【完結】もしパンドラズ・アクターが獣殿であったのなら(連載版) 作:taisa01
凄く助かっております。
トブの大森林の奥地。
枯れ落ちた森の中。天を貫く巨木が崩れ落ち、大量の土砂を巻き上げる。リアル世界のモノで例えるならば、日本の高度成長を支えた首都の電波塔が崩壊したようなものだ。どれほどの巨大な存在を打倒し、また倒れるだけでもどのような被害がでるか予想できるだろう。
その魔樹の竜王ザイトルクワエが崩れ落ちる様を見たエンリら一行、さらにアンナの背後にいるスレイン法国は、その異次元とも言える戦闘の総てを推し量ることはできずに居た。
「あ~。姉さん。旦那ってあんなに強かったんですね。いやね、強いことは判ってましたが、地上から雲の上は見えないってことですかねぇ?」
ゴブリンたちの代表でもあるジュゲムは、エンリに先ほどの戦いの感想をもらす。ゴブリンたちは、けして強い種族ではない。しかし個ではなく群で動くことで、身の丈以上の成果を得るのだ。特にエンリという指揮官を得た彼らは、下手な冒険者では太刀打ちができない存在となっている。
今、目の前で行われた戦闘は、言わば少数チーム戦における最終回答ともいえるものであった。戦闘に参加する個人の技量は英雄級をはるかに超え、その上で連携することを前提とした戦闘。その完成度はあまりにも高く、雲の上に隠された山の頂きを感じさせるものであった。
「そうだね~。正直びっくりしてる。でも、何時かあの隣に立ちたいと思うから、みんなも頑張って付いて来てね」
しかし、エンリはその戦闘を見ても諦めることはなかった。それに対し若干呆れると共に、頼もしい上官にジュゲムは応える。
「どこまでもポジティブですね。エンリの姉さん。しかもみんな付いて来いとおっしゃる」
「だって私は将だもの。部下や仲間が居ない孤高の将なんて、ただの置物よ?」
「だ、そうだ。おら野郎ども、気合いれんぞ!」
「おう」
「あ、もちろんハムスケさんもですよ?」
「無論でござるよ。エンリ殿。ハイドリヒ卿に認めてもらえる一端の戦士になってみせるでござる」
黄金の旗手エンリにとって、山の高さは関係無い。ジュゲムらゴブリンたち、そして森の賢王ハムスケと共に歩む道標を見つけたにすぎないのだ。
「あら、私は誘ってくださらないのですね」
「アンナは、隣に立つ
「もちろんでございます。ああ
闇の神殿 次席巫女のアンナは、エンリにちゃちゃを入れる。しかしエンリは、同僚であり何かとライバルとなる存在に、わざわざ手を貸す必要はないと思っている。なにより、そんな手助けが必要な甘い存在ではないと、
「それにしても、法国の方はうるさいですね」
「なにかあったの?」
アンナは左手を頬にあて、ため息を吐きながら本国の愚痴を言う。
「モモンガ様のお姿と先ほどの戦闘を見て、法国の神として今から名乗りを挙げてほしいなどとうるさい限りです。中には”ああ、神よ、傅かせてほしい”とほざく輩まで……。意味不明なのは、今モモンガ様が立つ場所の土を持ち帰れと」
「スレイン法国って人類をずっと守ってたのよね?貴方から透けて見える姿に、そんな威厳とか欠片も見えないのだけど」
「組織なんて一皮向けばこんなものよ。貴方も組織に組み込まれれば嫌でも分かるわ」
「あんまり知りたくないな」
辺境の村社会しかしらないエンリにとって、アンナの話はどこか遠くの出来事。しかし遠からず同じ苦労とするとアンナに言われ、げんなりするエンリであった。しかし、雑談ばかりではない。
「さてと、そろそろあのドライアードを起こして交渉しましょうか」
「起こす?気絶でもしたの?」
「ラインハルトさんの
「ドライアードって思ったより肝が小さいのかしら?で、起こしてどうするのかしら?」
「そうね。とりあえずカルネ村に来てもらって、食料増産に協力してもらおうかなって。ドライアードなら、その辺の管理もできそうだし」
「あなた、ほんとに村の発展に余念がないのね」
「そんなものよ」
「そんなものね」
ピニスンは、自分が気絶している間に己の去就が決定しているなど、予想できるはずもなく。目覚めて反論するも、二人に口で勝てず、結局は樹ごとカルネ村に移住することとなった。
