【完結】もしパンドラズ・アクターが獣殿であったのなら(連載版)   作:taisa01

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第3話

九月六日 十五時 ナザリック地下大墳墓 表層

 

 なんの変哲もない広大な丘の上。

 

 周りの丘と同じように何もないように見えるが、一度その幻影の中に入れば、そこにはまるで古代遺跡のような風景が広がる。立ち枯れた木々、そこかしこに並ぶ朽ちた柱や床。もし考古学を専攻するものが見れば、ありえない朽ち方と評価するであろう。なんらかの法則で立ち並ぶ柱や床も、その配置からは、実際の住居やそれに類する建物が組みあがらない。しかし残された柱などには、名工の細工と思わしき彫刻が一本一本正確に、そして均一に彫り込まれおり技術の高さがうかがえる。

 

 そのような不思議な光景が広がる場所。

 

 ナザリック地下大墳墓の表層。

 

 普段であれば、気配を隠したアンデッドや魔獣が監視を行っている。しかし、なぜか今日に限って監視をしているものがいなかった。

 

 それは、ワールドアイテムを携え、黄金瞳を宿した獣。本来であれば遥か地下深くの宝物殿を守護する領域守護者。パンドラズ・アクターことラインハルト・ハイドリヒがそこにおり、しばしの退散を命じたからである。

 

 ラインハルトは、倒れている柱に腰を掛け、ゆっくりと空を仰ぎ見る。ほとんど雲の無い、どこまでも続く蒼天。もしこの者に人間的な感性があれば、その蒼を見て美しいと、いつまでも眺めていたいと思ったかもしれない。

 

 しかし、この者は永遠の闘争を司るものとして定められた存在。ひと時の平穏は、次なる闘争の準備期間に過ぎない。ゆえに今という時間さえも、狂乱の幕が開けるまでのひと時の静寂に過ぎない。

 

 いま左右に腰をかけ、その肩に体を預ける美少女二人は、この男にとっては愛すべき者。同時に爪牙にして戦場において消費される駒。

 

 また同じように彼の周りで静かに時を待つゴブリン達も、この男にとっては等しく戦友であり戦奴である。

 

「頃合いかな」

「じゃあ、準備しましょうか」

 

 ラインハルト・ハイドリヒの肩に体を預ける一人、栗色の髪に瞳、愛嬌のある顔立ちのエンリ・エモットはつぶやく。そしてもう片方の肩に体を預けていた白銀の髪が人目を引く少女、アンナ・フローズヴィトニル・バートンはゆっくりと立ち上がると、その服に手をかけ白い肌をさらす。

 

 見るものを虜にするような白磁の芸術品。しかし周りの目など気にせず着替えを行う姿はどうにも現実離れした雰囲気を醸し出していた。

 

「お嬢様として育てられたのだから、もうちょっと慎みとか持てなかったの」

「ラインハルト様やあなたには何度も見せてるし、異形のゴブリンに見られてもね」

 

 とあっけらかんとアンナは答えるのだった。実際話をふられたゴブリン達も、小声で「人間の雌の裸みてもなぁ」「だよな」「まだ姉さんなら気にならんこともないけど、あくまで族長としてだし」などなど、種族差というものをまざまざと感じさせるコメントばかり。

 

 そんな話の中、着替えがおわったのであろう。

 

 アンナは純白のチャイナ服のようなデザイン。このあたりでは見たこともないような服を着ていた。

 

「準備は整いました」

「ああ」

 

 そういうとラインハルトは、ワールドアイテムの一つ黄金の槍(聖約・運命の神槍)を掲げる。

 

「では、いざ参らん。新たなる祝福の天地へ」

 

 その宣言とともに槍は振りかざされる。

 

******

 

九月六日 15時 ナザリック地下大墳墓 第九層執務室

 

 大きな揺れが収まり、モモンガは軽く周りを見渡す。アルベドはすでに立ち上がりコンソールから情報収集を開始している。

 

「モモンガ様ご無事ですか」

 

 ほどなく警備を担当していたプレアデスのナーベラルガンマが安否の確認に入室してきた。

 

「ああ、問題ない。何があったアルベド」

 

 モモンガはナーベラルガンマに片手をあげ問題ないことを告げると、アルベドに状況確認を問う。

 

