俺、ハンター辞めて婚活したかった。   作:ラスト・ダンサー

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あれ、評価バーがいつの間にか真っ赤になってる?
何故か一部の反響がスゴいぞ……?
というかお前ら息合いスギィ!!

よろしい、ならば第2話だ。


初の弟子、彼女は狩人か否か

一念発起してハンター廃業の覚悟(辞めてないけど)をしてまで婚活に勤しもうとした矢先、師匠の姪を名乗るリサ・グリーンフィールドに師匠の推薦状というジョーカーを切られてしまい、渋々弟子にしたわけだがどうしたものか。

 

東方の衣装入れだというタンスから麻のシャツとズボンを引っ張りだし、インナーの上に着る。

部屋を出ると今度は寝癖でボサボサになった頭と、目ヤニと涎の跡でとても見れたもんじゃない顔を水瓶の水でどうにか整え、若干伸びていた髭をじょりじょりと剃り、取り敢えず人前に出られる程度に身嗜みを整えた。

 

金はあるのに感性が庶民的な俺は広い家に住み慣れておらず、未だに狭い家に住んでいる。

狭い寝室に狭い居間、狭い炊事場と部屋数はあるのだが如何せんどこも狭い。

個人的にはやたらと仕切りだけが多い欠陥住宅だと思っている。

何度壁を力任せにぶち壊そうと思ったことやら。

そのためアイルーキッチンなる便利な施設を設置するスペースがないため、ウチではキッチンアイルーを雇っていない。

まぁ、別に集会所に行けば食えるので問題ないのだが。

ちなみにオトモアイルーも雇っていない。

かけだしの頃は己の力のみで何処までやれるのかと我ながら中二病だったせいで、自分1人で立ち回る戦闘スタイルを確立してしまったため、他のハンターなら大丈夫なのだが、オトモアイルーだと踏み潰してしまいそうになったり、モンスターごと薙ぎ払いかけたりしてアイルーに申し訳ないという理由でウチにはあの愛くるしい見た目の獣人族は1匹もいない。

色々と脱線したがまぁ、そういうわけで朝飯は毎日自分で用意しなければならない。

 

すたすたと居間を通り抜けて炊事場へ向かおうとすると、レザー装備をわざわざ外してインナー姿で眠りこける俺の弟子になったらしいリサの姿があった。

すっかり忘れてた。

やや緑がかった黒髪をソファーに広げ、成長しかけなのかそれとももう育たないのか分からない微乳が見て取れるが別にインナー姿ごときでは何とも思わない。

女ハンターどもは普通に人前でインナー姿になるし、それで本当に防御できるのか不安になるほど露出する防具を着ていたりするしな。

キリン装備の娘はエロい。

異論は認める。

 

そういえばコイツ勝手に人の家で爆睡してやがるが何処に住むつもりなんだろうなと思いながら、床下の食料保管庫から一応2人分のパンとチーズ、干し肉を取り出した。

調理?

今日は面倒だからしないよ。

何でわざわざ弟子(自称)に師匠(他称)が飯をつくってやらなければならんのだ。

普通逆だろ。

主食以外全部保存食という食事だが、パンはヘブンブレッドだしチーズはロイヤルチーズ、干し肉もこの辺じゃ珍しいポポノタンの燻製だ。

そのままで十分いけるだろ。

全くクッキングしてない朝飯を居間に運ぶと、ようやく起きたのかリサが寝惚け面で呆けている。

物凄いアホな子に見える。

師匠、大変面倒なヤツを送りつけてきやがりましたね。

会って2日目でもう不安しかないんですが、リコールしちゃダメですか。

 

「ふぁ…………ふぇ?…………ファッ!?」

 

しばらく朝食を食いながら残念生物を眺めていると急に意識が覚醒したのか、槍使いのバックステップに勝るとも劣らない俊敏な動きで後退った。

 

「え!?何!?ここどこ!?おはようございます!?」

 

「寝惚けてんじゃねぇぞ間抜け。わざわざ朝飯まで用意してやってんだ間抜け。さっさと支度して飯食え間抜け」

 

「あ、ハイ…………3回も間抜けって言われた……」

 

