俺、ハンター辞めて婚活したかった。   作:ラスト・ダンサー

6 / 9
引っ越しの準備でてんてこまいな毎日を送っている作者です。

途切れ途切れで書き溜めていたので話に統合性がなかったり、誤字脱字があるかもしれません。
もしあったら最近追加された誤字修正機能、もしくは感想等でお知らせください。


同族、それは憎むべきか哀れむべきか

ドスランポス2頭の討伐の翌日、俺は久々に一人の朝を迎えていた。

昨日、ドンドルマへ帰還する際にリサがまた局所的高所恐怖症を発症し飛行船への搭乗を拒否したので、いくらか路銀を握らせてそのまま中継地のココット村へ置いてきたためだ。

まあ、数日も経てば勝手に戻ってくるだろうから別に問題ないだろ(適当)

何故か帰りの飛行船ではテルスが上機嫌であれやこれやと他愛のない雑談をしてたが、あの日は終わったんだろうか?

そんなわけで俺の婚活の足枷であるリサは排除され、自由な婚活を行うことが出来るというわけだ。

我ながらあの時リサを置いて行こうと思い付いたのは英断だったと思う。

さあ、張り切って婚活しに行こう。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「というわけで誰か知り合いにいい年頃の女性はいませんかね」

 

「唐突に何を言い出すんだ君は」

 

俺が真剣に頼んでるというのにフランは呆れたような視線をカウンター越しに浴びせかけてくる。

竜人族は長寿故にピンと来ないかもしれんが、お前らと違って人間は婚期が短いの!

 

「いいからさっさと知り合いを紹介してくださりやがれ」

 

「焦りすぎて敬語がおかしいよ?というよりアタシなんかよりギルドで主催してるお見合いパーティーにでも出てくればいいんじゃない?少し頼んだらギルドの方からエイトのために開いてくれるんじゃないの?」

 

「ダメだ。ギルド主催ということは来るのは大体が漢女(おとめ)ばっかりだ。ちょっとアイツらは生理的に無理」

 

「そう毛嫌いしてないでまずは顔だけ出してみたら?いい子もいるんじゃないの?」

 

「普段の反応からして俺の名前を出した時点で相手が引くか金目当ての奴等しか来ないし、繰り返すがそもそも来るのは大体漢女(おとめ)だからヤダ」

 

実際、初対面の奴に名前を明かすと引かれるし、ギルドカード見せないと偽者扱いされるし、俺が稼いだ報酬目当てに擦り寄ってくる奴に何度か遭遇したことあるし。

俺は俺を色眼鏡なしで見てくれる人が良いんだ!

あと出来れば美人で。

 

「だから頼む。お前の知り合いでいい感じの人を紹介してくれマジで」

 

「……ドンドルマ最強のハンターも地に堕ちたね。まさかそのために緊急クエスト以外の受諾を拒否してるの?」

 

「何を言ってるんだ当たり前だろう(真顔)」

 

「うわぁ、マジで言ってるよこの人」

 

「こっちは老後を寂しく迎えるかどうかで必死なんだよ!ボロい一軒家で、誰にも看取られず独り寂しくベットの上で孤独死して、異臭がするからとか近所に言われて確認しに来た役人にカッピカピのミイラみたいになってるところを発見されて、とりあえず共用墓地に放り込まれるみたいな最期は迎えたくないんだよッ!!」

 

「なにそのやけにリアルな想像……。にしてもアタシの知り合いね……竜人族以外で女の知り合いとなるとほとんど居ないんだよねー。居ても大体君の好みの年代じゃないしね。そもそも気になる子は居ないの?受付嬢とか弟子のリサとか」

 

「いないから来てんだろうが。そもそもリサは有り得ん。俺はロリコンじゃねぇ」

 

「ヘタに理想ばっか高くて周囲を見ようとしない……これだから童貞拗らせた男は面倒なんだよ」

 

「……童貞で悪かったな畜生め」

 

「あの、ネタに本気で悔しそうにするのやめてくれない?え?まさかマジで未だに童貞なの?もう三十路近いのに?」

 

フランの無慈悲な言葉の砲撃を受けてハートを木っ端微塵に吹き飛ばされたような感覚を覚えた俺は思わず崩れ落ち、悔しさのあまり力任せに地面を殴り付けると拳が地面に埋まった。

強く殴り過ぎたか。

……なんてことだ。

知り合いはいるがこうして本音を晒け出せる奴と言えばフランしかいない俺には他に婚活に使えそうなコネはほぼ無い。

あれ、よく考えると俺ってボッチ?

