俺、ハンター辞めて婚活したかった。   作:ラスト・ダンサー

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なんかお気に入りが10倍近く増えてるし、沢山の人に評価されてるし、ランキング2位だと……!?

この数日で何があった!?

とりあえずみんなメラルー嫌い過ぎワロタ。


休息日、休めるのか否か

新しい朝が来た。

希望があるかどうかは未定だが。

昨日の残りのシチューとパンという朝食を食いながら、目下の不安の塊であるリサの住居の問題について思案する。

昨日は誠に遺憾ながら泣き落としに屈してしまったが、そのせいで中々厄介な問題を抱え込んでしまった。

1人で暮らしていてただでさえ狭いと感じる我が家に弟子を住まわせるのは中々厳しいものがある。

今はリサの荷物がアイツの装備一式と、発注ミスで2冊あったためそのままくれてやった調合書と、高級肉焼きセットがあるので処分ついでに押しつけた肉焼きセット、ついでに幾つかのランポス素材ぐらいだから良いものの、ハンターは職業柄様々な物を収集するので、最初は本当に無駄にデカいと思っていた収納ボックスが小さく感じるほどに物が増えていく。

今はまだ良いが、将来的には物の置き場所が無くなり、我が家が物で溢れかえるなんてことも十分に有り得る。

この問題は早急に対処せねばなるまい。

 

「ところで師匠。今日はどうするんですか?」

 

そんな未来を憂う俺の思考を断ち切るように、リサがキラキラした目でこちらを見てくる。

顔に修業したいって書いてあるように見えるほど分かりやすいヤツだ。

コイツは15歳らしいが、そのぐらいの俺もこんな感じだったのだろうか。

夢と希望に溢れたあの頃の少年は、今や三十路を目前に控え、結婚に飢える哀れな餓狼になってしまっている。

だからそんな目で見ないで。

過去との自分の変わりように泣けてくるから。

時間の流れは残酷だ……!

 

「あの、師匠?今日の修業は……」

 

「休み」

 

「はい?」

 

「休みだよやーすーみー。四六時中お前の修業に付き合ってやる気はねぇよ。今日は用事もあるし」

 

「えっ……じゃあ私は何をすれば……」

 

「なんか趣味ないの?読書とか散歩とか」

 

「えっと、えっと……特にないですはい」

 

「つまんねぇヤツだねぇ。じゃあほら、ドンドルマ見学でもしてきたら?俺は出掛ける」

 

「ちょっ」

 

大陸の中心にあるドンドルマには様々な物が集まってくるから見て回ってるだけでも楽しいだろ……たぶん。

家から1歩出て、そういえばリサがいると鍵を閉められないことに気づいてすぐに戻り、リサを家の外に引きずり出してから家に鍵を掛けて今度こそ出発。

夕方には戻ってくるけど、それまでに居なかったら締め出すからなとリサを脅しつつ、向かった先は鍛冶職人たちの工房の並ぶ区画。

あちこちにある炉から発生する熱と煙でこの辺り一帯は常に暑く、煙たい。

おまけに金槌と素材がぶつかり合う音と職人たちの声で非常にやかましい。

そんな暑苦しい区画をひたすら進み、武器や防具を揃えに来たハンターや職人達で溢れ帰る表通りから路地裏へと入っていったその奥に、ひっそりと佇む人気のない小さな鍛冶屋がある。

店先のカウンターは空で店主の姿が見えないが、ここはいつもそうなのでカウンター脇にある呼び鈴を鳴らす。

しばらくすると、トトトトッという子供が走り回るような足音が聞こえたかと思うと、ひょこっとカウンター下から小さな顔が飛び出してきた。

 

「どなた様ー?」

 

「俺だよ」

 

「あ、エイト久しぶりー!」

 

カウンターに背が届かないため、踏み台に乗ってようやく上半身が見えるくらい背の小さな、どう見ても店番のお手伝いをしている子供にしか見えないのが、この店の店主、フランチェスカ・フォルジュロン。

愛称はフラン。

竜人族の鍛冶職人だ。

 

「相変わらず閑古鳥が鳴いてんな。経営成り立ってんのこの店?」

 

「ご心配なくー!前の依頼の代金でまだまだ問題ないんだよね」

 