「はい。まずリストの確認をしている際、このような異変が」

 

 アルベドが示したのはNPCの状態を確認するリスト、そしてパンドラズ・アクターの名は通常の白文字ではなく真っ赤な文字で表示されていた。これはユグドラシル(ゲームの時)であれば、第三者による精神支配などによる敵対行動中を現したもの。

 

「加えてパンドラズ・アクターにメッセージを飛ばしたところ、モモンガ様に日の入り後、総軍をもってナザリックに攻め入る……と」

 

 アルベドの言葉を聞いたモモンガは至急指示をだす。

 

「アルベド。シャルティア、コキュートス、マーレ、アウラ、デミウルゴス、セバス、プレアデスの全員を至急玉座の間へ集めよ」

「はっ」

 

命令を受けたアルベドは無駄なく各所に連絡を取るのであった。

 

******

 

九月六日 十五時十五分 ナザリック地下大墳墓 第十層玉座の間

 

 モモンガが玉座に座り、背後にはナザリックを支え、そして象徴するワールドアイテムがその威風をさらなる高みに押し上げる。しかし普段と違うとすれば、玉座を中心に多数の空間投影ディスプレイが展開されていることだろうか。

 

 そんな玉座の間には、アルベドによって呼び出された守護者やプレアデスたちが集まり、主の命令をまっている。

 

「ああ、よくあつまってくれた。もう大方の事情は、聴いているかもしれないがパンドラズ・アクターが反旗を翻した」

 

 この言葉に、守護者各位の空気が凍る。しかし、続くモモンガの言葉に、多くが疑問符をつけるものばかりであった。

 

「が、これはアインズ・ウール・ゴウン 四十人の仲間の復活の宴に相違ない」

 

そういうとモモンガは展開している防衛用の空間投影ディスプレイの一つを、守護者らにも見えるように拡大する。

 

 そこには、ナザリック地下大墳墓の表層だった(・・・)場所が映し出されていた。

 

「黄金の……城?」

 

 コキュートスのつぶやきは、そこ場にいるものの共通認識といえた。

 

「そうだな。あれがワールドアイテム黄金の槍(聖約・運命の神槍)にて作り出した最後のモニュメント(スワスチカ)にしてラインハルトの内宇宙(ヴェルトール)に存在したというグラズヘイムであろう」

 

 モモンガは黄金の城をグラズヘイムと断定し、視界は黄金の城の中へと続いていく。魔法的な防御がなされていないということは、相手もこのような偵察をおこなってくることを理解しているからにほかならない。

 

 視界は建物の中、グラズヘイムにおける玉座の間に等しい場所にたどり着く。それがトリガーであったのだろうか、何らかの対抗魔法なのか一方通行の監視が、双方向に書き換えられる。向こう側の音が聞こえてきたことで映像のみならず音声まで術式に手を入れられたのだろう。

 

 もっともモモンガは、その点について気にすることはなかった。なぜならあちらにいる人員を思えば、そのぐらい可能なのだから。

 

 むしろ映し出される光景に、ある種の感動を覚えた。広い空間に巨大な黒い円卓。四十一の席が存在し、ナザリック地下大墳墓のギルドメンバーたちの会議室にも似たそれの一番奥には、純白の軍服が汚れるのを厭わず、血濡れの少女二人を胸に抱く男が一人。

 

 ラインハルト・ハイドリヒ。

 

 そしてすでに絶命している少女たちは、ラインハルトの部下の二人であった。その状況を見たものは、いままでモニュメント(スワスチカ)を生み出す儀式に必須といわれていた闘争を行わず、こうも短時間に儀式を完遂することができたのかを理解した。

 

「人間二人の魂で儀式を完遂させましたか」

 

 デミウルゴスが解説したとおり、最後のスワスチカは二人の魂をつかって生み出された。それがどれほどのことか理解することは不明だが、ほかの戦場を鑑みれば、少なくとも数百の魂をもって行った儀式をたった二人で完遂したのだ。

 

 だが一人だけ、シャルティアだけは別のものを見ていた。ラインハルトに抱かれる少女の一人が纏う服。いやワールドアイテム。

 

傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)

 

 その血を吐くような一言に、だれもがシャルティアの思いを理解した。

 

