俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが   作:杉山杉崎杉田

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2話 戦い方が分からない

手鏡が配布されない、というのはもちろん大事件なわけだが、そうでなくても大事件なわけで。仮想世界の中に閉じ込められてしまった。脱出するにはただ一つ、クリアするしかない。ただし、死んだらそこで人生の卒業式。

まぁそれはアレだ。死ななければいいってことだよね。死なないためにはどうすればいいか、簡単だ。圏内で待機してればいい。だが、それだと退屈過ぎて死ねる。

なら、死のうとしても死ねないほど強くなるしかない。死ねないほど強くなるとか可能か?可能だ。何故なら、ここは仮想世界、現実世界じゃないからだ。

よし、結論は出た。俺はとりあえず強くなって、死ねなくなる。

 

 

そう結論を出して、俺は早速走って街を出た。ここが何処だか分からないが、とりあえずモンスターと戦いたかった。

すると、早速猪のお出ましだ。フシューッと鼻息を荒立てながら俺の前に立つ。猪かー。確か、ダイエットしてる時に肉を食いたくなったら猪の肉がいいんだったな。

いや別に俺はダイエットしてないし、猪を食った事もないけど。

ほんのりと頭の中でそんな事を考えてると、猪が突進して来た。

 

「うおっ⁉︎」

 

さ、流石野生の動物!何も言わずに攻撃かましてくるとかどんな教育受けてんだよ!頭の中で叱りつけながら、なんとか回避した。

 

「っぶないなぁ……!」

 

そう焦れたように言うと、俺は剣を抜いた。ってこの剣ダサッ!初期装備にしてももう少しかっこよくしてくれよ!モンハン3rdみたいに!

 

「お返し、だ!」

 

言いながら、ダサダサブレード(命名:俺)を振り回し、猪のケツを斬ろうとした。だが、なんだか身体を思うように動かせない。

 

「そ、そういえば初戦闘だった……」

 

ヤバイんじゃないのこれ?ピンチじゃない?

 

「って、おわ!」

 

猪の猛攻を躱す、躱す、そして躱す。ヤベェー、逆になんで躱せるんだ俺……。そんな事を考えながらも躱す。

 

「っのやろ……いい加減に、しろ!」

 

言いながら真ん前から走ってくる猪に向かって、若干右に出ながら剣を振り抜いた。スパァンと気持ちの良い音を立てて、猪に赤い閃光が通る。どうやら、ダメージは入ったようだ。

 

「よしっ……!」

 

猪の方を振り向いて、剣を構える。剣道とかフェンシングをやってたわけでもないので、とりあえず剣を使うアニメでよく見る構えを取った。脚を大きく縦に開き、剣を持つ右手を引いて、刃を顔の横に置いて、左手は猪に向かって大きく伸ばす。

 

「来い!」

 

ヤバイ、カッコイイ。今なら負ける気がしねぇ。そして猪が俺に突進して来た。さて、次で決めるッ!

………あれ?この構えから何すりゃいいかわかんねぇや。つーか何この構え、突きしか放てねぇじゃん。いやでも突進して来てるところに突きなんて放ったら腕折れちゃうじゃん。いや、ゲームだから折れねぇだろ。なんて考えてると、目の前に猪が迫っていた。あ、やべっ。

 

「まごふっ‼︎」

 

見事に跳ねられた。交通事故かよ。空中でトリプルアクセル+ダブルトゥループを華麗に舞った後、頭から落ちた。ヤベェ、リアルだったら死んでるな。ってことは、むしろこっちの世界の方が安全なんじゃないか?(錯乱)。

プルプルと生まれたての小鹿のように起き上がってると、猪が二回目の突進をして来ていた。ヤバい……死ぬかも……。若干、覚悟して目を瞑ると、その猪に線が入った。

 

「えっ?」

 

間抜けな声を上げた直後、猪が青くなり、パキィィィンと砕け散った。へぇ、死ぬとこういう風になるのか……。っと、その前にお礼を言わないと。このタイミングで何もしてない俺が助かるわけがない。

キョロキョロと起き上がって首を振ると、黒い髪の少年が立っていた。

 

「お……」

 

……おお、あんたが助けてくれたのか。サンキューな。と言いかけて止まった。今の俺は外見は女だ。そんながさつな女が二次元以外でいるはずがない。どうせバラしてもこんな状況では相手を混乱させるだけだ。

 

「……おー、ビックリしたぁ……」

 

上手くごまかした。

 

「ご、ごめんね。助けてもらっちゃって」

 

「いや、いい」

 

無愛想にそいつはそっぽを向いた。んだよその態度、助けてくれたからってお前のが目上ってわけじゃねんだぞ、と思ったら若干顔を赤らめている。あ、照れてんのかこいつ。俺も男だからよく分かる。しかも、俺の作ったキャラは超絶可愛い子、照れないわけがない。

 

「ねぇねえ、あなた名前なんて言うんですかぁ?」

 

少し甘えた声を出してみた。元々、声は高いので裏声を出す必要もない。

 

「え、き、キリトだけど……」

 

「キリトさん、ですね。うん、覚えた!」

 

パァッと満面の笑みを浮かべた。

 

「あたしはカンザキって言います。あの、良かったら、あたしに戦い方とか教えてもらえませんか?」

 

「君は、攻略を目指すつもりなのか?」

 

「は、はい。あたしだけ何もしないのはちょっと、あたし的にそういうのは許せなくて……微力かもしれませんけど、あたしは強くなりたい、から……」

 

途切れ途切れにそう言いつつ、俯く。すると、キリトはどうしようか迷ったものの、ため息をついた。

 

「戦い方は教えてあげるよ。だけど、一緒に攻略はしない。それでいいならいいよ」

 

あ?ヤケに区切りをつけてきやがるな。まぁ俺も男に色目を使う必要はないし、戦い方を教われれば、こいつは用済みだ。

 

「わかりました。よろしくお願いします」

 

微笑みながら言うと、キリトも微笑んで「よろしく」と答えた。

 

 


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