【完結】もしパンドラズ・アクターが獣殿であったのなら(連載版)   作:taisa01

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 原作のザイトルクワエはレベル80台でした。しかし世界を滅ぼすということで、本作では結構レベルアップしていただきます。
 具体的には、原作ザイトルクワエはコキュートスの不動明王撃で死にそうでした。そこでもっとタフになってもらいます。とはいえ、実際戦うのは次回ですが……。



 誤字報告をいただいた皆様、誠にありがとうございます。とっても助かっております。


 年度末進行が一段落。週次後進めざして頑張ります。


第7話

22日 カルネ村 

 

 その日の朝。ラインハルトはアンナを伴い、王都からカルネ村に転移した。

 

 王都では、セバスをラインハルトの代理人として王国戦士長ガゼフに紹介するとともに影の悪魔(シャドウ・デーモン)と恐怖公の眷属を中心にした諜報網を構築した。諜報活動で得られる情報は多岐に渡る。そこで政治と暗部の動向を中心にすることで、ガゼフへの支援としたのだ。

 

 もっとも、ガゼフに提供される情報は、ナザリックにとって都合の良いものが中心である。しかし、いままで忠義を尽くすだけで、真の意味で王の悩みを解決に取り組まなかったガゼフにとっては、十分以上の情報であった。

 

 しかし、ラインハルトにはもう一つ目的があった。それは、冒険者の支援という名目で、治安改善と交易促進を実現した人物、ラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフの見極めである。もともとは冒険者を含むギルド関係者が絶賛していたことで興味を持ったにすぎなかったのだが……。この二人の出会いがどのようなものであったかは別の機会に。

 

 さて、カルネ村に到着したラインハルトは、ユリと情報交換の後、早々にアンナやエンリ、ハムスケ、リーダーのジュゲムを筆頭にゴブリン数名を連れて森に入るのであった。

 

「それにしても、どのような病も癒す伝説の薬草ですか。リィジ-さんとか飛んで喜びそうですね」

「入手に成功したのは三十年ほど前。森の奥の朽ち、腐り落ちた森の真ん中の巨木の天辺部に在るそうです」

「サンプルを魔術師ギルドに見せて頂きましたが、薬草と言うより苔に近かったですね」

「三十年前とはいえ、当時のマッパーが地図を作ってくれたので助かります」

 

 エンリとアンナは、今回の依頼を確認しながら森の中を歩く。森の中というのは平地を歩くよりも格段に難しい。不安定な足場やアップダウン、はりだした枝や草をよけながら進むのは、体力を何倍も消費する。

 

 エンリは辺境育ちで森には何度も入っているため、右手に持った鉈を振り回し、道を作りながらズンズンと進んで行く。ゴブリン達は体力が資本のような仲間なので森の中でも十分に動けている。ハムスケに至っては、この一帯をテリトリーとしていただけに動きに迷いがない。むしろ巨体でありながら、無駄に枝などを折らない配慮までして進んでいる。そしてラインハルトは、事も無げにエンリやハムスケの作った道を歩いている。

 

「ラインハルトさんはそもそも体の作りが違うとして、どうみても箱入り巫女のアンナが、なんで息を切らさずに動けるの?」

 

 そう、一年中祈りと魔法の勉強しかしていなかったような、ほっそりとした手足、華奢な体で、足元もおぼつかないアンナが、しっかり付いて来ていることにエンリは疑問を持った。

 

 その問いにアンナは嬉しそうに応える。

 

「ラインハルト様の旗下に加わった際、この黒い軍服()と合わせて3つのアイテムを下賜されました。その一つが疲労無効の指輪です」

「御前試合や決闘だけならば不要だが、行軍は総ての基本であろう?それぞれの特性を考えて装備を揃えるのは指揮官としての妙だからな」

「そうですね」

 

 しかし、この疲労無効の指輪と同様の効果を持つものが、リ・エスティーゼ王国の至宝となっていることを、ラインハルトやエンリは知らなかった。

 逆にその価値を知るアンナは、(モモンガ)の眷属であるラインハルトなら、このような至宝を持っていても不思議は無く、むしろ自分のような存在に下賜していただくことを喜び、より一層の信仰と忠誠を捧げるに至ったのだ。

 

「して、事前調査の結果はどうであった?」

「ハムスケさんのテリトリーでもあるので、ハムスケさんにお願いしました」

 

