【完結】もしパンドラズ・アクターが獣殿であったのなら(連載版)   作:taisa01

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閑話の第一弾は、ある意味裏話


閑話
モモンガ日記


1日目

 

 正直良くわからないことだらけだ。NPC達が動きだしたことに驚き、自分がゲームのキャラクターになったことに驚き、ゲームのギルド一式が実体化したことに驚く。

 

 だからこそ、日々の記録として日記を残そうと思う。煩わしい日々の業務報告が、ある時自分を守ってくれたり、業務を助けてくれたりしたことは経験で染み付いている。この日記が役に立つことも、この先あるだろう。

 

 最初は、自分がゲームの中に入る夢でも見ているのかと思っていた。しかしその夢はいっこうに覚める様子がない。

 

 もっとも日記を書いている今は、夢ではないと思っている。しかしそのせいで、アルベドの胸を揉んでしまったのは失敗だったかもしれない。あれから過剰なスキンシップが始まったのだから。

 

 動き出したNPC達は、自分を含むギルメンを支配者と認識している。そしてギルマスである自分の事は、最高支配者という位置付けとなっているようだ。社会人とはいえ、下っ端担当でしかなかった自分には、組織の支配者など荷が勝ちすぎる。

 

 とはいえ、課題を放置すると痛い目を見るのは分かっている。いままでの社会人経験から、これは絶対の真理だ。

 

 課題の根本は、総てにおいて情報が無いこと。自身の安全すらわからない。

 

 優先すべきことは自身の安全と、仲間と作り上げたナザリックの維持。NPC達は友たちの子供のような存在だから、なんとしても敵対は避けたい。

 

 そこで考えたのは、ナザリックの主要な者達、できるだけ多くのものとコミュニケーションを取り、どのようなことを考えているのかプロファイルすること。課長が営業を仕掛けるなら、相手だけでなく自分達もプロファイルを作ることから始めろと、口癖のように言っていた。

 

 彼を知り己を知れば百戦殆うからず

 

 守護者や他の者達が、どのようなことを思っているのか。例えば名誉や名声を欲している部下に、昇給をちらつかせても何もないどころか、ヘタするとマイナスの効果となる。そういえば課長は、仕事の成果と引き換えに年休取得を約束していた。今に思えば鈴木悟の欲を見ぬいていたのだろう。

 

 それはさておき、外の探索を誰かにさせねばならない。そこで自分がもっとも知っているNPC、パンドラズ・アクターに調査を任せることにした。その際、唯一NPCに渡しているリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを回収することで、宝物殿が避難先となることも含めてだが。

 

 そして動き出したパンドラズ・アクターは、本当に予想通りの姿をしていた。アルベド達を見てもしや思ったが、あの頃ペロロンチーノさんから借りた古典のゲームに影響を受けたとは言え、あそこまで姿や言動が再現されるとは正直おもわなかった。かっこいいと感じると同時に、自分の黒歴史ポエムを全力で皆に聞かれているような、気恥ずかしさが身を削る。しかし、同時に設定通りであるなら、創造主たる自分へは、条件を満たした後の最後の戦い(・・・・・)以外は仕掛けてこないはずだ。その意味では安心して任せることができる。

 

 もっとも、外の美しい夜空を見たら、探索を任せるのはもったいないと思ってしまった。だが、二兎を追う者は一兎をも得ず。ここでコミュニケーションをおろそかにすれば、最悪総てを失うだろう。

 

 

 

2日目

 

 パンドラズ・アクターが昼過ぎに簡単な地図と、人間の集落を見つけてきた。

 

 ちょ……早すぎるだろ。と言いそうになったがなんとかこらえる。

 

 それにしても、何気なく出た人間を実験動物以下に見るアルベドの発言には驚いた。人間だからというより、ナザリック外だからという可能性もあるのでヒアリング項目に追加した。

 

 重要なことは今日からはじめた守護者との個別面談である。

 

 まずアルベドだ。

 仕事面では主に私の補佐となっているが、実質の管理は殆どアルベドがこなしている。仕事に関しては指示を与えれば、完璧にこなす。ただ休むということも知らず、聞けば自室も無いという。そのへんは対処するとしよう。

 そして問題はアルベドの自分に対する認識は、ナザリックの支配者にして愛する人。タブラさんの設定を弄ってしまったことの影響か、過剰なまでにスキンシップを要求してくる。ペロロンチーノさんいわくヤンデレだったか?しかし責任の一端はこっちにあるので、ある程度は許容し、一定以上は断ることとしよう。そして、ナザリック以外は総じて無価値。1500人襲撃イベやもともと異形を標的としたPKに対抗する互助会を目的としたギルド指針の影響か、人間に対する印象は最低となっている。カルマや種族の影響もうけているのか?あと加虐趣味というかドSな影がちらほら。う~む。美女なのだがなあ……。

 

 とりあえず、個々の情報は日記とは別の本にまとめておくこととする。本当に大丈夫だろうか?

