【完結】もしパンドラズ・アクターが獣殿であったのなら(連載版) 作:taisa01
火、風、水、土、四体のエレメンタルが空を掛ける。
どのエレメンタルもレベルにすれば八十後半。上位物理攻撃無効スキルでは対処しきれない属性攻撃がラインハルトに襲いかかる。レベル一〇〇に達するなら、一対一であればこのレベルのエレメンタルであっても問題なく対処できるものだ。だが四体同時、正確には四属性同時となると防御の隙を突かれることになり少なくないダメージを負うこともある。そしてもし四属性を完全に防御出来る場合、それ以外が弱点属性であることが露呈する。
だが、ラインハルトは防御ではない方法で対処してみせた。
「第七 SS魔道師団 」
ラインハルトの声に従い、異形の骸骨達が虚空から立ち上がると一斉に杖を構える。そして打ち出された魔法は、戦列砲撃のようにエレメンタルへと一斉に降り注ぐ。
さすがはギルド武器の防衛機能に組み込まれるエレメンタル。一度の砲撃で消えることは無かった。しかし二射、三射と息つく暇もない砲撃に勢いは削がれていく。
「第三十二 SS槍兵師団」
「グオオオォォォ」
エレメンタルは獰猛な叫び声をあげながら、ラインハルトに向かって突進してくるも、畳み掛けるようにラインハルトは新たな軍勢を生み出す。
立ち上がった異形の骸骨達は、手に槍やグレイブといった長物武器を携え一斉に突撃する。エレメンタルらもそれぞれ回避や防御を取ろうとするが魔法攻撃にさらされ満足に動けず、串刺しにされ次々消滅していく。
けしてエレメンタルが弱いわけではない。属性色の強いエレメンタル故、わかりやすい弱点属性を、圧倒的な数の暴力で突かれただけ。
言葉にすれば単純。しかしそれを一人意志により出現し、統率され、実行したこと。一長一短はあるが対軍というカテゴリされ、数多の魔獣を制御し戦力とする同じ守護者のアウラと同種の能力。
「これがラインハルトの能力」
「そう私は
王都の迎撃の際、それこそ万に登るアンデッドを一時的とはいえ顕現してみせたのを、モモンガ達も目撃していた。
だが、あの時は脆弱な低級のスケルトンの顕現に過ぎなかったが、今回現れたのは異形の骸骨。そして手に持つ武器。その全ては前回と隔絶していた。
「ギルメンにはそれぞれの最終装備。木っ端の骸骨には宝物庫の山のように積んだ伝説級装備。お前を宝物殿の管理者とする上で、関連付けた
「何を驚いている。まだ序の口であろう」
その考えに至ったモモンガにラインハルトは言い放つ。
「第十 SS弓兵師団」
先程までラインハルトを中心に兵を展開していた。だが、今度はまるでモモンガ達を半包囲するように百を超える弓兵が展開。一斉に矢を放った。
彼我の距離は百メートルも離れては居ない。迷う時間など一秒も無くアルベドはセバスに指示を出す。
「セバスは左翼を」
ーーミサイル・パリィ/イージス
セバスへの指示が速いか、スキルの発動が速いか、アルベドは防御行動に移り飛来する矢の対処にあたる。
先程までのギルメンの影を利用した攻撃と違い、個々の攻撃力は大したものではない。そしてアルベドのミサイル・パリィによって弾き返された矢は的確に攻撃した骸骨を破壊していく。
しかし、一対五十を有に超えており、数の差は圧倒的。
相手は食らった魂を爪牙として使役する存在。十や二十破壊されたとしても、その倍の数を顕現させてくる。そして数の暴力を証明するように、ミサイル・パリィのスキル効果を上回る程の矢がアルベドの背後、すなわりモモンガ目掛けて殺到する。それを見越したアルベドは、その身に盾として防御に徹する。
もちろん、モモンガに攻撃が届いたとしても、この程度の攻撃では対したダメージにもならないのは明白。しかし二人のNPCはモモンガを護るという一点のためだけに、全力で防御に徹してしまう。そのためダメージこそほとんど無いが、アルベドとセバスの足が止まってしまった。
また、支援魔法を立て続けに展開し、二人を支えるモモンガも同様であった。
「これは一対一の御前戦闘ではないぞ」
