【完結】もしパンドラズ・アクターが獣殿であったのなら(連載版)   作:taisa01

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※スレイン法国回りは原作でもあまり明らかになっていないため、独自解釈・独自設定過多です


第5話

5日目 スレイン法国 行政府

 

 スレイン法国は、約六百年前に降臨した六大神の流れを組む宗教国家である。

 

 国民は神殿発行の特赦を受けたごく小数の亜人以外は全て人間であり、いずれかの神の信徒である。しかし宗教組織だけで国家を運営できるわけはなく、各神殿から人材を派遣するという形で行政府を構築し、最高神官長に六大神官長で構成する神官長会議を最高意志決定機関として運営している。

 

 そんな組織が長きに渡り崩壊せず存在し続けているのは、ひとえに「異形種をはじめとした人外のモンスターから脆弱な人間種を守護する」という妄執ともとれる理念が支えとなっているからだ。

 

 本日。

 

 行政府にて緊急の神官長会議が開催されている。議題は何と言っても昨晩発生した特殊部隊の一つ陽光聖典壊滅である。

 

「まったく頭の痛い事態が発生したものだ。光のよ」

「引責辞任でもすれば良いか?風の」

「お主には優秀な孫娘がいるから、これを機に隠居を考えているのかもしれんが、事態はそんな単純ではないぞ」

 

 集まっているのは老年と言って良い男女。しかし全員に共通しているのは、その表情や瞳に生命力が満ち溢れているのだ。人の上に立つ存在は、かくあるべしと言う状態だろうか。

 

「然り。アインズ・ウール・ゴウン所属のラインハルト・ハイドリヒと言ったか。復活の予言が出ている破滅の竜王である可能性は?」

「巫女の監視を行ったが結果から言えば不明。少なくとも推定人間種というレベルだ」

「巫女の監視をカウンターマジックで弾いたというではないか。少なくとも帝国のフールーダでさえ実行可能か怪しいことを実現しているのだ。第七位階以上のマジックキャスターの可能性もある。ならば悪魔やヴァンパイアなど人間種に擬態可能な種族と見ることが自然か?」

「権天使を槍の一撃で倒すような存在。プレイヤーかNPCという可能性が高いのでは?」

「時期で言えば、その可能性が一番高いか」

 

 法国最大の力は何かと問われれば、ここにいる者は歴史の積み重ねと口を揃えて回答するだろう。法国外では失伝した技術、表にでない真実、強力なアイテム、何よりプレイヤーとNPCの存在を正確に認知し、血縁による先祖返りが存在することなどまで把握していること。予想はできているが明確な証拠を持たない帝国と、一部を押さえているが真実に辿りつけない王国。その差は圧倒的だ。

 

「少なくとも襲われていた村を救っていることから、人間を見境無く襲うタイプではないと予測はできるが」

「一度接触してみるか」

「放置して巨悪が育ち、対処不能となれば目も当てられないからな」

「特にプレイヤーである場合、今回の陽光聖典の行動からマイナス印象となっている可能性もある。誠意を見せる必要があるな」

「そうだな」

 

 その後、最悪戦闘を想定し、過剰とも言える戦力を持った使節団が編成されることとなった。

 しかし、これが後に更なる悲劇を招くとは誰も予想していなかった。

 

 

 

5日目朝 カルネ村

 

 時期外れの祭りから一晩。カルネ村には平穏な朝が訪れた。

 

 村人の中には、昨日の喧騒が夢だったのではないかと考えるものが居いた。しかし広場に駐屯する王国戦士長直属の戦士達が朝の支度をしているのを見つけると、あの惨劇も奇跡も全てが事実であったと改めて認識するのだった。

 

 そんな朝、村長の元に出立前のガゼフが訪れ、ラインハルトと会談を行っていた。

 

「では、襲撃者と陽光聖典の遺留品の一部は証拠品ということで、受け取るということでよいかな」

「了解いたしました。戦士長様。ただ……」

「報奨金の一部は、損害を受けた者達にという件は了解した。私から王に掛け合おう」

「ありがとうございます」

 

 報奨金が現金なのか年貢の減免なのかは分からないが、今のやり取りでガゼフが約束したこととなる。もっともガゼフに徴税権は無いため王に進言という形となるのだが、それも含めて約束なのだろう。