 

 

3日目

 

 時間こそ短いが、メイドにいたるまで九層に出入りできる権限を有しているものとの面談を終了した。

 

 人間やナザリック外部の存在に対しては、デミウルゴスをはじめとしたカルマがマイナスのNPCは、程度の差こそあれ総じてアルベドと似た反応だった。なかには食料としか考えていない存在もいた。

 

 これは由々しき問題だ。もし自分と同じ境遇のプレイヤーがおり、人間を虐殺したと知れば、協力するどころか敵対する口実を与えてしまう。また、この世界に私達よりも強い存在がいれば……。

 

 逆に、ユリやセバスも危ういかもしれない。忠誠は本物で人間や外のものにも好意的だが、カルマがマイナスの者達と、なにかしら意見の対立を招くかもしれない。

 

 その意味では、パンドラズ・アクターに与えた方針は正しかった。ユリやセバスもあちらに回したほうが、うまくことが進むかもしれない。

 

 それにしても、会議のあとに茶を振る舞ってお茶会のようなことをしたが、美味しそうだったな。

 

 

4日目

 

 人間が襲われるシーンを見てもなんとも思わなかった。これは自分がアンデッドになった影響だろうか?

 

 ただ王国戦士長とパンドラズ・アクターの共闘のシーンは、映画のワンシーンのようで少し羨ましく思った。あのような人間がいることに、そしてその隣に立つ村を救った英雄の姿に。

 

 あと、この世界にはユグドラシルの残滓がある。今はどうか分からないが、プレイヤーが居たことは確実のようだ。守護者たちも安全そうだし、用心しながら情報収集に励むとしよう。

 

 最後にお茶会の話題に上がった口唇蟲。食事を味わうことができるようになれば、嬉しい限りだ。

 

 

5日目

 

 森の賢王とはいったい?!

 

 どうやら大森林の南側は、巨大ハムスターが森の賢王として仕切っていたようだ。そしてパンドラズ・アクターの軍門に下ったというのは問題ない。カルネ村と合わせてみれば、橋頭堡ができたようなものなのだから。

 

 しかしハムスター……。

 

 あれに黄金の獣殿が乗るのを想像すると……だめだ。想像したただけで、精神の強制沈静化が発動してしまった。森の賢王を見たメイドたちに感想を聞いたが、知性ある魔獣と認識して、滑稽なものと認識していないようだった。自分だけ美的感覚がずれているのだろうか?

 

 さて今日あたりからアイテムや魔法の確認を始めよう。あと、ローテーションで休暇もあたえようか。

 

 

6日目

 

 エントマ仕事早!

 

 先日の会議で話題にあがった、改良版口唇蟲の第一弾が完成したようだ。実際にエントマが使ってみて、違和感はないが成長していないため容量が小さく、まだお茶数杯に茶菓子少々が限界だそうな。しかも味を慣らしていくために、味の薄いものを推奨だと言う。

 

 だが実際に初めて飲んだ紅茶は、その複雑な味に驚いた。リアルでは営業先で出されるお茶ぐらいしか飲んだことは無かった。わざわざ嗜好品を買って飲む趣味もなかったので、本当に美味しく感じた。

 

 同席していた守護者達も、その喜びを感じてくれたのだろう。おめでとうの言葉が、素直に嬉しかった。

 

 ついエントマの頭を撫でながら褒美は何が良いか聞いたが、もう少し頭を撫でてほしいと消えそうな声で答えたのが印象的だった。うん。友人の小さな子供が懐いてくれると、こんな感じなのかもしれない。

 

 しかし、会議の後にエントマがアルベドに呼ばれていた。生殖がどうとか聞いていたようだが、何のことだろうか。

 

 

 

7日目

 

 どのようなマジックアイテムも利用できるタレントに、国一番の錬金術士。なかなか幸先の良い縁を得ることができた。最終的にこちらに付いてくれればよい。

 

 あとユリには、長期任務としてカルネ村に半常駐してもらうこととなった。村と良好な関係が築ければ良いのだが。

 

