俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが 作:杉山杉崎杉田
数日後、ライブを終えて、あたしは少しの間お休みをもらえた。
「はぁ……にしても、二重人格ねぇ……」
なんというか、二重人格って漫画やアニメの世界だけのアレだと思ってたのに……。でも実感はある。この前、もう一人のあたしと会ったのだから。いや、まぁ外見はあたしと全く同じだったけどね。リアルの身体が出て来なかったのはなんでなんだろ。まぁどうでもいいけど。
「久々に攻略でもしようか」
着替えてサングラスとヘッドホンと帽子を被って、あたしは家を出た。
*
最前戦。目の前にはモンスターがザッと5匹。この前、アスナにしごかれたからある程度は戦えるはずだ。片手剣を抜いて、モンスター相手に相対する。
「………ッ‼︎」
肩慣らしに、ソードスキルを発動。ホリゾンタル・スクエアの一撃目をモンスターに当てた直後、バギンッと嫌な音が響いた。
刀身がなくなっていた。その直後に、青く光って四散する剣。
「嘘おおおおおおおおお‼︎」
なんで⁉︎なんで⁉︎なん……!そうか!もうしばらく戦ってなかったから武器の耐久値が逝ったんだ。イッケネー☆
『グオオオオオ‼︎』
「あーーーーーッ‼︎ごめんなさい!ごめんなさい!」
慌てて転がりながら攻撃を回避する。そのままBダッシュで逃げた。
今は街の前の門。………にしても、まさか武器が折れるとは……。全然武器新調してなかったしなぁ……。というかこれ、もう60層辺りから変えてなかった気もする。あれ?これ普通の武器だったら普通にアスナとかと同レベルなんじゃね?
まぁ金ならいくらでもあるし、何の武器買っても問題ないか。せっかくだからエギルの店で。
そう決めると、街に入ってあたしはエギルの店に入った。直後、固まった。中にはキリトとアスナがいたからだ。
「あ、カンザキ」
「カンザキちゃん」
二人してあたしに声を掛けた。にっこりとアスナがあたしに微笑んだ。「お前、今からしごく」という目だ。
そのまま固まること数秒、あたしは無言のまま一歩後ろに退がった。直後、ダッシュで逃げた。
「お、おい⁉︎」
「何で逃げるのよ!」
無視!無視で逃げる。当然追いかけて来るアスナと何故かキリト。
「ハッ、ハッ、ハッ……」
『おい!』
「! え、えっと……お兄ちゃん?」
『お兄ちゃんって言うな。そう俺を呼んでいいのは詩乃だけだ』
「それで、何?」
『こんな逃げ方じゃ追いつかれんぞ。鬼ごっことかやったことねぇのかよ』
「あるわけないじゃん!あたしまだ1歳くらいだからね⁉︎」
『しゃーねーな。変われ!』
「え?うんっ。『お兄ちゃん』」
たらららーん
「っしゃ、久々に身体動かせる!」
そう言うと俺は入り組んだ道を使う。人の家の中に平気で上がり込んでは窓から出たりした。
『すごい……!アスナと距離がドンドン離れてく。やるじゃん!』
「いやお前より俺の方が人生経験豊富だからね?」
そんなことを話しながら俺はフィールドに逃げた。そこでようやく転移結晶を使う。
「転移!ここじゃない何処か!」
『あほか!そんなことできるわけないでしょ⁉︎かわんなさい!』
「カンザキ」
たらららーん
「転移!リンダース!」
あたしは55層に飛んだ。
*
ふぅ……助かった。エギルの店が使えない今、あたしは結局ここに来るしかない。武器のために。
『おい、なんでここに来たんだよ』
「もう引っ込んでて」
『アッハイ』
黙らせると、あたしは一つの水車付きの小屋の中に入った。
「リズベッド武具店へ……って、なんだ。カンザキか」
「こんにちは。リズさん、変装してるのにあたしだって分かっちゃうんですか?」
「そりゃ分かるわよ」
『うわっ、お前の擬態パーペキ過ぎwww誰?www』
『殴るぞ』
『ごめんなさい』
「それで、今日はどうしたの?」
「ちょっと新しい武器が欲しくて……」
「珍しいわね」
「まぁ、流石に60層から変えてませんからね……。一応あたし、アイドル兼攻略組ですからっ」
「それで、どんなのが欲しいの?」
「盾持ち片手剣」
『えーたまには斧とかにしようぜ』
「だーってろカス」
「へっ?」
「『なんでもない』」
「あれ?今声がブレて聞こえたような……」
まぁいいや、とリズは店の奥に剣を取りに行った。ふぅ……危なかった。
『てか何なの?さっきから五月蝿いんだけどあたしの中のあたし。殺されたいの?』
『やってみろやこら。俺が死んだらお前も道連れだからな?』
『は?あんたが死んだらあんたの全てがあたしのものになるだけでしょ』
『いいんだな?お前リアル戻ったら股間になんか生えてんの気にならねーんだな?』
『上等だよ』
『は?』
『あ?』
「お待たせ〜」
「全然待ってませんよ♪」
苦労しそうだった。