俺、ハンター辞めて婚活したかった。   作:ラスト・ダンサー

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マジで遅れてすみませんでした。
経営陣との昼食会とかいう心臓に悪いイベントとかに打ちのめされてました。
他県への転勤決まったので今後はこんなペースでの更新になりそうです。
出来るだけ早く書きたいんだけどなぁ……。

ちなみにタイトルは某Gガン並のド直球。


投擲、それは狩技か否か

眼下に広がるのは広大な雲海。

かつては空を飛べる能力を持つものしか見ることのできなかったこの光景も、今は技術の発達により人の手の届くものとなった。

以前は古龍観測局の気球くらいしか人が飛ぶ手段を知らなかったが、ここ最近飛行船が普及するようになり、一般人でも空を飛ぶことができる。

 

吹き付ける風を頬に受けながら、飛行船の端に座り込んでもうどうにでもなーれ、と自棄になりつつ、遠くを眺める作業に徹することにした。

現在、俺はギルド所有の飛行船でまた森丘エリアへと向かっていた。

前回の移動はアプトノスの引く竜車でのんびりと向かったが、今回は緊急クエストという優先度の高いクエストのため、飛行船での移動となった。

地形をほぼ無視して移動できる飛行船でなら、今日中には現地に到着するだろう。

観測隊の調査報告によると、今のところ近隣の家畜や人への被害は出ていないようだが、縄張り争いが続けば被害が出るのもそう遠くないだろう。

その前にケリをつけなければなるまい。

 

……それにしても、まさか前回の素材採集ツアーのせいでこんなことになるとは。

1つの縄張りの群れが衰えると、他所の群れがやって来て縄張りを取られるというのはよくある話なのだが、今回は運悪く同時に2つの群れが同時に縄張りを我が物にしようとアリコルス地方に現れてしまったのが原因でこんなことになってしまったようだ。

こんなことは早々起こるものでもなく、本当に数年に1度とかの珍しい事態らしい。

……狙ったように起きた辺り、悪霊の加護でも発生してるんじゃないだろうか──現在進行形で。

 

「し、師匠ぉ……」

 

ガタガタガタガタ、と雪山でホットドリンクを飲み忘れたんじゃないかというくらいに震え、俺の片腕をホールドしたまま一向に手を離そうとしないリサ。

飛行船の離陸後、数分で判明したことなのだが、リサは断崖絶壁とか高いところは大丈夫だけど飛行船みたいな地面に足がついていないのは怖い、という局所的高所恐怖症だった。

 

「離せ。お前が震えると振動が伝わってきて鬱陶しい」

 

「無理、無理です!!離したら死んじゃいますよおおおお!!」

 

「その程度じゃ死なねぇから…………イヤ待てよ、ショック死ってのもあるっちゃあるか」

 

「ほらやっぱり死ぬんじゃないですか!?」

 

しまった、失言だったか。

手に加えて足でもホールドし始めた。

お前は操虫棍の虫か。

というか、後ろで黙々と飛行船を操縦してるテルスが怖い。

飛行船の操縦を大老殿勤めの竜人族のお姉さんに習ったらしく、今までも何回かこうして運んでもらったことはあるので腕前に関しては心配していないが、なんか雰囲気が怖い。

無表情だし眼に光が全くなくて沼みたいに濁ってるし、時折こっちをじーっと見てくるので物凄く怖い。

何なのだろうか。

もしかしてこれがいわゆる月のモノってヤツなのか。

下手に触れて薮蛇になったら目も当てられないし、ここは無言でスルーが無難な対応なのだろうが怖いものは怖い。

腕には引っ付いて離れない喧しい弟子。

後ろには無言で謎の威圧感と視線を送ってくる受付嬢兼操縦士。

ああ、早く目的地に着いてくれ。

でないと狩猟前にストレスでダウンしてしまいそうだ。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

非常にストレスフルな空の旅を終えて、ようやく森丘に到着した。

半日も乗ってなかったのに異様に長く感じられたぞ。

まだ腰が抜けてまともに立てないとか抜かすリサを引き摺ってベースキャンプ入りを果たし、支給品ボックスを漁ると前回は地図くらいしかなかった支給品がきっちり2人分用意されていた。

まず地図が2つ、応急薬が6個、携帯食料が4つ、ペイントボールが2つにシビレ罠1つ。

本来なら細々と通常弾やら空きビンや強撃ビンが入っていたりするが、ガンナーがいないのは分かっているため今回は入っていない。

受注者指名、つまりは名指しでのクエスト受注要請のせいだ。

 