 

8日目

 

 朝方、ついに自分の秘密をアルベドに喋ってしまった。

 

 一週間、ずっと時間を共にして気を許したからか、孤独に耐性があるつもりで、実はそうでもなかったのか。ついポロッと漏らしてしまった。

 

 リアルのこと。そして、ゲームのこと。

 

 アルベドは驚いていた、いや戸惑っていたようだ。

 

 そもそもゲームというものが理解しているかわからないが、四十一人を含めるプレイヤーの中身は人間であり、この体は人間が乗り移って動いていたのが約一週間前まで。そして、今現在は、一体化しそのものとなったということ。

 

 今の価値観では、自分も人間をどうこう思っていない。しかし元人間としての心があるので、できれば穏便に済ませたいこと。

 

 美しい夜空を見て、未知を楽しみたいと思ったこと。

 

 そんな話をしていれば辞めたギルメンのことも話題にあがる。ギルメン達はリアル世界で夢を掴んだり、生活を優先したりで疎遠になったのであって、嫌って辞めたものは一人としていない。しかし、寂しいという気持ちは変わらない。それだけ自分に友はかけがえの無いものであり、友と作り上げたナザリックが好きだと。そして自分の意思を持って動き出したNPC達は、リアルではもういない家族のように思っていること。

 

 ほんとうに、いろいろなことをぶち撒けてしまった。アルベドが静かに涙を流しながら、最後まで聞いていてくれたことに気が付き、気恥ずかしくなる。

 

 そこからだろうか?アルベドが変わったのは。

 

 デミウルゴスが法国の使節団出立の情報を持ってきた後、昨日ユリが赴任したカルネ村と大森林の視察を、気晴らしにどうかとアルベドが提案してきたのは驚いた。

 

 先日まで、休むということも知らなかった存在からの気晴らしの提案。成長する我が子を見るようなそんな気持ちにさえなった。

 

 そしてアルベドと二人で歩いた農村や森の中は美しかった。空気も透き通り、木漏れ日は優しい。なにより深緑が輝いて見え、木々は暖かかった。村長は、村を救ったパンドラズ・アクターの上司ということもあったのだろう、質素ながら精一杯の歓迎をしてくれた。出されたお茶はナザリックと比べるものではないが、素朴な味がして気に入った。

 

 なにより、何気ない感想に、ほほ笑みで返してくれるアルベドから、いままでと違う美しさを感じることができた。

 

 あの村は、これから復興のために頑張るのだろう。急な来訪に嫌な顔をせず対応してくれた者達であり、これから友好関係を築いて行く必要がある村だ。なにが良いだろうか。

 

 

 

10日目

 

 あまりにナザリックの食事が旨くて、日記を書き忘れてしまった。

 

 9日の夕方から食事が解禁された。

 

――ミネストローネスープ

 5種の豆と玉ねぎ、人参、セロリ、ベーコン、あとは忘れてしまったが数多くの野菜を煮込んだスープ。ベーコンの油が食欲をひきたて、野菜の甘みが舌を楽しませ、胡椒が程よいアクセントになり思わず精神の強制沈静化が発生してしまったほどに旨かった。

 

 あと、サンドイッチも美味しかった。ハムにチーズ、卵、ベーコンにレタス・トマトなどシンプルながら、種類も多く楽しむことができた。リアルで勝ち組の連中が、食事に金をかける理由がはじめてわかった。

 

 喜びのあまり、エントマの頭をまた撫でてしまった。

 

 その夜、アルベドが恥ずかしそうに頭を撫でてほしいと言ってきたのは、得も言われぬものがあった。ああこの感覚が、我が友ペロロンチーノが言っていた萌えか。

 

 

11日

 

 近隣の正確な地図が完成した。まだ森に隠れた集落は見つけられていないが、それぞれの生活圏を把握することができたのは大きい。

 

 位置的なもので言えば、トブの大森林を中心にカルネ村あたりまでを領有することが第一ステップか。あと森を切り開き直通の交易路などを作って流通を支配してしまうのも良いだろうか? しかし、それで生態系が壊滅してしまっては困る。とりあえず何パターンか案を考えて、アルベドに具現化可能かを聞いてみるか。

 

 

13日

 

 たった一日、されど一日。

 

 多くのことがありすぎた。

 ・エ・ランテルでの報告書および映像資料は○○に保存。

 ・シャルティアとソリュシャンによる盗賊殲滅および武技保有者捕獲については○○に保存。

 ・法国についてはワールドアイテムなどを保有。詳細は○○に保存。

 

