俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが 作:杉山杉崎杉田
無事にタイタンズハンドを捉え、あたしはようやく自分のホームに戻る……予定だった。
「ほら!スイッチ!」
「笛吹和義?」
「そっちじゃないわよ!真面目にやんなさい!」
しごかれながら攻略に勤しんでいた。あー、やだなー。やめたいなー。
「ちょっと待ってくださいよぅ……。休憩にしましょうよ……」
「ダメよ。つい30分前にしたばかりじゃない」
「そんなぁ……」
最近はアイドル業ばかりで攻略なんて本気で久しぶりだ。
「まったく情けない……どうしてそんな体力なくなっちゃったのよ」
「体力だけならあります。ライブやる体力なら」
「そんなの、攻略に何の役にも立たないでしょう」
本気で言ってんのかなこの人。誰のお陰でここまで攻略組増えたと思ってんの?
「とにかく、しばらくアイドル業は休み!私と攻略だから、そのつもりでいてね!」
「ええ⁉︎ヤダよ!冗談じゃないよ!」
1日20時間攻略とか舐めてる!
「駄目よ、あなたのその弛んだ精神を私が鍛え直して上げる」
「転移!」
「あっ、待ちなさい!」
当然、あたしは逃げた。しばらくエギルの店で匿ってもらおう。
「エギルさぁん♪」
実にあざとく音符を付けて呼ぶと、エギルは一発で出てきた。
「おう、カンザキ。今までどこ行ってたんだ?」
「KANZAKI出張サービス。それより、アスナさんが来るまで匿ってもらえませんか?」
「おう。任せろ。あ、スポンサーと打ち合わせしながらになるけどいいか?」
「いいけど」
「血盟騎士団となんだけど」
「良くないですよー!それダメなやつでしょ!」
「血盟騎士団のダイゼンって人だ。あと団長が直々に来るから副団長様は来ないよ。安心しろ」
「ならいいけど……」
「じゃ、しばらくここにいろ」
と、いうわけであたしはエギルの店の二階の部屋で寝転がった。
………にしても、途中でシリカちゃんといるときに記憶が飛んだんだよなぁ……。何か、重要なことを思い出してた気がするんだけど……。確か、兄やら姉やらの話をしてた時……。
だめだ思い出せない。何があったんだっけかなぁ。必死に思い出そうとしてると、コンコンとノックの音がした。
「あ、はーい」
入って来たのはスポンサーさんの血盟騎士団、ヒースクリフとダイゼンだ。その後ろからエギルがやって来た。
「こんにちは。KANZAKIさん」
「どうも。ヒースクリフさん」
お互いに会釈する。この人、あまり表立った仕事はしないらしいが、あたしと会う時は必ず来る。やっぱ男なんてこんなもんだ。
「じゃ、これからの方針について話しましょう」
話し合いが始まった。
*
話し合いが終わり、あたしは早速新曲の練習。聞けば、あたしの曲は、ヒースクリフとエギルが共同で作ってるらしい。スポンサーというより、ほとんどプロデューサーに近いよね。
「ホッ、ホッ、ホッと、ここでターン☆」
口ずさみながら振り付けを確認する。やっぱアレだね。攻略より踊ってた方が楽しい。
エギルの店の二階で振り付けの練習してれば、自然と時間が経つのも早く感じる。気が付けば夜になっていた。ここでステップ、ここで笑顔、また回って決めポーズ。
「いえーい」
ふう、疲れた。今日はもう終わりでいいかな。自宅は多分アスナに張られてて入れないし、エギルの家に泊まっちゃおう。
歌詞覚えるのは……明日でいいかな。そう思いながら、あたしは全裸になってシャワールームを借りて軽く浴びると、パジャマに着替えて寝た。