俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが   作:杉山杉崎杉田

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12話 休日です

 

翌日、()()()は自分のホームで寝ていた。と、いうのもアイドルを始めることになってからは、外出の時は顔を隠す必要がある。それが面倒だからだ。

 

「…………暇」

 

思わずそんな呟きが出た。だって暇なんだもん。明日からはまた仕事、まぁ疲れてるから今日くらいはゆっくりしたいけどさ。どうしよっかなー。

とりあえず、お風呂でも入ろっかな〜♪と、服を全部脱いで下着姿のまま、風呂に入ろうとした時だ。コンコンとノックの音がした。

 

「はいはーい」

 

さっそくお出迎えしようとしたが、自分の姿を省みる。思いっきり着替え中だった。テキトーにアシュレイさんのワンメイク品の服を揃え、ついでに変装もして出た。

 

「はーい、なんですかぁ?」

 

開くと、アスナが立っていた。

 

「やっほー、カンザキ」

 

「アスナー。どしたのー?」

 

「ううん。ちょっと、お話」

 

「とりあえず上がって上がってー」

 

言われて、アスナはお邪魔しますと入って来た。あたしはお茶をテキトーに淹れて、ソファーに座らせた。

 

「ほいっ」

 

「ありがとう」

 

「それで、どしたの?」

 

「……言いにくい、事なんだけどさ。最近、カンザキはアイドルやってるじゃない?」

 

「うん。超やってますね。それで?」

 

「最近、攻略の方をサボってない?」

 

「…………」

 

確かに、と思わざるをえなかった。だって最近はライブだの握手会だのサイン会だのとやらされてばかりだったから戦闘をしていない。

 

「ご、ごめんなさい。でもさ、そのお陰で攻略組も増えてるんだし……」

 

「それとこれとは話が別よ」

 

ぴしゃりと言われてしまい、あたしは思わず黙り込んだ。確かにその通りだ。もう、アスナやキリトに比べてもレベルは2か3は低いと思う。

 

「ご、ごめんね。予定が空いてる日に攻略するから……」

 

「………それっていつよ」

 

「えっとぉ……ちょーっち待ってね〜」

 

言いながらあたしは手帳を取り出した。

 

「明日は次のライブの打ち合わせ……その次はエギルと踊りの振り付けの練習して……その次はクラインと歌の練習、その次はトークショー、その次は……」

 

「全部キャンセルなさい!明日……いえ、今日から攻略開始‼︎異論は認めないわよ‼︎」

 

「や、やだよ!昨日はライブで今日はもうヘトヘトなんだから!」

 

「ダメ‼︎」

 

「ウググッ……!」

 

少なくとも今日攻略だけは避けたい……!

 

「あー!」

 

あたしは窓の外を指差した。それに反応してそっちを見るアスナ。その隙を見て俺は家の外に出た。

 

「あ!こら待ちなさい!」

 

言われても無視して外に出ると、転移結晶を使って逃げた。

 

 

最前線のゲート広場。流石にアスナには悪いと思っているので、あたしはとりあえず迷宮区に向かおうとした。その時だ。

 

「頼む!みんなの……みんなの仇を討ってくれ!」

 

そんな声が聞こえた。何事かと思ったら、男の人がすれ違ういろんな人に声をかけていた。全部無視されている。

………ああいうの、ほっとけないタチなんだよなぁ、あたし。

 

「……あの、どうかしたんですか?」

 

「! あんたは……?いや、そんなことはいい。仇討ちを

してくれ!」

 

「わ、わかりましたから落ち着いて。まずはお話を聞きますから」

 

そんなわけで、近くの酒場へ。あたしはテキトーに飲み物を二人分購入し、その男の前に置いた。

 

「はい」

 

「………すまん。ありがとう」

 

言いながら一口飲むと、その男は話し出した。

 

「俺はシルバーフラグスっていうギルドのリーダーをやっていたんだ」

 

聞いたことない。中層レベルのギルドか?

 

「俺たちのギルドはまだ弱小ギルドだったけど、夢があったんだ。《KANZAKI》のライブを見に行こうって、いつもみんなで笑ってた」

 

目の前にいるんだけどね《KANZAKI》。

 

「だけど10日前、38層で《タイタンズハンド》っていうオレンジギルドに襲われ、アイテムも仲間も何もかも、奪われたんだ……‼︎」

 

ギリッと奥歯を噛む男。怒りと悲しみが痛い程あたしに届いてきた気がした。

 

「だから、頼む。あんた、攻略組だろ?あいつらを、黒鉄宮の牢獄に入れてくれ。頼む!」

 

頭を下げられた。あたしはしばらく腕を組んで悩んだあと、言った。

 

「………分かった。いいよ」

 

「! 本当か?」

 

「うん。今、そいつらが何層にいるかとかは分かる?」

 

「分からない。ただ、もしかしたらまだ38層前後にいるかもしれない」

 

「オーケー、任せて下さい」

 

「あ、待ってくれ!」

 

今度は何?と思ってみると、男はアイテムストレージからアイテムを一つ取り出した。それは回廊結晶だった。

 

「これを……頼む」

 

「?」

 

「出口は黒鉄宮に設定してある。俺が全財産叩いて買ったものだ。これで、奴らを……」

 

「………分かりました」

 

ニコッと微笑んだ後、あたしはシステム窓を開いた。これはサービス料だ。

 

「ねぇ、誰にも言わないって約束出来る?」

 

「? 何がだ?」

 

「いいから」

 

「わ、分かった」

 

その返事を聞くと、あたしは頭のサングラスと帽子を取った。つまり、《KANZAKI》の顔を晒したのだ。

 

「! あんたは……!」

 

「しーっ」

 

人差し指を口の前で立て、ウィンクをしながら言うと、男は顔を赤くして黙り込む。小声で言った。

 

「あなたの依頼は、この『カンザキ』が承りました」

 

それだけ言うと、再び頭にサングラスと帽子をかけた。

 

「次会う時は、強くなってライブに来てね。でも、無理はダメだよ」

 

言うだけ言って、あたしはその場を後にした。

 

 


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