 なんかインデックスのようだが、忘れないためのメモでもあるのだから良いだろう。

 

 印象に残ったのはエ・ランテル。呪文は良いとしてモニュメントだ。昔テストで作ったときは、それこそ小さな柱のようなものしか出来なかった。だが今回は2万近い敵の魂を取り込んだためか、まさしく巨大なモニュメントができた。ゲームの時、渾身のコンボが入った時のような興奮を覚えた。

 

 逆にシャルティアが洗脳された件については、はらわたが煮えくりかえるかとおもった。しかし、こちらの失態も重なったと思うと、自分の不甲斐なさに涙がでそうになる。

 

 そして心をかきみだしたのは、パンドラズ・アクターが連れてきた少女。なぜ人類平和なんてあやふやなものに、自分を躊躇なく差し出せるのか。そう教育を受けてきたと一言で済ますこともできるが、リアルの愚民政策を知っている以上、少女の姿は自分達底辺の人間の懇願にさえ見えた。

 

 いろいろなことが頭をよぎった。たっちさんや友に心を救われたこと。だからナザリックに執着する自分。少女の願いを叶えられる自分はまるで、リアルで嫌った特権階級の連中そのものに感じた。そして救われなかった自分や母親は何だったのか。それこそ感情の強制沈静化が発生するまで、頭の中をぐるぐると駆け巡った。

 

 だか、ふと冷静になって目に入った光景は、少女を抱き寄せ傷を癒すパンドラズ・アクターの姿だった。その時、ああ自分は、今まで嫌ってきた存在になろうとしていたのかと気がついた。そして隣に立つアルベドが他に聞こえぬほど小さな声で、「思いのままになさってください」という言葉に背を押された。

 

 結果に後悔はない。シャルティアの件を腹に飲み込み、自分が過去嫌った存在にならないために精一杯の線引をしたのだから。

 

 

14日目

 

 そういえばカルネ村への返礼をすっかり忘れていた。

 

 そこでデスナイトを5体つくり、贈ることとした。命令権限は創造主>パンドラズ・アクター>ユリ>あの村の少女エンリ。基本は村の護衛、余力の範囲で村に貢献してアインズ・ウール・ゴウンの名を高めよ。もしアインズ・ウール・ゴウンに不利益をもたらす情報を入手したら、ユリ以上の上位者に報告せよ。こんな風に命令をあたえた。

 

 将来的には、例の約束もあり人類を庇護する立場となる。ならば、最低限の問題は衣食住の確保である。そして食は準備に一番時間がかかる。デスナイトでなくともアンデッドが労働力となるならば、有効な一手となろう。

 

 

15日目

 

 セバスが王都に入って諜報網の構築をはじめた。ある程度意思のある恐怖公の眷属と、影の悪魔を中心とした諜報網である。

 

 パンドラズ・アクターの調査で、われわれにとってのゴミアイテムでも、この世界ではとんでもない価格が付くことが判明している。それにより当座の資金を確保し、手早く調査をすすめる。それにしても、上がってくる情報の質はけして良くはないが、第一報だけみると王国の首脳部……腐ってないか?

 

 

16日目

 

 カルネ村に送ったデスナイトがどんな行動をしているか、ふと気になってリモート・ビューイングで確認を行った。

 

 なぜか5色の鎧を纏った戦隊ものヒーローが農作業や防壁作成作業を手伝っていたのだ。

 

 ユリにメッセージを飛ばし確認すると、姿を怖がられたため鎧を着ることとにしたというのだ。なんでもその案は村の子供だとか。そして5人が同じ鎧を着ていると誰が誰かわからなかったので、最終的に五色の鎧を着ることになったようだ。

 

 どうしてこうなった。

 

 しっかり村に溶け込んでいることを考えると、有りなのかもしれない。そんな時、森からウルフが数匹現れたようだ。従来なら、けが人の一人もでるだろうところを、デスナイトが村人を庇い、そして素早く撃退してしまった。

 

 どうみても戦隊ヒーローです。ほんとうにありがとうございました。

 

 まあ、喜ばれているようだし、労働力にもなっているようなので、当初の目的は達成した……のかもしれない。

 

 

17日目

 

 武技を使う戦士をコキュートスに預け研究させているが、いまだ結果はでない。もしかしたらNPCやプレイヤーは武技を覚えることができないのか?またはレベル100だからイケないのか?その辺の調査をさせる必要がありそうだ。