私的な付き合いがあるの地元の奴等とリサを除くとフランしかいないぞ。

狩りとフランだけが友達さ~♪(その他は仕事仲間程度)

……なんてことだ(2回目)

ナンパしても将来の嫁が見つかるとは思えないし(そもそも声をかけられない)、合コンなんてやるような年じゃないし(そもそも呼ばれない)一体どうすれば良いんだ……!?

 

「あれでしょ?君は恋愛結婚をしたい質でしょ?」

 

「まあ……そうなるな」

 

「夢見がちな童貞らしい意見をどうも。でもそうなると本当に後は地道に出会いを求めて旅にでも出るしかないんじゃないの?」

 

「そう思った矢先にリサが弟子入りしてきて出来なくなったんだよ。師匠の推薦がなかったら相手にすらしないでガン無視するところだ。あと童貞言うな」

 

「その割には甲斐甲斐しく面倒を見てやってるような気が……あっ(察し)」

 

「何だよ」

 

「男のツンデレは乙女思考の相手に好まれるから弟子のあの子には意味ないよ?」

 

「何を勘違いしてるんだお前は!?12歳差かつ未成年とか犯罪だろうが!?お前は俺をロリコンに仕立て上げてギルドナイトにしょっぴかせる気か!?」

 

いくら対モンスター戦のスペシャリストである俺でも、対人戦のスペシャリストである対ハンター用ハンターのギルドナイトを相手にしたくはない。

 

「……ちなみにハンターの結婚相手はどんな相手が多いか知ってる?」

 

「知らんが、それがどうした」

 

「多くは同業者、つまりはハンター同士や受付嬢、ギルド関係者との職場結婚が多いんだよ。他は地元の幼馴染みととかお見合い結婚とかだね。つまり何が言いたいのかというと君がハンターであるということは本来結婚をする時に有利に働く肩書きなんだけど、君は自分がハンターであるという利点を女性の好みという観点から放り投げていると言わざるを得ない。逆に聞くけど君からハンターの肩書きを取ったら何が残るの?逆に結婚が遠退いていくよ」

 

「なん……だと……!?」

 

ハンターであることの利点……盲点だった。

まさか自分で自分の首を絞めていたとは。

確かに女ハンターを毛嫌いしていたのは認めよう。

皆が皆漢女(おとめ)という訳ではないだろう。

近付いてくる連中が全員金目当てというほど世の中腐ってはいないだろう。

年齢=彼女いない歴のチェリーボーイの分際で、何を知ったかぶってモノを言っていたのだろうか。

全ては勝手な固定概念から自分が傷付くのを恐れ、アレコレ理由をつけて楽な方へと逃げていただけじゃないか。

 

「フラン……俺が間違ってたよ」

 

「おお、分かってくれたんだね」

 

「ああ、目が覚めた……欠点を挙げる前にまずは自分の好みをハッキリさせるべきだったんだ!!」

 

「……は?」

 

「そうだよ、あれは嫌だこれは嫌だと欠点を理由にしていたが好みに関しては出来れば美人でとかしか決めてないじゃないか俺!!もっと探し求める女性を明確にしなかったら婚活も上手くいくものかよ!!」

 

「おい」

 

「まずは自分の理想を決めてから妥協点を決めればいい……そうと決まればこうしちゃいられない。じゃあな!!」

 

「あ、ちょっと!?おーい!?……何しに来たんだアイツ……」

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

全く、突然来たと思ったら結婚したいから知り合い紹介してくれとか言い出したときは何言ってんだコイツと思ったけど、あの狩猟馬鹿のエイトが婚活とは笑っちゃうね。

しかもあのクエストの受注拒否はそのためだと言い出すし。

反発凄かったんだよアレ。

老害共は職務怠慢なお高くとまったハンターなど排斥してしまえと喧しく喚くから大長老と共謀して老害共の不正の証拠をギルドナイツに提出して捩じ伏せるはめになったんだからね?

