俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが 作:杉山杉崎杉田
あの後、キリトはビーターだなんだと攻められたが、俺には関係ない。全部聞き流した。
で、今は一年と数ヶ月後。今はどっかのスタジオ。デンデロデンデロと音楽が流れる。そして、俺の身体はウイィィィンと音を立てて上に上がって行った。
上を見れば、たくさんのスポットライトが浴びせられていて、激しい音楽と観客の歓声が聞こえて来る。
そして、ステージの上に出た。さぁ、俺の舞台だ!
『いくよぉーーーーーッッ‼︎』
マイクにそう叫ぶと、ウオオオオオオオオオオッッ‼︎と観客から帰って来る。そのままトーク抜きで一曲目「ヘヴィーローション」が始まる。
そう、今日はアイドル「KANZAKI」のライブだ。全力で歌を歌う中、俺は思う。
どうしてこうなった……
と。
*
ことの要因は、ちょうど50階層の攻略が終わった時だ。攻略も進むにつれてモンスターも強くなる。これに関して、キリト、エギル、クラインの三馬鹿と俺が話していた時に、「アイドルでもやれば攻略組も増えるんでない?」という酔っ払ってるとしか思えない提案でこうなったわけだ。
チケットやスタジオとかは全部エギルがやり、残り三人で必死こいて資金を搔き集めまくった。ライブの広告で写真などを撮って、過去の街など全部に貼りまくった結果、そこそこ人気が出て、初ライブでは二百人集まった。
このライブのチケット購入制限は「攻略組」であること。その為にはステータスをエギルやキリトに見せ、判断してもらうしかない。
俺は最初はそんなの集まるわけねぇだろ、とか思っていたのだが、「可愛いは正義」とはよくいったもので、攻略組は馬鹿みたいに増えた。「可愛いは正義」ってこれ、そろそろことわざに入れてもいいんじゃない?
「お疲れ、カンザキ」
ライブが終わり、エギルが俺の横に座った。
「は、はい……お疲れ様ですぅ」
微笑みながら俺は言った。いやー、ネカマだってバレたらレッドプレイヤーでもないのに街に帰れなくなりそうだ。というか、俺今までよくバレなかったな。本気でスパイの才能があるかもしれない。
「しかし、まさかここまで人気出るとはなぁ……」
「ほんとですね……あたしもビックリしてます……」
たはは、といった感じで俺は頭を掻いた。すると、客席からアンコールの声が聞こえる。
「カンザキちゃん!呼んでるよ!」
クラインから言われて、俺は仕方なくため息をつくと、スマイル全開でステージに戻った。
*
ライブが今度こそ終わり、俺は楽屋のソファーに倒れ込んだ。
「うあー!疲れたー!」
「ははは、お疲れカンザキ」
キリトが言いながら飲み物をくれた。
「あ、ありがとうございます」
ストローで飲み物をチューッと啜る。あー……染みるぜぇ〜……。
しかしまぁ、本当こうして見ると、超人気あるな俺。まぁ俺の理想の女の子なんだから当たり前かもしれないが、それでも少し驚いている。まさかこんな事になるなんてなぁ……。
「じゃ、あたし帰りますね……。もうヘトヘトなんで」
「ああ。またな」
「はい」
テキトーに挨拶して、俺は転移結晶を使った。……リアル戻った時には精々、バレないようにしないとな。