「色々入ってますね」

 

「応急薬とか携帯食料は説明するまでもないが、ペイントボールが何か分かるか?」

 

「モンスターにぶつけると強烈な匂いのする派手な色の液体を付着させる追跡用のアイテムでしたっけ」

 

「そんな感じだ。間違っても俺に当てるなよ?もし当てたら飛行船から吊るす」

 

「な、何て恐ろしいことをする気なんですか……!?」

 

「当てなきゃいいんだ。当てなきゃ。シビレ罠は雷光虫を使った放電装置によって、相手に電流を流して筋肉を硬直させることにより動きを封じる罠だ。間違ってお前が罠にかかっても二次被害を防ぐために俺は助けに行かないからな」

 

「……他のアイテムは半分ずつ分けるとしてシビレ罠はどっちが持つんですか?」

 

「俺が持っておくに決まってるだろ。お前だと自分で仕掛けた罠に自分で嵌まりそうだからな」

 

そうやって1つ1つ支給品を確認してポーチに納めていく。

何処に何が入っているのか、それを把握しておくのも重要なことだ。

轟竜に追いかけられながらでもポーチから必要なものを目隠ししていても取り出せるくらいがベスト。

それのお陰で助かったというハンターの話も沢山あるしな。

 

「よし、じゃあ行くか」

 

「は、はい!」

 

ベースキャンプから出て、実際に自分の肌で感じてみてやはり今の森丘は様子がおかしいことが分かる。

見ただけでもわかる変化としては、いつもはベースキャンプ前の川にいるアプトノスの姿が見えない。

やはり森丘にランポスの群れが2つ居ることによって怯えているのだろう。

何にせよ、まずはドスランポスを見つけないことには始まらないのだが。

ドスランポスは縄張りを見回って常に移動しているので、狙って遭遇するには、地道に追い掛けるか、巡回ルートで待ち伏せするか、ランポスを虐めて呼んでもらうか、まあやり方は色々ある。

 

「どうするんですか?」

 

「中央の洞窟に行く。直接巣を叩けばもし居なくてもすぐに戻ってくるさ。シンプルイズベストってやつだ」

 

脳筋な思考だが、結局のところハンターが最も頼りにしてるのは道具でもなく情報でもなく、己の力である。

ハンターである時点でみんなもう脳筋みたいなものだし(偏見)

そもそもドスランポス自体が特に対策が必要ない、というよりは対策のしようがないモンスターだし。

ドスランポスもシンプルイズベストな奴なのだ。

で、途中ランポスを蹴散らしながら巣へと突き進んでみたのだが……。

 

「なぁにこれぇ……」

 

「はわっはわわわっ……」

 

取り巻きのランポス達がギャアギャアと鳴き声をあげ、サークルを作っており、その中央では小さめのイャンクックぐらいはある明らかな金冠サイズのドスランポスと、目が赤く、トサカや前足の爪が巨大化し、尻尾が異様に太い、恐らくは特異個体のドスランポスが取っ組み合って群れのリーダー同士での真剣勝負を繰り広げていた。

角竜の決闘は見たことあるが、鳥竜種でも決闘ってするのか!?

ハンター生活12年目にして始めて見たぞオイ。

一見すると体の大きい金冠サイズの方が有利そうだが、特異個体の方は逆にその体格差を利用して金冠サイズの懐に入り込むことで腹部へ攻撃を仕掛けている。

金冠サイズの方が特異個体に攻め負けている形だ。

その内、特異個体がダメージによろめいた金冠サイズの背中へ飛び乗り、首筋に噛み付きながら通常よりも鋭利な爪を食い込ませ、力任せに丈夫なはずの皮を易々と引き裂いていく。

金冠サイズの方もしばらくもがいていたが、徐々に抵抗が弱くなり、やがてドスンと巨大な体を地面に横たえると、そのまま息絶えた。

そして、体のあちこちを返り血で染めた特異個体のドスランポスは金冠サイズの首からその尖った嘴を放すと、ギロリ、とこちらをその赤い瞳で睨み付けてきた。

金冠サイズの群れのランポスが逃げていく中、特異個体の群れのランポスがじりじりとこちらを囲むように距離を詰めてきており、特異個体のドスランポスは足の爪をガリガリと地面に擦り付けながらこちらから一切視線を逸らそうとしない。

