【完結】もしパンドラズ・アクターが獣殿であったのなら(連載版)   作:taisa01

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もっさん3666様、5837様、河灯 泉様、金欠鬼様

誤字報告ありがとうございます。
足を向けて寝られませんが方向がわからず、普通に寝ます(ぉ


第3話

ナザリック地下大墳墓 第九層 会議室

 

 先ほどまで、エ・ランテル戦の観戦および戦術分析などが行われていた。しかし、いわゆるここからは舞台裏というので、パンドラズ・アクターが妨害系魔法を展開し、その見世物も終了となった。

 

 ナザリック最高指導者であるモモンガを筆頭に、現在任務で抜けているシャルティアおよびセバス以外の守護者が観戦していたが、得られた情報は多岐に渡っていた。

 

「アルベド。人類の都市防衛時における行動指針の分析を任せる。報告書にまとめた後、守護者各位に回覧せよ」

「かしこまりました」

 

 モモンガは先ず補佐役であるアルベドに指示を出すのだった。そして周りを見渡すと、一様に考えごとをしているように見えた。そこで、水を向けることにしたのだが、後から考えれば失敗であった。

 

「デミウルゴス。先ほどの戦闘でなにか気になることがあったか?」

「いえ、先ほどラインハルトの超位魔法発動時にモモンガ様に回復エフェクトが走っていたような。なにか関係があるのかと」

「えっ」

「うん。僕も気になった。モモンガ様に何があったのかなって」

 

 モモンガは、先ほどの戦闘でパンドラズ・アクターに見せ付けられた黒歴史によって、感情の強制沈静化連続発生させ、よりにもよって部下に見られてしまったのだ。

 

「アレほどの魂を収奪し蓄積したのよ。創造主であるモモンガ様にフィードバックがあってしかるべきよ」

「あっ」

「なるほど、ではラインハルトにあのモニュメントを作らせる機会があったら実行させるべきですね」

「条件は大量の魂を獲得するという感じかな、大規模戦闘の時にうまく作ってもらえれば、モモンガ様への供物にもなるんですね」

 

(いやいやいや、なんで黒歴史に反応しただけで、こんな面倒なことに。てかアレを毎回見せられてリアクション芸人ばりに反応しないとイケないの?!)

 モモンガはある意味絶望していた。たしかにあのモニュメントを複数立て、スワスチカを構成できれば、ワールドアイテム経由ではあるが巨大なマナプールとして利用できる。守護者達の言い分も間違ってはいない。

 

 だが、そんなどうでもいい時間はここまでだった。

 

 モモンガ宛にソリュシャンからメッセージが飛んできた。そして同時にスレイン法国の使節団を監視していた影の悪魔(シャドウ・デーモン)からデミウルゴス宛にもメッセージが飛んできたのだった。

 

 

 

******

 

エ・ランテル 共同墓地

 

 ラインハルトは、エンリやハムスケらを連れ、霊廟に向かっていた。

 

 すでにラインハルトの超位魔法によりアンデットは壊滅し、首謀者のカジットも討ち取られている。しかし、まだ若干の残党がおり兵士や冒険者達は巡回しながら負傷者の救助などを行っていた。ラインハルトも、その行軍のさなか、多くの兵や冒険者に治癒の魔法を施し救っていた。

 

 しかし、ラインハルトはもう一つの依頼を受けているため、この霊廟に向かってきたのだ。

 

「卿らはここで、出入口を固めるように。まだ奥に敵が残っていよう」

「かしこまりました」

 

 ラインハルトはエンリ達に霊廟の出入口を封鎖させると、その奥に入っていくのだった。

 

 霊廟。建てられたのはそれなりに昔なのだろう。壁の風化などに歴史を感じることができる。また先ほどまでアンデットの軍勢が内側から通ったため、いたるところに傷が残っている。

 