もう、あんまり無茶苦茶するから支援資金のために代金が更に割り増しになっちゃうかもしれないよ。

支援はエイトに何不自由なく狩りをしてもらうために善意でやってるとはいえある程度元手がないと何も出来ないしさ。

 

それにしても君が婚活とは……鈍感ここに極まれり、だね。

童貞拗らせたまま三十路が近づくと男ってああなっちゃうのかな。

よく周りを見れば結婚なんてすぐだよと諭そうと思ったら何故か自分の好みをハッキリさせてくるとか訳のわからないことをほざきながら帰っちゃうし。

まあ、なんにせよ君のやりたいようにやればいいさ。

アタシは応援してるよ……ずっとね。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

改めて目標を再確認した俺は、特に用事がないのに集会所の酒場の隅に陣取って物思いに耽っていた。

女性の好み。

人によってそれは違うだろう。

性格、顔、体つき、その他諸々の細かい好み。

まずはそれを再確認するために列挙していけば自ずと理想像が出来上がるはずだ。

見た目は美人に越したことはないが、美人といっても色々ある。

可愛い系、クール系等色々あるが……これが良い、あれが嫌だというのがない。

どれも美人には違いないからだ。

性格はとりあえず男勝りなのは却下。

女性らしいなら物静かなタイプでも活発なタイプでも良い。

体つきでは、よく耳にするのは女性として成熟した肉付きのいいタイプが好みという奴、青い果実のように未成熟な大人と子供の境目のようなボディが良いというそれロリコンじゃないのかという奴もいた。

他にも巨乳だの貧乳だの美乳だの微乳だのやたらと胸の大きさと形にこだわる奴も。

……正直言ってどの属性も一長一短がある気がするので個人的には体型は痩せ過ぎず太過ぎず、胸は大き過ぎず小さ過ぎずがいい。

まあ仮にそうでなくとも別に構わないが。

それらをまとめると、美人(タイプ問わず)の女性らしい性格(タイプ問わず)の(可能なら)普通の体型の(出来れば)並乳ということになる。

……ああ解ったぞ、俺自身まともな女性らしい女性を間近で見たことがないから比較対照が漢女(おとめ)しかいないんだ。

だからそもそも明確な好みすらないのだ。

まずは女性との触れ合いから始めなきゃ駄目なのかなぁと溜め息をついていると、いつも騒がしいはずの集会所が突然静まり返った。

何事かと背後に振り向くと、一人の人物がコツコツと踵を鳴らして入り口から入ってきたようだった。

周りが静まり返った理由はその人物の装い。

赤をベースに作られた、高貴さを感じさせながらも実用に耐えうる騎士服。

そして目元を隠すように深く被られた白の羽飾りが特徴的な赤いナイトハット。

間違いなくそれはギルドを守護し、ハンター達を統括するギルド直属組織ギルドナイツに所属するハンター、ギルドナイトの正装であったからである。

世にはレプリカが出回っているため、格好だけなら真似るのは難しくないがあれはレプリカ等ではなくまごうことなきホンモノだ。

フランとの会話でも触れたが、ギルドナイトはギルドの秩序と公正を守る、ハンターを狩るハンターと噂される存在で、王国の近衛兵団と単騎で渡り合える程の実力を有すると言われている。

そんなおっかない存在が集会所に現れれば、一瞬で酔いも醒めるというもの。

騒然とする集会所の雰囲気を他所にギルドナイトは周囲を見渡し始め、それを眺めていた俺はギルドナイトと目があってしまう。

ヤバイと目を逸らすも時既に遅し。

ギルドナイトはずんずんとこちらへ歩み寄ってくると俺の背後に立った。

 

