【完結】もしパンドラズ・アクターが獣殿であったのなら(連載版)   作:taisa01

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お久しぶりです。

仕事が落ち着いたので復活しました。
まあ、コミケ当選したのもありますが……。

では、よろしくお願いいたします。


第11話

第11話

 

八月二十三日 一時 王都

 

 貴族派と王国暗部組織によるクーデターに端を発した王都の混乱は、深夜0時をまわっても収まるどころか、より一層激しさを増していた。

 

 最初こそ王城、騎士の詰め所、行政関連の施設、特定の貴族の館やギルド、大手商会などへの襲撃であった。しかし、もとは王都に巣食うならず者。襲撃者はさらなる獲物を求め、次第にその周辺の略奪へと変化していった。

 

 さらにクーデターの影に隠れて、帝国の工作員達が一斉に動き出す。

 

「毎年戦争に駆り出され、多く若者たちが死んでいくのはなぜだ!」

「王は搾取するばかりだ。なぜ兵士たちは俺たちを守ってくれない!」

「○○の連中だけが守られているのは、あいつらが王の手下だ!」

「踏ん反りかえってた連中は、だれも俺たちを助けてくれはしない!」

 

 悲鳴にまじり叫ばれる言葉に論理など存在しない。

 

 ただ声高に、王政の信用失墜のみを言葉の端々に織り込んで叫ぶ。

 

 兵士が少ないのは帝国からの侵攻に対して先日出兵したからであり、いざ問題が発生すれば王城や軍・行政施設などの重要拠点を優先して守るのは当然のこと。しかし全てが嘘ではない。なぜならクーデターに参加した者達の半分は、民を守るべき兵士なのだから。

 

 平時なら、ただの酔っぱらいの戯言と見向きもされなかっただろう。

 

 ひとたび混乱に陥った時、単純に声の大きなものの意志に民衆は染まりやすい。なにより帝国の工作員達は商人などに紛れ、さも民の声のように叫んでいるのだ。否定しようにも冷静な判断力を残しているもののほうが少ない。

 

 ゆえに。

 

 呼び声に導かれるように、民衆は暴徒となる。

 

「助け……」

 

 そんな言葉を漏らし、強盗と化した兵士に斬り殺されたもの。王政の手先というレッテルを張られ言葉すら発することができず、店を蹂躙されたもの。建物に火をかけられ、外に逃げ出した所を襲われ家財や商品を盗まれたもの。

 

 その暴動に参加している者達の多くが、一万に満たない火種に、扇動という油を注がれた一般人というのだから救いはない。

 

 たった数時間で、一万に満たないクーデターは数万の犠牲を生む大混乱へと変貌をとげたのだ。

 

 

****** 

 

 

「ほんと、どうなってやがる」

「さっき大通りの方から逃げてきたヤツの話だと、あっちはどこもかしこも焼き討ち状態らしいぞ」

 

 クーデターの嵐が吹き荒れる王都で、教会に雇われた警備兵達は、正門前に防衛線を引いていた。

 

 先刻から、見た目の荘厳さに眼が眩んだ欲深い者達による襲撃を受けており、警備兵たちも雑談をしているようだが、今も警戒も怠っていない。

 

 警備兵達の持つ武器の刃はすでに曇り、刃こぼれがちらほら見受けられる。人を切れば油で刃は曇るし、骨を断てば当たりどころ次第で刃こぼれをおこす。回りを見渡せば、切り捨てられた襲撃者と思わしき死体がいくつも転がっており襲撃の激しさを物語っている。

 

 だからだろうか。警備兵も人。言葉の端々ににじみ出るのは空元気ばかりであった。

 

「予備の武器を持って来ました」

「ありがてえ。だましだまし使っていたが、さすがに刃毀れした剣じゃあきついからな」

 

 そんな時、奥から若い神官が武器を抱えて走ってくる。よほど急いできたのだろうか、息があがっている。

 

 警備兵達は使っていた武器は血糊を拭い腰に戻すと、神官から予備の武器を受け取り、軽く振って武器の具合を確かめる。使い慣れたものではないが、ある程度の規格品でもあるため扱いやすさだけはピカイチだ。

 