 逆に言えば、大量のアンデットの進軍により、本来は隠すことができていた神殿の入り口も、その役目を全うすることができず、壁に見えるが床を見れば引きずった跡だらけという状態となっていた。

 

 ラインハルトはそんな霊廟を迷うことなく、トラップも仕掛けも総て破壊し突き進むのだった。

 

 何度か階段を降りかなり深い場所まで進むと、開けた場所にたどり着いた。壁などには祭壇が形成され、至る所に神具と思わしきものが置かれ、一部地下水もつかった儀式場であることが見てとれる。

 

 その真ん中には、棒立ちになった少年が一人。

 

 ラインハルトと面識があるンフィーレアである。両目から血を流し、無駄に豪奢なティアラのようであり、髪飾りのようでもあるものを装備している。

 

 しかし一人だけ。

 

「すでに幕引きは終わった。役者は退場するもの。それとも、卿には舞台に上がり続ける理由でもあるのかな」

 

 霊廟の地下神殿。

 

 そこに響き渡るラインハルトの声に、反応するものはいない。

 

「もし、このまま消えるというなら私は見逃そう」

「さっきから首筋に感じる視線は、あんただけのものじゃないよねぇ。あんたが見逃しても、しっかり追手が仕掛けてくるだろうさ」

 

 二度目の声に祭壇の影から、一つの影がでてくる。雰囲気からは女の戦士。マントである程度隠しているが無論武装をしていることだろう。

 

「卿がクレマンティーヌとやらか。元漆黒聖典。この数日調査した限りでは、人類でも上位の実力者といったところか」

「で~よ~く調べてるねごくろうさん。で、外で大暴れした黄金の獣とやらが、私に何の用だい」

 

 クレマンティーヌは、本来カジットの襲撃の混乱をついて、追手から逃げるつもりであった。

 

 その計画は半ばまで成功した。しかしいざ逃げようとした時に、目の前の男によるアンデットの一掃。加えてスケリトル・ドラゴンすら魔法一つで討滅されてしまったのだ。

 

 ほとぼりが冷めるまで隠れるしかないかと、腹をくくった矢先に今度は問題の男が現れて自分のことをある程度調べていたのだ。

 

「どうやら、カジッちゃんの計画も私の計画もバレてたみたいだね。やるね~」

 

 クレマンティーヌはおどけた調子で、ラインハルトのことを褒める。しかしラインハルトの表情は変わることがなかった。

 

「で、そこの坊やを回収してめでたしめでたしって幕引きはどう?」

「思ってもいないことを言って情報を引き出すのは常套手段だが、私には効かぬよ」

「じゃあ、てめえを切り裂いて突破するしか無いってことだねえ。このクレマンティーヌ様を本気にさせるんだ、その魂をベットしてもらおうかねえぇ」

「よかろう。私を殺せるなら、手のものにも追わせんよ」

 

 そういうとラインハルトは、一つの魔法を発動させる。

 

ーーーー結界(シーマー・バンダ)

 

 まるで薄い光の膜のようなものがラインハルトとクレマンティーヌを巻き込み一定の空間が切り取られる。その瞬間クレマンティーヌは舌打ちする。

 

「なに、私を殺すことができればこの結界も解ける。約束はたがえぬよ」

「言ってくれるねえ。しかしいいのかい?あんた高位のマジックキャスターだろぅ。こんな密閉空間だとフライで飛び上がってファイアボールの連打で勝つとか出来ないし、自分で選択肢を狭めるようなもんじゃない?」

「異なことを。同じ領域の闘争こそ美味。そうは思わんかね?」

「へえ、たかがマジックキャスターが人類最強の戦士であるあたしと互角って言うんなら、とんだ思い上がりだねっ!」

 

 そう言うと、クレマンティーヌはスティレットを抜き、一直線に間合いを詰め胴に向かって突き出す。その動作には微塵の無駄はなく、長年の研鑽を感じさせるものであった。

 

 しかし、ラインハルトはその攻撃上に槍を置くことで難なく受けて見せる。

 

