俺、ハンター辞めて婚活したかった。   作:ラスト・ダンサー

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投稿から2年も経ってるのに未だに続きを待ってくれている方がいるようなので、本当に今さらながら更新。

基本コメントは忙しいので返せないけど感想は目を通してます。待たせたな!

追記:なんか日刊ランキング3位(6/11 AM8:26時点)にいるんだけどこの作品(震え声)


新たなる変化、それは歓迎すべきか否か

行きつけの鍛冶屋の店主に諭され、とりあえず様子だけ見てみるかとギルド主催の合コンに顔を出したが、年齢層が自分より10歳くらい上の飢えた雌の集団に囲まれ、言葉にしたくないので省略するが結果的に若干トラウマを植え付けられつつ枕を涙で濡らした奴がいるらしい。

 

…………俺です(震え声)

 

虚しくなりながらも、のそのそとベットから起き上がると、姿見に映る自分の姿。魔法使い一歩手前の無精髭の生えつつある死んだ目の男が興味無さげにこちらを見ていた。凄まじい虚脱感に何もやりたくないとは思うものの、意識とは別に体が半自動的に溜まったゴミを焼却炉で燃やそうと動いていた。

 

独身生活の賜物か微妙に家事が出来るという無駄な女子力。巷では家事男子やら育児男子やらが一時期騒がれていたが微妙に女子力高い系男子ってどうなのだろうか。

普段はガサツだけどふとしたときに見せる心遣いのギャップを狙う的な。年齢=彼女いない歴の俺にはウケるかどうかもわからない。

 

深いため息をつきながら溜まったゴミを玄関脇の焼却炉に突っ込んで火をつけ、勢いよく燃えだしたことを確認してふとクソ狭い庭先に視線をやると、そこには煤けたレザー装備を身につけたまま力尽きた焼死体……ではなくリサの姿があった。

側にはネコタク業者がおり、話を聞くとなんか街の入り口あたりでくたばっていたのを拾ってきたらしい。

なんでソレ家に持ってくるかなぁ……。

そのまま診療所に放り出されない辺りこいつもハンターらしい耐久性を有しているらしい。

またご近所さんにあらぬ誤解を受けそうな絵面だったので、ネコタク業者のアイルーにチップとして偶然持っていたマタタビを渡し、仕方なくリサを家の中に引きずり込んだ。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「デカくて白いケルビって何?」

 

柄杓ですくった水をぶっかけて叩き起こしたリサの拙い説明を聞いた俺の感想だ。

しかも白いし蒼い一本の角が生えてたらしいし、雷を操ったりするらしい。

リサは呑気に、これケルビのドス個体ですかね!?と息巻いているが、正直に言おう。

 

……リサ、それドスケルビ違う、古龍種のキリンです。

見た目が明らかに龍じゃないって?古龍種は通常の生態系に属さない訳のわからない奴らを一纏めにした生物学に正面から喧嘩を売るような奴らだからね仕方ないね。

それにしても、よくもまぁあの程度で済んだものだ。

古龍種は生きた災害と言っても過言ではないくらい手に負えない連中なのだ。

そんな奴等と初心者用装備でやりあってよく生きていたものだと逆に感心してしまう。

 

「で?キリンがどうしたよ」

 

「キリンってどこに生息してるんですか!?」

 

「さぁ?強いていうならどこでも」

 

「どこでもって……いくらなんでもアバウト過ぎません?」

 

「古龍種ってのは1ヶ所に定住せずに各地を一定の周期で渡り歩くと言われている。理由は知らんがな。キリンはその中で特に出現予測の難しいヤツでな。火山だろうが雪山だろうが現れるし、見つからないときは本当に見つからない。それでついた二つ名が『幻獣』。文字通り幻みたいなヤツなんだよ」

 

「そ……そんなぁ……」

 

何故かガックリと膝を折りジメっとした陰鬱な雰囲気を纏いだしたリサ。

一体なんだというのだこの馬鹿弟子は。

 

