俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが   作:杉山杉崎杉田

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28話 ストーキングイリュージョン

 

 

翌日、目が覚めると、あたしは寝惚けた表情のまま起き上がった。

ポケーッとしながらハナクソをほじりつつ、アイテムストレージから飲み物を取り出して一口。で、またベッドに寝転がった。

 

『おい、バカ』

 

「む、いきなりバカとは何さ」

 

『観察されてんぞ』

 

「へっ?」

 

マジで?とあたしは窓の外を見る。すると、サッと物陰に隠れた人影が見えた。

あたしは伸びをしながら欠伸をして、部屋に戻った。

 

「何あれ、誰あれ?」

 

『分からん。大体見当はついてるけどな』

 

「は?誰?」

 

『お前が昨日無用心にサインしたからこうなるんだよ』

 

「へ……?あっ……」

 

『あいつ今頃、「ふへへ、か、カンザキたんは僕にだけサインくれたんだ……ハァハァ、僕のことが好きに違いない……ハァハァ」とかなってるぞ』

 

「うえっ……マージで?どうする?」

 

『引っ越せ。とにかくあの変態に気付かれないように。エギル……いや、アスナとかに協力してもらって』

 

「なんでアスナ?エギルの方がツテはありそうだけど……」

 

『あの手のストーカーは嫉妬が激しい。エギルとかキリト殺されっかもよ』

 

「なーるほど……」

 

『まぁ、そーゆうわけだからしばらくは男との接触を控えろ』

 

「………あたしが男だってバレたらマジで殺されそうだよね」

 

『それな』

 

そんな話をしながら、あたしはとりあえず変装して部屋を出た。

 

 

なるべく、あたしはクラディールから逃げるように移動したつもりだろうけど、多分逃げきれてない。ストーカーとはそういうものだ。

 

『変わるぜ』

 

「『お兄ちゃん』」

 

たらららーん。

 

「ッ」

 

索敵スキルをフル活用した。後ろからきてるな……。俺は結晶アイテムを取り出した。

そして、曲がり角を曲がりながら大声で言った。

 

「転移、リンダース!」

 

そう大声で言ってから、物陰で隠れた。すると、後ろからも転移アイテムを使ったのが見えた。ちなみに俺の手に持ってるのは別の結晶アイテムです。

 

『どゆこと?』

 

「ストーカーなら絶対に先回りしようとするだろ。だからそれを利用した。さて、血盟騎士団本部に行きましょうか」

 

俺は転移結晶を取り出して、グランザムに飛んだ。

 

 

血盟騎士団本部。副団長様を探すならここだろう。それに、ここならクラディールの防止にもなる。流石に自分の職場でストーカー行為に及ぶことはないだろう。

 

「変わるぞ、『カンザキ』」

 

たらららーん。

 

「んっ……」

 

前から思ってたけど、「たらららーん」って何?意味あんのそれ?まぁいいけど。やるならもう少しカッコいい効果音にしようよ

 

『例えば?』

 

「卍、解‼︎」

 

『効果音でもなんでもないじゃん』

 

そんなどうでもいい話をしながらも、グランザムにお邪魔した。

 

「すみませーん、副団長いますか?」

 

「なんだ貴様。何者か知らないが、あの方は今……」

 

断られそうだったので、人差し指を立てながらウィンクして、サングラスと帽子を取った。

 

「失礼しました。どうぞ」

 

「ありがと」

 

いいながらサインを渡して通った。

 

『だからホイホイサインするなっての』

 

「ごめんごめん」

 

流した謝罪と共に中に入った。さて、副団長様はどこかなーっと……、

 

「あ、カンザキ様」

 

「はい?」

 

さっきの門番さんが声をかけてきた。

 

「アスナ様は今日は非番のため、ここにはいらっしゃいません」

 

「え、まじ?」

 

「はい」

 

「そっか……ありがと」

 

そう言うと、私はグランザムから出た。

 

『というか、フレンドなんだからそっから探せや』

 

「あ、それもそうか。えーっと、アスナは……迷宮区だね」

 

てなわけで、あたしは転移結晶を使って最前線に向かった。

 

 

最前線の迷宮区。出てくるモンスターを倒しながら進んでると、ようやく栗色の長髪を見つけた。

 

「あ、おーい!アスナさ……!」

 

声をかけようとしたところで、あたしの視界に入って来たのはキリトの姿だ。

おそらく手作り弁当を二人で仲良く食べている。

 

「……………」

 

イラっとした。それと共に、あんな幸せそうなアスナの顔を見れば、アスナもキリトの事が好きであることはすぐに分かってしまった。

 

「……………」

 

引き返そう。そう思った。あたしはキリトとは結ばれない。なら、アスナに譲るべき……そう思った。

 

「あり?カンザキちゃん?」

 

「………クライン、さん」

 

風林火山の面々を連れたクラインさんが立っていた。

 

「何してんだ?」

 

「いえ、これから帰ろうと……」

 

「お?あそこにいるのはキリの字じゃねぇか?」

 

こいつ!目はいいのか⁉︎

 

「行こうぜ、おーい!」

 

あたしはクラインに引き摺られる形で、二人のラブラブワールドに突撃した。

 

 


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