俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが 作:杉山杉崎杉田
それから、クライン達に75層の転移門のアクティベートを任せ、あたしとキリトとアスナ、それから軍のメンバーは街へ引き返した。
しかし、あたしが悪戯にアイドルなんて始めたから、攻略組でああやってバカやる人達が増えたのかなぁ。そう思うとなんかスッゲーヘコむんだけど。
『や、考え過ぎだろ』
ちょっといきなり声かけないで。
『いいか、君が今考えているのは、アイドルのコンサートのチケットを買うために銀行強盗したのは、アイドルの所為と言ってるようなもんだ』
………そう?
『だから気にしない方がいい。つーか気にするな。この物語的にああいう真面目なのいらねーから』
そ、そっか……。
『じゃ、俺は寝る』
………ま、まぁ、そういうことに、しとこうかな?
*
翌日、あたしはエギルの店の二階でボンヤリしていた。
「眠い」
「そうだな。ま、昨日は大変だったみたいだし、しばらくライブも休みだ。ゆっくりしろ」
「はーい」
「良かったな、カンザキ」
「……う、うん。キリト……」
「? な、なぁ、なんか少し前から神崎、俺と話すときだけよそよそしくないか?」
「ふえっ⁉︎」
「確かにな。前まではむしろキリトをからかう側だったのに。キリト、お前アイドルに何したんだよ」
「お、覚えがない!」
「むっ」
何それ、この前55層であたしのおっぱい揉みしだいた癖に……‼︎イラついた。
「ふんっ」
「いだっ⁉︎なんで蹴るんだよ‼︎」
「うるさいです。人のおっぱい揉んどいてそれを忘れてるなんてー‼︎」
「ちょっと待て!あったかそんなこと⁉︎」
「おい、キリト……」
ゆらりとエギルが椅子から立ち上がった。
「どういうことだ……。テメェ、まさか自分の所のアイドルを傷物にしようとしやがったのか……?」
「待て待てエギル!覚えがねぇんだって……!……あ、いや………待てよ………?」
思い出したな。
「おい、キリト、まさか」
「……………」
「心当たりがあんのか?」
「……………………」
「ぶっ殺す‼︎」
「あるなんて言ってねえだろ‼︎」
「あると言ってるようなものだ‼︎」
目の前でバカ男二人の殴り合いが始まり、あたしは息を吐きながらぼんやりしていた。すると、バンッと店の扉が開いた。
「あ?」
「お?」
「?」
涙目のアスナが、あたし達を見ていた。
「ど、どうしよう……」
「?」
「大変な事に、なっちゃった……」
*
どういうわけか、二刀流のキリトではなくあたしがヒースクリフに呼び出された。
アスナの後に続いて、緊張気味にあたしは部屋の中に入った。
「失礼します、カンザキをお連れしました」
「ああ、ありがとう」
中はヒースクリフ以外のプレイヤーの姿はない。あたしと1対1で話し合う的なあれかな。
「アスナくんも退がりたまえ」
「わ、私もですか?」
「うむ」
本当に1対1かよ。え、なんだろ。もしかしてあたしにサインとか?
アスナが部屋を出て、ヒースクリフは「座りたまえ」と声をかけた。お言葉に甘えて、椅子に座る。
「アスナくんから聴いたよ。大変だったそうだね」
「あーはい。大変でしたぁ。軍ってめちゃくちゃするんですね」
「まぁ、彼らも必死なのだろう。君のコンサートがみたくてね」
「あたしの所為だって言いたいんですか?」
「そんな事は無い。その時の君の様子を、アスナくんから聞いたよ。キリトくんの二刀流にも驚いたが、君の剣技はまるで攻防一体のような剣だったようだね」
「そうなんですよ。私もそれをイメージして戦ってるんです」
「…………」
「………な、なんですか?」
「ひょっとして、気付いてない?」
「や、だから何が?」
「ステータスを見てみたまえ」
「?」
言われるがまま見てみた。様々な武器の熟練度の一番下に、見たことのないアイコンがあった。
「………?」
「いや気付けよ。それは、おそらく君のエクストラスキルだろう」
「は、はぁ」
「つまり、私と同じ神聖剣だ」
「…………え、マジで?」
「何故、君がそれを持っている?」
「さぁ、そんなこと言われましても……」
「そうだな。君は今気づいたようだし。とはいえ、同じスキルを持つ者が二人、というのは私は好きではない。よって、私とデュエルしたまえ」
「え?」
「勝てば、一つ言うことを聞こう。ただし、君は負ければ血盟騎士団に入るのだ」
「一つ言うことって……なんでも?」
「そうだ。可能な限りではあるが」
「マジで⁉︎」
「うむ」
「良いよ、乗った!やろう、今すぐやろう!」
「まぁ、待ちたまえ。勝負は一週間後だ。いいな?」
「いよっしゃああああああ‼︎やる気出て来たあああああああ‼︎」
バタバタ走りながら外に出た。あれ、なんでこんなことになったんだろう。