俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが 作:杉山杉崎杉田
「はい、これが私の今の盾付き片手剣で一番良いの」
リズに渡された剣は、円形の盾にちょうど自分の腕と同じくらいの長さの、若干長めの剣。
「おお〜、これにしよう」
「あんたねぇ、仮にも攻略組ならもっとちゃんと決めた方がいいんじゃないの?」
「だって最高の武器なんでしょ?疑う余地ないじゃないですか」
スラントを軽く放ちながら呟く。うん、問題なし。
「そ、それでさーリズさん……」
「んー?どしたの?」
「お願いがあるんですけど……」
「何?し、しばらく匿ってくれないかなーって……」
「は?匿う?」
「はい……。その、色々ありまして……アスナさんが私のこと血眼になって探してて……」
「………あんた何したのよ」
「いや、その……むしろ何もしてなかったからこうなったと言いますか……。とにかくお願いします!」
「まぁ、いいけど……。その代わり、ここで住む以上はちゃんと働いてもらうわよ」
「はい?働く?」
「レジとか。お願いね」
『おいおいマジかよこの女。仮にもアイドルに働かせるとか贅沢にもほどがあんだろ』
『あんたほんと黙ってて』
ほんとうるさいな、兄は。
「分かりましたよ……。でも、なるべく裏方が良いんですけど」
「あんた鍛冶スキルあんの?」
「ないです……」
まぁ、アスナさえ来なけりゃ大丈夫でしょ。
*
数日後、たまに来る客の相手をテキトーにしながら、あたしはリズの武具店で安全に暮らしていた。街ではたまに、「KANZAKIっぽいのがあの武具店にいる」と噂になってるが、それもリンダース街の中だけで留まってるので、まぁ大丈夫だろう。
ちゃんと、お昼はエギルには会いに行って振り付けの練習もしてるし、この様子ならアスナの怒りが収まるまではこの調子でいけるだろう。
と、まさにこれがフラグを立てたことになっちまったんだろうな。
「すみませーん」
カランコロンと、見覚えのある長い茶髪が店に入って来て、あたしは慌ててレジの裏に隠れた。
「ん? 今誰かいたような……」
あっっっっっぶねえええええ!心臓張り裂けるかと思った。
「ま、いいや」
アスナはそう言うと、レジのすぐ横の扉を開け、店の裏に入って行った。気付かれなかったのが不思議なくらいだ。
が、これはチャンスでもある。バレないように足音を潜めて店から出て、店の裏の窓から中の様子を見た。
あたしのことを探しに来られてたら終わりだ。が、逆に武器の修理とかであれば問題ない。むしろ、今日修理したということであれば、しばらくは修理の必要がなくなるから、ここが安全である可能性は跳ね上がるのだ。
こっそりと窓から中の様子を覗く。聞き耳スキルなんてもんは付けてないから声は聞こえないが、大体は様子見れば分かる。
「……………」
どうやら、防具の修理にようだ。あと、剣の耐久値調整に。よし、これなら問題ない。そう思って息をついたときだ。
「何してんのカンザキ?」
「アヒョッ⁉︎」
キリトが目の前にいた。
「び、び、び、ビックリしたなキリトさん!」
「ん、悪い。何してんのかなーってそんなとこで」
「な、何もしてないですよ。それより、なんでキリトさんがここに?」
「ここの武具店アスナにオススメって言われて来たんだよ」
あーなるほど。鍛冶屋としての腕は確かだしね。まぁ、多分知り合い紹介したかっただけなんだろうけど。
「じゃ、入るか。カンザキも行くのか?」
「いや待った!」
「ん?」
「は、入るのはあと10分後くらいにしませんか……?」
「なんでだよ」
「ち、ちょーっと、色々ありまして……」
こいつ中に入れたら絶対アスナにあたしがいることチクるからなぁ。それだけは勘弁。
「まぁ、カンザキがそう言うなら俺もそうするよ」
「助かります……。じゃあ、近くの喫茶店にでも行きましょうか」
「おう」
プチデート気分だった。