俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが   作:杉山杉崎杉田

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5話 きっちりと反論した

 

そんなこんなで夕方。相変わらずのネカマキャラで俺は《トールバーナ》の街に来た。確か、ここだったよな。ボス攻略会議ってのは。

そこの噴水広場にて、俺は一番後ろの方に腰を掛けて待機した。

集まってる人数はザッと見たところ四十人くらいかな?まだ会議まで時間があるし、そんなもんだろ。あんま俺はネトゲとかやらんからなんとも言えないけど、一万人もいる中でこれしか攻略する気のある奴がいないのなら、他の奴らは相当なチキンなんだろうな。情けない。

会議までは、あと10分くらいか。それまでの間は暇だから、地面の石の数を数えてよう。

 

「……………」

 

あっ、今の石さっき数えた。今のもっ。やめた。こんなの数え切るのなんてアインクラッドを攻略するのと同じくらい時間掛かるわ。

 

「あ、よう」

 

声をかけられた。後ろを見ると、キリトが立っていた。

 

「あ、キリトさん。さっき振りですね」

 

ニッコリ微笑む素敵スマイル。キリトのじゅんじょうなハートに100ダメージをあたえた!キリトはかおがまっかになった!

 

「お、おう……」

 

「……何デレデレしてんの?」

 

隣からアスナが冷たい声を吐き出した。

 

「あ、アスナさんもいたんですね」

 

「うん」

 

言いながら俺、アスナ、キリトと座った。

 

「……来てくれたのか」

 

「えっ?」

 

キリトが俺に言った。

 

「ええ、それは楽しそうですし……」

 

「楽しそう?」

 

「はい。学校の勉強とか、ああいう面倒なものから解放されるじゃないですか?クリアまでどれくらいかかるかわかりませんし、その間家族や友達と会えませんけど…その分メリットもあると思うんですよね」

 

「……本当に、メリットだと思ってるの?」

 

聞いてきたのはアスナだ。

 

「まぁ、少なくともあたしは勉強嫌いですからね。将来的に考えた大きなビハインドかもしれませんけど。何にせよ、こんな状況になってしまったからには、攻略しようともせずにウジウジしてるよりは、ゲームを楽しんだ方が得でしょ」

 

「……………」

 

なっちゃったもんは仕方ない。過去を後悔するより今を楽しめ。……今のフレーズカッコいいな。ちょっと声に出してみよう。

 

「『なっちゃったもんは仕方ない。過去を後悔するより今を楽しめ』」

 

「……何言ってんの?」

 

思ったより反応が冷たかった。

 

「ま、まぁあたしからの言葉ってことで?少しかっこよくないですか?」

 

「微妙」

 

「そんな即答しなくても……キリトさんはどう思います?」

 

「えっ?あ、あー……」

 

お気に召さなかったようだ。けっ、どいつもこいつもこのセンスがわからんとは。……俺もイマイチ理解不能だけど。だってこれ反省しなくてもいいって言ってるようなもんだからね。

 

「はーい!それじゃそろそろ始めさせてもらいます!みんな、もうちょっと前に……そこ、あと3歩こっち来ようか!」

 

堂々とした声が噴水の方から響いた。髪の青い片手剣持ちのイケメンが立っていた。ケッ、リア充が、爆死しろ。

 

「今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう!知ってる人もいると思うけど、改めて自己紹介しとくな!俺はディアベル、職業は気持ち的に《ナイト》やってます!」

 

直後、噴水近くの一団がどっと沸いた。中には「ほんとは勇者って言いてーんだろ!」という声も飛ぶ。

 

「さて、こうして最前線で活動してる、言わばトッププレイヤーのみんなに集まってもらった理由は、もう言わずもがなだと思うけど、今日俺たちのパーティがあの塔の最上階へ続く階段を発見した。つまり、明日か、遅くとも明後日には、ついに辿り着くってことだ。第一層のボス部屋に!」

 

へーすげー。いや棒読みじゃなくてマジで。だってようやく一層から突破できるってことだろ?二層の街にはまた目新しいものがあるかもしれないし。

 

「ちょお待ってんか、ナイトはん」

 

いい感じに盛り上がってる中、モヤットボールみたいな頭した奴が邪魔しにきた。歓声がピタッと止み、全員がモヤットボールを見る。てか古いよ、例えが。

 

「そん前に、こいつだけは言わしてもらわんと、仲間ごっこはでけへんな」

 

「こいつっていうのは何かな?まあ何にせよ、意見は大歓迎さ。でも、発言するなら一応名乗ってもらいたいな」

 

まったく表情を崩すことなくディアベルは微笑んだ。

 

「わいはキバオウってもんや」

 

……うわあ、何その名前。たまに思うんだけど、顔や体格はまだしも名前が変な奴結構いるけど何を思ってその名前にしたのか。今出た『キバオウ』だってそれどっちかっていうと二つ名でしょ。あ、もしかして自分で自分に二つ名付けちゃう人なのかな?痛ッ。

 

「こん中に5人か10人、ワビぃ入れなかん奴らがおるはずや」

 

「詫び?誰にだい?」

 

「はっ、決まっとるやろ。今までに死んでった二千人に、や。奴らが何もかんも独り占めしたから、一ヶ月で二千人も死んでしもたんや!せやろが‼︎」

 