 

「では、私の方から。私は当面エ・ランテルを中心に冒険者となり世間の見聞を広めるが、タイミングを見て王都に向かおう」

「ああ、是非来てくれ。紹介したい者達もいる」

「楽しみにしている。あと卿の渇望を実現するための支援だが、近いうちに情報収集および連絡役をそちらに向かわせることとなった。無期限というわけではないが、役立つだろう」

「今回の件で痛感したよ。民を守るには、王に忠誠を誓い従うだけではいけないと。私自身も立場に合った戦いが必要とな。それにしても、ハイドリヒ殿にはどれほどの礼をすれば良いか見当もつかん」

「なに、私の目的と合致しているから協力しているのだ。気にすることはない」

「ハイドリヒ殿の目的、ぜひ次に合った時にでも聞かせてくれ」

「ああ。では壮健なれ」

「また会おう。ハイドリヒ殿」

 

 そういうとガゼフは、ラインハルトは固い握手をすると部下たちと共に王都に向けて出発するのであった。

 

「ハイドリヒ様は、いつエ・ランテルに出立する予定でしょうか。ギルドへの紹介状ですが、昨晩王国戦士長様にも一筆頂く形でできております」

「ああ、明日の朝一に出発を考えている。夕方には私の知り合いがここに到着する予定だ。彼の者なら私が居なくとも、卿らを守ることもできよう」

「わざわざこんな村のためにご配慮いただき、ありがとうございます」

「そこまで畏まる必要はない。私は総てを愛している。愛する者達に貴賎はない」

 

 村長はラインハルトの言葉を聞き深く頭を下げるのだった。辺境の村に生きる以上、ラインハルトの言葉を絵空事と言える資格があるぐらい、村長にも辛い経験がある。しかしラインハルトなら、この御方ならこの言葉も実現してしまうのではないか。そんな予感を感じずにはいられなかった。

 

「では、私も戻るとしよう。そういえばエンリが、ついでに街に売りに行くものがどうと言っていたが、その辺も含めて明日までにな」

「かしこまりました」

 

 そういうとラインハルトは部屋に向かうのだった。

 

******

 

5日目昼 カルネ村

 

 エンリは、ジュゲムらゴブリン達に朝1番で村周辺の調査を依頼していた。目的は安全確認と、可能なら装備や物資の回収である。

 

 しばらくするとゴブリン達が戻ってきたので、エンリは準備していた食事を手渡しながら状況を聞くのだった。

 

「お疲れ様。ご飯準備したよ。食べながらでいいので状況を教えてくださいね」

「ありがとうございます。姉さん」

 

 ゴブリンたちは受け取ったスープと干し肉を食べながら、エンリに森の状況を伝える。

 

「ショートソードが二本。ナイフが一本。盾が一個、水袋や少々の現金など細々としたものがそれなりに。逃げるのに重さを嫌って捨てたのか落としたのかでしょうね」

「敵影は見つけられなかったんですが、少し離れたところに血の跡が見つかったんですよ。死体が見つからなかったんで、森の獣が食ったかとおもったんですが、骨ごとなんて考えられませんし」

「奇妙といえば、この辺りは妙に静かですよね。強いモンスターも居ませんし」

 

 ゴブリン達が口々に情報を伝えてくる。エンリはしっかり耳を傾けながら、頭で状況を整理する。

 

「敵が見当たらないことは良いことだし、逃走の邪魔で荷物を捨てるのは分かるからいいけど……。血のことだけはちょっと気になるかな?何らかの理由で怪我をして逃げたならいいけど、第三者による襲撃はちょっと困るかな~。あと最後のは森の賢王が理由だとおもう」

 

 そんなことを言いながらエンリは人差し指を自分の顎の置きながら考えをまとめる。

 

「森の賢王とは?」

「あ、ラインハルトさん」

 

 エンリは、考えを口にしていたのを聞かれ若干恥ずかしそうにしながら、ラインハルトの声に応えるのだった。

 

「森の賢王は、この森一帯を縄張りとしている魔獣です。高い知性と巨大な体で、長い年月を生きる強力な魔獣だそうです。森を出て襲ってくることもなく、深く入らなければ目溢ししてもらえるので、カルネ村としては有り難い魔獣なんです」

