俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが   作:杉山杉崎杉田

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33話 理由

 

 

ヒースクリフの剣はあたしの盾を貫通し、あたしの剣はヒースクリフの肩を貫通していた。

 

「あっぶな」

 

「………まさか、やってくれたな。最後の最後で、私が誘い込まれていたわけか」

 

「半分、狙い通りって感じかな」

 

「ふっ……私の負けだよ、カンザキくん」

 

【Winner kanzaki】の文字が浮かび上がり、闘技場は歓声に包まれた。

あたしとヒースクリフは立ち上がった。よし、これでなんでも言うこと聞いてもらえる!

 

「おーい勝ったよー‼︎」

 

『Fooooo‼︎KA・N・ZA・KI‼︎』

 

「ありがとー‼︎」

 

と、みんなに手を振った。あ、キリトとアスナ、エギル、クラインもいる。ヤバイ、ライブとはまた違った気持ち良さがある。

 

「さて、では願いを聞こうか」

 

「え?今?」

 

後ろからヒースクリフに声を掛けられた。

 

「後でいいならそうするが」

 

「いやいや!今でお願いします!」

 

うーん、どうしよっかなー。いや、こういう時はまずは冗談から言うものだよね。

 

「みーんなー、何をお願いしたらいいー⁉︎」

 

『うおおおおおおおおお‼︎』

 

「いや『うおー』じゃなくて」

 

『うおおおおおおおおおお‼︎』

 

だめだ、話にならない。別に本気で聞いてるわけじゃないけどさ。

 

『ログアウトとか言ってみろよ』

 

あ、それ面白い。と、いうわけで兄(仮)の意見を採用した。

 

「じゃあ、みんなのログアウトでお願いしまーす‼︎」

 

直後、ドッと沸く会場。「んなことできるわけねーだろー!」という声も聞こえ、あたしは舌を出してえへへーと後頭部を掻いた。

その直後だった。辺りがフッと真っ暗になる。昔のテレビがザーッとなるアレのようにあたりは白黒の気持ち悪くなるような絵が浮かび、ザーッと音を出したと思ったら、あたしの体はアインクラッドを見下ろしていた。

 

「…………えっ?」

 

大量の汗が顔に浮かんでいた。え、何これ。バグ?もしかして、あたし死んだ?人生ログアウトされちゃった?

 

『ちょっ、お前まじふざけんなよ‼︎殺すぞお前⁉︎』

 

「な、なんであんたがキレてんの⁉︎あんたがログアウトって言ったんでしょう⁉︎」

 

『提案しただけだ!採用したお前が悪い‼︎』

 

「あんた本当に最低‼︎マジありえない‼︎」

 

『うるせぇ‼︎そもそも誰のおかげでヒースクリフに勝てたと思ってんだ⁉︎俺が地の文に写らないようにアドバイスしてたからだろうが‼︎』

 

「身体動かしたのはあたしですー!」

 

ぐぬぬぬっ、と二人して睨み合ってると、あたしの横にヒースクリフが現れた。

 

「えっ……?」

 

「君の要望通り、たった今、全プレイヤーのログアウトが完了した」

 

「……………えっ?」

 

「私が、茅場晶彦だよ」

 

「『…………………………えっ?』」

 

声がブレた気がした。

………ってことは、何。あたしがみんなを助けたってことになるの……?

 

「ふあああ!マジでか⁉︎」

 

『やったなマジで!』

 

「それより、私も君に聞きたいことがあるんだ」

 

「ふおおおおお!」

 

『ふおおおおお!』

 

「聞いてる?」

 

「あたしヒーローじゃん!これいくらもらえるんだろう!国から!」

 

『どうだろうな、宝くじの一等以上はもらえないと割に合わないよな』

 

「聞けよ、おーい」

 

「とりあえず2京円と仮定して……何が買えるかな」

 

『島1個買えそうだな』

 

「君だけログアウトさせないよ?」

 

「すみませんでした」

 

「君のそのプレイヤーのデータには色々とバグが生じているんだ」

 

「は、はぁ」

 

「君は一体、どのようにナーヴギアを設定したんだ?」

 

「どのようにって……」

 

知らないんだけど。あたし、精神的には途中参加だし。

 

『あ、俺が代わろうか?』

 

お願い。「お兄ちゃん」

 

たらららーん

 

「んっ、どのようにって……普通にナーヴギアかぶって、言われるがままですけど」

 

「それまでの過程を詳しく」

 

「んーっ、と、ナーヴギアかぶって、名前とか設定して……ああ、キャリブレーション、だっけ?アレで自分の体触るの嫌だったから寝てる妹の身体ベタベタ触ったよ。あの八つ橋みたいなオッパイ、可愛かったなぁ、ふひひ」

 

『あんた、そんな気持ち悪いことしてたの?』

 

お前みたいなバカに妹の可愛さはわかるまい。

 

「それだ」

 

「えっ?」

 

「明らかに君の顔と設定された身体が別人だったから色々と不具合が起きたんだろう。もしかして、君は手鏡が配られなかったな?」

 

「はい、配られてませんけど」

 

「君の身体はゲームの中で作ることができなかった。だからだろうな」

 

「…………」

 

「よし、スッキリしたし、私はそろそろ行くよ」

 

「え、あ、はい」

 

そんなわけで、パッとしない感じで俺のSAOは終わった。

 

 


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