「というか生息地を聞いてどうするつもりだったんだ?」

 

「いえ、あの……信じてもらえるかわからないんですけど、私そのドスケルビ「だからキリンな」に見逃されたんですよ。『お前程度殺すまでもない』って感じで。それが何故か異様に悔しくて悔しくて堪らないんです。だから、リベンジしたいなぁ……って」

 

あー、なるほど。確かに俺にも覚えがある。

古龍種全般に言えることだが、奴らは他のモンスターとは違って何か明確な意思のようなものを感じさせられるようなことは稀にある。例を挙げると、キリンに育てられた野生児がいたという記録もある。

それを差し置いても、その考えは現時点では危険だ。

 

「お前馬鹿なの?キリンに黒焦げにされて死ぬの?彼我(ひが)の力量差すら判らないの?」

 

「すごく酷いこと言われた!?」

 

「古龍種は文字通り別格の存在なんだよ。お前のそれは火山の噴火をバケツの水で止めようとするくらいの無謀だよ」

 

「……それって実質無理ってことですよね?」

 

()()な。頑張れば火山の噴火がちょっとした山火事程度に感じられるようになる。古龍種の中でもキリンは比較的弱めな方だからな」

 

「あれで弱め!?」

 

討伐例がそこそこあるので、弱点などが他の古龍より判明しているのである。

それと、キリンは他の古龍種より弱いと断言したが、もちろん理由はある。

生物の体力はその身体の大きさに比例し、大型の飛竜種がタフなのもこれに起因する。

この法則を平気で無視して無尽蔵と思えるほどの底なしの体力を持つ、色々生物としておかしいその他の古龍とは違い、キリンの体力はある程度底が見えているのでまだ楽な方だ。

噂だがとある牙獣種に角をへし折られて食われるらしいが、確証はないので言わないでおこう。

よくドンドルマを襲撃してくる古龍は基本的にこちらが防衛側なのも関係して撃退に追い込むのが限界である。

時間を掛けて徐々に傷を負わせ、弱らせ、逃げたのを追いかけ、それでどうにか討伐出来るかもしれない、そんな気も遠くなるようなタフさを誇る奴等なのだ。

 

まぁ、三行でまとめるとこうだ。

 

古龍

マジで

ヤバイ

 

「まあ、キリンの討伐なんぞ俺でも数年に1度有るか無いかだし。それまでの間に鍛えて置くんだな」

 

「……師匠のところに依頼が来ることがあるんですね?」

 

「本当に稀にな」

 

「もし、私が強くなった時にその機会があれば……」

 

「連れてけと?」

 

「はい」

 

リサの真っ直ぐな澄んだ視線がこちらを射る。

そんな目で見ないでくれ、と言いそうになる。

彼女の視線が、眩しすぎた。

社会の荒波に揉まれる中で誰もが無くしてしまう輝きがそこにはあった。

俺もこの間まではこの輝きを持っていた気がする。

知り合いの結婚式を引き金に魔法使い(童貞のまま三十路を迎える)という生物的な敗北を恐れるがために失われたが。

 

ああ、俺も嫌いで許せなかったあの大人達と同じようになっちまったんだなぁ(なお童貞の模様)

 

「機会が有れば、な……ん?」

 

「ん?」

 

師匠っぽくカッコよく返事をしようとしたところ、焦げ臭さと熱を感じた。

リサもおなじく焦げ臭さを感じたようで二人揃って後ろを見れば玄関付近は盛大に燃えていた。

 

「「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」」

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

数時間後、俺は手にしていた鉄塊を取り落としながら、元玄関で構わず膝を突いて天を仰いだ。

何があったかというと、小火が原因で家を失った。

一応早めに消し止められたのだが、我が家は全焼手前の半焼。いっそのこときれいに燃えてくれれば片付けも楽に終わるはずだったが中途半端に燃え残りやがった。

いろんな意味で不完全燃焼である。

だが、この狭苦しい家で過ごす日々はもう訪れないんだと思う度に、妙に物悲しく、寂しく感じるのだ。

無理して買ったこのクソ狭い自宅に、もう二度と帰ることはないのだ。

 