「おい貴様」

 

聞こえてきたのは女のハスキーな声。

冷たい氷のような声音で明らかに俺に向かって話し掛けているような気もするが、きっと気のせいだろう。

さて、ギルドナイトに目をつけられたのは何処のどいつかなと辺りを見渡してみる。

 

「何処を見ている。貴様だよエイト・ハウンズ」

 

うわーいご丁寧にも名指しだぁ。

だ、大丈夫、まだ同姓同名の別人に話しかけたとか人違いという可能性も……!

 

「ひ、人違いじゃあないっすかねぇ」

 

「残念ながら用があるのは間違いなく貴様だよエイト・ハウンズ。話したいことがある」

 

─おい、エイト・ハウンズってあの……!

─単独で古龍を撃退した生きた伝説……!

─ドンドルマ最強の矛にして盾……!

─そんな奴が何でギルドナイトに……!

─やらないか

 

ざわ…ざわ…

 

ギルドナイト様が丁寧にフルネームで呼びつけてくれたお陰で周囲がざわつき始める。

あ、これ早くしないと面倒くさくなるパターンだ。

というかなんか変なの居たぞ今!?

 

「……ノエル、場所を移してからにしてくれないか」

 

「ふむ、構わんが……なぜそんなに焦っている?」

 

「お前がわざわざギルドナイトの正装でウロウロしてるから周囲の視線が痛いの!察しろ!」

 

「確かに他のギルドナイトは普段は自らがギルドナイトであることを周囲に知られないようにしているが、むしろ私はギルドナイトであることを誇りに思っている。だから隠す必要などないと思うのだが……」

 

「皆怖がるから常に正装はやめろ!せめてローブか何かで隠せ!」

 

ただでさえその職務柄暗い噂の絶えないギルドナイトは憧れよりもまず先に畏怖の念を持たれるということを理解してほしい。

ぐいぐいと背中を押して集会所から脱出すべく入り口の方へとギルドナイト──ノエル・ナイトレイを誘導する。

その途中でカウンターから目から上だけを覗かせたテルスと視線が交錯した。

 

(ギルドナイトに目をつけられるなんて一体何をやらかしたんですか!?)

 

(いや、俺にも身に覚えが……もしかしてアレか?それともあの一件か?もしくはあの時のヤツか……?)

 

(ちょっ、滅茶苦茶身に覚えがあるみたいなんですけど!?心当たりが有り過ぎるみたいなんですけど!?)

 

(違う、全部コイツとの個人的な問題だ。公的な問題は起こしたことがない。大丈夫だ、酷くてもせいぜい今晩(説教で)寝かせてもらえないくらいで済む)

 

(個人的な問題!?今晩寝かせてもらえない!?私としてはそっちの方が大丈夫じゃないんですけど!?)

 

視線と身振りのみで会話するという無駄に洗練された無駄の無い無駄な技術でテルスとのやり取りをしているうちに集会所から出た俺は、人の視線を避けるように裏路地へと駆け込むと、脳内で自宅までの最短ルートを算出しノエルを引きずるようにしてその場から逃げ出すのであった。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

相変わらず狭っ苦しい我が家の一室。

テーブルを挟んで向き合うようにして座る2人。

片方は簡素な麻のシャツにズボンという地味な格好の、動作の端々に既にオッサンの兆候が見られるようになってきた俺。

もう片方は気品さの感じられるこの場に似つかわしくない程の衣装に、一々動作が優雅な女ギルドナイト。

とりあえず座らせて来客用に備えておいた紅茶を出してみたものの、重苦しい沈黙と時折茶をすする音のみが場を制している。

……気まずい、超気まずい。

何なの!?

何で黙ってんの!?

話があるって言ったのはお前だろうが!?

