【完結】もしパンドラズ・アクターが獣殿であったのなら(連載版)   作:taisa01

11 / 37
今回は日常(orギャグ会)

出張先のホテルから投稿。
年度末は忙しい。




第6話

19日 エ・ランテル 冒険者ギルド

 

 アンデッド騒動から一週間。

 

 エ・ランテルは落ち着きを取り戻しはじめていた。多くの悲しみを産んだ事件だが、誰しもが悲しむだけではいられない。後始末という現実が発生するのだから。

 

 そのためか城塞の修復や各種修繕などで、下位の冒険者や職人への依頼が増え、にわかに活気づいていた。

 

 そんな中一つの議論が生まれていた。

 

 それは解決の立役者であるアダマンタイト冒険者エンリ・エモットの召喚したゴブリンや魔獣の取り扱いである。

 

 エンリは事件の時に召喚したゴブリンの半数を、城壁復興の労働力としたのである。さらに本人も炊き出しや復興作業に積極的に参加していた。当日の奮戦を見たものは多く、それこそ夜の酒場では吟遊詩人による即興歌まで出来ているので、街で知らぬものは居ない。”聖女”や”黄金の旗手”などと字がつきはじめているぐらいに。

 

 しかし、ゴブリンや魔獣は言わば「人類の敵」である。

 

 たとえ、戦場を共にし、今も助けてくれている相手でも、いままでの状況があり正直受け入れられたとはいいがたい。しかし日中は大の大人以上に働き、夜になると割り当てられた小屋で礼儀正しく休んでいる。エンリやラインハルトと共に、他の労働者と酒さえ飲んでいるのだ。

 

 その姿を見て多くのものが悩んでいた。特にゴブリン退治で生計を立てていた下級の冒険者は複雑だった。命の軽い仕事をしているからこそ、命を救ってくれた恩は重要と思うものが多い。

 

 つまり「狩りに行ったゴブリンが、あの時助けてくれたゴブリンではないか?」ということである。

 

 関係ないと言う者もいれば、恩は返すべきだと言う者もいる。ゴブリン達を見分けることが出来ないことが原因だが、そもそも異種族を見分けるのは難しいのだからしょうがない。

 

 そんな時、解決策を提示したのは意外にもゴブリンたちだった。

 

「あ~あっしらは姉さんか旦那の指示で動くので、基本的に人を襲いやしません。たとえば森で出会っても、襲うぐらいなら逃げやす。うちらが攻撃したら姉さんにドヤされるんで」

「だよな。それに姉さんや旦那の指示でこっちが本気で襲う時は、気にせず切り返していいっすよ。それが命のやり取りってものでしょ」

「もし気になるなら、姉さんや旦那の名前だせばいいんすよ。それで分からんようなら野良か敵ってことで」

 

 と、いう感じである。

 

 よってエ・ランテル冒険者ギルドでは、ゴブリン退治の時に通称エンリルール(・・・・・・)が暗黙のルールとなったのだった。もっとも、エンリがこの後どんどんゴブリン勢力を糾合していくとはだれも予想できず、遠からず手を出してきたゴブリン以外は狩り禁止となるのだが……。

 

 

******

 

20日 カルネ村

 

 エンリはゴブリン達と共に、約ニ週間ぶりにカルネ村へ戻ってきた。これほど長く離れたのは生まれてはじめてのことだったのだが、騒動で忙しかったからか一瞬のことのような、逆にすごく長い期間離れていたような、そんな不思議な気分であった。

 

 しかし、二週間ぶりに帰ってきた村は激変していた。木と土製だが堀付き防壁と見張り台ができており、漆黒の鎧をまとった戦士が門番のように立っているのだ。

 

 たしかに、出立前防壁作成をゴブリンたちに依頼していた。しかし、現実は予想をはるかに超える規模となっていたのだ。

 

「あの~ジュゲムさん?コレってどうなっているの?」

「姉さん。あっしらエ・ランテル組に聞かれましても……」

 

 それはそうである。チームを分けて行動していたのだから。

 たしかに毎日メッセージでカルネ村組のゴブリンとも会話していた。聞いた話で防壁が完成したのは一昨日。逆に言えば10日たらずで、これほどのものを作ったというのだ。ゴブリン10名の労働力ではありえない。しかし食料の話を聞く限り労働力が増えたとは思えない。

 

 そんなことを考えながら、門に近づくと一人の女の子が近づいてきた。

 

「おねえちゃ~~~ん!」

「ネム!」

 

 ネムがこちらに気が付いて走ってきたようだ。

 