「俺、この騒動がおわったら救護担当の娘に告白するんだ」

「じゃあ、俺はその夜に振られたお前を連れて酒場に繰り出してやんよ」

「あれ、彼女って彼氏いたような」  

 

 冒険者を引退し警備の仕事をするようになって数年。今日のようなことなど一度もなかった。そして今日ほど守るということを意識したことはなかった。なぜなら彼らの背後の教会礼拝堂や本殿には、避難してきた信徒が多数いるからだ。

 

 その責任の重さに投げ出したくなる思いを腹の底に押し込み、警備兵達は武器を握りなおす。

 

 そんな時、大通りの方からこちらに向かって走ってくる人影があらわれた。

 

「止まれ。安全を確認したら通してやる。だから一回止まれ!」

 

 警備兵は、声を張り上げて警告する。誰が敵で、誰が保護すべき者か分からない状況における最低限の判断基準。それは指示に従い武装解除すること。

 

 声が聞こえたのだろう。走ってきた長身の女とガタイのいい大男、小太りの男の三人組は門の手前で速度を落とす。

 

「こいつをどうすればいい?」

 

 ガタイのいい男は、手に持っていた丸太のように巨大なメイスを軽く持ち上げながら質問してくる。

 

「悪いな。ここは教会で非力な信徒を守るために門戸を開けている。武器を預けてくれるなら受け入れる」

 

 警備の男は、すでに慣用句のように何度も繰り返した言葉を告げる。だいたいこの言葉の反応は二つだ。

 

 一つは武器を捨て保護を申し出るもの。一般人はだいたいこちら。

 

 もう一つは、武器を商売道具としている連中。大抵は冒険者なので、冒険者ギルドに向かうように言う。この騒動の中、追い返すリスクもあるが、非力な信徒を守るためと割り切って追い返す。

 

 しかし目の前の三人の組み合わせはどうもチグハグだった。いっしょに逃げてきた割には、女はまるで商売女のような装い。男二人はそれぞれの武器を慣れた様子で手にしている。商売女が、客の冒険者に護衛されながら移動してきたのだろうか? そんなことを警備兵が考えていると、ガタイのいい大男が答えを口にする。

 

「ああ、わかった。手放せばいいんだな」

 

 温厚な言葉とは裏腹に、メイスを軽く振りかぶって門の警備達に投げつける。

 

 飛んでくるのは重さ十数キロを超えるメイス。それを投げつけるほどの腕力はなかなかのものだが、警戒していた警備兵達は素早く躱す。

 

 しかし、重量物の投擲であったため、無駄に大きく避けてしまったのが命取りとなる。

 

 不意をついた女が、何処からともなく取り出したナイフを鎧の隙間を縫うように脇腹に差し込もうとする。

 

「くそ。敵だ」

 

 浅い。

 

 深さにして数センチ。焼けるような独特の痛みを警備兵はこらえながら強引に剣を横薙ぎに振るう。

 

 対する女は、躊躇なくナイフを手放し攻撃を当然のごとくひらりとかわすと、背中に隠すように付けられた鞘からショートソードを引き抜く。

 

 仲間のピンチに他の警備兵たちもフォローに回ろうとするが、少し離れたところに立っていた小太りの男が投げたナイフのせいで近づくことができない。

 

 為す術もなく一人目の犠牲者が生まれようとした時。

 

「……」  

 

 音無く空から光が降り注いだ。

 

 無数の光は、警備の者達や建物にはかすりもせず大地を穿ち消え去るが、襲撃者は例外とばかりに体に風穴を開け、さらに足元の影に刺さった光は消えることなくそのまま輝く矢の姿を保ち続けていた。

 

 警備の者達だけではない。攻撃を受けた襲撃者さえも、何が起こったのか理解することができなかった。

 

 ただ、呆然と光の雨が降り注いだ空を見上げる。

 

 そこには……

 

 いつの間にか空を覆い尽くすほど巨大な光の方陣が展開されていたのだった。

 

 

******

 

 

 光が降り注ぐしばし前。

 

 王都上空百メートル。建築物であれば三十階程度の高さだが、リ・エスティーゼ王国に高層建造物は存在しないため、比喩なく王都を一望できる高さとなる。

 

 普段であれば、街道筋や歓楽街を照らす灯りの道と少々酔っ払いの声が響く程度の、静かな夜であるはずだ。しかし今は、いたるところで火の手があがり、まるで王都全体が赤く燃えているように照らされている。