 

目の前で優雅にティータイムを楽しんでらっしゃるのが、ノエル・ナイトレイ。

見ての通りギルドナイトである。

ギルドナイトは密猟ハンターの暗殺等の任務をこなす性質上、普段はただのハンターや受付嬢として生活し、自らがギルドナイトであることを周囲に知られないようにする。

しかしコイツの担当は主に未知のモンスターや未開の土地の調査なのであんまり関係なかったりする。

だからといって常時ギルドナイトの正装でいるのは止めてもらいたい。

ノエルとは俺がギルドナイトに勧誘されたのを組織に束縛されるのが嫌なので断った際に、誇りあるギルドナイトになるのを拒むとは何事かと正面切って説教されたのを切っ掛けに知り合った。

それからなぜか事ある毎に仕事を共にこなすようになったいわば腐れ縁のような関係のヤツだ。

性格は超がつくほどの真面目な正義感の強いタイプ。

ギルドナイトであることに誇りを持ち、自分にも厳しく他人にも厳しくをモットーとしているので、何かある度に説教されている記憶しかない。

ちなみに年下らしいが年下に説教されている俺って一体……。

 

そうしていると、ノエルがカチャリとティーカップをソーサーに戻し、こちらに視線を向けた。

さあ、一体何を話し出すのやらと警戒しながら待っているとノエルはふぅ、と一息ついた後、ようやく口を開いた。

 

「茶葉は良いものだが、淹れ方が杜撰だな。少しは練習したらどうだ」

 

「全部飲んでおいて言うことがそれか!!」

 

何故か紅茶の淹れ方についてのお小言を戴いた。

まずい、もう一杯みたいなノリで言わないでくれますかねぇ……!

 

「紅茶に罪はない。ところで、私がなぜ貴様に会いに来たのかわかっているか?」

 

「さてなぁ、心当たりが有り過ぎて検討もつかんよ」

 

半ば不貞腐れて真面目に聞く気が失せたのでテーブルに肘を突いて顎を支えながら脱力する。

それを見たノエルが切れ長の眉をピクリとさせたが、知ったことではない。

 

「……貴様、最近ギルドからのクエストを緊急クエスト以外は受注拒否しているらしいな」

 

「あーそれかぁ。で?それがなにか問題でも?」

 

「問題……?あるに決まっているだろうが。立場に驕って怠けるのもいい加減にしろよ!この忙しいときに貴様が拒否したクエストの皺寄せがこちらに来ているのだぞ!」

 

「別にその分そっちが儲かるから良いじゃん。そもそもハンター辞めるつもりだったんだがそれは勘弁してくれって大長老に言われたから活動自粛に留めてんの。お前にどうこう言われる筋合いは無い」

 

「何故その才能を腐らせるような真似を……!それで人として恥ずかしくないのか貴様!?」

 

「……いや全然?本当に必要なら緊急クエストとして依頼来るし、来たらやるし」

 

「ぐっ……まぁいい、今回は勘弁してやる。ここからが本題だ」

 

「えっ、まだあるの?」

 

「休日を潰してまで話してやるんだ黙って聞け。最近各地で古龍が立て続けに目撃されているのは知っているか?信憑性は定かではないが西に霞龍、東には鋼龍、南には炎王龍、さらには幻獣が場所を問わず確認されている。幸いなことに目撃例があるのみで直接的に被害があったという訳でもないが、ここまで多くの古龍が同時に目撃されたのは異例の事態だ。古龍観測所では今大騒ぎになっている」

 

「なんだって?」

 

古龍種とは通常の生態系から逸脱した生物の総称だ。

龍といってもとても龍とは思えない見た目のモノも存在する。

共通点としてはどの個体も人間ではまともに太刀打ち出来ないような強大な力を持っており、災害と同視されるような規格外の存在。

その姿を目にするのは極々稀なことで、古龍を目にすることなく一生を終えるハンターがいるくらいだ。

そんな古龍が各地で同時に複数目撃されたという。

古龍観測所が大騒ぎになるのも頷ける異常事態だ。

 

