俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが 作:杉山杉崎杉田
そんなわけで、俺は早速キリトに剣技を教わることになった。で、キリトの説明なわけだが、
「基本的にはイメージだ。自分の頭の中でアクロバティックなモーションを……」
「無理して難しい言葉使わなくていいですよ?」
微笑みながら言ってやった。すると、顔を赤くして俯くキリト。ああ、女子高生が男を可愛いと言う気持ちが少し分かった気がする。
「と、とにかく、こう、自分の体をどう動かしたいかイメージするんだ」
「イメージ……イメージ……」
「さっきだって体を動かせてただろ?それと同じ感じだよ」
説明が終わったタイミングで、ちょうと猪が現れた。イメージ、イメージか……。剣のイメージ……。剣……ん?ブリーチ?
「月牙天衝!」
斬撃を放つ勢いで剣を思いっきり振り下ろした。それが猪の脳天に直撃した。
「そうそう、そんな感じ?」
何故疑問系とは思ったが、褒めてくれたので流す事にした。で、その後も修行は続き、やがて俺1人でも戦えるようになってきた。気が付けば夕方になっていた。
「ふぅ、こんなものでいいか?」
「はい……わざわざすいません。あたしのために……」
「いや、いいよ。ここで見捨てて死なれると、俺も気分悪いからな」
素敵スマイル全開のキリト。今気付いたけど、こいつ中々のイケメンだ。いや別に俺が惚れる展開とかないけどね?
「じゃあ、俺は行くから」
「は、はい。また、会えたらよろしくね」
「ああ、会えたらな」
そのままキリトは何処かへ行ってしまった。さて、俺はとりあえずもう少しレベリングでもしてるか。飽きるまで猪狩りしてよう。
*
まぁ、アレだ。このゲームおもしれぇな。普通に楽しい。人が死ぬなんてリスクがなければガチで楽しいと思う。いや、むしろその緊張感がたまらない。
不謹慎かもしれないけど、俺は少なくともそう思った。そんな事を考えながら進んでいると、1日で次の街まで来てしまった。キリトには追い付いていないが、まぁ別にあいつと会うことはもうないだろうし、別に会いたいとも思ってない。
「さて、今日はもう休むか」
そう呟くと、どっかの宿屋に入った。
*
腹減ったな……。モンスターフルボッコにしたから金はたくさんあるし、どっかの店でなんか食うか。高級ステーキとかないかなー。
あるわけないよねー。だって一層だもの。
「……その辺でパンでもテキトーに買うか」
そう呟いて、パンを買いに行った。その辺に売っていたパンを買って、ベンチに座って噛む。……硬え。何これ。パンはもっとこう……モチモチしてないとパンじゃねぇだろ。
まぁ、ゲームに食べ物の味を求める方が間違ってる……のか?茅場の野郎、どうせ閉じ込めるなら飯くらいもっとマトモにしてくれよ。
「もっと、こう……クリームとか欲しいな……」
そんな事を思いつつも宿屋に帰り、パンを貪った。ベッドにボスッと寝転がって、今更になって黙り込んだ。リアルのことを思い出していたからだ。
………肉が食いたい。そう切に思った。
*
そんなこんなで、2ヶ月が経った。俺はといえば相変わらずソロで頑張ってる。可愛いからパーティに何度か誘われたが、バレる可能性があるので全部断った。
だが、1人だけパーティ(?)みたいな感じで組んでる奴がいる。
「今日は私の勝ちね。さ、パン買ってきて」
「はぁ……昨日はボロ勝ちしたのになぁ……」
アスナ、という名前のプレイヤーだ。出会ったのは1ヶ月前、珍しい女の攻略組のプレイヤーということで気に入られたようだ。1ヶ月間、性別が全くバレないとかある意味才能あるよな俺。将来はスパイにもなれそう。
ちなみに今は、1時間の間にモンスターをどれだけ稼げるかを競うゲームをしていた。勝敗はほとんど五分五分。
俺の使ってる武器は「ナギナタ」という槍。刀があればそれを使いたいのだが、ない物は仕方ない。代わりにこっちを使うまでだ。
で、アスナに言われるがままパンを買いに行って、ついでに《鼠》と呼ばれる情報屋の攻略本を貰って、アスナの待つ森の中に入って行った。
「お待たせ〜」
いつものアイドルスマイル全開で言いながら戻ると、何やら険悪な空気が流れていたので、サッと木の陰に身を隠した。
そーっと気付かれないように覗くと、俺はおもわずビビった。アスナの前に、何故かキリトが立っていたのだ。