な顔。自慢が始まるぞこれ。

 

「俺がこの町で借りてるのは、農家の二階で一晩80コルだけど、二部屋あってミルク飲み放題のおまけつき、ベッドもデカイし眺めもいいし、そのうえ風呂までついて……」

 

そこまで言いかけた時だ。アスナが物凄い速さでキリトの襟を掴んだ。犯罪防止コード発動寸前の勢いだ。そして、低い声で迫力たっぷりに言った。

 

「……………なんですって?」

 

 

そんなわけで、キリトホーム。キリトの部屋でアスナはお風呂を借りることにした。ついでにいろいろとキリト先生のパーフェクトネトゲ教室も。ついでなの逆じゃね?

 

「……ま、まぁ、どうぞ」

 

「……ありがと」

 

「おっじゃまっしまーす!」

 

俺は元気よく部屋の中に入った。中は大体俺の部屋と同じくらいだが、窓から見える景色が良かった。これでミルク飲み放題に風呂付き……キリト殺す。

 

「な、何これ、広っ………こ、これで私の部屋とたった30コル差⁉︎や、安すぎるでしょ……!」

 

後から来たアスナが驚愕の声を上げた。

 

「こういう部屋を速攻見つけるのが、けっこう重要なシステム外スキルってわけさ」

 

胸を張って言うキリト。アスナは一度部屋の中を見回し、ため息をついた。

 

「ま、まぁまぁアスナさん。こんな部屋があるのはごく稀ですって。そんなに気を落とさないで……ほ、ほらあそこにお風呂ありますよ」

 

「……わかってるわよ」

 

俺が言うと、アスナはすごすごと【bathroom】の方へ向かった。が、すぐにこっちを見た。

 

「あ、そうだカンザキ。一緒に入らない?」

 

なん……だと?

 

 


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