「そうだ、シャルティア。ワールドアイテム 傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)。卿にとって忌まわしきアイテムやもしれぬが、我が半身にこれ以上ないほど分かりやすく宣戦布告と勝利条件を伝えるためにな」

「そのアイテムは与えられた命令に絶対服従のはず。システムはお前を洗脳による敵対行動中と判定しているが、なぜ自意識をもって的確に行動できる?」

「我が愛し子に命じさせたのだよ。汝の成したいように成すがよい……と」

「まるでコロンブスの卵ではないか。なんだ、その発想の転換は……」

「我が半身よ、言ったはずだぞ。我が生は既知感に苛まれていると。この使い方も初めてではない。そして、この使い方を考えたのは我が半身だぞ。もっとも今の我が半身ではないのだがな」

 

 モモンガはラインハルトの言葉に内心舌打ちをする。話を聞いた限りでは理解できなかった。実際に回帰しているのか、回帰したという記憶を付与されているのか、判別はつかなかったがすくなくともその知識は武器になるということを。

 

 対するラインハルトは右手を円卓に添え唱える。

 

Dies irae(怒りの日), dies illa(終末の時), solvet saeclum in favilla(天地万物は灰燼と化し). Teste David cum Sybilla(ダビデとシビラの予言のごとくに砕け散る).」

 

 ラインハルトの詠唱と共に、黄金の光があふれ出し複雑に立体魔法陣を生み出す。

 

Quantus tremor(たとえどれほどの) est futurus(戦慄が待ち受けようとも), Quando judex(審判者が) est venturus(来たり), Cuncta(厳しく糾され) stricte discussurus(一つ余さず燃え去り消える).」

 

 魔法陣はまるで増殖するように空間を飲み込んで行き、円卓四十の空席のうち三十八とラインハルトの左右に、人形(ひとがた)を作り出す。

 

Tuba(我が総軍に響き渡れ), mirum spargens sonum(妙なる調べ) Per sepulcra regionum(開戦の号砲よ),  Coget omnes(皆すべからく) ante thronum(玉座の下に集うべし).」

 

 山羊頭の悪魔。豪腕の巨人。すべてを溶かし尽くすスライム。猛禽類のバードマン。屈強の鎧武者、拘束具に囚われたブレインイーターありとあらゆる異形種たち。そしてラインハルトの左右には、栗色の髪に青い鎧、矛を携えた少女。銀髪に黒軍服、しかし片眼ががらんどうの空洞がすべてを台無しにした少女。

 

「至高の御方々」 

 

 守護者やプレアデスは、その姿を見るとまるで条件反射のように跪こうとしてしまう。しかし、いままで聞かされた話が頭をよぎり思いとどまる。

 

「このように我が半身の願いがまた一つ叶ったわけだ」

「実質受肉したわけか。もっとも接続を切れば……」

 

 そういうとモモンガは自分の内からラインハルトにつながる糸をたぐり、ある一本を切り離す。すると、結実したばかりのギルドメンバーの一人がまるで糸が解けるように消えてゆく。

 

「ちょ?! 初手退場なんて美味しすぎるだろ!」

「るし☆ふぁーさん。まじであんたが敵になると被害無視してルベドやガルガンチュアを暴れさせそうだから、ボッシュートです」

「ま、被害を考えればヤルよな」

「ってより、あいつ陽動と称して外に飛び出して王国や法国、帝国で暴れまわってナザリック側の機能麻痺させるぐらいしそうだからな」

「あ~面白いは正義といってヤルかも」

 

 まるで瞬間芸のようにるし☆ふぁーの姿がかき消える。ナザリック側はあまりの出来事に反応すらできずにいたが、グラズヘイム側はむしろ賞賛や賛同の声が上がっている。しかしこれでナザリックのNPC達は理解した。

 

 モモンガとラインハルトの関係性。モモンガはやろうと思えば、顕現した至高の御方々を封じることができる。すなわちレベル100としては破格ともいえるラインハルトの力の一部を封じることができ、ゆえにこの戦いはモモンガとラインハルト、双方の思惑の元で成立しているまさしく儀式ということを。

 

「貴重な戦力を勝手に封じたのだ。対価は階層間転移について正しいルートを踏めば転移を阻害しないというのでどうだ? ああ、あと非戦闘員は九層の各部屋からでないように指示した」