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魔樹を倒したラインハルトと5人の爪牙は、ゆっくりと歩きながらモモンガの元に戻ってくる。
守護者達は固唾を呑んでその光景を見守るが、心情を言えば複雑だ。本当に創造主なのか?ただのラインハルトの影なのか。何かの話をしながら歩く姿は、過去の創造主の姿と相違ない。故に迷う。
モモンガの内心も、混乱という点では守護者達と変わらなかった。しかし背後に並ぶ守護者達、隣に侍るアルベドがいる。不様は晒せないと気力を振り絞り、真っ直ぐ前を見る。
そしてラインハルトは、モモンガの前に立つと静かに片膝を付け頭を垂れる。そして続いて五人の爪牙もならう。LV80が五人、そしてLv100が一人。その気になれば、人間の国など瞬く間に蹂躙してのける戦力である。
「我が半身よ。魔樹の討伐を完了した。楽しんでいただけたかな?」
「……ああ。素晴らしい内容であった」
モモンガは横柄に頷きながら、賞賛の言葉を返す。だが、内心は友の傅く姿に落胆する。心の何処かで、軽口を言いながら語りかけてくれることを期待していたのだから。
「……ぷっ」
「……く」
しかし、傅く側の様子がオカシイ。ペロロンチーノの肩が震えている。またぶくぶく茶釜は、その不定形の体もプルプル震えている。その様子に守護者は一様に疑問に思う。
「ぷはっ!駄目だ、モモンガさんの支配者ロールが楽しすぎ」
「クスクス……。だめだよ茶釜さん。モモンガさんは、真面目なギルマスなんだから。みんなの期待に応えてるだけだよ」
「えっ?」
最初にギブアップをしたのは、女性陣だったようだ。その姿にモモンガはもちろん、守護者達もあっけにとられる。
「あ~モモンガさん、わりぃ。獣殿と悪乗りしちまったわ」
「そういうな。卿も我が半身が楽しめるならと言っていたではないか」
「俺は結構ありだと思ったぞ。ギルマス就任と同時に、ナザリック初見攻略を宣言した時の姿をおもいだしたぜ」
「やはりナザリックの主は、悪の支配者こそ相応しいと思うぞ」
ペロロンチーノに応える形で、ラインハルトが告白し、そして武人建御雷とウルベルトが続く。つまり彼らはわざと傅きモモンガを誂って見せたのだ。
まず普通のNPCではありえない。普通のNPCであれば、主であるプレイヤーに敬意を評してしまう。ラインハルトはそもそも創造主と被造物ということで、それこそモモンガ自身の影響を受けているので特別とも言える。しかし他の爪牙はNPCではありえない行動をしたのだ。その自然な会話をする姿に、モモンガは友の姿を見た。
その様子に気がついたのだろう。ぶくぶく茶釜が声をかける。
「じゃあ、みんな残った時間は少ないけど、子供達との時間ね。ウルベルトさん、やまちゃん、我らがギルマスに説明よろしくね」
「まかされた」
そういうと、それぞれは自分の作ったNPCの下に行く。例えばぶくぶく茶釜はアウラとマーレに飛びつき、ペロロンチーノは照れながらシャルティアの手を取る。一番謎なのは武人建御雷とコキュートスである。二言三言話すと、間合いを取り武器を構えたのだ。
その場に残ったのはモモンガとアルベド、デミウルゴス、ラインハルト、ウルベルト、やまいこの六人のみ。奇しくもナザリックにおける頭脳面上位3名が残ったこととなる。
「モモンガさん。先に聞くが、リアルの事をどの程度アルベドやデミウルゴスに話している?」
「ああ……。アルベドには相談したが、デミウルゴスにはこれからだ」
「では、デミウルゴス。お前と話をすることを楽しみにしていた。しかし先にやるべきことがあるので許せ。あとこれからの情報に混乱することもあるだろうが、変わらずモモンガさんを支えよ」
「もったいないお言葉」
スーツを着込んだデミウルゴスが、ヤギ頭の悪魔であるウルベルトに臣下の礼をとる。ウルベルトはそれに満足したのだろう、モモンガの方に顔を向け会話を再開する。