 

 そんな場所に佇む、二人の男。

 

「卿の力を借りるぞ」

「了解。毎度思うけど、憧れの異世界転生物で俺自身が獣殿の爪牙になるとはおもわなかったよ」

「そんな風に答えるのは卿だけだがな」

 

 純白の軍服を身にまとい、肩に羽織った黒い外套と黄金の長髪を無造作にゆらめかせる男。この国において最高位と位置付けられたアダマンタイト級冒険者。ラインハルト・ハイドリヒと軽口を叩く人物が一人。

 

 この世界の人間ではまず到達しえない場所に黄金の方陣を足場として立っていた。

 

 人物と称したが、けして人類ではない。鳥の、それも猛禽類顔に翼。手足に鉤爪を持ち、どちらかといえば人と鳥が融合した姿を持つ鳥人(バードマン)という存在。 

 

「黄金の獣の原典を知るのは、俺とモモンガさんだけ。仕事柄、過去のアニメやゲームに詳しい姉貴でも、過去のアニメやゲームにそんなキャラがいて、有名なセリフを知っている程度だからな~。この感動を共有できる仲間がいないのは残念なのよ」

 

 この人物こそアインズ・ウール・ゴウン至高の四十一人の一人。そしてモモンガにパンドラズ・アクターのモチーフとなったキャラクターが登場する作品(エロゲー)を貸した人物。ペロロンチーノその人である。

 

 つまり、だいたいこいつのせいである。

 

「卿の話を聞く限りモチーフと私は、似通う部分はあれど、ずいぶんと違うようだが?」

「そりゃ~モチーフに比べれば、かなりマイルドな獣殿だろうけどね。それはそれ、これはこれ。それに(アクター)の通り、求められた役柄を演じる面もあるわけだから、違いはあたりまえ」

「名は体を表すということか」

 

 夜空に浮かび束の間の会話を交わす彼らにとって、足元で巻き起こるクーデターの炎は、闇夜を照らす灯りの一つでしかないのかもしれない。

 

「でも、それもスワスチカが完成するまで(・・・・・・・・・・・)ってことだろ?」

「そうだな。このような茶番もあと数回で終わりだ」

 

 足元に広がる悲劇の光をその程度と認識することは、人道主義に傾倒した輩には「人を何だとおもっているんだ」と言わせることだろう。だが、彼らは比喩ではなく人類ではない。人類とは別の理によって動く異形なのだ。 

 

「それにしても成り立ちやカルマが中立に近い卿のことだ。早く助けるべきと言ってくるのではないかと考えていたのだが?」

「まあ、その辺は人間辞めたわけだし、いま一瞬を急いだとしてもタイミングを逃しては、本当の意味では助けられないってことは頭でわかってるからね。モモンガさんみたいに精神異常耐性が無いから、いつまでも我慢はできないだろうけど」

 

 理性ではわかっているし、種族が変わったことで価値観の一部が切り替わってしまっている。しかし、人としての残滓が囁くのだろう。眼下に広がる惨劇を前に、ペロロンチーノの拳は今も固く握られていた。

 

「(準備が整いました。ラインハルトさん)」

「(了解した)」

 

 そんなペロロンチーノの心境を読んだかのようなタイミングで、エンリから地上部隊展開完了の連絡が飛んでくる。

 

 ラインハルトは左手を軽く上げ、まるで宣誓するように隣に立つペロロンチーノに合図を送る。

 

「では、はじめるとしようか」

「よし来た!」

 

 先程までの軽口はどこえやら。ペロロンチーノはまさしく猛禽の眼光を宿し、素早く弓を構え、魔力の矢をつがえる。

 

--鷹の目/マルチサイト/アローレイン/影縫い

 

 瞬時に複数のスキルを発動し、眼下を埋め尽くす暴徒という敵を次々とターゲットサイトに収めロックする。なにより今回はスキルだけではない。ペロロンチーノが手にするのは真紅の弓が意味を成す。

 

 ゲイ・ボウ

 

 ペロロンチーノがユグドラシル時代に何年もの歳月と労力を積み重ねて造り上げた至高の弓。一度はギルドに所有権を譲り売っぱらって良いとさえしたものだが、モモンガのはからいで、今日この時まで大事に保管されていた品である。