「お姉ちゃんお帰り」

「ただいまネム。元気だった?」

 

 勢いよく走ってきたネムを、馬車から降りて抱き上げるエンリ。この時ばかりは外野も何も言わず、静かに姉妹の再会を見つめるのだった。

 

「よく見つけられたね」

「見張り役のゴブリンさんが、教えてくれたの!」

「そっか~」

 

 見れば、見張り塔の上で手を振ってるゴブリンがいる。きっと彼が気をきかせてくれたのだろう。

 

 エンリはネムを馬車に乗せ、門に近づく。

 

 エンリらは、漆黒の全身鎧の門番がどことなく人間離れした気配を放っていることに、近づいてみて気が付いた。観察すれば漆黒の全身鎧は、エ・ランテルの冒険者ギルドでは、だれも着ていないような立派なもの。しかし、ネムが安全に出てきたことを考えると警戒するのは失礼かもしれない。

 

 しかし、警戒は思わぬ形で崩されることとなった。

 

 エンリ達が近づくと、漆黒の鎧はかがみ足元の何かをとりあげる。一瞬攻撃を警戒するも漆黒の鎧がとりだしたのは、木製の看板で「通ってよし」と可愛い丸い字で書かれたものだった。

 

 それを見た瞬間、エンリは警戒するのが馬鹿らしくなった。

 

「ネム?あの人は?」

「ああ、黒鎧さんは門番さんだよ。中身は骨だけど」

「骨?と言うことはアンデット?!」

「かな?はじめて来た時はみんな怖がって近づかなかったの。で、何で誰も近づかないか聞かれた時にお顔が怖いって言ったら次の日に鎧着て来た!」

 

 子供ゆえの先入観の無さというか、アンデットの対応が人間じみていることを指摘すべきかエンリは悩む。

 

 護衛兼、監視兼、労働力としてモモンガに創られたデスナイト五体が、任務を円滑に遂行するため無い頭で考えた結果である。発想が右斜め上に突き抜け、怖がらせないために全身鎧を装備し、見分ける目的で五色に分けることとした。

 

 結果、警備に人助けに防壁構築に休むことなく戦い続ける五色のヒーローが爆誕したのだ。

 

 そしてモモンガが、リモートビューイングで稼働状況を確認した時、「なんでデスナイトが戦隊系ヒーローになって子供に愛されてるんだ?!」と精神強制沈静化を発生させたのはどうでも良いことである。しかし同時に見かけさえ気にすればアンデットの労働力計画は、ある程度問題ないという結論にもいたり複雑な気持ちとなっていたのはさらにどうでも良い。

 

「そうなんだ」

 

 エンリは気にしないことにした。

 

 それよりも村の中も、外と同様に変わっていた。最低限とはいえ戦闘訓練を受ける大人たちの姿。建築中の家が複数。防壁内にも作られている畑。

 エンリが考えた村の防衛構想に沿って、ゴブリン達が実現したものである。

 

「あら、お帰りなさい」

 

 前方には辺境の村に似つかわしくない、メイド服に眼鏡をかけた女性がいた。

 

「ユリさん。わざわざありがとうございます」

「ユリ先生!こんにちわ」

「ユリ先生?」

 

 メイド服を着た妙齢の女性を前に、姉妹が別々の反応をしたのだ。

 

 そもそもユリは、ラインハルトの指示のもとカルネ村の拠点化と護衛を担当していた。そしてエンリがラインハルトに付いていき居ない時は、ゴブリン達の管理も代理しているのである。しかし妹のネムは先生と言ったのだ。

 

「エンリさん。先生で合ってますよ。子供たちに時間は限られてますが、勉強などを教えてますので」

「なるほど。だから先生なのですね」

 

 ユリの能力は、プレアデスの副リーダーというだけあり、かなり高い。しかしカルネ村での仕事は多いとは言えない。ゴブリンにしろデス・ナイトにしろある程度指示に忠実なこともあり、ユリの手が空いてしまうのだ。最初は掃除でもと思ったが、村人の仕事を取り上げるのはいけないと断念。そこで、過去自分の造物主の職業が教師と聞いていたので、その真似事で始めたのが子供たちへの青空教室だったのだ。もちろん子供たちも村の仕事を手伝わなくてはいけないが、ユリが教え子供たちみんなで協力してやることで効率を上げたり、ゴブリン達にも協力してもらうなどして実現してしまったのだ。

 

 二人は村長の家に向けて歩きながら情報を交換していた。

 