「ほう。それは面白そうだ」

 

 ラインハルトの何かを刺激したのだろう、楽しそうに笑う。エンリはその笑顔に見惚れているが、ゴブリンたちには獰猛な肉食獣が獲物を見つけた時の笑みに見えて仕方がなかった。

 

「姉さん。肝の座り方が半端ないです」

「恋は盲目といいますが、さすがに……」

「姉さん。パネーっす」

 

 ゴブリン達が恐れ慄いていると、ラインハルトはエンリ向かってこう言い放った。

 

「卿に、森の賢王を捕縛対象と見立て、将とはなんたるかをレクチャーしようか」

「はい。お願いします」

 

 ラインハルトの言葉に元気よく返事をするエンリ。

 そんな二人を若干げんなりして見るゴブリン達であった。

 

******

 

 

「さて卿は、将とはどんな人間がなるべきだとおもう」

「そうですね。戦うにしろ守るにしろ目的を達成できる指揮をする人でしょうか」

 

 ラインハルトとエンリは、ゴブリンに周囲を索敵させながら森の中を進む。そもそも昨日までただの村娘だった者にする質問ではないのだが、なぜかスラスラと回答するエンリ。

 

「間違ってはいない。しかしそれは結果でしかない」

「結果ですか」

「そう。将とは歩兵には歩兵の。弓兵には弓兵の。それぞれに合った武器を与え、合った役割を与えることが求められる。つまり将の冥利とは人を使うことの上手さとなる。故に人を使うことが上手いものが将となり、その結果として目的達成となるのだ」

「なるほど」

 

 納得するのはエンリだけでない。索敵しながら、しっかり耳を傾けるゴブリン達もまた納得していた。

 

「作戦が必要なら軍師に、索敵が必要なら偵察兵に、罠が必要なら工兵に。人材や資材が豊富にあるなら簡単だろう。しかし現実とは非情で、総てが充足していることなどありはしない。ではそんな時、将はどうする」

「う~ん。出来ることをするしかないと思います」

「調度良い、聞いているもので分かるものがいるか」

 

 ラインハルトはゴブリン達にも水を向ける。急に話を振られ慌てるも、必死に考えるのだった。

 

「逃げる」

「仲間を呼ぶ」

「出来ることだけする」

「条件がわからんのでなんとも」

 

 いろいろな回答があがる。この回答にラインハルトは満足しているのか、静かに聞いている。逆にエンリは驚いていた。ゴブリンとは辺境における人類の敵という認識だが、思った以上に知能が高いということ。いや自分たちと同じように、ものを考えて行動していることに驚いた。

 

「結論から言えば、総てが正しい。なぜなら条件次第だからな」

 

 ラインハルトはここで一拍置く。

 

 森の中を進む速度は先程から変わりない。しかし鬱蒼と茂る木々の為、少しずつ光が遮られ、薄暗くなっていく。

 

「しかし、それらもあくまで選択の結果でしかない。部下は何が出来るのか、できないのか、何を大事に思っているのか、何のためなら行動するのか。的確な選択をするために、将は部下を知らねばならない」

 

 エンリはその言葉を今考えていることが見透かされたように感じた。ゴブリンたちはマジックアイテムの力で従っている。でも会話をしてみればそれぞれが自我を持ち、個性がある。闇雲に効率だけを重視して指示をしては、いつかとんでもない失敗をするだろう。

 

 ラインハルトは、このことをエンリに教えようとしてくれているのだ。

 

「さて、闇雲に動いていたようで、そろそろ森の賢王を捕捉できそうだな」

 

 ラインハルトは森を歩き、エンリに将としての心得を教えながら、メッセージでアウラに連絡をとっていたのだ。この森の生態調査を進めているアウラなら、森の賢王の情報を入手していると考えたからだ。

 

 予想通りアウラは森の賢王の情報を入手しており、最終的に賢王を殺す場合はその毛皮を譲渡するという約束で居場所を聞き出した。

 

「えっ」

 

 ラインハルトの言葉に、エンリだけでなくゴブリン達の雰囲気が一斉に変わる。

 