 今の一撃でクレマンティーヌは相手が尋常ならざる身体能力を持っていることを理解した。なぜなら最短距離を詰める刺突攻撃を、近接戦闘では取り回しの難しい槍でやすやすと受けたのだから。

 

「へえ、やるねえ。じゃあ次はこんなのはどうだい!」

 

ーーーー武技 疾風走破

 

 クレマンティーヌは右手のスティレットを構え、武技で加速した踏み込みでラインハルトの懐に入り込む。普通の戦士であれば、ここまで入られれば対処することも出来ず、一撃を覚悟し防御や迎撃を行うだろう。特に槍使いなら武器を捨てるぐらいの選択肢を突き付けられる。

 

 しかし目の前の男は普通ではない。

 

 クレマンティーヌの加速に乗った刺突を、中段から上段に槍を回すような動きで受けてしまったのだ。回したのは右手首だけ。つまりクレマンティーヌの突進の威力を、右手首の回転だけで受けたようなものなのだ。

 

 しかし、クレマンティーヌは驚かない。すでに相手を漆黒聖典の番外席次と同等と設定している。どんな方法であれ、防がれると踏んでいた。そして右腕は下段からの槍による迎撃の反動で上に引き上げらせ、上半身も勢いに逆らわず引き上げる。

 

ーーーー武技 即応反射

 

 クレマンティーヌの上半身が邪魔になって見えないラインハルトの視線の外においた左手で、スティレットを抜き放ちラインハルトの太ももを刺し貫く。

 

 しかし、ラインハルトは右手首で回転させる槍に、左手を添えさらに半回転を加える。もし俯瞰的に見ていた者が居たら、槍をまるで時計の針のように回したように見えたであろう。その回す軌道とタイミングだけでクレマンティーヌの第二の刃を迎撃してしまったのだ。

 

 クレマンテーヌは、表と裏の二段攻撃を迎撃されたため、一度大きく飛び距離をおく。

 

「どうした。まだ二合撃ち合ったに過ぎぬぞ」

 

 普段のクレマンティーヌなら、相手の精神を逆撫でするようなことを言って精神を揺さぶり、少しでも隙を作ろうとしたであろう。

 

 しかし、そんな余裕はない。

 

 自然と湧き上がる何かを感じ取り、絡めとり、闘争本能に紐付ける。

 

「ふははは。いいね、いいね!」

 

 クレマンティーヌは、壮絶な笑みを浮かべながら、連撃を仕掛ける。

 

 右肩、左わき、喉、目、左太もも、肝臓、心臓。

 

 リズムを変えた変速の七連撃がラインハルトを襲う。しかし、総てを体裁きと槍の打ち払いで躱される。

 

 技後は筋肉が必ず硬直する。その隙にラインハルトは左足を蹴り上げる。

 

ーーーー武技 不落要塞

 

 しかしクレマンテーヌは防御系武技でダメージを緩和する。むしろその蹴られた勢いをもって距離を取る。いや、蹴られた勢いを利用しながら、右手でラインハルトの肩を掴みさらに飛ばされる角度を変える。

 

 結果、着地した先はラインハルトの右隣り。

 そして、今、ラインハルトは槍を左手で握っている。

 

 クレマンティーヌは、攻撃を躱されることも、さらに硬直の隙を突かれて吹き飛ばされることも計算したのだ。

 

ーーーー武技 能力向上

 

 クレマンティーヌの右手のスティレットを右背中に突き刺す。しかし、その剣先はラインハルトの肉をえぐることはなかった。

 

ーーーー火球(ファイアーボール)

 

 ラインハルトの体が、爆炎に包まれる。

 

ーーーー武技 超回避

 

 クレマンティーヌは何かを感じ、緊急回避の武技を発動し距離を取る。しかしその感覚は正しかった。回避した先に、黄金の槍の刺突が走り抜ける。

 

