俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが   作:杉山杉崎杉田

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10話 リーダーがいない

 

「エギルさん!あたしがタゲ取ってる間にC隊の人を下げて!早く!」

 

「お、おう!」

 

リーダーが死んで、呆然としてるC隊をボスの眼の前で放置しとくのは危険だ。俺の指示はB隊のみんなも理解してくれたし、俺はせめて全員が後ろに引けるまでここを持ち堪えないといけない。

右手の剣を構え、ボスの攻撃をいなした。向こうの攻撃パターンは頭に入ってる。マトモに正面からガードしないで、相手の力を全部いなせばいい。流水岩砕拳ってこんな感覚なのだろうか。

 

「たっ、ほっ、とっ……!」

 

だが、俺一人でいなし切れるわけもない。ボスの刀が刀を横に構えた俺を正面から捉え、大きく斬り飛ばし、俺は地面に叩きつけられた。大丈夫だ、C隊のメンバーはB隊に支えられ、しっかり後ろに下がってる。

 

「大丈夫か⁉︎カンザキ……!」

 

キリトが慌てて俺の横へ駆け寄ってくる。

 

「は、はい。大丈夫です……」

 

たははっ……みたいなスマイルで答えた。

 

「一応、ポーション飲んどきなさい」

 

アスナにも念を押され、俺はポーションを飲んだ。ていうか、今の一撃で俺のHPは赤ゲージになってた。あっぶなかったぁ……。

 

「それで、キリトさん。どうするんですか?」

 

「……そんなの、決まってるだろ」

 

キリトは言いながら立ち上がった。

 

「ディアベルの、弔い合戦だよ」

 

………いいね、そういうの。俺も乗ったぜ。ニヤリと笑って見せて、俺はキリトの横に並んだ。

 

「私もいく。パートナーだから」

 

アスナもそう言って、キリトの反対側の横に立つ。盛り上がってまいりました!

 

「あたしもいれてください。ディアベルさんを助けようと思った時、盾投げ捨てちゃいましたから。もう壁役としての働きはできません」

 

「……ああ、わかったよ」

 

言いながら剣を構える。キリトが全員に言い放った。

 

「全員、出口方向に10歩下がれ!ボスを囲まなければ、範囲攻撃は来ない!」

 

その台詞に全員が従い、キリト、アスナ、俺はボスに突撃した。

 

「アスナ、手順はセンチネルと同じだ!……行くぞ‼︎」

 

「わかった!」

 

目の前のボスは、両手で握っていた野太刀から左手を離し、左の腰だめに構えようとしている。キリトがレイジスパイクを使いながら突進し、ボスが放とうとしていたソートスキルを相殺した。

そこで生まれた隙を、俺とアスナが攻撃する。

 

「セアアッ‼︎」

 

隣でアスナが気合を吐き出しながらリニアーを放ち、俺もほぼ同時にボスの右腹を深々とブチ抜いた。

 

「まだ、終わらね……ないよ‼︎」

 

キャラを忘れかけたが、俺は攻撃を続けた。キリトに戦い方やソードスキルを教えてもらい、キリトと別れ、ただ延々とモンスターを斬り殺してた俺が偶然見つけたシステム外スキル。ソートスキル発動時に体を意図的に動かして、技の速度と威力をブーストする技術。それでソードスキルを連発する。続いてホリゾンタル、その後にまたスラントとソードスキルを連発した。だが、それが7回ほどで途切れる。

 

「ッ……‼︎」

 

「カンザキ、退がれ!」

 

その声と共にキリトが俺の前に出た。そして、俺と全く同じことをやってみせた。オイオイマジかよ、この技俺が編み出すのにどれだけ修行したと……いや、むしろ、俺が習得する遥か前から出来たのか、こいつは。憎たらしい奴め。

しかもさらに憎たらしいことに、キリトはその連撃を俺の倍以上の15回以上は続けていた。

 

「しまっ……!」

 

毒づき、発動しかけた垂直斬りのバーチカルをキャンセルし、右手の剣を引き戻そうとするキリト。だが、そのキリトにボスの刃が振り下ろされる。

 

「やらせるかよッ‼︎」

 

その前に俺が立ち塞がり、渾身のバーチカルを放つ。ボスの野太刀が俺の剣と正面からぶつかり合い、なんとかその攻撃は弾いた。だが、さらにボスの追撃が来る。

 

「んにゃろっ……‼︎」

 