 

 ペロロンチーノは懐かしさと若干の申し訳なさを噛み締めながら、魔力で編まれた弦を引き絞る。

 

「狙い撃つぜ!」

 

 鋭い声と共に放たれた光の矢は、途中で二つ、四つ、八つ、十六……と無数に枝分かれし、光の雨となって王都に降り注ぐ。まるで無差別のように降り注ぐ攻撃だが、鷹の目でペロロンチーノが敵と判定した相手のみを撃ち抜く。

 

 ユグドラシルプレイヤーにおけるレベル一〇〇勢。その中で、遠距離攻撃特化は一定数存在した。たとえば戦闘系ギルドなどのガチ勢であれば、戦略上遠距離特化ビルドの需要が高い。しかしながら遠距離攻撃に拘り種族まで最適化した結果、射程数キロを可能とするプレイヤーは数えるほどしか存在いない。

 

 そしてペロロンチーノのビルドは、まさしくロマンを追求した狂気のビルドの一つであり、本人の技量も相まって神の御業に等しい一撃を実現したのだ。

 

 王都の屋外、いや屋内でも窓際など視線の通る場所で繰り広げられる蛮行。その全てに対し、光の矢は等しく鉄槌を下した。

 

 さらに撃ち抜かれた者達は、光の矢が消えるまで足が地に縫い付けられたように動くことができない。ゆえに攻撃を受けた者達さえ、自身になにが起こったのか理解するこができず、ただ硬直するのだった。

 

「パーフェクトだ」

「感謝の極み」

 

 ラインハルトは、ペロロンチーノの一撃を最大級の賛辞を贈ると、評価されたペロロンチーノは、まるで執事の一礼のように仰々しく腰を折り受け答える。そして役目を終えたのであろう、徐々に姿の輪郭がぼやけていく。

 

「続きは特等席で見ているが良い」

「獣殿の出陣演説か。胸熱だわ」

 

 どうもしまらないセリフを残し、霞のように消えてしまう

 

 しかしラインハルトはそんなセリフさえも気にせずに、眼下に広がる地獄に対して、幾つもの魔法を展開する。

 

 一つは超位魔法。ワールドアイテムを用い、魂を供物に楔を打ち込む第十位階を超える魔法。

 

 一つは拡声のマジックアイテム。戦域に声を届けるだけのアイテム。ゲーム内では直接ダメージを与えるようなものでないが、連絡、挑発、イベントの司会進行などなど、アイディア次第で活用の幅が広がるため取得者が多かったもの。

 

 一つは幻影のマジックアイテム。ラインハルトの姿を模倣し、王都のどこからでもその姿を確認できるように、王都上空に映し出す。

 

 これら魔法の発動を確認したラインハルトは、おもむろに口を開く。

 

「卿ら、己の一生がすべて定められていたとしたら何とする」

 

 艶と覇気を兼ね備えた声が、王都に朗々と響き渡る。

 

 先程の光の雨の奇跡を見た多くのものは、声に呼応するように空を仰ぎ見る。そこには夜空を覆い尽くす黄金の方陣が広がり、さらに一人の男の姿が映し出されていた。

 

「勝者は勝者に。敗者は敗者に。そうなるべくして生まれ、どのような経緯を辿ろうとその結末へと帰結する。これが世界の定めであるとしたら何とする」

 

 黄金の髪に黄金の瞳を持った美丈夫は、純白の軍服にその身を包み、右手には輝く黄金の槍を持ち、両手を広げ歌い上げるように宣言する。

 

「ならばどのような努力も、どのような怠惰も、祈りも罪も等しく意味は無い。神の恵みも、そして裁きも、すべてがかくあるべしと定められているならば、今一片の罪咎ない者達が奪われ踏み躙られるのは、世の必然ということになる」

 

 王都の民が男の声に促されるように現状を思い浮かべる。けして家屋や建物に火をかけられ、犯され、奪われるような罪など無かったはずだ。いつもと同じように平和な夜を迎えていたはずだ。

 

 なぜ、こんなことになってしまったのか。

 

 まるで吐き捨てるような自問が襲いかかる。なにより、目の前で(はりつけ)にされた悪徳の徒の罪さえも定められていたものであり、そこに罪が無い。そんなこと、納得することなどできはしない。

 

「死すらもまた解放ではない。永劫、それに至れば回帰をなし、再び始まるのみ。そして卿らの始まりとは、奪われ、踏み躙られる敗北者としての始まりだ」

 

 もし、酒場で聞けばただの与太話とだれもが断じるだろう。しかしはるか上空に立ち、光の雨を降らし、世の定めを説く男の言葉を滑稽と笑うものは誰もいない。

 

 

――もしかしたら?