ちなみにコイツ、腕は確かに超一流で仕事も早いのだが法外な値段を客に要求する。

可愛い顔してとんでもない守銭奴なのである。

しかも現在進行形で武器や防具の定期メンテナンスで絞り取られているしな。

しかし、今までコイツが整備した武器や防具で不具合が起きたことは1度もなく、信頼性も高いので長年贔屓にさせてもらってる。

今はお得意様割引で3割引きにしてもらってるのだが、未だに適正価格より高い。

本人曰く技術料らしい。

知ったこっちゃないが。

昔は適正価格なんて知らなかったから、金をどうにかやりくりして武器を作ったものだが、今思えば良いカモだったと思う。

 

「小さいのに偉いねー。何歳?」

 

「何歳に見える?」

 

「えーっとねぇ、10歳くらい?」

 

「んん?」

 

ふと、横を見るといつの間にかリサがおり、フランの頭を撫でまわしていた。

目を擦ってみてもそれは消えない。

とうとう俺もストレスで弟子の幻覚を見るようになったか?

 

「おかしいな、何故かリサの幻覚が見える」

 

「幻覚じゃありませんよ!?」

 

「幻覚が幻覚じゃないって否定してくるなんて珍しい幻覚だな」

 

「だから幻覚じゃないですって!?」

 

……さて、良い大人が現実逃避していてもみっともないだけなんでそろそろ現実を認識しようか。

 

「何故ここにいる」

 

「えへへ、師匠がどこ行くのか気になって着いてきちゃいました」

 

「少し可愛く言ったら許されると思ったら大間違いだ」

 

「痛い痛い痛い頭が割れるうううう!?」

 

アイアンクローで額を掴んで持ち上げ、左右にゆらゆらと揺らしてやっているとフランが興味津々といった様子で質問を投げ掛けてくる。

 

「師匠?エイトは弟子なんか面倒だって断ってたよね?どういう風の吹き回し?それともコレ?歳の差カップル?」

 

そう言って小指を立てて見せるフラン。

 

「俺の師匠の頼みで仕方なく弟子にしてやったの!あと俺ロリコンじゃないから誤解しないでくれる!?」

 

何かとてつもない勘違いをされては困るので、リサを投げ出して即座に弁明しておく。

ロリコン疑惑なんか立ったら婚活に響くだろうが……ッ!!

 

「痛い……ところで随分と小さいですけど店番のお手伝いですか?」

 

「私がここの店主でーす!」

 

「あー、そうなんですかー」

 

フラフラと起き上がったリサはまたフランを撫で回しながらやたらとゆるい内容の会話を繰り広げている。

どうやら本当にフランが店主ということを信じていない様子なので、年長者ぶろうとするアホの子に現実を教えてやるとしよう。

決してリアクションが面白そうだとか、そんなことはないからマジでないから。

 

「良いことを教えてやろうバカ弟子。竜人族の外見年齢と実際の年齢は釣り合わないからな」

 

「どういうことですか?」

 

「ソイツ俺より歳上」

「え?」

 

ピタッ、と地面に埋まっているバサルモスみたいに動かなくなったリサは急に顔が青ざめていく。

 

「ついでに、お前の叔父さん──つまり俺の師匠もフランの世話になってるからな。歳上と辛うじてわかってるだけで本当の年齢は俺も知らん」

 

「すみませんでしたー!?」

 

見事な土下座が炸裂した。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「アッハハハハ!いやぁ、文字通り夫婦漫才みたいに息ぴったりだね。さすが師匠と弟子なだけあるね!」

 

「芸人の師匠じゃねえぞ俺は」

 

「まあまあ、ところでそこのお弟子さん……リサちゃんだっけ?その腰に下げてるハンターナイフ見せてごらん?」

 

「こ、このハンターナイフですか?まだ研いでなくてとてもお見せできるような代物ではないんですけど……」

 

歳上と分かった途端にフランを敬い始めたリサ。

その調子で俺の方も師匠として敬って欲しいものだが一向にその気配はない。

あれ、俺もしかして嘗められてる?

これは後で焼きを入れるべきか?