「モモンガさん。今は時間がない。詳しい話は後でもう一度、俺か茶釜さんを呼び出せ。かといってタブラさんや前ギルマスを呼ぶなら永久展開後にしろ。そして間違ってもるし★ふぁーは呼ぶな」
「るし★ふぁーさんは予想つきますが、たっちさんやタブラさんは常識人枠でしょ?」
「それは後で説明する」
モモンガは混乱しながらもウルベルトに頷く。それを了承と受け取り、ウルベルトは話を続ける。
「まず、俺達はラインハルトの術式で実体化している。しかし俺たちには自我がある。少なくともそう認識しているし、今も自分の意思で会話している」
「え?」
「そうだよ、モモンガさん。パンドラズ・アクターは、私達の実体化や送還を強制できても、実体化後の行動を強制できないの。ついでに言えば術式における上位権限を持つモモンガさんも送還の権限を持ってるよ」
モモンガは、はじめて魔法を意識した時のように己の内部に意識を向ける。多分設定に書いた通り、モモンガ自身も墓の王となり、パンドラズ・アクターの上位者となっているのだろう。自分とパンドラズ・アクターの間に術式が結び付き、その先には五人の爪牙がいることが分かる。つまり、この結び付きを切れば、送還されるということなのだろう。
「とは言っても、自我の点については簡単に信じられないだろう。だから三つ重要情報を先に伝える。一つ目は、私達もリアルを知っている。例えば俺は、モモンガさんの親の死因が過労死だということを」
「それは?!」
「そう。NPCの知らない情報だ」
「ああ」
モモンガの両親の事は、雑談とは言えウルベルト本人にしか話したことはない。もちろんパンドラズ・アクターの設定に書くような情報でもない。すなわち目の前のウルベルトは、自分の知るウルベルトの
「二つ目は、今もギルメン四十名は、パンドラズ・アクターの中で生きてるの。ユグドラシル最後の瞬間からずっと、パンドラズ・アクターの見聞きしたものを感じながらね」
「見聞きしたものを……知っている……だと?!まさか、さっきの茶釜さんのリアクションは!!」
「うん。エンリとアンナって娘がナザリックの玉座の間に入った時のことも、みんな知ってるよ」
「ああああ」
「モモンガ様っ」
衝撃の新事実に、モモンガは支配者の姿をかなぐり捨てて、頭を抱えて蹲る。
モモンガの羞恥心は、最高の支配者演技をかつての仲間に見られていたという言葉に、限界を超えてしまったのだ。アルベドは抱きとめるように優しく背に手を当てフォローするも、精神の沈静化を数回繰り返すまでモモンガは落ち着くことができなかった。
「みんな、モモンガさんの立場を理解してるから、気にすることないよ。むしろよく頑張ってるって思ってるから」
「そうですか……」
やまいこはフォローの言葉を掛けるも、モモンガはたった一言で焦燥しきってしまう。見守るデミウルゴスとアルベドは、先ほどの言葉だけでそんなにモモンガが焦燥するのか理解できず、精神攻撃の可能性さえ疑いだすしまつだった。
「でね、二つ目の続きだけど、実体化するまではパンドラズ・アクターの
「記憶とゴースト?」
「うん。リアルの体がどうなったかわからない。死んだのか?それとも最終日を最終日として認識し、ゲームを終了してリアルを過ごしているのか。でもここに自我はある。繰り返すけど、ボクたちはそう認識している」
ゴースト。心や魂などの類似単語。どんなに人間くさいAIを創造しても、人間と判断はされない。逆に人間は、どんなに機械的な行動しても人間と判断される。その違いは人間として生を受けたが否か。そんな人間の定義に用いられるスラング的言葉がゴーストである。もっとも科学的には仮説段階なのだが……。
つまりやまいこ達は、記憶もある自我も魂もあるが体がない存在と言っているのだ。
「私と皆さんの違いは……」
「たぶん最終日最後の瞬間の経験による体の有無」
「であればヘロヘロさんが最後まで一緒にいれば」
「予想通りモモンガさんと同じ存在になっていただろうな。逆にパンドラズ・アクターの存在がなければ、俺たちは消えていただろう」
ウルベルトは、モモンガの予想を肯定する。しかしモモンガはここで違和感に気が付くのだ。
