俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが   作:杉山杉崎杉田

19 / 36
19話 交信します

 

 

今日もあたしは振り付けの練習。エギルとクラインの目の前で踊らされている。

 

「よっ、ほっ、とっ……。こんな感じ?」

 

「いいぞ。この調子なら次のライブ間に合いそうだな」

 

「ああ……そりゃいいんだが、キリの字は何処だ?」

 

「さぁな。今日はアインクラッドの最高気温だなんだと抜かしてたぜ」

 

「ふーん……ま、野郎のことだから昼寝でもしてんだろ」

 

こいつら……人を躍らせといて世間話とは……。まぁいいや。あたしもライブで失敗するのは嫌だし。さて、もっと頑張ろう。

 

「あ、カンザキ。これ次の歌詞だ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

お礼を言って、あたしは歌詞を受け取った。えーっと、タイトルは……お兄ちゃんへの下剋上?

 

たらららーん

 

「あああああああああああッッッ‼︎‼︎」

 

俺の絶叫が部屋中に響いた。エギルもクラインもビクッと肩を震え上がらせるが、俺はそれどころじゃない。

だから男だよ俺!何アイドルとかノリノリでやってんの⁉︎何こんな可愛い服装してんの⁉︎超似合ってるし!

 

「何やってんだ俺!この俺が!この俺が!この俺が!」

 

ガンッガンッガンッガンッと壁を頭に打ち付ける。その俺に二人が言った。

 

「お、おい!カンザキ!何してんだ!」

 

「大丈夫かよカンちゃん!」

 

たらららーん

 

「あ、あれ……?あたし………」

 

壁に頭打ち付けてた……?いや、でも薄っすらだけど覚えてる……。あたしは、確か……。

 

「おい、カンザキ?」

 

「だ、大丈夫?」

 

おそるおそる、といった感じでエギルとクラインが声を掛けてきた。あ、やばっ……シリカちゃんの時は誤魔化せたかもだけど、この二人の場合は……でも、誤魔化すしかない。

 

「あ、うん。大丈夫ですよ。ごめんなさい、具合悪いので今日は……」

 

「そ、そうだな……」

 

「そうみたいだし、今日は休めよ」

 

「はい……。すみません」

 

「「お大事に」」

 

あたしは自分のホームに戻った。

 

 

自宅。あたしはベッドに寝転がった。

あたし………男、なの?いや、そんなはずない。あたしは女だ。この世界の人間は身体も顔もリアルまんまのはずだ。胸に仄かな膨らみがあって(本当に仄かな)、股間に棒はなく、むしろ穴の空いたあたしは女だ。けど、本当にそう?むかし、妹に「お兄ちゃん」と呼ばれた覚えはあっても「お姉ちゃん」と呼ばれた覚えはない。どっちだ。あたしは一体………。

聞いてみるか、あたしと思われる方に。

出来るかどうかは分からないが、あたしは目を閉じて心の中で呼び掛けた。

確か、お兄ちゃんって呼ぶと、出て来てたよね……。

 

『お兄ちゃん』

 

直後、あたしの中にもう一人のあたしが現れた。姿はあたしまんまだ。

 

『よう、やっと会えたな。カンザキ』

 

『………あんたは?』

 

『元々、お前だった者で、お前の生みの親みたいなもんかな。その身体も顔も全部俺が作ったんだ』

 

『………なら、あんたに言いたいことが一つある』

 

『なんだよ』

 

『なんでもっとオッパイ大きくしなかったの⁉︎』

 

『…………は?』

 

『見たでしょあんたも!アスナのあのバインバインな胸!それに引き換えあたしのは何⁉︎ロードローラーの通った跡ですか⁉︎』

 

『そりゃお前、俺の好みだろ』

 

『自分の好みで他人を作らないで!そもそも何?女キャラ作るなんてあんたほんとの変態?』

 

『男はみんなこんなもんだっつーの!一回くらい女になりてーって思う時がくんの!』

 

『あたしは男になりたいなんて思ったことないもん』

 

『いやお前男だからね元々』

 

『しかも、薄っすらとま☆毛生やしてるところがマニアックだし……』

 

『ほっとけ。その身体は元々、俺がなるもんだったし、まさかこんな事になるとは思ってなかった。ましては、手鏡もらえずに一人だけネカマ通してる上に二重人格になるなんて誰が思うよ』

 

『! 二重人格……なんだよね。やっぱり………』

 

『ああ、そうだろうな』

 

『……………』

 

『ま、なっちまったもんは仕方ないよ。その身体はお前にやる』

 

『へっ………?』

 

『その代わり、リアルに戻った時の身体は俺のもんだ。いいな?』

 

『う、うん。いいけど……。良いの?この身体……あんたが自分の物にしたいから作ったんじゃ……』

 

『お前という人格が芽生えちまった以上、身体が欲しいだろ?このゲームクリアするまではその身体をやる』

 

『で、でも!このゲームクリア出来ないかもよ?』

 

『どちらにしろ、俺よりお前の方が強いだろ。俺じゃこのレベルのこいつは使いこなせんし、何よりライブとか無理だ』

 

『………なんか、ごめんね。他人の体で好き勝手やっちゃって』

 

『気にすんな。じゃ、そろそろ戻れよ』

 

『………うんっ』

 

『あ、一応行っとくぞ。万が一にも俺が必要になれば、「兄」に関係するワードを強く願え。元に戻る時は他人に「カンザキ」って言って貰えば直る。はずだ』

 

『うん、わかった。またね』

 

『おー』

 

あたしは、もう一人の自分となんとか話を付けた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。