ラインハルトの言葉と共に空気が変わる。
「
Deshalb möchte ich mich bekennen;
ラインハルトの持つ聖槍から雷光が溢れ出し、バチバチと不快な音をたてながら空気を軋ませる。光は次第に大きなうねりとなり辺りを白く照らす。
「
モモンガはラインハルトの詠唱の中身はわからずとも、その結果は覚えている。原作通りであればグラズヘイムに取り込まれた存在の能力発動。魔樹ザイトルクワエ戦でみせた事から類推すれば……。
「グラズヘイムに存在する者のコンビネーションか」
アルベドもセバスも足止めされているのを見て、モモンガは即座に迎撃のための攻撃魔法に移る。
「
「
しかしラインハルトの詠唱が一呼吸早く終わり、光は六本の爪となり轟音と共に雷速で三人に襲いかかる。この速度域の攻撃は、事前対策でもしていないかぎり回避できるものではない。だが、問題はそこではなかった。
「むっ」
「これは……」
「防御を抜いた?」
攻撃を受けた三人は防具さえも切り裂かれ、大きく吹き飛び、膝を突くこととなる。素早く体勢を立て直すことができる程度とはいえ、予想外のダメージに虚をつかれたのだ。
なによりラインハルトのコンビネーションは、元はギルドメンバーのコンビネーションが中心となっている。ゆえに発動すればモモンガは効果も含めて予測できると踏んでいた。しかし今の攻撃は、まったくというほど記憶になかったのだ。
だが、雷光が消える間際、技を放ったと思わしき影が一瞬だけ見えた。
「ガゼフ・ストロノーフ?!」
「どうかな? 人類最高峰の剣の味は。この世界の戦技も捨てたものではなかろう」
ガゼフ・ストロノーフ。王国、いや人類最強の剣士。そのような男の秘剣とも言うべき戦技を、持ちうる限り強化し雷速で繰り出されたそれは、ユグドラシルの設定にとらわれないこの世界の理の一撃へと昇華したのだ。
だがこの時、流れが変わる。
セバスは巨大な気弾で弓兵を飛来する矢ごと吹き飛ばすと、弾かれたように踏み込みラインハルトとの距離を詰める。突進の勢いを載せた抜手による連撃、合間を縫うように岩をも砕く脚力から繰り出される蹴り。どの一撃もスキルが上乗せされた必殺となりえるものであった。
「セバス。その激情、卿らくもない」
「至極冷静で……いや、このよくわからない感覚に名をつけるならばそうなのでしょう」
ラインハルトもその能力を遺憾なく発揮し、セバスの攻撃を体捌きで躱し、槍をもって受ける。さらに爪牙を顕現させモモンガとアルベドから横槍が入らぬよう牽制を加え、場を整える。
だが、それを上回る怒気とも呼べる気迫を纏ったセバスの攻撃は重く速い。少なからずラインハルトの体に傷を負わせる。
「なぜあの方を殺した。あの方は友ではなかったのですか」
セバスは思い出す。
ガゼフ・ストロノーフは自分の信じる正義をなすために戦った。力及ばず我々の手を借りたとはいえ、多くの困っている民を救いたいという一点は、共感を覚えていた。そんなガゼフに友として手を差し伸べたラインハルト。任務という背景があったとしても、二人の間には確固たる縁が結ばれていた。すくなくともセバスにはそう見えていた。
「ガゼフ殿は少なくとも貴方を友と呼び、貴方からの信頼に答えようとしていた。ましてやナザリックの協力者でもあったはず。なぜ殺す必要があった」
「異な事を、あの者もまた私の愛すべき存在に他ならない。故に破壊した」
「友の魂も、慕うもの達の魂さえもあなたは食らうというのですか!」
セバスは一瞬だけ玉座の間の扉に視線を動かす。そこにはラインハルトの部下の少女達がいた。あの少女達と王都で飲んだ茶の味を覚えている。交わした言葉は今も考える際の指針にさえなっている。だが、二人ともラインハルトの手ですでに死んでいるのだ。
再びセバスはラインハルトの目、黄金の双眸に宿した奈落の炎のような輝きを見る。確かにナザリックの仲間だ。しかし許すことができなかった。
