俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが   作:杉山杉崎杉田

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30話 あたしの所為ですか?

 

 

運悪くリザードマンの集団に遭遇してしまい、あたし達が最上部の回廊に到達した時には安全エリアを出てから30分が経過していた。

軍の連中に追いつくことはなかった。あたしとしては非公式ファンクラブなんてあまり会いたくなかったので、転移アイテムで帰ってて欲しかった。

そんな時だ、

 

「ああぁぁぁ……」

 

悲鳴が聞こえた。あたし達は顔を見合わせると、一斉に駆け出した。

すると、案の定というかなんというか、ボス部屋の扉は開かれていた。

 

「おい!大丈夫か!」

 

キリトが中へ入って声を掛けた。中は地獄絵図だった。

真ん中で雄叫びを上げてるボス、その周りで逃げ回る軍の部隊。統制も何もあったものではなかった。

 

「何をしてる!早く転移アイテムを使え!」

 

キリトがそう声を張り上げた。

だが、一人の男性プレイヤーが絶望的な表情で叫び返す。

 

「だめだ……!く……クリスタルが使えない‼︎」

 

「なっ……」

 

ま、まじでか……。ここは《結晶無効化空間》なのか。

迷宮区で稀に見るアレだ。それがボス部屋に来た、ということはここから先、ずっとそうなるということだろう。

……うわあ、攻略やめたい。

そう思った直後、ボスの奥にいるプレイヤーがふらふらと立ち上がり、剣を高く上げて怒号を上げた。

 

「何を言うか……ッ‼︎我々、KANZAKI防衛軍に撤退の二文字はない‼︎戦え‼︎戦うんだ‼︎」

 

それを聞いた直後、あたしは胸の奥がズキッと痛んだのが分かった。思えば、自分がアイドル活動をして攻略組を増やすという事は、それだけ戦場に向かわせる兵隊を増やすという事だ。

即ち、それだけプレイヤーの死亡率は高くなる。今まではこういう軍のような連中も現れなかったし、ボス攻略戦で死者が出ることもなかったため、あまり自覚して来なかった。

………つまり、彼らが死ぬのは、私の所為……?

そう思った直後、体がブルッと震えた。余りに今まで無責任なことをし過ぎた事を、今更になって後悔し出していた。

 

「全員……突撃……!」

 

コーバッツからそう声が漏れた。

軍のメンバーがボスに向かって剣を構えて突撃した。そのうちの一人が、ボスの巨剣に殴られて大きくぶっ飛ばされた。

そいつがあたしの目の前に落ちて来た。コーバッツだった。HPが消滅していた。イッちゃってる目でコーバッツは呟いた。

 

「あり、えない……!」

 

そう言った後、無言で四散した。

これも、全部、あたしの所為………!直後、身体が熱くなった。

 

「ああああああああッッ‼︎」

 

気が付けば突進していた。

 

「カンザキ……⁉︎」

 

誰かに名前を呼ばれた気がしたが、無視した。こうなったのがあたしの所為なら、あたしの命をもってこいつらを助けるべきだ。

ボスの初撃をジャンプして回避すると、剣を構えてボスの顔面を叩き斬りながら後ろに着地した。

振り返ったところで、ボスが追撃してきていた。それを盾で無理矢理ガードすると、ボスの胸に突きを放った。

 

「早く逃げろ‼︎」

 

後ろの軍の連中にそう怒鳴ると、慌てて逃げていく軍。その間、あたしはボスの攻撃を盾で受けるかいなして、反撃する。攻防一体の剣技。

今の所、自分のHPは7割を切っていない。このまま行ければ、全員逃がせる!そう思った。

ボスがソードスキルを放った。それを盾で受け流して反撃しようとした。だが、受け流しきれなかった。

 

「ッ……⁉︎」

 

バギンッと耳に響く音がして、あたしは吹き飛ばされ、壁に叩き付けられた。

追撃して来るボス。すると、あたしの前にアスナとキリトが揃ってボスを攻撃した。怯み、大きく後ろに下がるボス。

 