主武装ではないが昔に戯れで作ったウォーハンマーを持ち出してハンターシリーズを着込んでからハンター怒りの家屋粉砕を行っていたところなのだ。

脇から「師匠が壊れたああああ!?」となにやら喚く声が聞こえたが一心不乱に元家屋を叩き潰し、瓦礫は文字通り粉微塵に碎け散った。

瓦礫撤去に来ていた人にドン引きされていたが、もう色々とショックが大きすぎてそれどころではない。

そもそも武器やら素材やらはギルドから借り受けた場所で管理人アイルーつきで保管していたので特に被害はないが、やはり住み慣れた家を失うのは精神的にダメージが大きかった。

 

ふう、と乱れた息を整えウォーハンマーを支えにゆっくりと立ち上がり、意識を切り替える。

 

「さて、明日から何処で寝ようかね。ギルドの下等宿舎でも借りるかな」

 

「あ、師匠。正気に戻りました?」

 

妙に清々しい気分に浸りながら思案していると、一輪車を押しながら瓦礫撤去に勤しんでいたリサがで尋ねてきた。

 

「おれはしょうきにもどった!」

 

「本当に大丈夫なんですか!?それなんか土壇場で裏切りそうなんですけど!?」

 

「うるせぇ!俺は竜騎士でもランス使いでもねぇ!」

 

そもそもハンターのランスはモンスターの攻撃を受け止める為の盾とセットで運用されるため対人で用いられるような扱い方をしない。

 

話が大分逸れたが、今後の寝泊まりについてだ。

金なら無駄にあるが、二等宿舎にでも泊まろうと思う。

ここドンドルマでは大陸から数多のハンターがルーキーからベテランまで幅広くやって来るため、それらの宿泊施設として専用の宿舎が借りられるようになっている。

 

宿舎にはランクがあり、それぞれ二等、一等、特等と三つに分けられる。

まだマイハウス等を構える余裕がないハンター達が一緒くたに四人相部屋にぶちこまれる料金日払い制の二等宿舎(安宿)

ある程度の余裕があるハンターが長期的に借りることができる一般的にマイハウスと呼ばれる一等宿舎(賃貸住宅)

そしてギルドに対して何らかの貢献をし、それが評価される形で無償で貸与される特等宿舎(スウィートルーム)

大多数のハンター達がここに住んでおり、例外として自分で家を建ててそこに住むパターンもあり、俺も今日まではこれに該当していた。

 

さっき言った武器やら素材やらを預けているギルドから借り受けている場所というのが特等宿舎ではあるが、世話係がついたりするし部屋が広すぎるしで落ち着かないため倉庫としてしか使ってない。

なんか知らんけどハンターの住居のベットはだいたいデカイくて個人的に寝づらいのでシングルサイズのベットのある二等宿舎が落ち着くのだ。

 

「んじゃ、俺はギルドの宿舎に泊まるから」

 

「え、じゃあ私はどうすれば……」

 

「この間のクエストの報酬があるだろ。あれでどうにかしろ」

 

そう言うと、人差し指を突き合わせながらえーと、と言い淀むリサ。

そういえば何か装備が煤けたレザーシリーズからチェーンシリーズになってるな。

あれ、なんかデジャヴ。

 

「キリンに装備をダメにされてしまったので思い切ってチェーンシリーズに装備を買い換えたらもうお金が……」

 

「そうなのか大変だなじゃあ俺はこれで」

 

矢継ぎ早に告げ、即座に逃げ出そうとすると素早くリサがタックル気味に膝にしがみついた。

クソッ、無駄に速い反応速度だ。

 

「お願いします!お願いします!師匠なんだからすこしは弟子の面倒くらい見てくださいよ!」

 

「放せ!俺だって家が燃えたのになんで押し掛けてきた奴の面倒も見なきゃならん!自分でなんとかしろ!」

 

「うおおおおおわあああああ!!見捨てないでー!!」

 

とうとう女子というか人としての恥まで捨て去って人の足にしがみつきながら喚くリサ。

必死すぎるだろコイツ!