完全にターゲットとして認識されてしまったようだ。

俺はアギトの柄を掴んでそろそろと後退し、ボーンククリを今にも抜き放ちそうな程に握り締めてゆっくりとリサもそれに続く。

巣の中という閉鎖空間であの数と殺り合うのは少々ご遠慮したいところなので、群れを出来るだけ刺激しないように巣の外にある開けた場所へと後ろ歩きで向かう。

 

「さぁて、図らずも討伐目標同士が潰しあってくれたお陰で残りは1頭だ。や っ た ぜ 」

 

「というか、あのドスランポスなんか変じゃないですか!?なんか雰囲気が禍々しいんですけど!?」

 

「あのドスランポスは特異個体っていう珍しい個体なんだが滅茶苦茶強い。ドスランポスと嘗めて掛かるとこっちがやられるくらいには。そら、おっ始めるぞ」

 

「うぇぇぇッ!?」

 

ドン、と高台になっている巣の入り口からリサを蹴落としながら、ランポスの群れへ突撃する。

それを合図に取り巻きの1体が飛び掛かってきた。

それに合わせてアギトを抜刀、標的に刃を合わせる。

ランポスが飛び掛かる勢いの相乗効果でアギトの降り下ろしは凄まじい威力となり、飛び掛かってきたランポスを頭から両断し、血飛沫を撒き散らしながら残骸が後ろに吹っ飛んでいく。

そしてその勢いのまま前転し、群れの近くへ飛び込むと回転斬りで周囲のランポスを薙ぎ払う。

ぐしゃっという何か固いものを砕くような感触を感じながら大剣を構え直すと、そこへ特異個体のドスランポスが飛び掛かってきたので咄嗟に横へ跳ぶと、ズガッ!!という凄まじい衝撃を伴う踏みつけ攻撃に地面が揺れる。

通常のドスランポスでは有り得ない威力だ。

そのまま特異個体のドスランポスは着地の動作で踏み込んだまま、こちらへと突っ込むようにタックルを繰り出してくる。

 

「悪いが、相手は俺じゃなくて……」

 

その動きを勘で大体読んでいた俺はもはや避けられない間合いに捉えたタイミングでアギトを跳ね上げる。

アギトの腹で掬い上げる──と言うには勢いが有り過ぎるかち上げで特異個体のドスランポスをそのままリサを蹴落とした辺りに放り投げた。

 

「そこのアホだ」

 

「うぎゃあああこっちに飛んできたあああ!?」

 

「そのまま足止めしてろ。その間に取り巻きのランポスを片付ける」

 

「まさかのキラーパス!?」

 

そう言った割にはしっかりとボーンククリを構えるリサ。

本来なら間違ってもちょっと前にハンターになったリサには任せられないが、アイツならどうにかするだろう。

最初の採取ツアーの時に言ったはずだ、死にそうになったら助けてやるってな。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

睨み合いの中、最初に堰を切ったのはリサだ。

どうにも刃物を握っていると変なスイッチの入るらしいリサは、盾の影にボーンククリを隠して刃の軌道を読ませないようにしながらドスランポスへと向けて低姿勢で疾走する。

それに対してドスランポスは体を1回転させ、その異様に太くなった強靭な尻尾でリサを吹き飛ばそうとする。

リサはそれを跳ねて回避し、そのままドスランポスへと突っこみ、ほぼ全てを勘に頼りきった思考で横っ腹へとボーンククリを肋の隙間かつ、幾重もの戦いで硬質化した皮の比較的柔らかい部分を射抜くようにして突き刺した。

ボーンククリなどという市販されている凡百の武器で、激しく動き回る標的の狙った場所へ攻撃を寸分違わず当て貫く。

この技術は非常に固い甲殻を持つモンスターの弱点を突くために、熟練ハンター達が実戦の中で己の経験と技を合わせて自然と修得する技だ。

それを大して経験もない新米ハンターの身で、神憑り的な精度で行うリサは、やはり戦いに関しては100年に1人クラスの天才なのだろう。

リサは噴き出す血飛沫を浴びながら、ボーンククリをわざと肋に引っ掛けるようにして、傷口をズタズタに切り裂く。

ドスランポスは激しい怒りで痛みを無視して、鋭い前足の爪を自分へ傷を負わせた憎き相手へと降り下ろす。

しかし、リサはそれを分かっていたかのように盾で受け、あっさりとボーンククリから手を離してドスランポスから距離を取った。

そして腰に装備していたブーメランをドスランポスの顔へ向けて投擲。

しかし、それを馬鹿正直にドスランポスが受けるはずもなく、首を捻って易々と回避された。

だが、これも首を捻らせることでドスランポスの視界から自身を逸らさせるための布石であり、本命は脇に突き刺さったままのボーンククリ。

リサはドスランポスの視界から己が外れている隙に接近し、両手で体を捻るようにしてボーンククリを引き抜くと、回転して勢いをつけながらドスランポスの頭へとボーンククリを叩き付ける。