 ラインハルトの言葉にエンリが応える。

 

 エンリらが先行でカルネ村に来た理由の一つとして、今回の依頼である薬草採取の事前調査も含まれていたのだ。

 

「地図の目的地は、南の某のテリトリーでは無かったでござる。しかし、目星はついたでござるよ。北の森にそれらしい場所があるでござる」

 

 ハムスケの話を聞きながら、以前飛行能力を持つものに作らせた近隣の概略地図に、この森の北は黒い森(・・・)が広がっていたことをラインハルトは思い出した。そしてアウラの周辺調査では、実際は枯れた森となっていたはずである。

 

「でも、変じゃありませんか?わざわざアダマンタイト級にサポート込みじゃないと許可がでないような依頼が、たかが森の奥である北側の採取って」

 

 エンリの疑問はある意味、的を射たものであった。

 

 この伝説の薬草採取の条件は、アダマンタイト級冒険者チームに複数のミスリルチームを加えて実施することであった。それほどの内容と記録されていたのだ。実際冒険者ギルド長も、ラインハルトにミスリルチームの同行を申し出たが、エンリの従える異形の軍に勝てるかの問いに応えることができなかった。そのためこのメンバーで受託することとなったのだ。

 

「ハムスケさん以外に、危険な魔獣がこの森にいるとか?」

「森の賢王は有名だけど、村では聞いたこと無かったかな?」

「一応、危険度という点ではそれなりの数の魔獣はいるでござるが、某と同格は二匹ほどでござろうか?」

 

 ハムスケの言葉にエンリは驚く。反応こそしていないが、ゴブリンたちもだ。

 

「まずは西の大蛇。こいつは強さという点では某ほどではないでござるが、頭が回るでござる。もう一つは東の巨人。腕っ節は某以上やもしれないでござるが、バカでござる。しかし巨人の一族を率いているので面倒でござる」

「迷うことを想定すれば、分からなくもないけど過剰戦力よね」

 

 たとえハムスケクラスが三匹いたとしても、アダマンタイト+αの戦力が必要か?と言われれば、危険ではあるが対処ができない程ではないという結論になる。

 

「三方にそれぞれ代表格がいるのに、北にはいない。無名の強者がいるのでしょうか」

「北には某も知らぬ、何者かが居座っているのでござろうか?」

 

 このような結論になる。

 

 しかし、その結論に嬉しそう反応するものが一人。

 

「ああ、まだ見ぬ強者というのは良いな。ぜひ楽しみたい」

 

 無論、ラインハルトである。その珍しい笑みにエンリは惚けるように眺め、他のモノは肉食獣を前にした気分を味わうのだった。

 

「で、具体的にどのぐらいの距離があるんですか?ハムスケさん」

「西の蛇には話を付けてあるでござるから、今のペースなら、ここからなら三日目の昼前には目的地に付くでござるよ」

「結構なハイペースですけど大丈夫ですか?」

 

 エンリは周りに確認を取る。

 ゴブリン達も含めて問題ないと頷き返す。

 

「では、ゆきましょうか」

 

******

 

 森の中の行軍は、安全そのものと言えた。

 

 ゴブリン達が勤勉に寝ずの番をしたこと。元森の主であるハムスケが睨みを効かせていること。遠くから西の蛇が様子を見に来ていたが、ラインハルトが小手調べに黄金の覇気レベル1を発動し、精神的に屈服させてしまったため変なちょっかいを掛けるものがいなくなってしまったこと。

 

 なにより、橋頭堡となる砦作りをしているはずのアウラが、その面倒見の良さからちょくちょく様子見に来ていること。事実上レベル100の存在が二人もいるのだから、だれも怖がって近づきはしない。

 

 結果、森の中の行軍が、風景を楽しむハイキングと化していたのだ。

 

 そんな歩みも、北の領域になり一変する。

 

 先ほどまでは森の木は青々と繁り、多くの実りを宿していた。しかし、北の領域になったとたん、木の本数は大きく減りまばらとなる。幹は細く今にも折れそうなものばかり。中には立ち枯れた木すらある。

 

 なにより異様なのは土である。触れずともわかるほど養分に富んでいる。なのに木は枯れる。その現象は異様と言わずなんというのだろうか。

 

「これは酷いでござる。それにここまでくれば分かるでござるよ。とても嫌な匂いがするでござる」

 