「貴様が先日受けたドスランポスのクエストも元を辿れば古龍が関係しているやもしれん」

 

「怯えて群れごと逃げ出してきたとか?」

 

「恐らくな。そういった間接的被害の原因調査のために私も近々古龍観測所から依頼があるだろう。何かの前触れかもしれないと古龍観測所でも過去に似た文献や記録がないかと書物庫をひっくり返してるらしいからな。そしていよいよこの騒動の原因が古龍で間違いないとなったらお前の出番だ」

 

「是非ともお呼びが掛からないことを祈ってるよ。古龍撃退ツアーとか死ねる」

 

「ちなみにこれはギルド内でも秘匿性の高い情報だ。間違っても口外するなよ」

 

「だろうな。天変地異が起きるかもしれないなんて噂が広まったら各地で大混乱なんて洒落にならん事態になる。というかさらっと機密(ソレ)を漏らすお前もどうなんだ」

 

「貴様には有事に動いてもらう以上、知る義務がある。それだけだ」

 

「権利じゃなくて義務なのね……」

 

なんかもうフラグがバッチリ建った上に補強工事を済ませ、外壁で覆った後、厳戒態勢の兵士に守られてるくらい確実に、近い将来厄介なことになる気がする。

人が頑張って婚活に励みだした矢先に弟子が来るし変なフラグ建つし何か強大な流れが働いているのだろうか。

それこそ神の見えざる手に操られているみたいに。

 

「ではな、用事はこれだけだ」

 

そう言って文句を言った癖にしっかりとおかわりまでした紅茶を飲み干すと、やたらと優雅な動作で彼女は去っていった。

こちらが聞きたくもない話をしてそれが終わるやさっさと帰りやがった。

間違いなく言えることだが、彼女に私生活で友人など居るまい。

仕事が楽しくて仕方ない、まるで少し前までの俺のようだ。

経験則からして、きっとまともに恋愛したこともない年齢=彼氏いない歴の処女に違いない。

そして数年して友人の結婚式を見て自分が行き遅れつつあることに焦るといいさ…………盛大なブーメランだったな。

そう言えば、ふと気になったのだが……

 

「アイツ、何で休日なのにギルドナイトの正装だったんだ?」

 

まさかまともな私服を持ってなくてクローゼットにはギルドナイトの正装が何十着も並んでいたりするのでは……いやまさかな。

 

俺、女ギルドナイトがちゃんと私服持ってるのか気になって夜も眠れない。




~弟子の現在の様子~

「師匠に置いてかれた……早くドンドルマへ戻って修行しないと……ん?なんだろうあれ……どわっ!?雷!?何でこんなに急に雷が!?…………白くて光る青い角の大きなケルビ……?」




ここからはちょっとした裏設定を撒き散らすコーナー。
見るに耐えない中二設定やらご都合主義やらあるので興味の無い方は無視してね!

※エイト・ハウンズ(主人公)

作中でも語られているが若くして古龍と正面切ってタイマン張れるヘタなモンスターよりよっぽどモンスターなハンター。
ドンドルマ最強の矛にして盾(命名、大長老)の2つ名を持つ生ける伝説としてドンドルマで名を轟かせている。
しかし名前に反してその素顔はガチの狩猟時はフルフェイスの兜を被っているため一般にはあまり知られていない。
その実力はギルドナイツの目に留まり、一時はギルドナイトへの就任が打診されていたが本人のめんどくせぇという発言により泡と消えた。
さすがにギルドナイトクラスの実力者をフリーにしておくには勿体ないと特例としてギルド側から専属受付嬢がつけられ、ギルドから直接クエストの依頼が来るようになった。
非公式ながらそれを『ギルドハンター』と呼ぶ声もあるとかないとか。

※フランが割り増しした分の金の行き先

主にエイトの活動支援のために使われている。
他には町の復興費のために資金提供をエイト名義で行い、ギルド内でのイメージアップに努めるなど。
その事をエイトに話さないのは変に気負ってほしくないからだとか。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。