「……キバオウさん。君の言う『奴ら』というのは元ベータテスターの人たちのこと、かな?」

 

「決まっとるやろ。ベータ上がりどもは、こんクソゲームが始まったその日にダッシュではじまりの街から消えよった。右も左も判らん九千何百人のビギナー見捨てて、な。奴らは上手い狩場やらボロいクエストを独り占めして、自分らだけぽんぽん強うなって、その後もずーっと知らんぷりや。こん中にもおるはずやで。そいつらに土下座さして、溜め込んだ金やアイテムをこん作戦のために軒並み吐き出してもらわな、パーティメンバーとして命は預けられんと、わいはそう言うとるんや!」

 

ふーん、見捨てて、ね。ここは黙ってるわけにはいかないな。そのベータテスターに教わった側の人間としては。

 

「スイマセーン、いいですか?」

 

俺は元気よく手を挙げた。こういう時でもキャラを忘れずに。その場にいた攻略組やキリト、アスナ、前のキバオウとディアベルが俺を見た。

それらを気にせずに、いや内心は緊張しまくってるけど、なんとか足を震えさせずに噴水の中心まで歩けた。

 

「あたし、カンザキって言います。えーっと、新木場駅さんでしたっけ?」

 

「キバオウや!なんや、ここは女子供が遊びに来るところやないで」

 

いや僕男の子です。はい。

 

「キバオウさんが言いたいのは、元ベータテスターが面倒を見なかったから、二千人が死んだ。だから賠償金を払えって言ってるんですよね?」

 

「せやろが。あいつらが見捨てへんかったら、死なずに済んだ二千人や。しかもただの二千ちゃうで、ほとんど全部が、他のMMOじゃトップ張ってたベテランやったんやぞ!」

 

「いや、甘くね?」

 

思わずキャラを忘れて言ってしまった。

 

「な、なんやと?」

 

「教えてもらえるつもりでいるのが甘いって言ってんの。あたしは自分から聞きに行って、知り合いになったベータテスターにちゃんとこのゲームについて教えてもらいました」

 

言うと、キリトはギョッとしていたが、無視して続ける。

 

「ベータテスターだって見捨てたわけじゃない。聞けばちゃんと教えてくれる。むしろ、教えてもらえるのが当たり前だと思ってるのはちょっと人としてないでしょ」

 

「んぐっ……!」

 

……言いすぎた。これじゃ向こうは逆上するだけだ。なんとか根拠を立てて別の所から攻めないと。

 

「それに、死んで行ったのはネトゲベテランの人達なんでしょう?なんで死んでいったか、あたしならこう思います。他のゲームと同一視した結果、死んで行ったんだと。つまり、甘く見てたってことだと思います。ベテランなら、尚更」

 

「……ッ」

 

うーん……俺なりに理論を立てたつもりなんだけど、まだ納得してないっぽいなー。どうしたもんか……と、思ってると、1人の黒人が立ち上がった。

 

「俺の名前はエギルだ。俺もそこのカンザキさんの意見を支持する」

 

おお、良かった。俺は外見女だし、女が言ったところで向こうは話聞かないだろう。それに、エギルは男ってだけじゃなく巨人で黒人だ。男の中の漢だ。俺とは正反対だ。あのモヤットも納得せざるをえないだろう。

 

「それになキバオウさん、金やアイテムはともかく、情報はあったと思うぞ」

 

エギル、と名乗った大男は言いながら簡易的な本のアイテムを取り出した。

 

「このガイドブック、あんただって貰っただろう。ホルンカやメダイの道具屋で無料配布してるんだからな」

 

「もろたで、それが何や」

 

「このガイドは俺が新しい村や町に着くと、必ず道具屋においてあった。情報が早すぎる、とは思わなかったのかい」

 

「せやから、早かったら何やっちゃうんや!」

 

いや分かれよ。こいつ答え合わせでモヤットボール投げ出したりしそうだな。

 

「こいつに載ってるモンスターやマップのデータを情報屋に提供したのは、元ベータテスターたち以外にはありえないってことだ」

 

その台詞に、キバオウはグッと黙り込む。すると、ディアベルが口を挟んだ。

 

「キバオウさん。意味ということも理解できるよ。けど、中にはカンザキさんを助けてくれた元ベータテスターだっているんだ。今は、その事より第1層のボスのことを考えるべきじゃないのか?」

 

すると、キバオウはジッとディアベルを見たあと、頷いた。

 

「ええわ、ここはあんさんに従うといたる。でもな、ボス戦終わったら、きっちり白黒つけさしてもらうで」

 

言うと、さっきまでキバオウのいた前列に引き返していった。それを見て俺もホッと息をついて、キリト達の元へ戻ろうとする。だが、その俺に「カンザキさん」と声がかかったを

振り返ると、エギルが立っていた。

 

「あんた、いい度胸してるな。この大勢の中で堂々と真ん中に来て言い返すなんて」

 

「えっ、あ、はい。それほどでも」

 

やべっ、怪しまれたか?俺はなるべく女の子らしく、逆ギレして今更恥ずかしがってるアピールしながらキリト達の元に引き返した。

 

 


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