そう考えながら視線を向けると、例の殴殺ハンターナイフを渡している途中のリサが何かを感じたのか背筋を震わせていた。

無駄に鋭いやつめ。

 

「……コレ刃がほとんど潰れてるじゃない。何エイト、もしかして模擬刀でも渡してたの?」

 

「違う違う。ソイツ砥石持ってなくて切れ味がなくなってるのに、そのままランポスの群れが壊滅するくらい使ったからだよ」

 

「……なんだ。やっぱりそっくりじゃないか君ら」

 

「うるせえ」

 

「ともかく、これはもう研いだくらいじゃどうにもならないね。鍛冶職人としてこんなものを持たせたまま狩りには行かせられないよ」

 

「そんなっ!?」

 

「……ああでも、いっそ強化すれば使えるようになると思うよ?そう言えばランポス素材はあるんだよね?」

 

「はい。剥ぎ取りはほとんど失敗してしまったんですけど追加報酬でいくつか。何故か倒してないのにドスランポスの素材もあります」

 

それを聞いたフランはこちらに視線だけ向けてニヤニヤと笑う。

なんだろう、何か盛大に勘違いされてる気がする。

 

「じゃあその素材を使ってハンターナイフを強化してあげよう。初回だからリサはお金払わなくてもいいよ?」

 

「お前どうしたの?何か悪いものでも食った?それともどこかに頭を打ったか?」

 

全く信用できない。

恐らくあれだ、まずはこうして顧客をゲットしておいて、次に強化しようとすると初回分の金額が追加された値段だったりするに違いない。

リサが借金地獄に陥って俺に泣きついて来たら自己破産させるしかないな。

 

「じゃあ、ハンターナイフと素材は預かっておくよ。来週また今ぐらいの時間においで。それぐらいには出来てるから」

 

「ありがとうございます!……あ、でも私それしか武器を持ってないのでそれがないとクエストが受けられないんですけど……」

 

「じゃあほら師匠、代わりの武器買ってあげなよ」

 

「はぁ?何で俺が?」

 

俺があからさまに嫌そうな顔をして断ろうとすると、フランがずいっと顔を近づけ、小声で呟いた。

 

「……メンテナンス代、倍取るぞ」

 

「よーし、買えるやつなら買ってやるぞー!」

 

倍とか洒落にならん。

ただでさえ大きな出費を控えているんだ。

ここで無駄に金を使うくらいなら、最低限の出費で抑えるのが吉か。

おのれ、足元見やがって。

展示されている武器を眺めてどれにしようか悩んでいるリサを横目に溜め息をついていると、ちょいちょいと袖が引っ張られた。

見ればフランが何か書かれた紙切れを差し出してきていたのでそれを受けとると……。

 

「あ、あとこれあの子の武器強化の代金ね」

 

先程の武器強化の請求書だった。

どういうことだと目線で訴えると、フランはニコリと営業スマイルを浮かべると、こう宣った。

 

「リサは払わなくていいといったが、エイトには言ってない。それに、このぐらいエイトにとって端金だよね?可愛いお弟子さんのお祝いだと思って諦めなよ」

 

「フラン……!謀ったな、フラァァァァンッ!!」

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

リサが小一時間悩んだ末に買ったのはボーンククリ。

俺としては大変安い出費で助かったのだが、選んだ理由を聞いたところ、切りつけた時にわざと骨に引っ掻けてダメージを与えられそうだし、投げやすそうな形状をしてる、とのこと。

……この子本当に頭は大丈夫かしら。

あと武器を投げようとするな。

本当に投げられたら怖いので帰りに雑貨屋でブーメランを買い与えておく。

というかフランに知り合い紹介してもらい損ねた。

クッ、業腹だが明日また行くしかないな。

今度はリサに留守番してろと言いつけてからにしよう。

 

そして次の日、リサがランポスを狩りまくって群れのパワーバランスが崩れたのか、森丘エリアで2つのランポスの群れが衝突を起こすという事態に発展していたことが判明し、ギルドから受注者指名で緊急クエストとしてこの群れのリーダーを双方ともに討伐せよ、という遠回しな「原因はお前らなんだから責任を取れよ」とのお達しが。

お願いだから婚活させてよォォォォッ!!

 

俺、ストレスで禿げたら婚活に響きそうで不安です。

 


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