俺、ハンター辞めて婚活したかった。   作:ラスト・ダンサー

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18日の短編日刊ランキング1位になってました。
ありがとうございます!

最初は本当に1話だけ書いて終わりにしようと思ってたのにここまで期待されていると後には退けませんね。
というわけで短編から連載へと移行しました。
今後もよろしくお願いします。


クエストクリア、それは安息か否か

「うぅ、全く上手く出来ない。コゲ肉美味しくない……」

 

「生焼け肉は焼き加減で言うとレアだから旨いんだがなぁ。コゲ肉っていうかそれもうほとんど炭じゃね?何?お前炭食べるの?」

 

まぁ、失敗作(コゲ肉)はまだあるし全部食えば多分スタミナは回復するだろう。

味を度外視すればな。

俺も始めは堪え性がなく、火から早く上げすぎて生肉のままだったり生焼け肉だったりしたなぁ。

今でこそ慣れで目で見て焼き加減が判るが、俺はどうやってこんがりと焼くためのタイミングを覚えたんだっけ……。

 

「お、そうだ。あれだよあれ!」

 

「どうかしたんですか?」

 

「お前みたいな初心者が上手く肉を焼くための唄があるんだよ」

 

「唄?」

 

「なんでも、歌い終わってから三拍子で肉を上げると、肉の焼き加減が丁度良くなるように計算されたものらしい」

 

「そんなのがあるんですか!?」

 

「ああ、確かハンターノートの最後の方に載ってた気がする」

 

「それを早く言って下さいよ!!」

 

「俺から言わせれば分からないなりに手持ちの書物で調べようとしないお前が悪い。何でもかんでも教えてもらえると思うなよ」

 

「はい……」

 

リサはしょんぼりしながらハンターノートを捲り、本当に最後の方にご丁寧に楽譜付きで載ってた肉焼きの唄を発見した。

後で知ったのだがこの唄、幾つかバリエーションがあるらしい。

男ver.とか女ver.とか猫ver.とか高速ver.とかよく分からなかったが。

 

「~♪」

 

リサが上機嫌で肉焼きの唄を歌いながらぐるぐると肉焼きセットの取手を回していく。

そして唄も終わり、真剣な表情で三拍子待った後、勢いよく腕を振り上げ、肉を天高くへと掲げたリサは感動からお決まりの台詞を叫んだ。

 

「上手に焼けました~♪」

 

「1個こんがり肉焼くのにどんだけ時間かかってんだよ。スタミナが切れたらこっちより足の速い大型モンスターなんか追ってられないぞ」

 

「……少しは誉めてくださいよ」

 

「出来て当たり前のことを誉める気はない。とっとと他のやつも集めて来い。もう太陽が西に傾き始めてるぞ」

 

「えっ!?もうそんなに経ってたんですか!?」

「そらそら急いだ急いだ、時間切れになったら追加で黄金魚釣らせるぞ」

 

その台詞を聞いてマズイと思ったリサはあたふたしながら肉焼きセットを片付けると、森の方へ走って行った。

ちらり、とリサがさっきまで肉を焼いていた場所のとなりに自生している薬草に視線を向ける。

ここでこれを採集しておけば目標達成の近道になったのにな。

 

「まぁ、森にも薬草は生えてるだろ」

 

俺もリサの後を追って森へと向かった。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

森は生い茂った木々の葉で日光が遮られ、昼間でも薄暗い。

おまけにこの辺にはこちらに害をなすモンスターもちらほら出てくる。

目の前でリサが興味津々で観察しているモスは違うが。

苔を意味するその名の通り背中に苔を生やしている豚のようなモンスターだ。

フゴフゴと鼻を鳴らしながら地面の匂いを頻りに嗅いでいる。

コイツも回復薬グレートの素材に関係しているのだが、さてこのアホの子は気づくのか?

ハンターノートと調合書を見ながら、どうにか薬草とその薬草の効果を増幅する作用のあるアオキノコで回復薬を作れることには気がついたようだが。

 

「モスの好物はアオキノコ……つまりモスを追い掛けていけばアオキノコが見つかる?」

 

ようやく気が付いたらしい。

だが、残念なことに既に色々と手遅れだ。

 

「お前が調べてる間に目の前でアオキノコをガンガン食ってたぞ」

 

「全部食べないで!少しは残してぇぇッ!?」

 

まぁ、背中からアオキノコを生やしている個体もいることは黙っておこう。

食事を邪魔されて機嫌の悪くなったモスの頭突きをケツに食らって悲鳴を上げるリサを見ながら密かにそう思った。

その後、リサはケツを擦りながらアオキノコと自生していた薬草の採取に成功し、回復薬を回復薬グレートにするにはハチミツが必要なことがわかったらしい。

そうしてハチミツを探すために苔の生えた岩壁が両側にある一本道のエリアに着いた。

岩壁には大小の空洞があり、その中に蜂の巣がある。

そこからハチミツを採取するのは子供でもわかるだろうが、さてコイツはどうやって採る気なんだ?