レザー装備一式を抱えてとぼとぼと身支度を整えに居間から退出したリサに俺は深い溜め息をつくのだった。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「さて、ようやくお前が飯を食い終わったことだし本題に入ろうか」

 

「修業ですか!?」

 

「そうだよ、お待ちかねの修業ですよ。まずはお前がどの程度基礎力があるのか実際に狩場に行って確かめる」

 

「いきなり実戦訓練、これが師匠流のやり方なんですね!」

 

「いや、本来は色々と教えてかららしいんだが、単に準備するのが面倒だから最低限の装備を渡してぶっつけ本番でやってもらおうかと」

 

「……大丈夫なんですかそれ?」

 

「まあなんとかなるだろ。一応俺もついて行って助けてやるよ……(死にそうになったらな)

 

「え?最後なにか言いました?」

 

「気合いを入れろよと言ったんだ」

 

「が、頑張ります……!」

 

不安そうな表情をしながらもやる気を見せたリサはしばらくやるぞー!とうるさかったので朝っぱらからご近所に迷惑だろうがと拳骨を落として黙らせた。

俺もついていくと言ったからには武装しなければならないので、収納ボックスからハンターシリーズ装備を引っ張り出して身に付ける。

武器は大剣のアギト。

どちらも俺がかけだしの頃の装備だ。

年季は入ってるがしっかりと手入れしてあるためまだまだ使えるだろう。

後は調合書と肉焼きセットを取り出してそれをレザー装備一式とハンターナイフを装備していたリサに押し付ける。

 

「あの、これは?」

 

「後で使うから持っとけ」

 

そう言ってさっさと大剣を背負い、後を慌ててリサがついてきたのを確認しつつ集会所へ向かう。

 

集会所は朝だというのに相変わらず賑やかで、夜間のクエストから帰ってきた連中が日の出ている内から酒盛りを始めている。

ここは昼夜問わずに酒の香りと喧騒に包まれているな。

そんな連中にビビっているリサを放っておいて受付嬢のところへ行く。

 

「よう」

 

「あ、エイトさん、おはようございます。ご用件は何でしょうか?」

 

ニコニコと営業スマイルを浮かべている受付嬢、名前がテルス・アークライトとかいうやたらかっこいい名前の、何故か昨日大老殿に乗り込もうとした受付嬢である。

年は確か俺より2~3歳年下で俺がハンターデビューした頃から受付嬢を始めたらしく何だかんだと付き合いがある。

何故か俺が来ると受付嬢が必ずコイツに交代になるのだがそれは置いておこう。

 

「森丘の素材収集ツアーを受注で」

 

「かしこまりました。ところでそちらの方は?」

 

「この度師匠に弟子入りしましたリサ・グリーンフィールドです!よろしくお願いします!」

 

「ああ、お弟子さんですか……ってええええええ!?」

 

1度は何でもない風に視線を逸らした癖に、2度見したときのリアクションが喧しい。

何をそんなに焦っているんだコイツは。

俺がパーティー組むの対巨龍戦の時だけだと思ってる?

 

「おい、ソイツのことはどうでもいいから早くクエストを……」

 

「どうでも良い訳ないでしょうが!?」

 

……とうとう敬語やめて客に怒鳴り始めたんだけどこの受付嬢。

取り敢えず今年入ったばっかの若い子とかにチェンジ。

リサもポカーンと見てないで止めろよ!

 

「ねぇ何で!?いつもなら弟子入りとか相手にしないくせに何で急に弟子なんか取ったの!?しかも年下の女の子!?もしかして年下趣味だったの!?私も年下だけどダメなの!?」

 

ハンター装備の胸元を掴んで訳の分からないことを叫びながらガックンガックンとこちらをカウンター越しに揺さぶるテルス。

受付嬢とはいったい何だったのか……。

まあそんな真似をしていればいつの間にかテルスの背後にニッコリと笑みを浮かべた同僚の姿があり、分厚いクエストリストの角でテルスの後頭部を強打すると動かなくなったテルスを後輩たちに預け、受付嬢がチェンジされた。

テルスはバックヤードへと消えた。

 

「……あの、さっきの人は……?」

 

