俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが   作:杉山杉崎杉田

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14話 見失った

 

………見失いました。んだよチキショー。もうやめちゃおっかなー面倒だし。また明日からでいいかなー。帰ろっかなーもう。

 

「………あー、転移結晶ないや」

 

補充すんの忘れてた。一回街に戻んないと。あたしは出口に向かうために出口を目指して歩く。のだが、そこで悲鳴に近い声が聞こえた。

 

「ぴ、ピナ⁉︎ピナァーっ!」

 

この幼くて甲高い苛めたくなる声……間違いない、シリだ!カが抜けた。シリカだ!

しかも悲鳴に近い声ということは、ほぼ間違いなく何かピンチということだろう。あたしは急いで声の方向へ向かう。索敵値をフル活用し、走って向かうと、ゴリラが三匹いるのが見えた。三匹とも動かず、下を向いている。

誰かプレイヤーを囲んでるのは間違いなかった。

 

「ッ」

 

走る速さをより一層上げて、木と木を踏み台にしながら接近した。だが、ゴリラはすでに木の棒を振り上げている。

このままじゃ間に合わない。

アイテムストレージからダガーを取り出し、それを思いっきり投げ付けた。ゴリラの首の後ろに刺さり、一撃で青く光って粉々に砕け散る。

 

「ッシャオラ!」

 

思わずそう声を漏らすと、そのままのノリで残りの二体を普通に剣で爆散させた。

 

「………ふぅ」

 

軽く息をついて、シリカの方を見た。

 

「大丈夫?」

 

「………は、はい」

 

おっと、帽子を深く被らねば。正体バレるとその時点でここがサイン会会場と化す。

 

「ほら、立てる?」

 

あたしは手を差し伸べた。すると、シリカは「ありがとうございます……」と控えめに手を取った。

 

「あの、あなたは?」

 

「あたし?カンザ……」

 

キなんて言ったらサイン会だわ。

 

「え、えーっと……通りすがりの勇者Aです」

 

「………?」

 

「なんでもないよ。それより、なんでこんなところでソロ狩りしてるの?見た感じの装備だと、この階層をソロは厳しいと思うんだけど?」

 

実はさっきのやり取り見てました、とは言えないと思ったので、初対面を装った。

 

「そ、その……実はあたし、ついさっきまでパーティ組んでたんですけど……でも、ちょっとしたことで揉め事起こしちゃって……その所為で、ピナも、死んじゃって……」

 

「………ピナ?」

 

マジで?誰か死んじまったのか……だとしたらあたしの所為かもしれないな。

 

「は、はい。あたしの友達です。と、言ってもプレイヤーではないんですけど……あたしにとっては、大切な友達でした……でも、もう……」

 

また目をウルウルさせ始めた。

 

「あー待った!もしかして君、ビーストテイマーだった?」

 

「そうです……。そのあたしの友達のピナが……」

 

「ちょーっと待ってね」

 

「?」

 

確かエギルかキリト辺りがそんな感じのアイテムが取れるとか言ってたような……。メッセージ、と。

 

カンザキ『エギルー。ビーストテイマーのビーストを生き返らせるアイテムってどこにあるなんて花だっけ?』

 

エギル『おお、47層のプネウマの花だが、どうした?』

 

カンザキ『サンキュー。じゃあね』

 

エギル『おい、それより明日のライブの打ち合わせの件なんだが、いいか?』

 

エギル『おーい』

 

エギル『聞いてる?』

 

エギル『見てんだろ?おーい』

 

無視。あたしはシリカのほうを見て言った。

 

「えーっと、プネウマの花っていう47層にあるアイテムなら復活させられるらしいよ」

 

「ほ、本当ですか⁉︎……で、でも、あたしのレベルじゃ47層なんてとても……」

 

ん、待てよ?あたしの勘だとロザリアは多分目の前の子狙ってるんだよね?だったら、この子のピナ助けてついでに餌にしてタイタンズハンド釣り上げればウィンウィンじゃね?

 

「ま、待った!あたしも手伝うよ!」

 

「………へ?」

 

ちょうど息抜きも欲しかったしね。

 

「あたしがそこまで案内してあげるからさ。だから泣かないで、ね?」

 

「……いいんですか?あなたに、迷惑掛かっちゃうんじゃ……」

 

「そんな事ないよ。あたしも息抜き欲しかったし」

 

「息抜き?」

 

「や、何でもない。それより、名前教えてくれるかな?」

 

「あ、そうですね。あたし、シリカっていいます」

 

「シリカちゃんだね?あたしは……」

 

あっ、どう足掻いてもこれ正体バレるぢゃん。パーティ組むからには名前も表示されるし……仕方ないか。

 

「あの、絶対に誰にもバラさないでね?」

 

「へっ?」

 

あたしは帽子を取った。直後、シリカは目を丸くしてポツリと呟いた。

 

「…………嘘」

 

 


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