普通は煙を吹き付けて蜂を大人しくさせてから採るんだが、まさかアオアシラみたいに蜂を物ともせずに無理矢理採るのか?

一応持ってきていた解毒薬を準備しつつ様子を見ていると、リサは剥ぎ取り用ナイフを手に巣に近寄って巣を壊すとそのまま普通に採取し始めた。

巣を壊された蜂は怒ってリサを毒針で刺すべく襲いかかるが、リサは剥ぎ取り用ナイフを片手で高速回転させて蜂を叩き落としながら、もう片方の手でハチミツを採取していた。

 

「えぇー……」

 

予想外の方法で来やがった。

というか、アイツ攻撃しようとした蜂を目で視認してから叩き落としてないか?

そんな非常識な光景を眺めているとしっかりとハチミツを確保できたらしいリサは「師匠ー!ハチミツゲットしましたー!」と笑顔で戻ってきた。

しかし、その背後から忍び寄り、リサのポーチから調合書を掠め取った不届き者の姿が見えたので、1歩踏み込んで距離を詰め、トーキック(つま先蹴り)で不届き者を蹴飛ばした。

 

「え?」

 

ハチミツゲットの余韻に浸っていたリサは突然数メートル離れた場所にいたはずの俺が真横に立っていることに理解が及ばず呆けている。

宙を舞っていた調合書をキャッチし、俺は視線を不届き者──メラルーに向け、岩壁に叩き付けられて気絶しているのを確認した。

 

「後方不注意な。調合書は高いんだから盗まれてたまるかよ。というかこれ俺のだし」

 

メラルーに調合書を盗まれる、ハンターあるあるのトップ10にランクインしてそうな案件だ。

対策としては盗まれないように気を付けるのがベストだが、盗られたくないものから気を逸らすためにマタタビを荷物に入れておくと奴等はマタタビを優先して盗む。

まぁ、俺の場合は今みたいに盗られた瞬間にカウンターを叩き込んで奪い返すが。

げしげしとメラルーを一通り足蹴にした後、調合書をリサに渡す。

 

「ほれ、今から使うだろ。どうせお前のことだ。調合書が無かったら成功するまでに燃えないゴミをいくつ量産するかわかったもんじゃない」

 

「……そんなことないですよ」

 

「目を逸らすな。ついでにコゲ肉量産したのは誰か自分の胸に聞いてみろ」

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

師匠の言っていたことがこのクエストで大体理解できた。

リサの才能、それはもはや天性の才能というべき戦闘能力。

神憑り的な見切りに、恐ろしく鋭い反射神経。

そして対象の急所を的確に攻撃できる精密性。

その代わり、他の才能はなんかもう目も当てられないくらいに壊滅的だ。

剥ぎ取りは恐ろしくヘタクソだし、調合で失敗する確率が1%でもあれば燃えないゴミを作り出し、こんがり肉ができる確率は10%未満。

おまけにアホの子でオツムが足りないご様子。

何でもかんでも才能で決まるわけではないが、これは酷すぎる。

リサは才能のステータスをバランス度外視で戦闘方面にガン振りして生まれてきたに違いない。

これをどうにかしろとは……冗談がキツいぜ師匠。

どう考えても俺に問題を丸投げしたとしか思えない。

だが、もうちょっと物事を考えられるようになれば化けると思うんだが、それが難しいんだよなぁ……。

ランポス相手に無双したは良いものの、剥ぎ取りが全く上手くいってないリサを見て、他人のことなのに俺は将来に不安を覚えた。

 

夕陽が辺りを黄昏に染め上げる中、やけにげっそりとしたリサを伴ってベースキャンプに到着した。

リサが疲れている理由は、砥石を渡していなかったのでハンターナイフの切れ味がガタ落ちしてランポスの鱗すらまともに切り裂けなくなった状態でランポスを狩り続けたせいだ。

なんかもう後半は無理矢理欧殺してたからな。

片手剣なのに。

死ぬに死ねずにひたすら片手剣や盾で殴打されるランポスを見てたら哀れすぎて泣けてきたよ。

結果的にランポスの群れを壊滅状態に追い込んだせいで怒り狂ったドスランポスが現れたが、それはサクッと俺が殺っといた。

 

「20頭目あたりからどうにかコツを掴んだ気がしたんですけど……なんで出来ないんだろ……」

 

「そりゃあお前が致命的なまでに下手くそなのと経験不足が原因だろ。お前の場合、もはや条件反射で剥ぎ取りが出来るくらいになるまで繰り返し練習あるのみだ。殺すときは異様に上手く解体するくせになんで剥ぎ取りで失敗するのかねぇ?」

 

もはやここまで来ると呪いの域に入るんじゃないだろうか。

戦闘だけは新人ハンターにしては上出来なんだが、言ったら調子に乗りそうなので言わないでおく。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

そして、また数日かけてドンドルマへと帰ってきた。

出来るならば家へ直帰したいが、クエスト完了の届け出を出さないといけない。

このクエスト、ホストを俺名義で出しちゃったのは失敗だった。

リサにやらせとけば押し付けられたのに。

次からはそうしよう。

クエストカウンターへ向かうと、新人らしい受付嬢が俺の顔を見た途端バックヤードに引っ込み、すぐにテルスが出てきた。

この自動で受付嬢がテルスになるシステムどうにかしてくれませんかね。

たまには違う人でも良いのよ?

