俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが 作:杉山杉崎杉田
「言い訳してもよろしいでしょうか」
人気のないところであたしは正座させられている。目の前ではキリトが仁王立していた。
「どうぞ?」
「その……酒に酔ってたんですよ。それでつい有る事無い事言っちゃって……にしてもアレですね。この世界の酒は人を酔わすことも出来るんですね。凄いですね」
「話を逸らして逃げようとするな」
「はい、すみません」
バレたか……。
「まぁ、今回は許してやる。けど、次はないからな」
「はい…申し訳ないです」
「じゃ、行くぞ」
確か、リズの話では雪山に住むドラゴンの腹で精製されるクリスタル、とかなんとか。
「腹で精製されるって、まるでウンコみたいですね」
「………アイドルがウンコとか言うな」
それはその通りかもしれない。元男だからそういうのは疎いのだ。でもウンコって言うアイドルも中々ギャップがあって可愛い気もする。
『お前の趣味マニアック過ぎんだろ』
だーってろカス。
「それより、今日は武器何で行くんだ?」
あたしのメイン武器は決まっていない。というのも、ライブではいつも振り付けにソードスキルが含まれているのだが、エギルとクラインの方針で片手剣だけでなく、他の武器のソードスキルも使えるようにしようということになった。
それのお陰か、ほぼ全部の武器を使いこなすことが可能だ。しかし、その所為か最近、妙なスキルが二つ入って来たのだが、それはみんなには秘密だ。
「盾持ち片手剣です」
せっかくこの前リズのとこから買った剣を使わない手はない。
「そうか。一番安定してる奴か」
「最初のうちはずっとこれでしたからねー」
「じゃあ、行くか」
「はい!……ね、キリトさん」
「ん?」
「まるで、デートみたいですねっ」
若干、はにかみながら手をもじもじさせ、顔を赤らめつつ上目遣いで言うと、キリトさんも顔を赤くして目を背けた。
「ば、バカ言うな!……アイドルとデートしたなんてバレたら俺殺される」
照れてる。超可愛い。
『お前マジ性格悪いのな』
うるさいな、黙っててよ。
『やるならもっとやれよ』
あんたも大概ね。
*
フィールドに出て、クエストを立ててさっそくドラゴン探し。
正直、55層ごときで負けるとは思えないのだが、肩慣らしにはちょうど良いだろう。
「いやー、キリトさんと二人きりなんて久しぶりですねー」
からかってやろうと思ったのだが、反応がない。顔を見ると、未だに真っ赤にしてる。さっきのデート発言がまだ効いているようだ。ヤダこの子ほんと可愛い。
「あの、キリトさん?」
こういうときは、目の前まで顔を近付ければいい。
ズイッと目の前まで迫ってみると、「うおっ!」と顔を背けるキリト。
「なっ、なんだよ⁉︎」
「え?あ、すみません……。驚かせちゃいました?呼んでも返事がなかったものですから……」
「あ、ああ……ごめん」
「何か考え事ですかー?」
「…………」
うわあ、「お前の事だよ」って言いそうな顔。
「さて、じゃあさっさとドラゴン殺して終わらせよっか」
山頂付近、地面からは色んなクリスタルが生えていて、一面がキラキラと光っていた。
「ここでライブやったら気持ち良いだろうなぁ〜」
『ちょっ、俺にも見せて』
ダメだよ。キリトにバレるよ?
『バッカお前、最初の方は誰が女役やってたと思ってんの?俺の擬態はお前以上に完璧だから』
うわっ、きも。
『うるせぇ、死ねぇ』
とにかく嫌だ。スクショ撮っとくから後で見れば?
『しょうがねぇな』
ふぅ、納得してくれた。
すると、遠くから何か聞こえた。モンスターの鳴き声のようなものが。
あたしは盾と片手剣を構え、キリトも片手剣を抜いた。
「来たね」
「ああ。壁は任せるぞ」
「あーい」
二人の前にドラゴンが降りてきた。そこにあたしは突撃した。ドラゴンのブレスを盾で正面からガードする。
「ックゥ〜!痺れるぅ」
「ナイスカット」
あたしの真横からキリトが飛び出て、ドラゴンの羽を斬り落とした。
正面はあたしが引きつけ、サイドからキリトが斬る。そんな流れでスマートに敵を仕留めた。
「ふぅ……疲れた。なんか落ちました?」
「いや……金属は出てないな……」
「どうします?もう倒しちゃいましたけど……」
「2体目が出るまで待とう」
「分かりました」
あたしとキリトはクリスタルの上に座った。