俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが   作:杉山杉崎杉田

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15話 プライド

 

「さて、この後どうしよっか」

 

シリカに声を掛けたのだが、緊張してるのか、口をガチガチ鳴らし、身体なんてブルブルと震えさせている。

 

「あの、シリカちゃん?」

 

「ふぁ、ふぁい!なんでしょうカンザ……」

 

「ちょっ、ストップ!」

 

慌てて口を塞いだ。何を言い出すんだ大声で。

 

「あのね?さっき言ったよね?あたしの正体秘密って言ったよね?ここでサイン会開かれたいの?」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「さて、それじゃあとりあえず、街までもどろっか?」

 

「は、はい!」

 

 

35層主街区は、白壁に赤い屋根の建物が並んでいる、ぼっかぼっかと音がしそうなほど牧歌的な村のたたずまいだった。

あまりこの辺りの記憶はあたしには無いので、物珍しそうに辺りを見回しながら歩く。……というか、最近「あたし」という、一人称を使う度になんか違和感がするな。なんだろう。何か大切なことな気がするんだが……。

考え事をしながら歩いてると、いかにもあたしのことを好きそうな男達が近寄ってきた。

 

「シリカちゃん!大丈夫だった?心配したよー」

 

「あの、それでパーティの件なんだけど……」

 

目的あたしじゃなかった。……ちょっと、イラッとしたな。

 

「あ、あの……お話はありがたいんですけど……しばらくこの方?と、パーティを組むことになったので……」

 

シリカがペコペコと頭を下げながら言うと、そいつらはあたしの方をジロリと見た。

 

「おい、あんた」

 

「見ない顔だけど、抜けがけはやめてもらいたいな。俺らはずっと前からこの子に声をかけてたんだぜ」

 

「へぇ、見ない顔、ね?」

 

プライドが傷付いた。あたしはほんの一瞬、帽子とサングラスをズラした。直後、固まる男達。

 

「あ、あんたは……!」

 

「か、カカカカンザ……!」

 

叫び掛けた二人の口をあたしは塞ぐ。

 

「…………誰にも言うなよ。言ったら後でサンドバッグだから」

 

コクコクと頷いたのを確認すると、サービスと口止め料を込めてサインを二人に渡して、シリカの手を引いて横を通り過ぎた。

 

「……すごいね、シリカちゃん。アイドルのあたしより人気者じゃん」

 

「そ、そんなことないです!カンザキさんより上なんて恐れ多い……!」

 

またまた俺は慌てて口を塞いだ。

 

「だーかーらー!学べよ!」

 

「はっ、ご、ごめんなさい……」

 

辺りを見回したが、特に誰も気にした様子はない。……それはそれで少しショックだけど。

 

「あ、それでカン……お、お姉ちゃん」

 

あ、これあかん。

 

「も、もう3回呼んで」

 

「へ?」

 

「ほら、はよ」

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃん?お、お姉ちゃん……」

 

段々、恥ずかしくなったのか、顔を赤くしてシリカはうつむいた。うん、お姉ちゃん呼びも悪くない。……リアルの妹には一度も「お兄ちゃん」と呼ばれたことなかったなぁ……。ん?あれ?お兄ちゃん?あれ?

 

「あ、それでお姉ちゃん。ホームはどこに……」

 

シリカに聞かれて、あたしの思考は途切れた。まぁいいや、今はお姉ちゃん呼びのが重要だ。

 

「あたしはいつも50層だけど……」

 

アスナに張られてるかもしれないからな……。

 

「い、今は帰れないからこっちに泊まろうかな?」

 

「そうですか!あそこの《風見鶏亭》ってあるじゃないですか!あそこのチーズケーキ結構いけるんですよ!」

 

「ほんと?チーズケーキ好きだから楽しみだな」

 

そんな事を話しながらその風見鶏亭の方へ歩く。だが、その途中で五人の集団が出てきた。どっかで見たと思ったらさっきまでシリカがつるんでた連中だ。最後尾にはロザリアの姿もある。

 

「……!」

 

そして、そのロザリアはこっちに気付いた。

 

「あら、シリカじゃない」

 

「………どうも」

 

「へぇーえ、森から脱出できたんだ。よかったわね」

 

挑発的に言うロザリア。

 

「あら?あのトカゲ、どうしちゃったの?」

 

嫌な笑いでさらに痛いところを抉ってきた。まぁ、言うだけ言わせりゃいい。明日にはこいつら引っ捕えるんだから。

だが、シリカはそうはいかない。悔しそうに唇を噛み締めていた。

 

「あらら、もしかしてぇ……?」

 

「死にました……。でも!ピナは絶対に生き返らせます!」

 

「へぇ、ってことは《思い出の丘》に行く気なんだ?でもあんたのレベルで攻略できるの?」

 

「シリカちゃん、行くよ」

 

あたしは無理矢理、シリカの手を引っ張って宿の中へ。

 

「嫌味しか言えない女と話しても、時間の無駄だから」

 

「……なんだって?」

 

あたしの言った言葉に食い付くロザリア。

 

「そのまんまの意味だよ。この子にばかり男を持ってかれて嫉妬してるの?それでも大人かよ……」

 

「なんですって……!」

 

睨み合いが始まりそうな勢いだ。けど、あたしもシリカも暇じゃない。すぐに手を引いて宿に入った。

 

「あんた、覚えてなよ」

 

………掛かった。これで、奴らの網にはあたしも入った。狙われるのは確実だ。あたしは心の中で薄く笑った。

 

 


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