 

「お疲れ様です!クエスト完了の届け出ですね?」

 

「ほい」

 

俺から依頼状を受け取ったテルスは、手際よくクエストクリアの証であるデカいスタンプを依頼状に押す。

ズダンッ!という重みのあるスタンプの音が響き、綺麗に『QUEST CLEAR』の文字が依頼状に押印された。

綺麗にスタンプを押せるのも良い受付嬢の条件なんですよ、とこの前テルスが言っていたがその前にお前は最近乱れてきた接客態度を見直そうか。

現にほら──

 

「それで、貴女は一体どんな手を使ってあの人の弟子になったの?さあ吐きなさい!?」

 

「ひっ!?この人恐いです師匠……」

 

リサにイャンクックなら逃げ出しそうなガンを飛ばして半泣きにさせてるし。

あとリサも俺を盾にするな。

それを見たテルスが人を殺しそうな目をしながら「まさか体で……!?」とか言い始めた辺りで、同僚登場→殴打→後輩に回収される、のコンボでバックヤードに消えた。

なんかクエストより疲れた気がするぞ。

受付嬢ってのはクエストから帰ってきたハンターの心の癒しでなければならないと思うの。

疲労からか、背中に背負った大剣がやけに重く感じる。

とてもじゃないが酒場で一杯やる気分ではない。

もう今日は帰って飯食って水浴びしたら寝よう。

そんで明日は休みにして今度こそ婚活しよう。

知り合いにいい人いないか紹介してもらいに行こう。

そんな風に明日の予定を立てながら帰路へ着く。

そして自宅の扉に手を掛けたのだが背後が気配がある。

 

「…………」

 

「…………」

 

「ん?」

 

「はい?」

 

後ろを振り向くと何故かリサがおり、自分の後ろに何かあるのかと振り向き、何もないことを確認してからこちらを見て首を傾げている。

 

「なんでついて来てんの?」

 

「?どういうことでしょうか?」

 

「いや、お前も帰れよ」

 

「???帰ってますよ?」

 

「あ?どういうこと?」

 

「弟子は師匠の家に住むものではないんですか?」

 

「はあああああああァァァァッ!?」

 

何言ってんのこのアホ弟子!?

コイツが住む!?

俺の家に!?

 

「何をバカなことを言ってやがる!?誰がお前が家に住むことを了承した!?」

 

「え!?でも、最初に来た時だって……」

 

「あれはお前が勝手に居間に居座ってただけだろうが!?」

 

「じゃあ私は今夜何処に寝れば良いんですか!?」

 

「知るか!!どっかに宿をとって泊まれ!!」

 

「今12ゼニーしかないんですけど……」

 

「はぁ?お前の叔父さんがいくらか支度金を出してくれたんじゃないのか?」

 

「はい、ハンターナイフとレザー装備を揃えたら無くなっちゃいましたけど」

 

「……じゃあ野宿でもすれば?」

 

そう言って高速で扉を開けて体を滑り込ませ、すかさず扉を閉めようとするが、あと少しというところで足を挟んで阻止された──が同じ手は食わん。

げしっ、と足を蹴り出してやり、表で「痛ッ!?」という声が聞こえると同時に扉を閉め、鍵を掛ける。

ついでに裏口の戸にも鍵を掛ける。

 

『開けてくださいよー!!入れてくださいよー!!』

 

ドンドンと扉が叩かれるが無視して夕飯の仕度をする。

今日はシチューにしよう。

そうすれば明日の朝食作らなくても良いし。

 

『ねぇ聞いてますー!?開けてくださいよー!?』

 

無視無視。

 

『開けて……開けてくださいよぉ……』

 

…………。

 

『ぐすっ……お願い……開けてよぉ……』

 

扉を開けた。

涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を上げ、捨てられた犬みたいな目でこちらを見上げるリサと目が合った。

 

「さっさと入れ。変な噂が立ってご近所の皆様に誤解されたら困るからな」

 

「あ"り"がどう"ござい"ま"ず」

 

「まずはその汚い面をどうにかしてこい」

 

「ふぁい……」

 

よくわからない鳴き声で返事をして顔を洗いに行くリサの後ろ姿を見て、思う。

本当に手間のかかるヤツを弟子にしちまったなぁ、と。

 

俺、今後の不安で夜しか眠れなさそうです。


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