俺、ハンター辞めて婚活したかった。   作:ラスト・ダンサー

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とりま更新します。
これは外伝扱いなんでちょっと短いですハイ。


幻獣、狩るは狩人か否か

私は生まれつき運動神経が良く、とても勘の良い子供だった。

かけっこをすれば同年代の男の子を置き去りにし、かくれんぼのオニをやればどこに隠れていても必ず全員を見つけられた。

おまけにケンカになると泣かせられるのは大抵相手の方だった。

反対に花の冠を作ろうとすると謎の草花が絡み合ったオブジェを作り出し、絵を描くと謎のジャガイモから手足が生えたような物体が描かれた(父と母を描いたつもりだった)。

小さな頃はそれで何ともなかったのだけれど、8歳になる頃にはその差は埋まるどころか広まり、男の子達からはケンカになるとアイツに敵わないからと腕っぷしの強さを怖れられ、女の子達からは女の子らしくないからと仲間外れにされ、私は独りで過ごしていた。

 

つまらない。

毎日がつまらなくて堪らない。

退屈を紛らわせるために薪割りを手伝ってもすぐに割る薪がなくなっちゃうし、料理の手伝いをすると何故かお母さんは食材を切るのしか任せてくれなかった。

ああ、つまらない。

 

だが、私はあの光景に魅せられた。

鎧を身に纏い、武器を振るい、培われた技術と知識、鍛え上げられた己の肉体を駆使して、自分より巨大なモンスターと相対するその姿に。

ハンターという存在に。

その時にこう思ったんだ。

私もあんな風になりたいと。

その時から私は木剣で素振りをし、体に石をくくりつけて走り、ハンターになるための自主訓練を始めた。

 

そして数年後、ハンターを引退して故郷に戻ってきた叔父さんにハンターとして鍛えてもらおうとしたのだが……

 

「鍛えてあげたいのだがね。見ての通りこの体だ。知識はともかく実践は出来ないよ?」

 

叔父さんはモンスターに受けた傷が原因で激しい運動が出来ない体になり、杖を突いていた。

それでも、と頼み込んで師事してみること半年。

 

戦闘センスは素晴らしいが、その他は壊滅的だと叔父さんに太鼓判を押されてしまった。

いや押しちゃったんですか、と思った私は悪くない。

ハンターとして出来て当たり前の剥ぎ取りは何故かうまく剥ぎ取れず、ハンターとしての知識も中々頭に入らず、調合すれば燃えないゴミを作り出す。

戦うのはすぐに出来たのに、それ以外が出来ない。

私、ハンターに向いてないのかなぁ……。

母さんには「第三王女様が女性限定で腕が良ければ身分を問わずに騎士として採用するらしいわよ」と別の職を薦められたし。

諦めてわがままで有名なあの第三王女の騎士採用試験でも受けてこようかと思っていたが、叔父さんが突然「閃いたぞ」と呟くと手紙を書いて地図と一緒にそれを私に持たせた。

 

「ドンドルマにエイト・ハウンズという私の弟子が住んでいる。彼は私より優秀なハンターだからきっとお前を一人前に鍛えられるはずだ。その手紙を見せれば弟子にしてくれる」

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

そうしてまあ色々あったが無事に師匠の弟子となり、初の大型モンスター討伐に成功し、さぁ帰ろうとなったところで帰りにもまた飛行船を使用することを告げられた私は震えが止まらなくなった。

高いところは大丈夫、むしろ小さい頃は高い木に登るのが好きだった。

だが飛行船は浮いている。

木や崖はあくまで地面と繋がっているから怖くはない。

だが飛行船は浮いている。

 

浮いてるんですよおおおおおお!!

大地とどこも繋がってないというだけでここまで変わるんです!!

無理無理無理無理!!

怖い怖い怖い怖い!!

お願いです帰りは竜車にしてください!!

 

結果、幾らかのお金を渡されて置いてかれた。

…………うん、泣いてない、私強い子だから泣いてなんかないよ?

それで実家に帰れじゃなくて自力で戻ってこいって言われただけまだよかったと思うから。

頑張れ私、これも師匠の修行の一部だと思えば寂しくなんかないです。

気を取り直してココット村からドンドルマへ向かう竜車を探してみるが、最後の竜車は半日ほど前に行ってしまい、ドンドルマ行きの竜車はあと数日は出ないらしい。

遅れれば遅れるほど食費が嵩んで竜車代がなくなるし、どうしよう。

しばらく考えた私は結論を出した。

 

──歩くしかないか、と。

 

幸い体力は有り余っているので、夜通し歩いて追い掛ければ中継地点で追い付ける。

思えば、そんな浅はかな考えで夜間行軍を実施したのが間違いだったのかもしれない。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

そして現在────

 

「何アレ……おっきいケルビ?」

 

唐突に、本当にいつの間にか雷雲と共に現れたソレ。

ケルビをそのまま大きくしたような骨格、闇の中で白く輝く幻想的な体、そして何よりも目を引くのは額から生えた蒼い一本の角。

その神々しい雰囲気の獣は、突然天に向けて角をかざしたかと思うと、その角に落雷が落ちた。

そして雷に打たれたにも関わらずその獣は平然としており、体にその雷を纏わせている。

そして、その深紅の瞳がこちらを捉えた瞬間。

アレはヤバイ、と嫌でもわかった。

 

逃げろ、今すぐ逃げろ、早く逃げろ、速く逃げろ、疾く逃げろ、さあ逃げろ、とにかく逃げろ、死に物狂いで逃げろ、逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!!