 森の賢王と言われたハムスケの最初の言葉は、なぜこうなったと言わんばかりのものであった。しかしゴブリン達やエンリはというと。

 

「たしかに条件にあってるけど」

「旦那が探索魔法を使ってくれれば早いものを」

「時間が許されるのなら、時間を掛けて探すのもまた一興。と言って最初の確認以来、探索魔法を使ってくれやしませんけどね」

「姉さん。色仕掛けでどうにかなりやせんか?」

「本人が聞いてるところでそんなこと言わないでよ!も~」

 

 という感じで、和気あいあいと会話している。エンリらもラインハルト同様なんだかんだと森のハイキングを楽しんでいた。

 

 しかしそんな面々に対し突然声を掛けるものがいた。

 

「それ以上、そっちに行かない方がいいよ~」

 

 見ると、そこには葉っぱの服を纏った小人がいた。

 

「ドライアードですか?」

 

 知識の宝庫ともいえるアンナが問いかける。

 

「うん、そうだよ。はじめまして人間さんたち。私はピニスン・ポール・ペルリア。そっちの人間さんの言う通りドライアードよ」

 

ーードライアード。それは長い年月を経た古木に宿る精霊の一種である。

 

「はじめまして。私はエンリよ。こちらの男性はラインハルトさん。こっちの女の子はアンナ。あと魔獣のハムスケさんと、ゴブリンのジュゲムさんたちよ」

「なんだかいっぱいだね!」

 

 ピニスンは楽しそうに小さな体で両手を振って感情を表現している。植物の精霊とはいえ、感情は豊かなようだ。

 

「ねえ、ピニスン。なんでこの先に行かないほうがいいの?なにがあるか知ってるの?」

「教えて上げるけど、こっちのお願いも聞いてほしいな」

 

 そういうと、ピニスンは語った。

 この先には、世界を滅ぼす力を持った狂ったトレント。ザイトルクワエがいるというのだ。

 

 遥か昔、空から落ちてきたザイトルクワエを含むモンスター達は、当時強大な力を持つ竜の王によって倒されたそうだ。しかしザイトルクワエは殺しきることができず封印されたのだが、封印の中で傷ついた体を癒やしつつ復活の力を蓄えているというのだ。

 

 一帯に広がる立ち枯れた森は、ザイトルクワエが傷を癒やすために周囲の植物から養分を吸い取った結果だという。植物の精霊であるピニスンには、仲間が食い散らかされ、断末魔をあげる様が見て取れるのだという。

 

「正確なことはわからないけど、そろそろ復活しそうなの。今日なのか明日なのかはわからないけど、いつ復活してもおかしくない。そう感じるの!」

 

 ピニスンの言葉に根拠らしい根拠はない。しかし、ドライアードの言葉と現状があまりにも合致する部分が多い。

 

「アンナ」

「遠見の魔法で確認しましたが、伝承の一つに魔樹の竜王というものがあり、その姿に酷似しております。またスレイン法国では破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)の復活が予見されており、時期的にも関連があるかと」

 

 ラインハルトはアンナに問いかける。

 その回答に満足したのだろう。

 

「ピニスンよ。卿の望みは?」

「前にそいつの分裂体が暴れた時、七人の人間がやっつけてくれたの。若いのが三人と年老いたのが一人。巨人が一人に翼を持った人が一人。あとドワーフが一人。分裂体を倒してくれた時、本体が復活したら退治してくれるって約束してくれたの!だから、七人を探してほしいな」

 

 ラインハルトの質問に、ピニスンは輝かんばかりの笑顔でお願いを伝えるのだった。

 

「ハムスケ」

「某はそのような大規模な戦いがあったとは知らなかったでござる。数十年単位の話ではないのでござらぬか?」

「それだと厳しいかな」

 

 ハムスケの言葉に、エンリが後追いで言葉をつなげる。その言葉にゴブリン達も同意しているのだが、ピニスンが理解していなかった。

 

「あのね、ピニスン。その7人が戦ったのはどのぐらい前?」

「太陽がいっぱい昇って、落ちて……」

「ハムスケさんの話だと少なくとも最低でも十年。ヘタすると二・三十年以上前の話となるの。それだと人間はとてもじゃないけど戦えないわ。太陽を例えるなら四から五千回は昇っているはず。それ以上なら、ヘタすると死んでいる可能性もあるの」