「もしかして三つ目の情報とは?」
「ああそうだ。ヘロヘロさんは直前までのリアルの記憶があり、最終日にログイン出来なかったギルメンは、最終ログインまでのリアルの記憶となっていた」
「じゃあ」
「ボクたちは、本人のコピーの可能性が高い。もちろんモモンガさんもね。技術系のヘロヘロさん仮説だと、ゴーストダビングの可能性を指摘してたよ。アイデンティティに関わるから、じっくりと考えることをお勧め。でも気を付けて、今のモモンガさんを否定すると、目の前で生きているNPC達を否定することにも繋がるから。一人が不安になったら、私達も相談にも乗るから」
ウルベルトは無愛想に、やまいこはやさしくモモンガに言葉を投げかける。しかし伝えられた言葉、お前も含めて総てがコピーされた存在だと言っているようなものだ。もしモモンガが、鈴木悟の体であったならば否定することもできたであろう。しかし、体はモモンガとしてのアバターであり、心の一部は鈴木悟。とてもではないが反論するだけの根拠がない。
「分かりました。少し考えてみます」
モモンガは落ち着いて返す。
ウルベルトから見たモモンガは、けして冷静沈着な人物ではない。地味なこともコツコツと積み上げ、さまざまな問題は泥臭く調整する。感情を腹に収めようとするも激情や依存を抱えるため、感情が透けて見える比較的わかりやすくどこか憎めない人物だった。だからこそ驚くか呆然とする姿を予想していたウルベルトは、モモンガの返答に疑問を持つ。
「モモンガさん。もしかして予想してましたか?」
「はい。アルベドに相談し状況を整理していく中、いくつか案がまとまってましたので。もっともアンデットの精神の強制沈静化の賜物ですがね。むしろそちらは情報が少ないなか、よくその回答にたどり着きましたね」
「パンドラズ・アクターも含めれば41人で対話してるし、私達が引くぐらいはっちゃけてる人や暴走している人もいる。比較対象に事欠かなかったから」
「なるほど」
モモンガは、アンデッドの精神の強制沈静化に感謝しつつしっかりと回答する。もちろん考えることをは多々あるが、すでに結論の一つは出ているのだ。
話が一段落ついたのを読み取り、アルベドが声をかける。
「一つご質問をしてもよろしいでしょうか」
「ああ、かまわぬよ」
「なぜタブラ・スマラグディナ様を呼んではいけないのでしょうか」
「タブラさんは、異世界と設定通りのアルベド達を見て暴走し、薀蓄を並べすぎ普通の会話が成り立たん。落ち着くまで、話にもならんよ」
「ハハハ。タブラさんらしい」
モモンガは、タブラさんらしいと笑う。同時に、たっちさんもNGという理由も予想が付いた。彼はリアルの家族を愛しており、ユグドラシルをやめた理由もそれだ。現状を納得せず考えなしに突っ走ろうとしているのだろう。るし★ふぁーは、もう予想するまでも無い。召喚したが最後、楽しさというキーワードと引き換えに大混乱を引き起こすのが目に見えている。
逆にアルベドは表情こそ笑っているが、瞳には別の感情が乗っている。肝心のモモンガは、そのことに気づいておらず、ウルベルトとやまいこはタブラを召喚するまで時間を置く選択が正解だと確信した。
「我が半身よ。そろそろ時間のようだ」
ラインハルトがモモンガに声を掛ける。気がつけば、ウルベルトとやまいこの体が消えかけている。実体化の限界が近付いたのだろう。
「そうか」
「ああ最後に、世界征服は全員おもしろそうだとなっているからな」
「えっ?」
「人類のため、ナザリック防衛のため、この自然のため、楽しみのためと理由はバラバラだがな。最後にデミウルゴス。善悪は表裏のもの。しかし信念なき悪は、力なき正義と同じく唾棄すべきものだ。信念を持ち世界征服を成し遂げよ」
「はっ。肝に銘じます」
「全員、異形種になったからかもしれないけど、目的のための犠牲についても寛容だったよ。もちろん犠牲はすくないに越したこと無いから。あと大人の罪で子供に手をかけちゃだめだよ」
「やまいこさん……」
「
そこまでだった。ウルベルトとやまいこの姿は露と消える。
「モモンガさん。また戦闘の時にでも呼んでくれ」
