俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが 作:杉山杉崎杉田
「とりあえず、お互いに持ってるものを確認しよう」
キリトの言う通り、あたしはアイテムストレージからアイテムを出した。
・ライブ衣装
・マイク
・振り付けのメモ帳
・歌詞
・CD
・ラジカセ
「…………お前、何これ」
「し、仕方ないじゃないですか!アイドルなんですから!」
「いやでもお前これ……。一応攻略組だろお前。せめてポーションの一つくらい持っとけよ……」
「うっ……す、すいません……」
それに関してはその通りかもしれない。というかその通りだ。はぁ……キリトに怒られてしまった。
……あれっ?ていうか、キリトに怒られたってだけでなんで傷ついてんのあたし?バカなの?死ぬの?いや死なないけど。
「と、言っても俺もいい脱出アイテムがあるわけじゃないしな……」
「どうしましょうか」
「壁を走る」
「いってらっしゃい」
なんだ、ただのバカか。この人の意見などまるで無視してあたしは別の案を考える。すると、あたしの横に座ってたキリトの姿が消えた。
上を見ると、本当に壁を走り始めていた。
「うっそ……」
あの様子なら、本当に上に着いてしまうかもしれない。
………あっ、もし上に着いたらあたし置いてかれる。
「させるかああああ‼︎」
大声を出しながら、あたしはキリトにマイクを投げ付けた。それが良い感じにキリトの足に直撃する。
「うえっ?」
はっ、抜け駆けするからよ。
ふんすっ、と胸を張りながら、うわあああと悲鳴をあげて落ちてくるキリトを眺める。
あれ?これ、あたしの真上に落ちて来てない?
「え、うそ、ちょっ、嘘……!」
「ふおおおおお!」
「うそおおおお⁉︎」
ドッシーン☆とあたしの上にキリトは落ちて来て、押し倒されるようにあたしも後ろに倒れた。
「いったた……す、すまん。大丈夫かカンザキ……」
言いながら起き上がろうとするキリト。直後、あたしの胸が鷲掴みされた。
「ひゃんっ……!」
自分でもビックリするほど女の子みたいな声が漏れた。キリトの手が、自分の無い胸をしっかりガッツリもっさり掴んでいた。もっさりってなんだよ。
「〜〜〜っ⁉︎」
って、胸ぇ⁉︎
「き、キリトさん!早く退いてくださ……んんっ!」
また握った!また握りやがったこいつ!
「えっ?これ胸?」
カッチーンと来た。
「ふんっ!」
「ムグホッ⁉︎」
間髪入れずに、あたしの胸を触った挙句にものすごい失礼なことを言ったバカの鳩尾に蹴りを叩き込んだ。
蹴り飛ばされ、1、2回転がったあと壁に叩きつけられたキリトは、今更になって申し訳なさそうな顔をした。
「す、すまん……カンザキ……」
「さ、最低ですこの男……!セクハラしただけでなく、人のコンプレックスを笑うなんて……!」
「わ、笑ってはないけど……」
「そもそも!あたしのオッパイが小さいのはあたしを作った奴の所為で……!」
『ハイィィィ‼︎お前ちょっと黙ろうかああああ‼︎』
あたしの意思ではなく、あたしの口にあたしの手が伸びた。
「ちょっと!邪魔しないでよ!」
『するわ!お前の正体バレたらマジで殺されんだぞ多分‼︎』
「女としてのプライドが傷付いたの!」
『いやお前男だからね⁉︎いいから落ち着け!頼むから剣しまえ‼︎』
心の中で兄貴(仮)に落ち着かせてもらい、なんとか平常心を保った。
「わ、悪い……。すまなかった……」
キリトが改めてあたしに頭を下げる。
「……………」
なんか、ここで簡単に許してしまうと勿体無い気がしてきた。
「えーどうしよっかなぁ〜。あ、そうだ!じゃあSAO攻略するまではあたしに絶対の服従を誓ってください♪」
「前言撤回だこんにゃろ。謝って損したわ」
「ふぅーん、そういうこと言うんですかぁ」
「な、なんだよ」
「ほらぁ、あたしってファン多いじゃわないですか?だからぁ、あたしの胸を揉んだなんてライブでバラした暁にはみんなに……」
「畏まりました、お嬢様」
『うわあ……』
あたしの中のもう一人が盛大に引く声が聞こえた。
そんなやりとりはともかく、そろそろ本気で脱出を考えなければ。
「それで、どうしますか?」
「そうだな……。一応、方法はあるにはあるんだが……」
「えっ⁉︎ほんとですか⁉︎」
「ああ。けど、それを実行するにはしばらくは動けない。いつ実行できるかもわからない」
「何ですかそれ」
「まぁ、その時が来れば脱出できるさ。それまでは気長に待とう」
「………あ、もしかして戻ってきたドラゴンにしがみ付くとか?」
「……………」
『……ぷっ、ぷははは!見破られてる!あんなカッコつけてたのに見破られとるやんけ!ぶはははは‼︎』
「ぷふっ……や、やめてよ……!笑わせないで……!」
『「それまでは気長に待とう」キリッ』
「ぷははははは‼︎」
あー笑った。楽しかった。