「え~」

 

 ドライアードにそもそも時間感覚というものは無かった。

 年老いても戦えるというのは事実だが、肉体の最盛期というものは確かに存在する。青年も15年経てば中年である。さらにピニスンの話はそれ以上の可能性が大いにある。探したところで7人が生きている保証がないのだ。

 

「ど……どうしよう」

「アンナ。対象のHPは」

「はい。私の目で見た限り、見たこともない規模です。ナザリックにいた何方よりも多いかと」

 

 その回答を聞いて、ラインハルトは珍しく、少しだけ嬉しそうに笑い声を上げる。

 

「ふふふ、ははは。そのモンスター。私が倒してしまってもいいのだろう?」

「え?」

「ラインハルトさん?!」

 

 ラインハルトの口から出たのはとんでもない言葉だった。

 

「そのモンスターを倒せずして、先日の白銀の鎧や、大陸最強と言われる真なる竜王を敵に回すことなど不可能であろう?」

「そ……それは」

「ほんと!」

 

 ピニスンは無邪気に喜ぶ。しかし周りの者はそれぞれ複雑な表情をする。なにより最強と名高い竜王が殺しきれず封印した存在である。そんなものを相手にするというのだ。

 

「悪いがこの劇に卿らの出番はないよ。幸いにしてエ・ランテルのモニュメントからのバックアップもある。存分にやらせてもらおうか。ああ、存分にやるなら我が半身にも伝えなくてはならないな。即興劇とはいえ、観客が必要だろう」

 

 そう言うと、ラインハルトはナザリックのモモンガに連絡を取るのだった。

 そして約1時間後、ナザリックとスレイン法国が監視する中、ザイトルクワエ討伐戦が始まるのだった。

 

 

******

 

 

 

「我が半身に守護者達。よくきてくれた」

 

 ラインハルトは、漆黒のゲートで現れたモモンガと守護者達に対し両手を広げて歓迎する。モモンガはメッセージで話を聞いており把握しているが、守護者達はそうではないのでなぜ集められたのか図りかねていた。

 

「話は聞いているが、アレの全力使用をするということで良いのだな」

「その通りだ。我が半身よ」

「どの程度出す?」

「五名で一時間といったところか」

「モニュメント一つではそのぐらいが限界か」

「有象無象であれば、それ以上も可能だがな」

 

 モモンガとラインハルトの会話は、周りで聞くものには意味不明のものであった。しかし、至高の方とその眷属の会話。割って入るものはいなかった。

 

「では、私は準備へと入る。我が半身よ存分に楽しんでくれ、私も楽しませてもらおう」

「ああ、期待しているぞ」

 

 そういうと、ラインハルトはモモンガ達から離れ、一人ザイトルクワエの元に向かう。

 その姿をモモンガや守護者達。そしてエンリなど今回の同行者が見送る。

 

「モモンガ様。今回私達が集められた理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

 自分たちを置き去りに進む話題に、守護者達を代表してアルベドが質問をする。なにしろモモンガが、現在の任務を中断してでも可能な限り集合するようにと、極めて異例となる命令を発したのだから。

 

「そうだな。守護者達を呼んだ理由として三つある。一つ目はパンドラズ・アクターの本来の能力を見せるため。二つ目は、今後守護者同士が連携して戦う必要もあろう。その手本として。三つ目はお前たちにとって、懐かしい顔を見ることができる機会だからだ」

 

 モモンガの言葉に守護者達は考える。一つ目と二つ目については分かる。先日のシャルティアを強襲し互角に戦った存在。そのような存在と効率的に戦うなら連携の必要性も出てこよう。

 しかし……。

 

「モモンガ様。この非才の身では三つ目の意味がわかりかねます。その深淵なるお考えの一端、ご教授いただけませんでしょうか」

 

 デミウルゴスがモモンガに教えを請う。実際、納得するしないは別として一つ目と二つ目については他の守護者達も理解はできたが、三つ目については理解することができなかったのだ。

 

「百聞は一見にしかずというが、まず簡単に説明しようか」

「よろしくお願いいたします」

「まず、以前説明したようにパンドラズ・アクターは、私を含むアインズ・ウール・ゴウン四十一人の想念(プレイヤー情報)を持っており、瞬間的に召喚し、魔法やスキルを行使している。もちろん本来のドッペルゲンガーの能力として、私に成り代わるなども可能だ」