硬直する前に剣の鞘を抜いて、自分の頭の上で剣をクロスして構える。その真上にボスの刀が振り下ろされた。なんとか堪えてはいるが、いつ押しつぶされてもおかしくない。力を十分の一でも抜けば真っ二つにされる。その直後だ。

 

「ぬ……おおおッ‼︎」

 

太い雄叫びと共にソードスキルがボスに直撃した。両手斧系ソードスキル、ワールウインド。エギルがボスにソードスキルを叩き込んだのだ。ボスは大きく怯み、俺はその隙に後ろに一歩下がった。

 

「! エギルさん!」

 

俺が名前を呼ぶと、ニッと微笑むエギル。そして、キリトに言った。

 

「あんたがPOT飲み終えるまで、俺たちが支える。ダメージディーラーにいつまでも壁やられちゃ、立場ないからな」

 

「すまん、頼む」

 

キリトは短く礼を言うと、ポーションを飲む。あれっ、お前攻撃喰らってたっけ?俺の見えないところでカスダメ喰らってたのかな。

あとエギルさん、その「俺たち」には俺は含まれてないよね?

 

「お願いしまー……」

 

「お前は戦うんだよ。元々はB隊だろうが」

 

ひどいよこのオジサン!俺がエギルを睨むと、その周りにはB隊が揃っていた。仕方ないなぁ。俺は予備の片手盾をアイテムストレージから出した。

 

「「予備あるんじゃねぇか‼︎」」

 

キリトとエギルにツッコまれた。それを誤魔化すように俺は「こほん」と咳払いすると、拳を天井に突き上げた。

 

「よぉーっし、みなさん!いざ参りますよぉ!」

 

『ウオォオオオオオオオオッッ‼︎』

 

俺のその台詞に全員の士気が上がる。ちょっと宗教じみてて怖いんだけど……。それを見てキリトが全員にありったけの声で叫んだ。

 

「ボスを後ろまで囲むと全方位攻撃が来るぞ!技の軌道は俺が言うから、正面の奴が受けてくれ!無理にソードスキルで相殺しなくても、盾や武器できっちり守れば大ダメージは食わない!」

 

『おう‼︎』

 

男達の威勢良い声。その後は、キリトの素晴らしい指示と、それに従うプレイヤー達の活躍で、ボスをどんどんと追い詰めた。やがて、ボスのHPが残り3割を下回った。

それを見て気が緩んだのか、壁役の一人が足を縺れさせた。よろめき、立ち止まったのはボスの真後ろ。

あれ、ボスを囲むと範囲攻撃が来るんじゃ……俺の予想通り、ボスが取り囲まれ状態を感知し、獰猛に吠えた後、全身のバネを使って垂直に大きく跳んだ。

 

「させっかよ……‼︎」

 

俺は言うと、キリト!と声を掛け、キリトの前に立ってバレーボールの構えをした。察したキリトが俺に向かって走ってきて、ジャンプして俺の真上に着地する。

 

「ほいっ!」

 

両手を大きく上にブン上げ、キリトを上空に投げ飛ばした。

 

「う……おおあああッ‼︎」

 

吠えながらキリトはソニックリープを放つ。キリトの敏捷力に、俺の投げが加わり、ものすごい勢いでボスに突撃し、ソードスキルを使おうとしていたボスに直撃、クリティカルヒットを起こした。

 

「ぐるうっ!」

 

ボスは間抜けな声とともに床に叩きつけられる。

 

「全員、全力攻撃‼︎囲んでいい!」

 

キリトの声で、全員がボスをぐるりと取り囲み、ソードスキルを連発。これで殺しきれなかったら、範囲攻撃で今度こそ全員やられる。

俺もその袋叩きに参加し、さっきは7発で止まった連撃を12発まで続けてやった。13撃目を放とうとした時、ボスはゆらりと立ち上がった。

 

「ジッと、してろッ‼︎」

 

俺は言うと、さらにバーチカルをボスに叩き込む。その直後に14連撃目のスラントをボスの腹にぶち込んだ。その直後、ほんの一瞬だがボスの動きは遅れる。

 

「アスナ、最後のリニアー、一緒に頼む!」

 

「了解!」

 

後ろからキリトとアスナの声が聞こえた。二人のソードスキルがボスに直撃し、HPゲージをゼロにした。後ろにボスはよろめき、顔を天井に向け、細く吠えると、盛大に四散した。

 

 


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