 

 スキルでは料理について、同様に調査をしているがやはりスキル無しでは料理を料理として完成させることはできなかった。あれが我が友ペロロンチーノの言っていたダークマターか。

 

 

18日

 

 パンドラズ・アクターが王都入りして、諜報網が完全に軌道に乗った。同時に王国戦士長に情報を流し、政治面でのアプローチを開始。大義名分のためとはいえ、政治は難しい。今後政治については直接的な指示でなく、目標などの指示に徹しないと、失敗するかもしれないな。

 

 

19日

 

 確保した英雄級の存在に、堕落の種子など転生に必要なアイテムを一式与え、この世界でも転生できるかのテストを行っていたのだが、やっと成功した。本人の意思とレベルが必要そうだということが分かったが、まだまだ検証が必要そうだ。

 

 しかし武技を扱える悪魔が誕生したのは、予想外だった。

 

 

20日

 

 素材面の問題がでてきた。

 

 ポーションなどもそうだが、スクロールの補給が低レベル以外できないのは問題だ。アルベドに相談した結果、ラインハルトとデミウルゴスに、代替素材の調査のための素材集めを指示することとなった。

 

 あと、アルベドとエントマが何か相談をしているようだ。どうやら性能試験ができないと言っているがなんのことだろう? 聞いてみたが、ついぞ教えてくれなかった。しかし完成したらプレゼントしてくれるというのだ。ここで聞き出すのは無粋というもの。

 

 しかしおかしなお願いをされた。DNAがほしい?髪でもあれば一本渡せばいいのだが、あいにく渡せそうなものが浮かばない。いっそ指の骨でも削ろうか?と聞いたが、アルベドに止められたためにうやむやとなってしまった。

 

 それにしてもDNAなど何に使うのだろう?

 

 

21日

 

 エントマの研究を知ってしまった。見なかったことにしよう。

 私はご立派さまなど見ていない。ログにもない。

 

 

22日

 

 ラインハルトが、しばらくトブの大森林で薬草捜索をするといっていた。冒険か……。いつか仲間たち、いや守護者やプレアデス達でもよい、行ってみたいものだ。

 

 しかし、時間が経てば経つほど自分の存在というものに疑問が湧く。アルベドにできうる限り客観的に分析してもらったが、結論がでなかった。ただ可能性はいくつも上がった。

 

 この世界の魔法による召喚。

 運営、いや企業連による高度知性シミュレーション。

 最悪は、妄想。

 

 どれでも良い。家族と思える者達との夢なら、最後までさめないのならば。

 

 

23日

 

 風呂作戦失敗。

 

 なぜ風呂場にゴーレムが仕掛けられていたのだろうか……あいつの思考が理解出来ん……。

 

 

24日

 

 こんなことがあるとは予想していなかった。本当にこの世界は驚きに満ちている。

 

 何気ない黒歴史。そのつもりで書いた設定。そのつもりで必死に手に入れたワールドアイテム。そのつもりで調整したスキル。

 

 その総てが今、結実したのだ。

 

 もともと、パンドラズ・アクターの設定には、「殺したものの魂をその内側の宇宙(ヴェルトール)に取り込む。そして取り込んだ魂を己の軍勢として、召喚または憑依し戦う」としていた。そのままであれば、ギルメン四十名の魂など取り込まれるはずもない。

 

 だが、皆の姿を霊廟に模していた時、ふと思いついたのだ。「宇宙(ヴェルトール)には、黄金の城がある。その最深部には巨大な黒曜石の円卓があり、41の椅子がならべられている。その椅子にはナザリックの41人の仲間の名が刻まれており、それぞれの魂が座っている。そしてギルドマスターの場所には、モモンガの半身としてラインハルト・ハイドリヒが座す」

 

 そんな厨二病全開の一文が、最後の鍵となり仲間たちの帰還を可能にしたのだ。パンドラズ・アクターはずっと我が半身と呼んでいた。そう。まさしく半身だったと気付かされた。

 

 ああ、また友と会える。家族(NPC)といっしょにみんなを迎えることができる。だからこそ、平和な世界で再会したい。

 

 傲慢でいいじゃないか。

 

 わがままでいいじゃないか。

 

 みんなに誇れる国を作ってみせる。手を取り合って歩くことができるぐらいに平和な世界を手に入れてみせる。

 

 そして世界を楽しもう。

 

 




おまたせしました。やはりこの時期は忙しいですね。
あと感想や誤字報告、本当にありがとうございます。


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