 

 実際、プレイヤー四十一人分のスキルや魔法を八割程度とはいえ活用できるのは、ドッペルゲンガーとして破格の能力である。しかしモモンガの説明は続く。

 

「さらにワールドアイテム(聖約・運命の神槍)と超位魔法によって生み出したエ・ランテルのモニュメント。アレは擬似的なマナプールとなっている。例えば私があのワールドアイテムを持てば限定的ではあるが、強力な魔法を私自身のMP以上に使用することも可能だ。しかし、それは余技にすぎない」

 

 モモンガはここで言葉を切る。ユグドラシルにおいてMP回復というのは、HPのそれよりも酷く限定的である。クレリック系マジックキャスターのマナの移譲を省くと、ほとんど無いと言って良いほどだ。そのためMPを消費しないための、スクロールやワンド、魔封じの水晶といったアイテムの運用が重要となるのだが。

 

「真骨頂は、そのマナプールを使った想念(キャラクター)の具現化、そして具現化時間の延長にある」

「つまり。先ほど五人で一時間というのは……」

「その通り、我が友たちの似姿を五人生み出し、一時間維持するということだ。もちろん装備まで再現できるわけではない。しかし宝物殿の彼らの装備を渡せばどうなるかな?」

 

 創造主への想い。NPCであればだれでも持つものである。

 冒涜と取るか、それとも……

 

「どうやら、あちらも準備が整ったようだな」

 

 気がつけば、ラインハルトの周りだけでなく戦場のそこかしこに、水晶のようなものがいくつも浮かんでいる。あれは今日の劇を余すこと無く記録させる魔法具であり、ニグレドやプレアデスがナザリックから操作を行っているのだ。

 

 さらに、スレイン法国の土の巫女による遠隔監視が始まったのだろう。今回はナザリックの力を見せ付けるために、あえてカウンターマジックも防御系のみにしている。もっともスレイン法国が驚くのは、これから行われる戦闘ではなくモモンガの姿なのだが……。アンナから報告が上がっていたとはいえ、まさしく伝承通りの存在がそこにいるのだから。

 

 もちろん、エンリやアンナなども離れたところにいる。戦闘の余波を考えてのことだが、視力の限界もあり魔法具を借りての観戦となっている。

 

「では、はじめようか」

 

 ラインハルトも、周囲の準備が整ったのを感じ呟く。

 

 目の前の魔樹の竜王ザイトルクワエも、すでに完全復活まで秒読み段階なのだろう。その姿は百メートルを超えるもみの木。真ん中には奈落に繋がる虚のような口が開いている。周囲には、六本の三百メートルを超える枝がその身を捩らせ蠢いている。そして溢れだす臭気は、紛れも無く悪意を持って周囲を腐敗させる。長時間浴びていれば命の危険もあるだろう。

 

 

Dieser Mann wohnte in den Gruften, (その男は墓に住み)und niemand konnte ihm keine mehr,(あらゆる者も あらゆる鎖も)

 

 ラインハルトはワールドアイテム(聖約・運命の神槍)を構え、朗々と歌い上げる。

 

nicht sogar mit einer Kette,(あらゆる総てをもってしても) binden.(繋ぎ止めることが出来ない)

 

 溢れる魔力が積層型の魔法陣を構成する。

 

Er ris die Ketten auseinander(彼は縛鎖を千切り) und brach die Eisen auf seinen Fusen.(枷を壊し 狂い泣き叫ぶ墓の主)

 

 見るものが見れば先日。エ・ランテルでモニュメントを築いたものと違うことを見つけることができるだろう。もっとも多くの者はその荘厳な光景に意識を飲み込まれる。

 

Niemand war stark genug,(この世のありとあらゆるモノ総て) um ihn zu unterwerfen.(彼を抑える力を持たない)

 

 全くの無駄であるのに、無駄にかっこ良い、しかも良い声で唱えるドイツ語の呪文を聞き、モモンガの羞恥心が悲鳴を上げる。

 

Dann fragte ihn Jesus.(ゆえ 神は問われた) Was ist Ihr Name?(貴様は何者か)  Es ist eine dumme Frage.(愚問なり 無知蒙昧) Ich antworte.(知らぬならば答えよう )

 

 