 

 降って沸いた不幸。

 

 今、幸運に逃げおおせることができたとしても、次の理不尽が襲って来るのではないのか? なぜ、もう安全と考えることができるのか? それは昨日と何が違うのか?

 

 なにより……

 

「ゆえにこの後も無限に苦しみ、無限に殺され搾取され続けるだろう。そのように生まれ落ちた以上、そのようになると定められているのだから。それがこの世の法則というものだ」

 

 私達は苦しまねばならぬのか。お前たちは永遠の弱者として無限に苦しみ、無限に殺され続ける。たとえ逃げたとしても、子は、孫は、永遠に搾取され、苦しみ殺され続けるのではないか?

 

 突如として襲い掛かってきた不幸を前に、この言葉を否定できるものはいなかった。不安を抱いた民衆は、胸に深く浸透していくラインハルトの言葉を否定したくても、否定する材料をもちあわせていないのだから。

 

 カリスマの一言で片付けることができない。極限状態を利用した洗脳はさして珍しくもない。しかし王都の民、数十万に対して行われることを鑑みれば、異常と言う他にない。

 

「それを口惜しいと思わないかね! いや、覆したくはないかね?」

 

 不安の中で提示される一筋の光明。今まさに降りかかってきた不幸。それを助けた光の雨。救いの手が差し伸べられようとしていることに安堵を覚える。

 

「敗者と定められて産み落とされたのならば、その定めを! その定めをよしとしたこの世を変えたいと思わないかね」

 

 助かる術がある。少なくとも、目の前の暴徒を止めてくれた。そんな奇跡を見せた相手の言葉に期待を抱く。

 

「思うならば戦え」

 

 しかし、多くのものはその光明に躊躇する。

 

「思うならば武器を取れ」

 

 王都の中心とも言える中央広場。ラインハルトが発動させた超位魔法により出現した巨大モニュメント。そのモニュメントから数々の武器を携えたスケルトンが現れた。

 

 たとえ戦えと鼓舞されようと、その姿は異形でありアンデット。人の生理と過去からの倫理観に訴えかける嫌悪があった。

 

 しかし、スケルトンたちは人々の前まで移動すると跪き、手に持つ武器を頭の上に掲げる。その姿は信徒が供物を神に捧げる姿に等しいものだった。

 

「運命にあらがう者達よ、その手に武器を取り我が戦列に加われ」

 

 けして敗北し蹂躙されるためだけの存在ではない。焼き討ちされた王都が赤く燃え上がる中、敗北からの脱却、運命にあがらうことを求める声は、奇跡を起こし武器までも生み出した。

 

「我らと共に戦え」

 

 その言葉に勇気ある若者が武器を掴み雄叫びを上げる。それに続けとばかりに、青年が、少女が、そして老人さえもが武器を取る。

 

 クーデターの真っ只中、地獄からの脱却。恐怖によって押しつぶされた感情が、声となって一斉に解き放たれる。

 

 さらに上空の方陣の上には、まるで呼応するように多くの姿が浮かび上がる。

 

 王国最強にして王と民の味方、王国戦士長の姿。

 

 黄金の字を冠する姫の姿。

 

 王国南方、もっとも新しき英雄譚。その旗の下に異形を統べ人々を救った英雄の姿。

 

 人々の幸せのために祈る巫女の姿。

 

 武器を取り、掲げる者達の姿。その中には人だけではない。 鎧武者、無定型のスライム、山羊の頭を持つ悪魔、フルプレートに白銀の剣を携えた剣士、多種多様な異形の姿もある。

 

 多くの者たちを引き連れた黄金の獣が、王都に生きるすべての者たちに命じる。

 

 

「我が戦列に加われ、そして世界の定めを変えるのだ」

 




続きはまた明日

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