 ゴブリンたちの食料や武具など、ある程度買い足して来たこと。先日エンリが玉座の間でモモンガなどナザリックの指導部と面会したこと。

 そのモモンガがユリを派遣後すぐに、アルベドを伴ってカルネ村と森の視察に来たこと。ラインハルトの上司ということで盛大に歓待を受け、後日返礼として今では五色のデスナイトが下賜されたこと。森の近くで狼の群れが発見された時、五色のデスナイトが見事打ち取り、子供たちのヒーローになったこと(村の護衛なのでデスナイトが頑張っただけだが)。ゴブリン達の労働力+5人の労働力で当初よりも大きい防壁が完成したこと。

 

「そういえば村長さんはお元気ですか?」

「お元気ですが、どうも最近いろいろありすぎて胃が弱っているようですね」

「たしかに、今まででは考えられないことばかりですから」

 

 胃痛に悩まされる村長。

 エンリのゴブリンやモモンガ様のデスナイトなど常識を置き去りにする事態のせいとは言えず、ただ環境が変わったせいという村長の胃に幸多からんことを。

 

「あ、村長!ただいま戻りました」

 

 ちょうど村長の家の前までくると、畑から帰ってきたと思われる村長と出くわしたのだ。

 

「エンリよく戻ってきたね」

「はい。あ、ラインハルトさんからの伝言などもあるので、この後お時間いただけます?」

「ああ、大丈夫だよ。ユリさんもどうだい?お茶ぐらいしかでんが」

「いえ、お気持ちだけで結構です。荷物も届きましたので、日が暮れる前に運び込んでしまおうかと」

「そうか。ではエンリは入りなさい」

「じゃあ、ユリさんまた後ほど」

「はい」

 

 そういってユリは馬車の方に、エンリと村長は家に向かうのだった。

 

******

 

 村長の家は最近多くのお客が訪れる。気がつけば、いままでにないような豪華な部屋となっていた。もっとも、そのほとんどはユリが「モモンガ様を歓待するならこの位は」と、ナザリックから持ち込んだ応接セットや調度品なのだが。

 

 さて、エンリと村長は向き合って座る。

 

「そのプレートはオリハルコン……でよいのかな?初めて見るが」

「いえ、アダマンタイトです。最初はシルバーでしたが、エ・ランテルで騒動に巻き込まれ、気がつけばアダマンタイトになりました。私なんてラインハルトさんの旗持ちでしかないのに」

「おめでとう。どんな経緯があったかはわからないが、カルネ村出身のアダマンタイト冒険者とは、正直鼻が高いよ」

「ありがとうございます。まず、これを」

 

 そういうとエンリは金貨の詰まった袋を机の上に置く。

 

「ゴブリン達の食費やその他雑費はユリさんに渡します。ほぼ私の独断で防壁や畑の増築をお願いした件の費用に当ててください」

「そんなこと気にすることはないのに。あんな事件のあとだ、防壁は必要だし畑も対処が必要だった」

「村全体で決まった後であればその通りです。ですが、ほぼ私のわがままで話し合わずにスタートしてしまったので、その分と思ってお受取り下さい」

「わかったよ。この分は村の財政に入れておく」

「あと、ラインハルトさんの伝言ですが、今後近隣のゴブリンやオークを私が支配下においていくことなります。そうすると」

「ああ、村の外にもう一つ防壁を作って、受け入れたゴブリンが生活する場所が必要になるということだね」

「はい」

 

 そう。エンリの指揮能力を最大限に活かすには軍団が必要となる。そこでラインハルトとエンリは近隣のゴブリンやオークの集落を糾合する方針となったのだ。もちろんすぐにできることではない。しかし長期的にはカルネ村を人類と異形が交じり合う、ナザリック支配の象徴都市とすることを考えているのだ。

 

「私の頭では理解しきれないことばかりだ。しかし変わることが必要なのだろうね。この前のような事があった以上、力があり信頼できる人たちとともに生きることも必要だ」

 

 村長は暗に、王国でなくラインハルトの所属するアインズ・ウール・ゴウンの庇護下にと言っているのである。たしかに理屈はわかるが、同時にすごく危険なセリフでもある。

 

「大丈夫です。すくなくとも信頼できる人は見つかりましたから」

「エンリ。あの人は英雄だ。英雄についていくのは大変なことだけど、できればその想いが成就することを願っているよ」

「はい、ありがとうございます」

「ああ、一応ハイドリヒ様とエンリの家は、空き家を改装してすでにできている。家具は作り付け以外ないので、あとで準備するんだよ」

「え……あ~~」

 

