俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが   作:杉山杉崎杉田

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29話 目の前!目の前ですよー

 

 

クラインさんに引き摺られて、あのリア充ゾーンに引き摺られた。

 

「よお、キリト!しばらくだな!」

 

「まだ生きてたか、クライン」

 

「相変わらず愛想のねえ野郎だ。珍しく連れがいるの……か……」

 

言いながら、隣に目を移す。そこには当然、アスナがいる。何こいつ、気付いてなかったの?

 

「あー……っと、ボス戦で顔を合わせているだろうけど、一応紹介するよ。こいつはギルド《風林火山》のクライン。で、こっちは《血盟騎士団》のアスナ」

 

そのまま完全停止するクライン。

 

「おい、なんとか言え。ラグってんのか?」

 

肘で脇腹を突かれ、ようやく口を開き、凄い勢いで最敬礼気味に頭を下げる。

 

「こ、こんにちは!くくクラインという者です24歳独身」

 

頭を下げた直後、クラインはキリトの腕を引いて何かコソコソをお話を始めていたが、あたしは構わなかった。

代わりに、遠慮気味にアスナに言った。

 

「ご、ごめんなさい。お邪魔しちゃって……」

 

「……ああ、カンザキね。新しい新入りさんかと思った」

 

分からなかったのか。どんだけキリトに夢中だったんだよこの子。

そんな話をしてると、後ろの方からガチャガチャと金属音が聞こえてきた。

 

「! あれは……」

 

「軍ね」

 

軍、ってあれか。攻略で役に立たないくせにライブの時はほぼ必ず最前席で一番テンション高い連中。エギルさんもクラインもキリトもかなり嫌がってて、どう対策するか考えてたっけ。

軍にキリトもクラインも気付いたのか、キリトは道を開け、クラインは仲間に下がらせた。

軍は安全エリアの、あたし達とは反対側に止まった。先頭の体長っぽい男が「休め」というと、後ろのプレイヤーたちは倒れるように座り込んだ。

そして、リーダーっぽい奴がこっちに来た。

 

「私はKANZAKI防衛軍所属、コーバッツ中佐だ」

 

「ブフッ!」

「ぷふっ!」

 

あたしとクラインがまったく同じ別の意味で吹き出した。

おい、あんた何笑いこらえてんの?殺すよ?

 

「………何か?」

 

「何か?じゃねぇよ!お前よく本人の目の前で……」

 

直後、あたしはクラインを後ろから掴んで壁に叩きつけた。

 

「うん、少し黙ってよう!」

 

「むぐーっ!」

 

なんてバカなやり取りは置いといて、キリトが代表して「キリト、ソロだ」と短く名乗った。

 

「君らはもうこの先も攻略しているのか?」

 

「……ああ。ボス部屋の手前まではマッピングしてある」

 

へぇ、早いな。二人で見つけたのか。

 

「うむ。ではそのマップデータを提供してもらいたい」

 

「な……て……提供しろだと⁉︎テメェ、マッピングする苦労がわかって言ってんのか⁉︎」

 

その言い草にカチンときたのか、クラインはあたしの腕を退かして怒鳴った。

 

「我々はKANZAKI様解放のために戦っている‼︎」

 

「ブフッ⁉︎」

 

「諸君らが協力するのは当然の義務である!」

 

………いや、用途が狭すぎるでしょ。というかあなた達にとってKANZAKIって神様か何かなのかな。

しかも、そのKANZAKIに協力お願いしちゃってるし。

その台詞に、キリトもアスナもクラインも風林火山の面々も笑いを堪えていた。

 

「プッ……ククッ……ンンッ!ど、どうせ街に戻ったら……ぷふっ、公開しようと思っていたデータだ、構わないさ……ふはっ」

 

いや、しつけぇよキリト。殴るよ?

キリトはマッピングデータをコーバッツ中佐に渡した。そもそもなんで「親衛隊」じゃなくて「防衛軍」なんだろうな。

 

「ボスにちょっかい出す気ならやめといたほうがいいぜ」

 

キリトが引き返そうとするコーバッツに声を掛けた。

 

「………それは私が判断する」

 

「さっきちょっとボス部屋を覗いてきたけど、生半可な人数でどうこうなる相手じゃない。仲間も消耗してるみたいじゃないか」

 

「……私の部下はこの程度で根を上げるような軟弱者ではない!」

 

いや、アイドルの防衛軍が何を言っちょるのか。セイラさんに殴られるレベルの軟弱者なのでは?

 

「貴様らさっさと立て!」

 

コーバッツに怒られ、軍のメンバーはゆらゆらと立ち上がった。

そのまま安全エリアから出てってしまった。

その背中をぼんやり眺めてると、後ろから肩を叩かれた。

 

「……よ、良かったわね……ファンの方に出会えて……」

 

なーにがそんなにおかしいんだこのやろー。ていうかいつまで笑ってんの?

 

「ぶっ…あーっはっはっはっ‼︎もう我慢できねえ!本人の前でなんであんなッ、真面目にッ、性格の悪いことッ、本人にッ、言えるんだあーっはっはっはっ‼︎」

 

「ばっ、笑わすなクライン……!大体あいつら誰に許可得て防衛軍名乗ってんだよ……!血盟騎士団を親衛隊として認めたのは覚えてっけど……!」

 

こ、こいつら……!他人事だと思って!というか血盟騎士団の件、初耳なんですが。

 

「あぁん、もう。ほら怒んないの。可愛い顔が台無しよ?」

 

ふんっ、知らないっ。男二人は謝る気ゼロだし。

 

「ゲラゲラゲラ……ひぃ、あー笑った。こんな楽しいこと久しぶりだわ」

 

「殴りますよ?」

 

ニッコリ微笑むと、ようやく全員黙ってくれた。

 

「それより気になるのは、さっきの連中だよな。大丈夫なのか?」

 

強引に話題を逸らすクライン。

 

「気になりませんよ。あんな連中死んじゃえばいいんだ」

 

「おお、ブラックカンザキ。なぁ、クライン。次のライブこれ行けるんじゃないか?」

 

「キリトさん、抹殺されたくなかったら黙ってて下さい」

 

「一応、様子見に行っとく?」

 

「………そうね」

 

そんなわけで、あたし達はボス部屋に向かった。

………あれ?そもそもあたしなんでここに来たんだっけか……。

 

 


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