一人一人に生があった。愛する者がいたはずだ。守りたいものがあったはずだ。たとえ他人からすれば取るに足らぬものであっても、一人一人の物語があったはずだ。
「それを奪うのがあなたの世界ということですか」
「無論だ。我を持って全となす。我が世界の住人なのだから、内なるもの達を慈しむのは道理であろう。愛も勇気も絶望も、怒りも悲しみも何もかも・・・・・・。我が内に生きるものは例外なく祝福しよう。そしてその物語こそ至高の供物だ。我が
セバスは、もちろんラインハルトの取り込まれた存在の人生や最期など知りはしない。しかし王都での日々。あの一時でであった人たちは、守りたいもののために一生懸命に生きていた。
「偽りの力と栄誉を与え、魂を代価に奪い取る。それは卑しき悪魔の所業。栄光あるナザリックの僕にふさわしくはありません」
握った拳に力が漲る。創造主が追い求めた信念があった。セバス自身の信念があった。
その信念が力となる。それを証明するようにセバスの一撃はどれも速く力強い。それは完成された演武のように美しく、そして……。
「なるほど、速いな」
ぶつかり合う黄金の槍と鋼の拳。しかし幾重にも続くかと思われた拮抗は、別のところから崩された。
「
モモンガは様々なスキルで強化し、さらに
一瞬だがラインハルトの顔がゆがむ。即死こそ抵抗こそされたが追加効果により朦朧状態となったのだ。セバスもその隙を突くべく踏み込む。
しかし連携の訓練をなど行っていなかったため、当人達は気がつかない程度だが、相対するものからすれば、あからさまなタイミングで攻撃をしていた。たとえ朦朧となっていようと、その隙を見逃すラインハルトではない。すぐさま控えていた爪牙に指示をだす。セバスめがけてとびかかるもの。その身を盾とすべく立ちはだかるもの。
ーー影縫い/修羅/徹し
だが、セバスの一撃はそれをも上回って見せる。減衰したとはいえ邪魔な死者もろとも、ラインハルトに一撃を入れたのだ。そのダメージはすさまじく、ラインハルトの左肩を大きく抉り、大きな血のしぶきを上げる。
「(皆に連携の重要性を説いておきながら、連携訓練を怠ったツケか)」
効果的な一撃ではあったが、モモンガは内心舌打ちする。
本来なら、モモンガないしアルベドからの連撃につなげることができたはずなのに、すでに爪牙がフォローに入って追撃を入れる隙が無い。
防御では、セバスとアルベドがいる限りモモンガ側が有利であることは変わらない。いままでに無いほど魔法を連発しているが、スワスチカのバックアップによりモモンガのMPはそれほど減っていない。もっともこれはラインハルトも同じだ。
しかし回復はセバスの気功を利用した自己回復のみ。万が一と持たせているアイテムもあるが、それこそ先程のような隙を晒しかねない。なによりアンデッドであるモモンガは通常の方法では回復ができない。対してラインハルトはドッペルゲンガー。ギルメンのスキルや魔法による回復も可能。
ここまでは想定通り。
しかし連携の差が、想像以上に足かせとなり、徐々に押されている。ラインハルトの大技に備えアルベドの究極ともいえる防御を温存しているし、事前に準備した策が実を結ぶにはまだ時間がかかりそうだ。
「よかろう、では少し趣向をかえるか」
骸骨の弓兵は引き陣形を換え、ラインハルトは黄金の槍をモモンガに向けて構える。それをラインハルトの大技の準備と捉えたモモンガは一際大きな声でアルベドの名を呼ぶ。
「アルベド!」
「はい」
ーーカバー/イージス/サクリファイス
アルベドはモモンガの指示を阿吽の呼吸で受け取り、複数の防御スキルを発動する。最悪この身が一撃で消し飛ぶほどのダメージ、たとえば対拠点攻撃の超位魔法であっても鎧を犠牲にすることで対応可能。究極とも言える防御を展開する。
黄金の槍が不気味に鳴き震えだす。同時に膨れ上がる暴力的な凶念と血の香り。
「
Dieser Körper lebt für immer。
So verlässt mich jeder und geht weiter。
Ich möchte nachholen, aber ich kann es nicht einholen。