 先程までまるで和やかなハイキングの雰囲気だったのに、戦闘一歩手前の張り詰めた空気が流れ始めたのだ。

 

 耳をすませば、木々の音に隠れて、何か大型のものが近づく音が聞こえる。

 

「防御体勢!」

 

 先頭を進んでいたジュゲムが、襲撃者から接収した盾を構え叫ぶ。その直後、森の奥から突進してくる大型の影があらわれた。

 

 幸いにゴブリン達は防御体勢をとっていたので、数体吹き飛ばされたものの、素早く起き上がり突進してきた存在を睨みつける。

 

 その存在は距離を取り、再度仕掛けてくる。回りの木々をなぎ倒し、加速のために蹴る大地は、巨大な衝撃と地響きを伝える。

 

 しかし、次の標的となったラインハルトは、槍すら構えることなく、静かに左手をかざすだけで受けとめてしまったのだ。

 

「某の突進を止めるとは、一角の武人とお見受けする。しかし我が領域に踏み込んだ以上、ただでは返さぬよ」

「ほう、ではどうなるというのかな」

「某の姿を見て恐れ慄くでござる」

 

 長く生きることで積み重ねた知性を存分に湛える鋭い眼光。木々を簡単になぎ倒す脚力。そのような突進でも傷がつかない強靭な毛皮。ムチのようにしなり、強力な鞭打を実現する尻尾。

 なにより人語を解する知能。

 

「たしかに森の賢王というのは、お前のことなのだろう」

 

 ----ただし巨大なハムスターである。

 

 ラインハルトは高らかに宣言すると、黄金の髪がラインハルトの黄金のオーラを受けて揺らめく。笑みを浮かべるが、内包された感情は闘争を喜ぶ魔獣の類。それこそ脇で見ているゴブリンたちにとっては、二体の魔獣が闘気を無制限に振り巻いている状態なのだ。

 

「私は総てを愛している。闘争本能も生物の業だ。無論受け入れよう」

「ぬかすでござるよ」

 

 森の賢王は、尻尾をしならせ相対するラインハルトに上段から叩きつける。その勢いは大の大人が生身で受ければ、真っ二つになる程。しかしラインハルトは回避するどころか、一歩も動かずそのまま攻撃を受ける。

 

 立ち上る煙。

 

 エンリは一瞬なにが起こったかわからなかった。そのあと気が付いたように悲鳴を上そうになるも、必死に堪えナニをすべきか考える。

 

 そんなエンリを他所に、森の賢王は横薙ぎ、袈裟斬り、足払いと止まるどころか攻撃を執拗に続ける。

 しかし攻撃した森の賢王だから分かる、手応えがおかしいのだ。先ほどから自分はナニ(・・)を攻撃しているのか疑問に思えてしょうがない。

 

 まるで……。

 

 そう、まるで巨大な岩壁にでも攻撃を続けているような、そんな手応えなのだ。

 

 森の賢王は尻尾の攻撃をやめ、まるで逃げるように後方にジャンプで大きく距離を取る。そして前傾姿勢で四肢で大地を掴み全身の筋肉を蓄積する。

 

 力み。

 

 肉体を使った攻撃は、必ず筋肉の脱力と力みの繰り返しといえる。

 

「行くでござるよ」

 

 森の賢王。全長3メートル近い巨体の力み。そこから一気に放たれる突進攻撃。それは先程の突進など比較にもならないものと予想した瞬間、ジュゲムはせめてエンリだけでもと身を呈す。

 

 しかしジュゲムが見た時には巨大な砲弾と化した森の賢王が、ラインハルトに突き刺さっていたのだ。

 

 加速の最初どころか、移動すら見えない突撃。まともに受ければどうなるのか。

 

「たしかに速い。だがそれだけだ」

 

 衝撃による土煙が消えると、なにも無かったようにラインハルトが最初の位置から一歩も動かず立っているのだ。

 

「そうだな。いまここで愛でるのも良いが、しばし鍛えた後に愛でるのも一興か」

「ど……どういうことでござる」

 

 自分の渾身の攻撃を、防御どころかまるで春風のように受けきったラインハルトに、さすがの森の賢王も慄く。

 しかし森の賢王の目を見ればわかる。このような状況になっても闘争本能を捨てていない。まだ何かできないか、知恵を巡らせ勝つための方策を検討している。撤退したとしても、新たな力を手に入れ次の勝利を目指している。