というか遠目にご近所さんがあらやだなに痴話喧嘩?とか噂してるんですけど!?

違います、違うんです、コイツの金銭管理が甘いのが原因なんですうううう!!

 

「ハウンズ君……?君らなにしてんの……?」

 

奇声をあげながらすったもんだしていると、見かねた誰かに声をかけられた。

二人揃って声のするほうを向けば、鉱石系の素材のみを用いたアロイシリーズのハイエンドモデルを装着している男の姿があった。

背中には中程で一度折り畳まれた武骨ながらも洗練されたデザインのヘビィボウガンが背負われている。

視界を阻害しないためか、頭部は何にも覆われておらず、その男は―――ハゲだった。

 

「ハゲ!ハゲじゃないか!久しぶりだなぁ!また髪減ったか?」

 

「また髪の話してる……」

 

「あの……そんなに連呼しては失礼では?」

 

「嗚呼、気にしないで。これは愛称だから。だいたい皆からは『ハゲさん』って呼ばれてるし」

 

冴えない風貌の中年が見せる哀愁の溢れる苦笑いにリサは何とも言えない気持ちになった。

もはや毛髪ネタでからかわれるのは慣れたものだと本人は言うが、気苦労が絶えないせいか不毛地帯が広がっているため現在進行形で徐々に悪化している模様。

 

「ところで『ホモ』はどうしたんだ?」

 

「ああ、彼なら道すがら小さい男の子を見かけて、『ちょっとショタッ子と戯れてくる!』って眩しい笑顔で何処かに走り去っていったけど」

 

「なんですかそのやたらと濃い性格の人は」

 

真顔でツッコミをいれるリサ。

 

実はドンドルマでも結構有名なのだがこのハゲと話に挙がったホモはパーティーを組んでおり、前衛の槍ホモと後衛の重弩ハゲというバランスのいいコンビなので、1つの指標となっているのだ。

ホモとハゲなのに。

 

「それで?話を戻すけど何をしてたの?」

 

ハゲにこれまでの経緯を話すと、だんだんかわいそうなものを見る目になっていくハゲ。

やめて、そんな目で俺を見ないで。

 

「……なら、ウチ来る?ちょっと嫁さんと娘達に聞いてみないとわかんないけど」

 

 

俺、初めてハゲの自宅に招かれたかもしれない。




本編に登場した野郎共の捕捉
……片方は登場してないけど。
ちなみにホモは過去のお話でチラッとやらないか発言してるのでよかったら探してみてね。

ハゲ
本名:不明 42歳 男
. 彡⌒ミ   
(´・ω・`)〈また髪の話してる……

髪が薄いことを気にしながらも自虐ネタに走るユーモラスな冴えない風貌の中年。下げられた眉尻から覗くつぶらな瞳がチャームポイント。ガンナーとして非常に優秀であり彼が弾を外すのは風圧から髪を庇った時くらいである(つまり、わりとある)。
妻子持ちで二人の娘がいるらしい。

ホモ
本名:不明 38歳 ♂
. 彡♂ミ   
(´・ω・`)〈ウホッいいショタッ子!

筋肉質なボディと短く刈り込んだ頭髪が特徴の笑顔の眩しいマッスルマン。普段は酒場で青少年に性的な視線を向けるヤバイ奴。YESショタ、NOタッチを掲げるショタコンでもあるが守備範囲が異様に広いためエイトも守備範囲内。お前のいうショタはいったい何歳までなんだ。


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