Talent kam nicht an、
いやな直感がモモンガの背を走り抜ける。
「
詠唱の完成に合わせ、ラインハルトの影が蠢く。その動きは艶かしく生理的嫌悪感を伴い、モモンガ達に向け一斉に伸びていく。
NPC達はそのような見た目などお構いなしに、まさしくモモンガのためにその身を盾としようとする。
だがモモンガはその影を見て叫ぶ。
「その影に触れるな。行動阻害無効がない限り、捕まったが最後デバフとドレインの海に落ちるぞ」
その指示に防御を解除し一斉に飛び退く。しかし影の触手は分裂して広がり続ける。それこそフライで空中に逃れても、まるで枝分かれした樹木の枝のように、その魔の手を広げ続ける。
野外であれば対処のしようもあった。しかしここは玉座の間。有限の空間で、無限に枝わけれし増殖を続ける影の触手に、徐々に追い詰められる。
「よりによって、音改さんのコンボかよ」
モモンガはつい本心を吐き出す。生産系のギルドメンバー音改は、生産系であるがゆえに異形種狩りのカモになっていた。そこで護身のために唯一くみ上げた技である。
「敵の力を削ぐ戦い方は好みではないが、彼女の物語は、さも鮮烈で美しい」
「どんな存在も商取引という舞台においては手を取り合える。偏屈な平和主義者の自衛用コンビネーションだ。それは美しかろう」
モモンガはフライで距離を一気に置き、迎撃の魔法を編む。正直使いたくない魔法のひとつだが、対処方法がこれしか無く、アルベドとセバスにもメッセージを送り、是という返答が帰ってくる。
「
モモンガを中心に負の波動が空間を伝播し、触れたものがボロボロと崩壊し塵への帰っていく。もちろん一面に広がろうとしていた影の触手は、一瞬でその姿を消す。
同時に、相対するラインハルトをおも飲み込む。ライフエッセンスで見る限り、少なくないダメージを与えたのだが、モモンガは視線を向ければ、同じように傷ついたアルベドとセバスの姿がある。
「よく耐えた」
「はい。お気になさらないでください」
「どうか、我らを捨て置き前を」
アルベドとセバスはモモンガの言葉に歓喜する心を押しとどめ答える。
ラインハルトの攻撃を回避するために動き回ったためか、二人との距離はかなり離れてしまい、モモンガは孤立するような位置関係で地に降りた。
そんなモモンガを、同じく着地したラインハルトは興味深げな目で見ていた。その背後には千を超える死者が群がっている。
「まったく、フレンドリーファイアとは面倒なことだ。なあラインハルト」
「それもこの世界の理の一つだ。それにどうした我が半身よ。そんなものではないだろう? 何か本気を出せない理由でもあるのか?」
ラインハルトはゆっくりと黄金の槍を刺突の構えをとり、モモンガに問いかける。もちろんオーバーロードであるモモンガにとってこの程度の揺さぶりは、反応するに値しない些事である。
同時に、あの軍をこれ以上指揮させていけないとモモンガは冷静に判断する。数百の同時攻撃で攻撃手段を奪われたのだ。このまま千を超えた波状攻撃を受け続ければ、最悪押し切られる。
「それともフレンドリーファイアを恐れて、我が半身が得意とする死霊系の魔法が使えぬか? ならば、そこの二人を我がグラズヘイムに招いても良いのだぞ」
神でも気取るようなラインハルトの傲慢さ。命の食らいひとたび眷属となれば、己があるかぎり永遠を約束する存在。その言葉はナザリックのみならず、全世界を飲み込もうという
だが、ラインハルトの指摘は的を得ていた。
なにより、数に対抗するための定石たる広範囲攻撃が、フレンドリーファイアを招くのだ。
「ぬかせ。死こそ我が司りし業。その神髄をしかと見よ!」
モモンガはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン構える。スタッフに埋め込まれた宝玉がモモンガの魔力に共鳴して一斉に輝きはじめ、本来の機能を取り戻す。
そうまだ二人の戦いは中盤に差し掛かったにすぎないのだ。