「私は全力で我が半身と戦いたいのであって、ナザリックを財政的に敗北させたいわけではないからな。構わぬよ」

 

 転移門で各層がつながるナザリック地下大墳墓。転移門を完全ランダムにして到達困難にさせることも、非戦闘員で肉の壁を作ることも興ざめにほかならない。また、ラインハルトのいう財政的敗北とは、ナザリックの罠、NPCは全て破壊できるが、再生もできる。しかし再生にはそれなりのコストが必要であり、外の世界で得られるアイテムや通貨の価値では、その損失を埋めるのは難しい。もちろん、ナザリックが全損したとしてもゆうに十数回程度なら再生させるだけの財を、保持しているといっても無駄にして良い理由はない。

 

「では日の入りと合わせて進軍させてもらおう」

「ああ、楽しみに待っている」

 

 そう言うと監視スクリーンが遮断され、さきほどまで騒々しかった音声も止まる。モモンガは静まり返る玉座の間を見渡すと絶望のオーラを出しながら命じる。

 

「さて、デミウルゴス。防衛時の指揮官として献策を聞こうか」

「はっ」

 

 デミウルゴスは、一歩前に進み出ると一礼し、魔法でナザリックの簡単な見取り図を空中に投影する。

 

「至高の御方々とラインハルトの軍勢は……」  

 

******

 

九月六日 十八時 ナザリック地下大墳墓 表層

 

 日の入りとともに、ナザリック第一層の入り口から、アンデッドの大軍が湧き出す。レベルにして低位がほとんど。モモンガが防衛用にと生み出し蓄積した軍勢である。もしこの軍勢が王都辺りに出現すれば一晩も持ちはしないだろう。

 

 しかし、これより進軍を開始するのは黄金の獣率いるナザリックの支配者達。

 

「エンリ。汝の軍勢を持って押し返せ」

「はい!」

 

 そう言うとエンリが前に出ると、まるで示し合わせたように十九のゴブリン、そして巨大な魔獣(ハムスケ)が躍り出る。 

 

我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)

 

 エンリが掲げる旗は翻り味方に複数の強力なバフがかかると、ゴブリン達とハムスケがアンデットの群れを真正面から押し返しはじめる。しかし獅子奮迅の勢いはあるが、多勢に無勢。その状況に対してエンリはもう一つの手を打つ。

 

 それは以前ラインハルトに渡されたもう一つの角笛

 

 その不気味な音とともに、ゴブリンの軍勢五千がまるでナザリックを包囲するように現れたのだ。

 

「角笛の呼び声にもとづき参上いたしました」

「いまこのときより、あなたは我らが将。どうかご命令を!」

「私達の軍門に下ることを認めます。まず展開の甘い右翼に集中」

 

 エンリの指揮のもと、ゴブリン軍師が細かい指示を各部隊に通達。長弓兵団が崩し、魔法砲撃団が穴を広げる。そして騎獣兵団が浸透し食い破ったところを、重装甲歩兵団が戦列を押し上げる。一糸乱れぬ攻撃はエンリの強力なバフもあいまって万のアンデッドを次々と撃退した。

 

 そして、またたたく間に、第一層の入り口、中央の霊廟を確保する。

 

「さて、卿らが支配して以降、誰一人として走破することが叶わなかった難攻不落のダンジョン、ナザリック地下大墳墓。再度踏破しその名を刻もうではないか」

 

 ラインハルトの言葉に、ナザリックにおいて至高の存在とされるプレイヤーたちは口々に歓声をあげる。全員ナザリックに深い思い入れがある。アインズ・ウール・ゴウンになって最初の団イベで初見ダンジョンの完全攻略。そしてコツコツと積み上げた防衛網。結果一五〇〇名のプレイヤーによる討伐隊さえも退けた。だが、結果としてサービス終了日まで未踏のダンジョンとなってしまった。

 

 無敗。

 

 実に誇らしい実績。しかし同時に思う。

 

 日の目を当たらず朽ちる事実。

 

「では当初通り隊を分け進軍せよ」

 

 そういうと、ゴブリンスカウトを交えた、ペロロンチーノの隊が動き出した。

 

 

******

 

ナザリック地下大墳墓 第十層 玉座の間

 

 玉座に座るモモンガの左右にはアルベドとデミウルゴスがフル装備で控えている。

 