 

全身が震え、頭は逃げろと警笛を鳴らしている。

アレは理解の及ばない何かだと、人のわからないモノを恐れるという本能があの獣を忌避していた。

しかし、相手は既に深紅の双眸をしっかりと向けてこちらを見据えている。

間抜けに背中を晒せばそれこそ一貫の終わりだとなんとなくだが勘で理解した。

 

「やるしかない……ですね……」

 

ボーンククリを抜いて、戦闘態勢に入る。

すると途端に思考は冷や水をかけられたかのように冷静になり、直感は研ぎ澄まされる。

まず言えることは、間違いなくこちらの攻撃はまともに通じずに弾かれる。

おまけに一撃貰えば、即死。

掠めても瀕死か重症が関の山だろう。

だから一撃たりとも攻撃を受けてはならない。

この盾すら意味は成さないだろう。

私が生き残るには、奴から逃げる隙を作らなくてはならない。

斬れない剣など鈍器とそう変わりない。

そして、盾も攻撃に使えば鈍器になる。

だから今回は防具ではなく武器として盾を扱う。

つまり剣(鈍器)と盾(鈍器)の双剣(鈍器)で相手の気絶を狙うことになる。

出来ないとは思わないでおく。

やれなければ黒焦げにされるだけだ。

 

「シッ!」

 

完全に守りを捨てて、相手へと突っ込む。

相手は悠然と4つの足で立ち尽くしている。

そして相手まであと僅かという距離にまで近寄った辺りで、獣は突然前足を振り上げ、鳴き声をあげながら立ち上がり、振るった蒼い角が帯電した。

 

「──────ッ!!」

 

「やばッ!?」

 

それを見た私は猛烈な悪寒に晒され、反射的に横へと飛び退いていた。

そして直後に私がほんの一瞬前にいた場所に雷が降り注いだ。

意図的に自然現象を起こせるなんて何の冗談ですかッ!?

私が相手にしているのはなんだ?

モンスターか?

それとも神か?

どちらにせよ目に見えて実体があるなら害することもできるはずだ。

やることに変わりはない。

双剣(鈍器)で殴って気絶させるッ!!

 

「────ッ!!」

 

獣が鋭く尖った蒼角をこちらに突き立てんと逆に低姿勢で突っ込んできた。

守ったら負ける。

守らなくても負ける。

なら避けながら攻めるしかない!

こちらも獣目掛けて突っ込んでいく。

相手の攻撃は角による刺突。

つまりは点攻撃だ。

当たれば致命的な一撃となるが、当たらなければどうということはない。

相手はバチバチと体に青白く光雷を纏っており、まともに触れれば小動物ならイチコロだろう。

相手への飛び乗っての取り付き攻撃は不可。

ならば狙うは────

 

「はあッ!」

 

「────ッ!?」

 

────その角だ。

 

オスのケルビの角は薬の原料となるらしく、その採取のためにオスを大量に狩ってしまえば生態系が崩れる。

では、どうすればオスを殺さずに角を手にいれるのか?

答えは気絶させてから角だけを剥ぎ取るのだ。

だが私は剥ぎ取るのが苦手なのでどうやってケルビの角を手にいれていたのかというと、単純に角をヘシ折っていた。

角は頭蓋骨と直結しているため、そこに強い振動が加わるとその振動は直接脳へと伝わり、相手は脳を揺さぶられたことによって気絶する。

まあ、角を手にいれるために気絶させるのではなく、角を手にいれたようとした結果気絶する。

手段と目的が逆転してしまっているがそこは気にしないでおく。

大事なのは角を殴れば相手が気絶するという点。

そう、角!

角をガンガン殴っていればいずれは気絶するだろう。

スレスレで角とすれ違うようにして突進を回避して、すれ違い様に角をボーンククリと盾で殴り付ける。

 

 

 

だが────それで倒れるような存在ではなかった。

 

「────ッ!!」

 

一瞬、目の前が真っ白に染まり、気が付けば地に伏していた。

何が起こったのか理解が及ばぬままとにかく立ち上がろうとしたが、体が言うことを聞かない。

ただ、意思とは関係なく痙攣を繰り返している。

 

「あっ……かっ、はぁっ……」

 

ボーンククリも落としてしまっており、手の届かないギリギリのなんとももどかしい場所に落ちている。

何とか動かせる首を前に向ければ、獣がすぐそばでこちらを見下ろしていた。

それを認識した瞬間に、あ、これはもうだめだと諦めがついてしまった。

短い人生だったなぁーとか思いながら15年分の走馬灯が脳内では早くも流れ始めていた。

悲しくもある、惜しむ気持ちもある。

だが、この獣を前にするとそれらを諦められる程の圧倒的な力の差を見せ付けられ、相手がこれなら負けてもしょうがないと思える。

さあ、殺すなら殺せよと自棄になりながら相手を見つめていると、獣は踵を返しこちらから離れていく。

 

見逃された、いや獣相手に情けをかけられたような気がした。

まるで、殺す価値もないと言わんばかりに。

それが分かった途端、急激に沸々と怒りが沸いてきた。

 

「ふざけるなああああああァァァァッ!!こっちを見ろ!!まだ、まだ終わってない!!」

 

思わず獣に向けて叫ぶと、目線だけこちらに向けるようにして一瞬だけこちらに一瞥をくれると、嘲笑うかのようにさっさと行ってしまう。

どうせ動けないんだろう、という幻聴が聞こえた気がした。

 

「覚えてろよ!!次にあったらその角ヘシ折ってやるからな!!」

 

喉が潰れかねないほどの叫びをただただあげ続けた。

次に合間見える時にはその命は私が貰い受けると。

次は必ず勝つ、と最後に呟いて意識を失った。

 




一方、その頃の師匠の様子。

「婚活パーティー行ってみたけど10歳近く歳上のオバサンしかいなかったお(´・ω・`)」

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