俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが 作:杉山杉崎杉田
数分後、アスナはもう去ったと思い、あたしはキリトと再び武具店へ向かった。
ちなみに、喫茶店ではあたしはキリトに奢ってもらいました。
「ご馳走様です。キリトさん」
「い、いいよ。これくらい……」
何照れてんの、と思ったが照れて当然か。だってあたし、外見は可愛いもん。男が作った「可愛い」だからそこは間違いない。
「ただいまー、リズさーん」
「おかえりなさい」
「アスナさんいます?」
「いないわよ。さっき帰ったとこ……って、その人は?」
「あたしのスタッフ」
キリトをあたしは紹介した。
「えっと……カンザキの知り合いか?俺はキリト」
「あ、もしかして前にカンザキが言ってた……?」
「リズさん!しーっ!しーっ!」
やめて!あの話はしないで!
あたしの反応にキョトンと首をひねるキリト。リズは上手く話題を逸らした。
「私はリズベット。今日は、どのようなご用件で?」
「あ、えっと、オーダーメイドを頼みたいんだけど。片手剣の」
「予算は気にしなくて良いですよリズさん。この人、攻略組のバケモノだから」
「そ、そう……。まぁ、カンザキがそう言うなら……具体的にはどのような剣を?」
「えーっと……」
キリトは背中の片手剣を鞘ごとリズに渡した。
「この剣と同等以上の性能ってとこでどうかな」
受け取るリズ。直後、あやうく取り落としそうになった。
「それ、50層のLAだよ」
「へぇ……これが……」
興味深げに、リズはエリュシデータを眺める。そして、店の奥の一本のロングソードを外した。
「これが今うちにある最高の剣よ。多分、そっちの剣に劣ることはないと思うけど」
キリトは剣を受け取ると、ヒュンヒュンッと降り始めた。
「ちょっと、軽いかな?」
「使った金属がスピード系の奴だから……」
「うーん……ちょっと、試してみてもいいか?」
何を思ったのか、キリトはそんなことを言い出した。
「試すって……?」
「耐久力をさ」
言いながらエリュシデータの上にリズの最高傑作を重ねる。
「ち、ちょっと、そんなことしたらあんたの剣が折れちゃうわよ!」
「折れるようじゃダメなんだ。その時はその時さ」
うわあ、無茶するぅ……。リズも引いてる中、キリトは何のためらいもなく、自分の剣にリズの剣を振り下ろした。バギンッ‼︎という鋭い衝撃音の後、刀身が宙を舞った。ただし、リズの最高傑作の。
「うぎゃああああ‼︎」
悲鳴をあげてキリトの手から最高傑作を奪い取る。グリップのみとなった最高傑作は、パキィンッと青く四散した。
「な……な……なにすんのよこのー!折れちゃったじゃないのよー‼︎」
涙目でキリトの胸ぐらを掴んだ。
「ご、ごめん!まさか当てた方が折れると思わなくて……」
あーあ……なんでそういうこと言うかなー……。
「それはつまり、あたしの剣がやわっちかったって意味⁉︎」
「えー、あー、うむ、まあ、そうだ」
「うわっ、開き直った」
思わずあたしも口を挟んでしまった。リズはかなり頭に来てるのか、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「い、言っておきますけどね!材料さえあればあんたの剣なんかぽきぽき折れちゃうくらいのを幾らでも鍛えられるんですからね!」
……あーあ、リズもなんでそういう事言うのかなー。
「ほほう」
当然、キリトもニヤリと微笑み返す。
「そりゃあぜひお願いしたいね。これがポキポキ折れる奴をね」
「そこまで言ったからには全部付き合ってもらうわよ!金属取りに行くとこからね!」
まさに売り言葉に買い言葉。まるで子供の喧嘩のようになってる二人の会話をあたしは黙って聞いていた。
「……そりゃ構わないけどね。俺一人の方がいいんじゃないのか?」
「いいわよ別に!こっちにはあんたなんかより強い雑用がいるし!」
え?リズさん?なんであたしを見るの?
「俺より強いって……カンザキが?」
「そうよ!この前、カンザキが『黒の剣士に剣技を教えたのは俺だぁ〜‼︎』って言ってたわよ‼︎」
ジロリとあたしを睨むキリト。あたしはすぐに目を逸らした。
い、いや〜……あれは酔った勢いで言ったといいますか……。てかこの世界の酒でも酔っ払うことに驚いたわあの時は。
「へぇ?その話、聞かせてくれるか?金属を取りに行きながら、な」
「………はい」
あ、あははは……ははっ……はぁ………。