 また空間には監視用のディスプレイがいくつも展開され、刻々と変化する戦況が映し出され、録画録音されている。

 

「やはり下位と中位アンデッド程度では、あの布陣は超えられないか。さすがだな」

「はい。低レベルのゴブリン集団とはいえ、的確な支援と指揮でレベル差を覆す。戦術のお手本といったところでしょうか」

 

 万のアンデッドをある意味浪費するような戦術を跳ね返したゴブリン達。モモンガは素直に称賛し、デミウルゴスも状況を的確に分析する。しかしアルベドは静かに何も言わずまさしく親の仇のようににらみつけている。

 

「どうしたアルベド」

「確かに低レベルのアンデッドではございますが、モモンガ様が手ずから増強された存在。それをあの者たちは……」

「あ~。まあ時間さえあれば回復できる兵力だ。だが、みんなのスキルを浪費させることさえできないとは」

 

 そう。

 

 浪費の裏は早い段階でのスキル、MPの消耗を狙ったものだった。だがラインハルト側は同じ消耗するのも低レベルのゴブリン部隊で対処し、本命であるギルメンは無傷となっている。しかも……。

 

「ラインハルトめ、霊廟の装備を持ち出したな」

 

 レベルが100から80にダウンしているギルドメンバーたちだが、その身につけている装備は、全員がほぼ全盛期の装備なのだ。

 

 それでも、レベル100のNPC達の相手は厳しかろう。だが、レベルだけが決定的な差ではない。すくなくとも、装備、戦略、連携は確実にあちらが上とみる。

 

 さらに罠のほとんどは筒抜け。一人になってからわざわざ罠の配置をいじるなんてこともなかったため、ぷにっと萌えを中心に各階層の構造を担当したものたちが、つぎつぎと罠を無効化している。特に一から三層の迷宮区は、デストラップを中心とした区間。そのトラップが意味をなさないのでは、効果も限定的といわざるえない。

 

 戦闘開始から一時間とたたずに第二層を踏破しししまったのだ。

 

「モモンガ様、なぜ恐怖公によるかく乱、封鎖を行わなかったのですか?」

「あ~うちのギルメンの女性陣に終わってから殺されたくなかったからな」

「はぁ……」

 

 第二層にはある意味、最狂の一角である恐怖公(巨大ゴキ)がいる。そしてその住居ブラックカプセルはゴキの溢れかえる領域。モモンガ自身は恐怖公のことをなんとも思っていなかったが、当時から女性陣の評価は最悪。しかも女性の姿をしたものが罠にはまれば優先的に恐怖公の下へご招待なのだ。もしこれをギルメンにけしかけたら、それなりの消耗をしいることができるだろう。しかし、終わった後が怖すぎて指示がだせなかったのだ。

 

 もっともその機微を、デミウルゴスは理解することができず、アルベドは後ろでウンウンと同意しているのだった。

 

「しかしシャルティアを第三層に配置したのはまずかったでしょうか。こうも消耗しないとあっては」

 

 シャルティアは第三層の地下聖堂にてフル装備で待機させている。実際、飛行能力も含めてシャルティアが全力を出すには、それなりの空間を必要とする。それこそ表層か、第四層につながる第三層の地下聖堂である。しかし、敵の消耗を考えると、例えば五層のコキュートスと共に配置するなどの方法も考えられた。

 

「しかし、相手はすでに吊り橋の攻略にかかっている」

 

 地下聖堂前に配置された罠満載の吊り橋。

 

 しかし飛行制限が無いため、踏む場所を間違えると無数の亡者が待ち構える奈落へと落ちる罠も、難なく走破されている。フレンドリファイアが解禁されているなど、この世界はユグドラシルと違いもおおく、罠の一部は、意味をなさないことが露呈してしまったのだ。

 

「これもラインハルトの回帰からくる知恵か?」

「加えて彼はナザリックにおける財政面の担当者。その面から稼働する罠の状況なども把握していることでしょう」

「千五百人の討伐隊の時でさえ有効だった罠が、ほぼ意味をなさないとは。上層の罠は見直す必要があるな」

「それがよろしいかと」

 

 そういうとモモンガらは、ラインハルト達が地下聖堂の攻略に入るのを見守るのであった。

 


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