俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが 作:杉山杉崎杉田
翌日、目が覚めると、あたしは寝惚けた表情のまま起き上がった。
ポケーッとしながらハナクソをほじりつつ、アイテムストレージから飲み物を取り出して一口。で、またベッドに寝転がった。
『おい、バカ』
「む、いきなりバカとは何さ」
『観察されてんぞ』
「へっ?」
マジで?とあたしは窓の外を見る。すると、サッと物陰に隠れた人影が見えた。
あたしは伸びをしながら欠伸をして、部屋に戻った。
「何あれ、誰あれ?」
『分からん。大体見当はついてるけどな』
「は?誰?」
『お前が昨日無用心にサインしたからこうなるんだよ』
「へ……?あっ……」
『あいつ今頃、「ふへへ、か、カンザキたんは僕にだけサインくれたんだ……ハァハァ、僕のことが好きに違いない……ハァハァ」とかなってるぞ』
「うえっ……マージで?どうする?」
『引っ越せ。とにかくあの変態に気付かれないように。エギル……いや、アスナとかに協力してもらって』
「なんでアスナ?エギルの方がツテはありそうだけど……」
『あの手のストーカーは嫉妬が激しい。エギルとかキリト殺されっかもよ』
「なーるほど……」
『まぁ、そーゆうわけだからしばらくは男との接触を控えろ』
「………あたしが男だってバレたらマジで殺されそうだよね」
『それな』
そんな話をしながら、あたしはとりあえず変装して部屋を出た。
*
なるべく、あたしはクラディールから逃げるように移動したつもりだろうけど、多分逃げきれてない。ストーカーとはそういうものだ。
『変わるぜ』
「『お兄ちゃん』」
たらららーん。
「ッ」
索敵スキルをフル活用した。後ろからきてるな……。俺は結晶アイテムを取り出した。
そして、曲がり角を曲がりながら大声で言った。
「転移、リンダース!」
そう大声で言ってから、物陰で隠れた。すると、後ろからも転移アイテムを使ったのが見えた。ちなみに俺の手に持ってるのは別の結晶アイテムです。
『どゆこと?』
「ストーカーなら絶対に先回りしようとするだろ。だからそれを利用した。さて、血盟騎士団本部に行きましょうか」
俺は転移結晶を取り出して、グランザムに飛んだ。
*
血盟騎士団本部。副団長様を探すならここだろう。それに、ここならクラディールの防止にもなる。流石に自分の職場でストーカー行為に及ぶことはないだろう。
「変わるぞ、『カンザキ』」
たらららーん。
「んっ……」
前から思ってたけど、「たらららーん」って何?意味あんのそれ?まぁいいけど。やるならもう少しカッコいい効果音にしようよ
『例えば?』
「卍、解‼︎」
『効果音でもなんでもないじゃん』
そんなどうでもいい話をしながらも、グランザムにお邪魔した。
「すみませーん、副団長いますか?」
「なんだ貴様。何者か知らないが、あの方は今……」
断られそうだったので、人差し指を立てながらウィンクして、サングラスと帽子を取った。
「失礼しました。どうぞ」
「ありがと」
いいながらサインを渡して通った。
『だからホイホイサインするなっての』
「ごめんごめん」
流した謝罪と共に中に入った。さて、副団長様はどこかなーっと……、
「あ、カンザキ様」
「はい?」
さっきの門番さんが声をかけてきた。
「アスナ様は今日は非番のため、ここにはいらっしゃいません」
「え、まじ?」
「はい」
「そっか……ありがと」
そう言うと、私はグランザムから出た。
『というか、フレンドなんだからそっから探せや』
「あ、それもそうか。えーっと、アスナは……迷宮区だね」
てなわけで、あたしは転移結晶を使って最前線に向かった。
*
最前線の迷宮区。出てくるモンスターを倒しながら進んでると、ようやく栗色の長髪を見つけた。
「あ、おーい!アスナさ……!」
声をかけようとしたところで、あたしの視界に入って来たのはキリトの姿だ。
おそらく手作り弁当を二人で仲良く食べている。
「……………」
イラっとした。それと共に、あんな幸せそうなアスナの顔を見れば、アスナもキリトの事が好きであることはすぐに分かってしまった。
「……………」
引き返そう。そう思った。あたしはキリトとは結ばれない。なら、アスナに譲るべき……そう思った。
「あり?カンザキちゃん?」
「………クライン、さん」
風林火山の面々を連れたクラインさんが立っていた。
「何してんだ?」
「いえ、これから帰ろうと……」
「お?あそこにいるのはキリの字じゃねぇか?」
こいつ!目はいいのか⁉︎
「行こうぜ、おーい!」
あたしはクラインに引き摺られる形で、二人のラブラブワールドに突撃した。