俺にだけ「手鏡」のアイテムが配布されなかったんだが   作:杉山杉崎杉田

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アインクラッドでアイドルやります
1話 手鏡がない


俺はナーヴギアを被った。今日発売されたVRMMORPG…ソードアート・オンラインを始めるためにだ。今日のために金をたくさん貯めて買った。

別に誰か友達と待ち合わせたりしているわけではない。どちらかというと、ソロで上まで目指すつもりだ。

いやー、にしてもバイト大変だったなーうん。これ買うために寝る間も惜しんで超働いてたからなー。ちなみに今日でバイト全部辞めてやった。だってもう用ないもん。

 

「リンクスタート」

 

そう呟くと、ゲームが始まった。

 

 

テキトーに名前とか性別とか色々設定し、街に立った。なんというか、カンザキ、大地に立つ!的な。あ、カンザキってのは俺の名前な。ちなみに性別は女にした。だってせっかく自分がプレイヤーになるんだぜ?可愛い女の子になりたいでしょ。

てなわけで、思いっきり自分の好みに合わせました。胸は普通、あるといえばあるし、ないといえばない。黒髪で肩くらいまで。身長は155cmと低め。うん、完璧。

さて、じゃあ早速記念すべき一狩りといこうか!と思って街から出ようとしたら、どっかにワープした。

 

「は?」

 

間抜けな声が出た。気が付けば、中央広場まで飛んでいた。

 

「オイオイ、なんで?」

 

中央広場には、これから全校集会でもあるのかってレベルで人が集まっていた。

なんだ?イベント?まだ始まったばかりでイベントは速すぎだろオイ。なんて考えてると、中央広場の中央に黒い巨大な奴が出てきた。

それを見て集められたプレイヤー達はザワザワとざわつき始める。それらを黙らすように黒い巨大な奴は言った。

 

『プレイヤー諸君、私の世界へようこそ』

 

あ、ご丁寧にどうも、と軽く会釈してしまった。でも、なんていうかアレだね。こうでかい黒いローブの奴見ると『超ウルトラ8兄弟』を思い出すね。キングパンドンより普通のパンドンのが僕は好きでした。

 

『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 

………誰?知らないけどまぁいいや。流そう。

 

『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅している事に気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』

 

え、無くなってんの?

 

『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない。また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除もありえない。もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 

…………マジで?それ、死ぬって事だよね?繰り返す。マジで?

 

『諸君が、向こう側に置いてきた肉体を心配する必要はない。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアではこの状況を、繰り返し報道している。今後、諸君の現実の体は、ナーヴギアを装着したまま2時間の回線切断猶予時間のうちに病院その他の施設へ搬送されるだろう。安心してゲーム攻略に励んでほしい』

 

安心できるか!それで安心出来る奴はよっぽど安い心の持ち主なんだな!あれ?ってことはむしろ安い心を持ってないと安心って出来なくね?あれ、わけわかんなくなってきた。

 

『しかし、十分に留意してもらいたい。諸君にとって、《ソードアート・オンライン》はすでにただのゲームではない。もう一つの現実というべき存在だ。今後、ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は通用しない。ヒットポイントがゼロになった時、諸君のアバターは消滅し、同時に諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される』

 

………つまり、何か?これ、HPが吹き飛んだら俺も死ぬって事か?冗談だろオイ。

 

『諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。先に述べた通り、アインクラッド最上部、第百層までたどり着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすれば良い。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう』

 

おお、マジか。一応脱出の手段はあるんだな。いや待て、百層っつったか今?

 

「で、できるわきゃねぇだろうが‼︎ベータじゃろくに上がれなかったって聞いたぞ!」

 

誰かがそう叫んだ。いや俺じゃないよ?確かに、そんな話を聞いた事がある。それを100層までなんて何年かかるか分かったもんじゃない。

 

『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある』

 

なんだろ……ログアウトボタンだったらいいなーと思いながらアイテムストレージを見ると、何も入ってなかった。

 

「………あり?」

 

もしかして、今見てるのアイテムストレージじゃない?いやでも《item》って書いてあるし……あれ?

念の為、周りを見回すと、みんなて鏡のようなものを持っていた。その手鏡がパァッと光りだす。そして、出て来たのは前の顔と全く別人の顔だ。……で、俺の手鏡は?

 

『諸君は今、なぜ、と思っているだろう』

 

そう思ってる。俺の手鏡だけないのが不思議だ。

 

『なぜ私はこんなことをしたのか?これは大規模なテロなのか?あるいは身代金目的の誘拐事件なのか?と』

 

思ってねぇよ。いや思ってるけどまずは手鏡よこせよ。

 

『私の目的は、そのどちらでもない。なぜなら、その状況こそが、私にとって最終的な目的地だからだ。この世界を創り出し、鑑賞するためにのみわたしはナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしらめた』

 

してねぇよ!1人だけ手鏡忘れてるよ!

 

『……以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る』

 

僕の僕の!僕の手鏡は⁉︎おーい!心の中で手を振って叫び続けたが、そのまま黒い影は消えていった。

 

 


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