ゴシャッ、という鈍い音が響き、鮮やかな赤色をしたドスランポスの象徴とも言える頭のトサカが砕け散った。

加えて、トサカが破壊されたことで脳へ激しい衝撃を受けたドスランポスは視界が揺らぐが、持ち前の生命力で激しくタックルと回転攻撃を繰り返して暴れ、リサを寄せ付けない。

 

「ほい、シビレ罠」

 

そこへ、唐突に男──エイトが極自然体でリサとドスランポスの間に割って入るとカチッ、という音とともに円盤上の装置、シビレ罠を地面に設置した。

ビリッ、という電流が空気中に僅かに放電される音が鳴り、罠が正常に稼動し始めた。

暴れ回るドスランポスの移動方向をある種の確信とともに読み切ったエイトが、その進行方向上に設置したシビレ罠。

それに吸い込まれるようにドスランポスが足を踏み入れた。

その瞬間、ドスランポスは体を反らし悲鳴をあげ始め、雷光虫の発生させる電流を増幅させたものが筋肉を硬直させ、体の自由を奪う。

だが、ドスランポスは火竜ですら脱出に数秒を要するそれを僅か1秒半で打ち破ったが、その1秒半は致命的な隙となった。

ドスランポスが揺れる視界の中、最後に見たのは、己に飛来するボーンククリの姿だった。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「武器投げんなって言ったよな俺。しかも俺が態々ブーメランを買ってやったのにな。あれか、お前の耳は飾りなのかそうなのか。怪鳥の耳カチューシャでもやろうか?」

 

「痛いっ!?耳が伸びるううう!?あ、でも怪鳥の耳カチューシャは欲しいかもって千切れるちゃうんでそろそろ勘弁してください!!」

 

耳を引き千切るくらいの勢いで引っ張っていたが、いい加減リサが喧しいので離してやる。

へにゃッ!という謎の鳴き声を発しつつ耳を押さえるリサを放置し、頭からボーンククリをトサカみたいに生やしているドスランポスへと目をやる。

リサは精々食い下がるのが限界だと思って足止めだけで良いって言ったんだが……こんな予想外な方法で倒してしまうとは。

しかも、これは最初からこうなるように狙ってやりやがったな?

スローイングで頭蓋骨を貫くのはぶっちゃけ無理なので普通は目を狙うのだが、リサの場合は事前に頭蓋骨に罅を入れておいて脆くなった部分を作り出しておいてから脳天を貫通させてる。

ハッキリ言って、反射神経やらが通常のドスランポスの倍近い特異個体でやる技じゃない。

おまけにそれをフリじゃねぇから散々武器を投げんなよって忠告して、あまつさえブーメランを買ってやったのにボーンククリを投げやがった。

何なの?

お前やっぱり芸人なの?

熱湯風呂か氷風呂に突き落としてやろうか?

押すなよ!!

絶対押すなよ!!

……押せよ!!

 

「いいか、ハンターが武器を手放すなんて自殺行為も良いところだ。今回は俺が露払いしてやっていたからドスランポスとタイマンだったが、ソロの場合周囲から何かしらの横槍が入らない方が珍しい。かく言う俺も新米ハンターの頃は力を溜めて斬りかかろうとしたらランポスに飛び掛かられたり、ファンゴに突進されたりしたしな。その時にハンターがモンスターと対等に渡り合うための武器がなければぶっちゃけどんなプロハンターでも太刀打ちできない。だから何があってもモンスターの前で武器を手放すようなことをするな。分かったか?」

 

「……すみませんでした。もう二度と武器を自分から手放すようなことはしません」

 

「だがまぁ俺の補助があったとはいえ、ドスランポスを倒したのは評価しておいてやる。オラとっとと立て。グズグズしてないでさっさと剥ぎ取って帰るぞ」

 

「は、はい師匠!…………あれ?今誉められた?」

 

なお、例のごとく上手く剥ぎ取れなかった模様。

 

俺、早く帰って寝たいです。

 




そういえばペイントボール使ってないやん。
まあ、実際慣れてくると行動パターンとか向かった方角から何処行ったのかなんとなく分かるしね。

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