「武技も使わず、その能力と技能。どんな修羅場を通れば、そうなるんだろうねえ」

「我が宇宙(ヴェルトール)に溶ける愛児達の経験だよ」

「へえ、じゃあ私があんたに殺されたら、その一つに成るのかい?」

「ふむ。そうなるな」

 

 そういうと、先ほどまでと同じように二人はまた距離をとる。

 いや、今までと違う。

 クレマンティーヌもラインハルトも明確な構えをしたのだ。

 

 クレマンティーヌは腰と上半身を低く落とし、まるで女豹のように構える。対するラインハルトは半身になり黄金の槍を刺突の型をとる。

 

ーーーー武技 疾風走破/能力超向上

 

 武技の発動とともにまるで弾かれるようにクレマンティーヌが踏み込む。今までであれば、それで終わりだっただろう。

 

「波立て遊べよ……Csejte Ungarn Nachtzehrer(拷問城の食人影)

 

 先ほどまで一切利用しなかった、ユグドラシルのスキル。影縫い。

 発動した瞬間、クレマンティーヌは総ての慣性を無視して縫い付けられたように動きが止まる。

 

「ぐうっ!?」

 

 急に停止したクレマンティーヌは、呼吸が乱れ大きく息を吐く。しかしそれだけではなかった。

その止まった体に槍が突き立てられる。

 

「ここで終わるか!私はあいつを殺すまで終わりはしない!!」

 

ーーーー武技 超回避

 

 強引に、武技で回避する。しかし無理な体勢であったため、左足の肉が裂ける。しかしその甲斐あって攻撃の瞬間に拘束が解ける。

 

ーーーー武技 流水加速

 

 残った右足でクレマンテーヌは加速し飛び上がる。そしてラインハルトにまるで抱きつくように首と脊椎にスティレットを突き立て、最後に電撃(ライトニング)を発動する。

 

 しかしラインハルトはクレマンテーヌをまるで恋人のように抱きとめた。

 

「はは、これでも殺せないのか・・・」

「卿が嘆くことはない。卿の愛は十分に感じることができたよ。ただ最後の一線を超えることができなかっただけだ」

 

 クレマンティーヌはすでに、武技を使う精神力を使いきっている。

 

「もしあんたの一つになるなら、これだけは叶えてほしい」

「なんだね」

「漆黒聖典第五席次クアイエッセ・ハゼイア・クインティアを殺してくれ」

「よかろう。sollst sanft in (我が腕の中で愛しい者よ )meinen Armen schlafen!.(永劫安らかに眠るがいい)

 

 クレマンティーヌは、ラインハルトに崩れ落ちながら最期まで抱きしめられるのだった。

 

******

 

 霊廟からラインハルトが出てきたとき、空が白みはじめた。思った以上に中にいたようだ。

 

「ラインハルトさん。ンフィーレアは?」

 

 出てきたラインハルトの腕には、男が抱かれていた。

 

「両目は潰れ、さらに精神的に死んでいたので蘇生した。今はスリープの魔法で眠らせている」

「そうですか」

 

 エンリも蘇生させたという言葉に反応するも、少なくとも今生きていることを喜ぶことにした。

 

「では、戻りましょうか」

「ああ、そうしようか」

 

 そういって冒険者ギルドに移動する。

 しかし、今日の騒動はこれで終わることはなかった。

 ギルドに、大きな馬車が一台横付けされていた。

 

 中に入ると、ギルド長といっしょに銀髪が映える美しい少女と老執事が待っていた。そしてラインハルトを見つけるやいなや跪き乞うたのだ。

 

「あなたがラインハルト・ハイドリヒ様ですね。どうかヴァンパイアの脅威からお救いください」

 

 




正直、次の更新は時間がかかると思います。

予想通りシャルティア戦なんですが、どうするか考えなおさないといけないのですよね。

っぶっちゃけモモンガ様一人で倒してしゅ~りょ~とならない事態になっているので。
法国の扱いとか。

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