「キリトさん、アスナさん……⁉︎」

 

「一人で行くなアホ!」

 

「あ、あああアホ⁉︎」

 

そのまま二人はボスに攻撃する。だが、それでもまともにダメージが与えられるわけではない。

あたしも後ろから戦闘に参加した。

 

「二人とも退がって‼︎」

 

「何言ってんだ!お前一人で保つのかよ⁉︎」

 

キリトから当然の返しが来た。

 

「保たないけど……!こうなったのはあたしの責任だから……‼︎」

 

あたしはキリトとアスナの肩を掴んで、ボス部屋入り口に投げ込んだ。

 

「バカヤロッ……‼︎」

 

怒鳴られても無視して、あたしは一人でボスと向かい合う。

ジリジリと減っていくHP。見たところ、まだ軍の避難は半分も終わっていない。このままだと……‼︎

 

『おーい、辛そうだなwww』

 

呑気なもんだなテメェ‼︎あたしが死んだらあんたも死ぬんだよ⁉︎

 

『そう言われてもなぁ、なんとなく……こう、他人事っぽくてさ。自分で戦ってるわけじゃないから、こう……緊張感に欠けて?』

 

いいよなテメェはな⁉︎呑気な性格が羨ましいよ‼︎

 

『怒るな怒るな。俺が楽観的なのはいつものことだろ』

 

さっきから何なの⁉︎今、話し掛けないで欲しいんだけど!

 

『いいから前見ろ。ボスの攻撃は俺が読む。とりあえず言う通りに動いて軍の連中は邪魔だから逃せ』

 

はぁ⁉︎何言って……!

 

『岡目八目って言うだろ。……あれ?意味違う?まぁいいや。これは俺とお前だけの特権だ。他の奴とは違って、目は四つあるんだからさ』

 

た、確かに……!

 

『右から来てんぞ。ボスの腕を下から上に跳ね上げて隙を作った後、左に斬りながら逃げろ』

 

了解。

あたしは言われるがまま、ボスの横からの攻撃を上に跳ねあげた。思いの外、軽く上がった。正面から力をぶつけているわけではないからだろう。

大きく出来た隙に左に移動しながら、ボスの脇腹を斬った。

あたしに向かって剣を振り下ろしてくるボス。その隙に、軍の連中を風林火山の面々が誘導して、出入り口まで逃した。

 

『おk、逃げよう』

 

はぁ⁉︎なんで⁉︎

 

『大丈夫、そろそろあいつが来るはずだ』

 

あいつ?と、思ってると、キリトが片手剣を二本持ってボスに突っ込んできていた。

 

「カンザキ、退がれ‼︎」

 

そう言うと、キリトは二本の剣を振るいながら、ボスへ間を作らずラッシュを繰り返した。

ボスがいらりとしたのか、キリトの方を向いた。

 

「お前は、こっちだッッ‼︎」

 

あたしはホリゾンタル・スクエアでボスを攻撃した。再びこっちを向くボス。

すると、キリトの剣が青く光り出した。ソードスキルの発動である。見たことのないソードスキルが、ものすごい勢いでボスの体を斬り刻んでいく。

 

「うおおおおあああ‼︎」

 

叫びながら、ボスの体を刻むこと16発、ボスの胸の中央をキリトの剣が貫いた。

 

『ゴァァァアアアアアア‼︎』

 

直後、ボスが天井に体を反らしながら大声で叫んでいた。

硬直、そこから反撃が来るのか。あたしはいつでもキリトの前で盾を張れるように身構えた。

が、心配は不要だった。ボスはそのまま四散した。

 

「ほっ……」

 

息をついてあたしは尻餅をついた。

 

『いやー、お疲れ』

 

あんた、意外と頭良いというか、勘がいいのね。

 

『分かってねえなお前。俺、物理生物国語は得意なんだぜ』

 

そこは数学にしときなさいよ……。

 

 




なんか途中でヤケに重い話になってしまった……。
こんなの予定になかった。

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