声のする方に顔を向ければ、コキュートスが離れたところで倒れ伏し、武人建御雷は気にした様子もなく最後の一言を残して消えるところだった。
「アルベドのヒロイン選択は許すが、シャルティアは渡さねーぞ!」
「そうよ。正妻アルベドはいいけど、アウラに手を出すなら私を倒してからにしなさいよ!」
「姉ちゃん倒しても肉棒しか残らんだろ」
「黙れ!弟」
そんな声と共にペロロンチーノとぶくぶく茶釜が消える。騒々しい。本当に最後まで騒々しい仲間達だとモモンガは振り返る。
そこには目をはらしたアウラとマーレ。傷だらけで起き上がる途中のコキュートス。赤い顔をして静かに俯くシャルティア。そして共に話をしたデミウルゴスとアルベド。そしてパンドラズ・アクターがいる。
「皆に聞こう。彼らをどう思った?」
「本物じゃないと分かるのに、でも抱きしめてくれた感覚や、話したことはまぎれもなくぶくぶく茶釜さまでした」
「そう思う。お姉ちゃん」
「マサシク。至高ノ御方ニ違イナイカト」
「とても偽物とは思えません。それこそ仮のお体と言っていただいたほうがしっくりくるでありんす」
アウラとマーレ、コキュートス、そしてシャルティアの意見は偽物と分かっていても中身は本人と判断しているようだった。
「アルベドにデミウルゴスはどうだった?」
「は。創造主との縁で本物ではないことはわかりますし、事実でしょう。しかしその御心はまさしく至高の御方々。最初はラインハルトの演技を疑いましたが、最後の言葉は、ウルベルト様が私を創造された時、最後に直接ご教授いただいた言葉。ご本人と私しか知らぬ情報かと」
「客観的に見て、限りなく本物かと。もし違うというならば、それこそ肉体を持っているかいないかの違いとしか考えられません」
デミウルゴスとアルベド。二人の知恵者も違いがあるが本物と断じる。その言葉をもってモモンガは宣言する。
「守護者たちよ。私の目標は決まった」
モモンガは守護者たちを前に、両手をまるで空をつかむように広げ高らかに宣言する。
「私はこの地に理想郷を生み出そう。家族である
アルベドたち守護者らは、片膝を付き頭をたれる。
「そしてお前たちに伝えなくてはならないことがある。私も元は人間であった。我が友らもそうだ。つまりお前たちが下等生物と表するものと同じだったのだよ。しかし人間を優遇も冷遇もするつもりはない。私の目指す理想郷では、異形種も人間も等しく同じ民であるからだ」
アルベド以外の守護者は、この言葉に少なからず驚く。しかし偉大な主の前で、驚きの声を上げることができず静かに耳を傾ける。
「では手始めに、人間の国家3国と近隣異形種の集落・国家を統一しようか。戦争に血は付き物。しかし血を無駄にするな、将来の統治と理想郷のためにな」
「はっ。偉大なるアインズ・ウール・ゴウンのために」
「アインズ・ウール・ゴウンのために」
アルベドの声に続き、守護者たちが唱和する。その声に満足するアインズは、続いてラインハルトに声を掛ける。
「そしてパンドラズ・アクター。いやラインハルトよ。おまえのおかげで、また友と合うことができた。これほど嬉しいことはない」
「卿は我が半身。総てを等しく愛する私に特別があるとすれば、卿だけだ」
「ここにモニュメントは置けるか?」
「ふむ、魔樹の竜王という極上の生命の残滓、そして位置もよい」
「やれ。そして守護者にも命じる。ラインハルトと協力し、モニュメントを各地に立ち上げスワスチカを構築せよ。位置、捧げる命など条件は多数あり簡単ではない。しかし成し遂げた暁には、我が友らが永久にこの地に帰還することとなるだろう」
「至高の御方が……」
「……永遠に……」
「さあ、ゆくぞ我が友が見ているのだ恥ずかしいマネはできん」
その日、世界の殆どのものが知らぬトブの大森林奥地に、巨大なモニュメントが出現した。それと同時に今までは情報収集を優先していたナザリックが、方針を転換し人間国家やゴブリン、オーク、リザードマンらの集落の侵略に向け、明確な行動を開始したのだ。
しかし、この行動が世に知れ渡るのは、しばらく先のことである。