 遠くスレイン法国では、展開される超位魔法とラインハルトを含む支配者らの姿を見て、恐れおののく。

 

Mein Name ist Legion―(我が名はレギオン)

 

 番外を冠する少女は、その光景に長年の夢の成就を感じ、喜びの声を上げる。

 

Briah―(創造)

 

 ピニスンは、自分がとんでもない人物に助けを求めてしまったのではないかと思い始めていた。

 

 

Gladsheimr―Gullinkambi fünfte Weltall (至高天・黄金冠す第五宇宙)

 

 超位魔法の完成と共に、世界は光溢れる。

 

 相反するように、ラインハルトの影がまるで辺り一帯を包むように伸びる。そして影の中からは、無数の蠢くものが実体化し傅く。人なのか魔獣なのか分からない骨の軍勢がそこにあらわれたのだ。

 

 しかし、そこで影の鳴動は止まらない。異様な姿が五体浮かび上がる。

 

 一つは不定形の肉の固まり

 一つは醜悪な巨人

 一つは紳士的な様相の悪魔

 一つは鎧武者

 一つは弓を携えたバードマン

 

「ん~。ひさびさに実体化するとぉ、肉の喜びを感じるね~やまちゃん」

「そ……そうだね。茶釜さん」

「自分たちがどんな存在か分かっていても、こうやって実体化することは非常に興味深い」

「ああ、ひさびさの実戦。楽しまなくてはな」

「げぇ姉貴?!」

 

 思い思いに会話をはじめる異形の五人。

 

「卿らを呼んだのは他でもない。卿らの愛児達に先達の背を見せようと思ってな」

 

 その言葉にそれぞれがモモンガや守護者の方を見る。皆一様に驚いているが、その姿が可愛かったのだろう、ぶくぶく茶釜がそのどろどろと溶ける不定形の手を上げて振る。その姿に気がついたアウラとマーレは嬉しそうに微笑む。

 

「こうやって見るとやっぱりかわいいな~。パンドラズ・アクター。私あっちに行っていい?」

「悪いが今回は時間が無いのでな、なに順当に進めば永久展開も可能となろう」

「じゃ~しょうがないか。お母さんの勇姿を見せてあげないと」

 

 ぶくぶく茶釜はそういうと、手をぶんぶんと振り回しやる気を上げる。声優という職業柄、声だけでも十二分に感情が乗るのに全身で表現しているあたり、どれほど気合が入っているか推して知るべし。

 

「獣殿。一応、連携戦闘の手本と頭の薬草採取って任務はわかってるんですがね、なんで姉貴といっしょなの?建やんがいるなら、例えば弐式さん呼んで遊撃にくわえるほうがいいでしょ、忍者ですし」

「我が弟の言う通りだわ。相性でいえば悪くないけど、こいつがアホなことを言うたんびにツッコミいれる身にもなってよ」

 

 ぶくぶく茶釜とペロロンチーノは、具現化させたラインハルトに人選ミスを指摘する。事実この二人を同時に配置することは、能力という面では問題ないが、性格という面で問題があり、在りし日のアインズ・ウール・ゴウンでも可能なら避けられていた。

 

「それも一興だが、シャルティアが先日任務に失敗し気落ちしているのでな。なに、同僚を気遣うことも必要であろう?」

「あ~。じゃあしゃあない」

「姉貴わりい。ちょっとマジでやるわ」

「連携ってこと忘れるんじゃないわよ」

 

 やる気になるペロロンチーノとぶくぶく茶釜。

 山羊頭の悪魔、ウルベルトが頃合いと見て声をかける。すでに武人建御雷にやまいこも準備ができているようだ。

 

「して、パンドラズ・アクターそろそろはじめるか?能力でいえば8割。装備もイマイチ。俺に至ってはワールドディザスターとしての魔法も使えぬが?」

「なに、その不利を連携で補うことぐらい、卿らなら可能であろう?」

 

 その言葉に全員がニヤリと笑う。

 従えるのはアインズ・ウール・ゴウン四十一人の至高の存在。

 迎え撃つは世界を滅ぼす力を持つという魔樹の竜王。

 黄金の獣は総てに対し、高らかに宣言する。

 

「待ち望む強敵には足りぬかもしれぬが、さあ!存分に楽しませてくれ!」

 

 




次回、ザイトルクワエ討伐戦

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