 そういうと、顔を赤くしてうつむくエンリを、村長は優しく見つめるのであった。

 

 

******

20日 カルネ村 夜

 

 エンリは、新しい何もない家に運び込んだ寝具にくるまりながら、ラインハルトにメッセージを飛ばす。 

 

「(ラインハルトさん。いま大丈夫でしょうか?)」

「(ああ、問題ない)」

「(カルネ村の防壁について第一弾はほぼ問題の無い形で完成してました)」

「(ユリからの報告通りであるか)」

「(はい。ゴブリン達も村に溶け込んでおりました。同時にモモンガ様から下賜されたアンデットが新たな労働力兼護衛となっているようです)」

「(我が半身ながら、そつのない支援だ)」

「(はい。そして村長は今後の拡大方針を了承していただきました)」

「(なにか要求をしてきたかね?)」

「(いいえ。でも、長期的には私に村長の座を譲ろうと考えているようです。雑談の中に村の将来をどうするかみたいな言葉や内容がいくつも入ってましたので)」

 

 そう。

 その後お茶をしながらの雑談のなかに、この村の将来についていろいろ含まれていたのだ。なにも考えなければ外にでた若者に意見を聞く村長の図だが、背景を考えれば違った答えが出てくるものだ。

 

「(それもよかろう。卿の渇望を実現するための一つではないか)」

「(そうですね。でももう一つの渇望がかないません。欲深いことに)」

 

 エンリは自嘲する。

 カルネ村を守りたい。その為に総てを投げ捨てたはずなのに、一枚皮を剥けばもう一つ渇望があった。言わばエンリという人の渇望と、エンリの女としての渇望。なんとも無様で欲深い。一つと思っていたのに……。

 

「(カルネ村という定義に卿も含まれていた。それだけではないかね)」

「(はい。ありがとうございます)」

 

 ラインハルトは、エンリの言うもう一つの欲を否定しない。ラインハルトにとって欲とは等しく愛でるもの。そこに貴賎はなく、それに応えるに過ぎぬのだ。逆に言えば、どのような美しい理想も、醜悪な罪も等しく愛でる物語にすぎないのであるが。

 

「(明後日には、王都での準備が終わり次第そちらに転移する。そうしたら伝説の秘薬とやらを探しに森に長期間入ることとなるな)」

「(はい。ハムスケさんに近場の確認はさせておきます。もしそれで見つからねば、少々手間がかかるかもしれません)」

「(なに、難しい物もその過程を楽しむことができよう。あわよくば森に私の望むような闘争があればよいが)」

「(そうですね)」

 

 話題が切れる。もし隣に居ればその息遣いと胸の鼓動を聞くことで安心もできる。しかし今は遠くカルネ村と王都。エンリがどんなに想おうとも、その指先が肌に触れることはないのだ。

 

「(では、もう寝ます。おやすみなさい)」

「(ああ)」

 

 そういうとメッセージが切れる。

 ここはエンリとラインハルトの家。自分以外、今はだれも居ない。

 

 外を見れば故郷の森が見える。しかし今は色あせた何かにしか見えない。

 

 ふと思い返せば半月前はただの田舎の娘でしかなかった。しかし今ではアダマンタイトの冒険者であり、魔獣やゴブリン達の指揮者である。

 

 望んだ平穏のために差し出したのはエンリの日常。いまでは、もうただの田舎娘に戻ることができない。

 

 残念に思う。

 嬉しく思う。

 こんな時、隣にあの人が居ないことを悔やむ。

 

 先ほどのメッセージもそうだ。最後にエンリが会いたいと望めば、黄金の獣は転移魔法ですぐにでも実現したであろう。

 

 あの人は望めば与えてくれる人だから。

 

 逆に言えば望まねば何も与えてくれない。

 

 その現実がどうしようもなく寂しく、しかし望まぬ生き方はもうできない。そう思わせる何かがあるのだから、罪は深い。そう思いながら一人寝具にくるまり、眠れぬ夜を過ごすのだった。

 

 




赤、青、緑、黒、ピンクのデスナイト

 私の脳内では、たっち・みーさんは仮面ライダー初代(バッタ故に)。

 そこでカルネ村襲撃時にのみ活躍する予定のチョイ役デスナイトは戦隊物となりました。どうしてこうなった。きっと漆黒のモモンさんが居ないからだ!
 5人がポーズをとったら後ろで爆発エフェクトがはいるね!しかし喋れないので、某お湯をかぶるとパンダになる親父のように看板で会話します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。