「ん?受付嬢なら最初から今座ってるお姉さんじゃないか」

 

「え、でも……」

 

「ここでは何もなかった。イイネ?」

 

「アッ、ハイ」

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

アプトノスの竜車に揺られて目的地へ向かうこと数日。

着いたのは森丘エリア。

豊かな森と中央の洞窟が特徴的なエリアで、大怪鳥や雄火竜が現れることもあるが、それにさえ気を付けていれば初心者が訓練するのに申し分無い。

時期的にも繁殖期は外れているので大丈夫なはず。

まぁ、運悪くランポスの群れに囲まれたりファンゴに追い掛けられたりするかもしれんが……何事も経験だ。

苦労は買ってでもせよ若人よ。

こう言うと自分が若くないみたいに聞こえて地味に精神にダメージ。

婚活するつもりだったのにどうして俺はこんな所にいるんだろうか。

 

「あの、ところで何をすれば良いんでしょうか」

 

「ハンターたる者自給自足すべし。フィールドから素材をかき集めて回復薬グレートとこんがり肉、ランポスの鱗を日暮れまでに集めろ。それが1つ目の修業だ」

 

「……回復薬グレートって何から作るんですか?」

 

「さぁな?ハンターノートに材料の組合せなら書いてあるだろ?俺は本の読み方から教える気はない」

 

そんな無茶な、と呟くリサをベースキャンプから引きずり出し、通常エリアへシュート!

ケツを蹴られて泣く泣く探索に出掛けて行くリサを遠目に見守りつつ、師匠の姪の実力を見極めることにした。

 

「まずは、こんがり肉なら分かるからそこから始めよう」

 

そう言ってリサが目につけたのは野生のアプトノス。

成竜が2頭と幼竜が1頭、どうやら親子らしい3頭が仲睦まじくしている。

生肉を手に入れるためにはあれらの命を頂戴せねばならない。

アプトノスは雄の個体は反撃してくることもあるが、特に強いわけでもないので問題ないだろう。

だが体力は小型の鳥竜種よりあるので、息の根を止めるのに時間がかかると逃げられてしまうこともある。

俺のオススメは体力のない幼竜の個体を狙うことなのだが果たしてあの娘にそこまでの知能はあるのだろうか。

正直旅の途中も真面目なのは判るがどうにもアホの子っぽい雰囲気を感じたので非常に不安である。

 

そしてリサがハンターナイフを抜き放つと、彼女の目の色が変わった。

惚けたような雰囲気は消え失せ、ただ静かに殺気を募らせる狩人の姿があった。

なるほど、確かに才能はあるな。

リサは音もなく駆け出すとまず最初に成竜の個体に斬りかかった。

狙いは──首筋。

一撃目で首に大きな切れ込みを入れられたアプトノスの首から血が吹き出す。

その血を浴びる前にリサは跳躍し、首を飛び越えて反対側に回ると一閃。

すぐに次の獲物に飛び掛かった。

アプトノスは首を落とされて痙攣していた。

 

次に狙われたのは親が殺され戸惑う幼竜。

瞬く間に接近してきたリサにまともに反応することができず、ハンターナイフを下から上顎を貫くように突き上げられ、すぐに静かになった。

そして残っていた雄の個体は怒りのまま突進を仕掛けてくるが、リサはそれをひらりと回避するとアプトノスの足の辺りに刃を走らせた。

すると、アプトノスが体勢を崩して頭から地面に倒れ込んだ。

あれは足の腱を切断されたのだろう。

そして残りの腱も流れるように切断し、残ったのは動けなくなった哀れな獲物。

リサはゆっくりと相手に近づくとアプトノスの大動脈へハンターナイフを一突き。

 

気が付けば、のどかな川原の風景が紅い華が幾つか散った凄惨な光景に変わっていた。

 

「……師匠、本当にとんでもないヤツを送ってきやがったな?」

 

肉焼きセットで生肉を焼いてみるが生焼け肉や焦げ肉を量産しているリサを眺めながら、俺は独りそう呟いた。

というか何回か剥ぎ取り失敗してなかった?

 

俺、弟子を一人前に出来るのか不安になってきた。


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