 

「よい闘争本能だ。なにより渇望は単純にして深い”勝つこと”か。よかろう、今日から私の爪牙となれ」

 

 その言葉とともにラインハルトは内に秘めた黄金のオーラを解き放つ。全力で放てば弱き者は畏敬の念から自害さえしてしまう程のものだが、残念なことに、ラインハルトの視点からでは弱者しか存在しない。故にレベルを少々落とした覇気を展開する。

 

 その黄金のオーラを受け、森の賢王は跪く。

 

「その覇気、某では届かぬ王者のもの。どうか!どうか末席にお加え下され!」

「エンリ。この者を卿の指揮下に加える。御してみよ」

「は、はい」

 

 こうしてエンリは19人のゴブリンと1体の魔獣を配下としたのだった。

 

 ----ただし巨大なハムスターである。

 

 

******

 

omake 謁見

 

 ラインハルトは、モモンガに対して定例の謁見を申し出ていた。コレよりエ・ランテルに向かい、どのような活動を行うのか。またユリやセバスの配置など、これからの方針を伝えていた。

 

「以上が現在の進捗である。我が半身よ」

「そうか。ところで報告にあった森の賢王とはどのようなものなのだ?」

「卿ならそういうと思って連れて来ている。中に入れよ」

「某はハイドリヒ卿の爪牙にして、ナザリックの末席に加えていただいた森の賢王でござる。以後お見知りおきを。我らが墓の王よ」

「えっ」

 

 モモンガは椅子に座りながら盛大な精神攻撃を受けたように、ピクリとも動かなくなった。

 

「ど……どうしたでござろうか」

「卿の姿はナザリックでも見たことがないタイプだったからな、未知という点で驚き、そして楽しまれているのだろう」

「いやいやいや。なぜ巨大ハムスターが?森の賢王というならもっと違う種族でもよかっただろう」

 

 モモンガは、我を忘れて全力のツッコミを入れてしまう。

 

「なんと、某の種族をご存知とは、なんたる僥倖。強くなるという渇望もですが、番を探すのも生物として重要事項。できれば他の同族について聞きたいでござるが」

「たかが魔獣がモモンガ様に質問とは、しつけが成ってないのではなくてラインハルト」

「そう言うなアルベドよ。この者が外で結果を出せばその分、我が半身の名声が高まる。なにより、この者のテリトリーであるトブの森とカルネ村なら、安全が確保されたようなもの。それこそ我が半身と二人で自然を愛でることもできるのだぞ」

「そ……そうね。それは良い案だわ。そろそろ外の自然についても視察をお願いしたい時期ではあるし」

 

 ラインハルトとアルベドの協議は妥協点に達したようだが、モモンガはなかなかショックから帰ってこれずにいた。

 

「あ~。一つ聞くが、さっきの話では森の賢王は乗騎ともなるのだな」 

「無論だ。我が半身よ。普段はこの者の管理をエンリに任せているゆえ、私が乗ることもないがな」

「ああ、あの少女が乗るのか」

 

 モモンガの頭の中には、巨大ハムスターの背にちょこんとすわる美少女の姿ができた。

 

「まあ、それは有りだろう。ちなみにお前が乗ったことは?」

「あるが?なかなかの乗り心地であったぞ」

「ぶはっ……黄金の獣が、巨大ハムスターに乗る?いやいや、それはダメだろう。絵面的に」

 

 モモンガの頭の中で、黄金の槍を構えたラインハルトが、高らかに流出を唱えつつラストバトルで戦う姿が思い描かれる。ただし巨大ハムスターに騎乗した姿で……。

 あまりにもアレな絵面に、モモンガ自身のナニカが流出しそうになる。しかしギリギリで精神の強制安定化が走りなんとか平静に戻ることができた。

 

「あ~。パンドラズ・アクターよ。お前には森の賢王に跨るのは禁止な。私の前では。でないと既に無いはずの腹筋が鍛えられてしょうがなくなる」

「理由はよくわからんが、卿のことだ意味のあることなのだろう。了解した」

「ああ、頼む。主に私の腹筋と胃のために」

 

 


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