俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが 作:杉山杉崎杉田
食事を終えて、あたしはシリカと部屋に戻った。
「じゃ、寝ちゃおうか」
「は、はい!」
「? 何緊張してるの?」
「な、なななんでもないです!」
………ああ、そうか。アイドルと同じベッドで寝るからか。そんな気にすることないのに。
あたしは布団の中に入ると、毛布を空けてベッドをポンポンと叩いた。
「ほら、おいで」
「は、はい……」
カチコチとロボットダンスのような動きであたしの隣に寝転ぶシリカ。何この子可愛い。
シリカがあたしの横に寝転んだのを確認すると、毛布をあたしとシリカの上に掛ける。すると、シリカはあたしの腕をちょこんと握った。
「? シリカ?」
「ご、ごめんなさい!」
「や、いいけど……」
ああ、そうか。この子さっき死にかけたてたし、ペットは死んだし、明日は自分一人では攻略できない場所行くしで、今になって若干怖くなってきてるのか。これが男なら甘ったれんなと蹴り落としてる所だが、シリカだしむしろ男前に行こう。
あたしはシリカの上に手を添えた。
「……大丈夫、大丈夫だよ」
「!」
意図を読まれて恥ずかしくなったのか、カアッと赤面するシリカ。
「お、おやすみなさい!」
慌てて反対側に体ごと回転させて寝てしまった。……さて、俺も寝るか。………ん?俺?まぁいいや、眠ぃ。
*
翌日、あたしとシリカは47層に来た。この層には本当はあまり来たくなかった。何故かって?腹立つカップルが腹立つほど群がってるから。うっぜーわ、けっ、爆死しろこの野郎共が。
「じゃ、(ムカつくから)行こうかシリカちゃん」
「は、はい!」
こっちの邪心などまるで気付かずにシリカは頷いた。二人でフィールドを進む中、モンスターが現れた。んー、どうしよっかな。こんなの、あたし一人いれば余裕なんだけど、せっかくだからシリカのレベル上げに付き合ってもいいかもしれない。この子、あたしのファンっぽいし。
まったく、あたしのライブ見てもらうためにあたしがレベル上げ手伝うなんてサービス過ぎるなぁ。エギルとかにバレたら超怒られそう。
「シリカちゃん」
「な、なんですか⁉︎」
「ついでだから、シリカちゃんのレベルも上げちゃおうか」
「い、いいんですか⁉︎」
「うん」
言いながらあたしは目の前のモンスターの前に立った。そのあたしに向かって来る触手。それを片手で受け止めると、触手をズバッと叩き斬った。
「っ⁉︎」
その調子でモンスターの触手を全部斬ると、シリカに言った。
「ほら、シリカちゃん」
「は、はい!」
ダガーを抜いてシリカはソードスキルを使ってモンスターを倒した。
「ふぅ……」
「な、なんかすごいですねカンザ……お姉ちゃん」
「ん?なんで?」
「何というか……戦い方が男前というかなんというか……」
「え、そ、そう?」
「それに、なんか人を守るのに慣れてるというか……もしかして、妹さんがいたりします?」
「あーうん。いるよ」
まぁ、一回だけ護ったといえば護ったことはあるけど。そういやあれ以来、妹とは話してないや。
「どんな子だったか、聞いてもいいですか?」
「知らない」
「………へっ?」
「や、ちょーっとね。色々あって、3、4年くらい前から一回も話してないんだ」
「な、なんで、ですか?」
「うん……ちょっと、トラウマに近いから話したくない、かな」
「そ、そうですか?ゴメンなさい……」
「ううん、気にしないで」
あー、うちの妹もこのくらい素直ならなー。あたしのことを兄と呼んでくれたのは幼稚園くらいの時までだったなぁ……というか、アニメイトに入るところ見られてから名前呼びだったっけ……。アニメイトめぇ……許さん、アニメイト……むしろ兄ロストだろ……ん?兄……?兄って……、
たらららーん
「ああああああああああああああああッッ‼︎‼︎」
絶叫した。
「な、なんですか⁉︎まさか、トラウマが……⁉︎」
「ち、違う違う違う!シリカちゃんの所為じゃないからね⁉︎」
……オレ、兄じゃん!男じゃん!わ、忘れてたあああああッッ‼︎
「ちょっ、何やってるんですかお姉ちゃん⁉︎」
「俺を姉と呼ぶなぁああああ‼︎」
ガンッガンッとその辺の木に頭を打ち付ける。な、なんということだ……!まさか、キャラを作ってる間に我を失い本物の玉無しになっていたとは!この俺がッ!この俺がッ!この俺がッ!
「お、落ち着いてくださいカンザキさん!」
たらららーん
「あ、あれ……?あたし、何して……」
何やってたんだろう……確か、お兄ちゃんだなんだとシリカと妹の話をしてて、それで……。
「だ、大丈夫ですか?」
「う、うん……大丈夫……」
何してたんだろう、あたし……。ま、いっか。忘れよう。頭突きの練習してたと思えばいいや。
「行こっか、シリカちゃん」
「は、はい」
先に進んだ。